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番外30 王達の訪問

 諸々の準備を整え、そしてその日がやってくる。

 オーレリア女王が転移してくるのは魔力送信塔。だから最初にオーレリア女王を迎えに行ってからその後でレアンドル王とも合流、という流れになる。


 メルヴィン王とジョサイア王子、エスティータ達、管理官の3人。それからティエーラを含めたみんなで魔力送信塔の転移門で待っていると、転移門を囲む魔法陣が輝き、光の柱の中からオーレリア女王が、何人かの管理官を伴って現れた。

 少女の見た目に比して、威厳のある落ち着いた佇まいがあるというのはクラウディアにも共通している雰囲気だろうか。


「お初にお目にかかります、オーレリア女王。ヴェルドガル王国国王メルヴィン=ヴェルドガルと申します」

「これはご丁寧に。月より参りました。オーレリア=シュアストラスと申します」


 メルヴィン王が挨拶をするとオーレリア女王もスカートの裾を摘まんで挨拶を返す。

 ジョサイア王子とも互いに自己紹介をし、それからオーレリア女王はエスティータ達に労いの言葉を掛けて俺達に笑みを向けた。


「テオドール。約束を果たしてくれたこと、心から感謝しています。これで月の民の暮らしにも安寧が齎されましょう」

「勿体ないお言葉です。こうして地上にて再びお会いできて嬉しく思います」


 そう答えるとオーレリア女王は頷き、塔から見える景色を眺めながら目を細めた。


「そう――。光と生命に満ち溢れるこのルーンガルドの、何と美しいことかしら。こうして地上に降り立つ日がこようとは思ってもみませんでした」


 オーレリア女王はそう言ってティエーラに視線を合わせる。2人は……初対面と言っていいのかどうか。魔力の波長等からオーレリア女王はティエーラこそが原初の精霊と分かっているのだろう。コルティエーラが戦ったあの場所にいたし、ティエーラの力も月に届いていたから。


「私達は、かつて地上から離れた身。また……こうしてルーンガルドを頼り、原初の精霊のお力を分けていただくことを許して頂けるでしょうか?」


 ……かつて、ティエーラの力の核心に触れ、支配しようとした者が現れて魔力嵐が起こった。

 オーレリア女王にしてみると、それならばルーンガルドの魔力を受け取って月に送るという行為はどうなのかと考えてしまうというわけだ。月の民も原初の精霊を苦しめていたのではないかと。


 だが、ティエーラは全く気にしていないらしい。穏やかで明るい笑みをオーレリア女王に向ける。隣に浮かぶコルティエーラを宿した宝珠も、同様にぼんやりとした光を放っていた。


「許すも何も、昔からあなた達のことは負担には感じていませんよ。それに……この大地から生まれた命が私の力をまだ必要としてくれるというのなら、私は何度でもそれに応えましょう。いつか私が滅んだ後も、この地に生まれた命の輝きが虚ろの海を渡り、連綿と続いてくれることを私は願っているのです。あなた達には――私の願いを迷宮によって繋いでくれた恩があると考えています」


 ティエーラはそう言って、言葉を付け加える。


「それから、私の事はティエーラと呼んで下さい。この半身の名はコルティエーラ。共に、テオドールから貰った名前なのです」

「そうでしたか。それでは……。ティエーラ様には改めて感謝を申し上げます」


 オーレリア女王は居住まいを正してティエーラに言う。ティエーラもその言葉に頷き、それから握手を交わしていた。





 オーレリア女王を迎えたところで、続いてレアンドル王達を迎えにいかなければならない。オーレリア女王達にはメルヴィン王やエスティータ達と共に一足先に石碑からタームウィルズに移動してもらい、俺達は転移でドラフデニアの月神殿へと向かう。


「おお、テオドール公か」


 と、到着するなりレアンドル王が明るく挨拶をしてきた。


「これはレアンドル陛下」


 タームウィルズに同行する予定のペトラや、妖精の女王ロベリアとその眷属達も一緒である。

 ペトラは恭しく一礼し、ロベリアはにっこりと笑って挨拶してくる。ロベリアに率いられた妖精達は相変わらずで、挨拶もそこそこに周囲を嬉しそうに飛び回ったり抱き着かれたりなどしてしまっているが。


「お待たせしてしまったでしょうか?」

「いや、刻限にはまだ早いぐらいだな。神殿の神官長や巫女頭に今後は転移のために世話になることが増えるかも知れないと挨拶をしてきたところでな」


 と、レアンドル王。顔を合わせて再会を喜び、挨拶をしたところで尋ねる。


「その後、何か変わったこと等はありましたか? 森の魔物の、勢力図の変化は少々気になっているところではあるのですが」

「ふむ。まず悪霊絡みでは問題は起こっていない。テオドール公がきっちりと引導を渡したからな」

「冒険者ギルドと連携し、妖精の森の様子にも注視しています」

「うむ。もし何かあれば対応を取れるようにはしている」

「魔力溜まり付近で後釜争いの小競り合いもあるようじゃが……我等には元々関わりのないこと。それに魔力溜まりを勝ち取った者は縄張りから出て来なくなるからの。経験上の話で済まぬが、あまり問題は起きぬのではないかな」


 尋ねてみると、レアンドル王とペトラ、それからロベリアが顔を見合わせ、そんな風に答える。

 悪霊も妖精の森も、今のところ特に問題はない、と。

 注視しているというのなら大丈夫だろう。


 では、早速ではあるが……確認を取って問題が無さそうならタームウィルズに飛ぶとしよう。

 移動しても大丈夫か尋ねると、レアンドル王達は相好を崩して頷く。


「いや、実はかなり楽しみにしていてな」


 なるほど。レアンドル王としてはお待ちかね、というわけだ。


「では、転移で飛ぶわ。あまり離れないように。それから……人里に出るけど、驚かないように」


 クラウディアが注意を促し、その足元からマジックサークルが広がる。

 妖精達は置いて行かれないようにと、しっかりと俺達に掴まった。コルリスなど、沢山頭や肩に妖精達を乗せているような有様だ。

 範囲内にきちんと全員がいることを確認し――光の柱に包まれ、目を開くとそこはタームウィルズの月神殿前の広場であった。


「これは……転移魔法とは、凄いものだな……。おおっ、あれがセオレムか! 聞きしに勝るとはこのことだな!」


 レアンドル王は周囲を見回し、それからセオレムを見上げて明るい笑顔になる。ペトラやロベリア、妖精や近衛の騎士達も一変した景色に目を瞬かせていた。


「ああ。王城からの迎えも既に来ていますよ」


 先にタームウィルズに移動していたメルヴィン王とオーレリア女王も広場の前で待機していた。正装に身を包んだ騎士達や楽士隊も同伴していて、中々に盛大な迎えと言える。


「ようこそ参られた、レアンドル王。そして妖精の女王、ロベリア殿」


 メルヴィン王もレアンドル王とロベリアに挨拶をし、2人もメルヴィン王に笑顔で応じていた。


「これはメルヴィン王。悪霊再来事件の折りにはお力添え頂き、感謝しておりますぞ」

「いや、余は口添えをする程度のことしかできなくてな。殊更感謝の言葉を口にされるようなことはしてはおらぬ。転移魔法で他国に騎士らを送るというのも、大々的には行えぬところがある。その場に居合わせた個人の助力や、高位精霊達ならまだしも、な」


 転移魔法は実際、人数的な制限も出て来てしまう。

 大規模な軍隊が送り込める程の融通は利かないが、転移魔法で精鋭等を送り込んだとしても、その話が誤解されたまま広まるような事態も困るのだ。

 だが現地にいる俺達や、俺の周囲に顕現可能な高位精霊という加勢なら問題はない。メルヴィン王がそこで俺の方針を応援してくれたから自由に動けたという部分はある。


「それは確かに。テオドール公の厚意と助力には大変感謝している。故にメルヴィン王にも、深く感謝の意を示したい。貴国との親善が今後とも深まっていくことを願っている」


 メルヴィン王はレアンドル王の言葉を受けて静かに頷いた。

 さて。オーレリア女王に関しては……王城に到着してから紹介することになるだろうか。街中で説明するには内容が内容だからな。


 というわけで何台かの馬車に乗って王城へ向かう。妖精達は臆病で人見知りするところがあるので、俺達と一緒の大型馬車に乗ってもらう形だ。それが分かると安心したように笑顔を浮かべていた。

 全員が馬車に乗り込むと楽士隊が高らかにラッパを吹き鳴らし、太鼓を叩きながら先導し、車列がゆっくりと移動を始める。

 外国の賓客を迎えるということで沿道には見物人が詰めかけていたりと、かなり賑やかな様子だ。


「ドラフデニアの国王様がいらっしゃるとは聞いたけど……妖精も一緒なんだな」

「流石は冒険王の国だな……」


 といった声も沿道から聞こえてくる。ドラフデニアのイメージが少し誤解されているような気もするが……まあ、別に悪いイメージが広がっているわけではないし、問題はあるまい。

 妖精達も心地良く付き合える気風の国であるのは事実だしな。

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