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番外29 日常に目を向ければ

 月神殿からの転移によってドラフデニアに書状を渡しに行き、レアンドル王達の予定を確認。

 それを通信機でオーレリア女王に伝えて各国の日程を調整することで、問題無く訪問の日取りが確定した。ブロデリック侯爵領のコンサートホールを使う一件についても決定事項である。


 そうして日取りと歓待の予定が決定したところで、俺もフォレスタニアに戻った。俺にしてもアシュレイにしても、領地に関する仕事があるわけだし、迷宮の新区画に関する冒険者達の評判というか、様子と経過を見ておきたいというのもある。

 

 石碑からシルン伯爵領に日参できる環境もあるので、フォレスタニアやタームウィルズを拠点としていても執務や領内視察に支障は出ない。

 みんなと一緒にいる時間を長くしたり、何か急な判断を要する事項が持ち上がった時にすぐに駆けつけたりと時間を最大限有効活用できる。


 フォレスタニアとシルン伯爵領の執務室には顔を合わせられるよう、シーカーのモニターを設置していて互いの顔が見れたりと……まあ、どこで仕事をしていても1人にはしないというような体制になっているわけだ。互いの声も、スピーカーの魔道具で聞こえるようになったので、通信機や五感リンク等を挟む必要もない。今日はアシュレイの執務室にクラウディアとマルレーンが手伝いに行っていたりする。


 加えてステファニアには実務経験もあるし、ローズマリーやクラウディアも政治的な機微に精通している。イルムヒルトも集中力を高めて疲労を軽減する呪曲を奏でてくれたりと、みんなと一緒に仕事をすれば、かなり能率的に仕事を進められるのだ。


 領主の仕事としては――領内で起きた出来事や懸案事項の報告書に目を通したり、各種の事業や税金、諸々にかかった費用等の収支報告の確認といった事務的な仕事に加えて、来客に対応して歓待したり、或いは商談をしたり……色んな話を取り纏めるというような内容になってくる。


 事務方の仕事に関しては、ある程度の規模の領地経営をしている領主の場合、役人が処理した書類を最終確認して印章を押すだけ、というような形になるのが普通だ。

 俺に関しては境界公として封爵されたばかりなので、そこまで人員の配置が決まっているわけではないが、良くも悪くも領地がスタートしたばかりで複雑化していないというのもある。仕事量にしてもそこまででもないし、判断内容にしても頭を悩ませなければならない程のことも今のところはないから、負担も少なめだ。


 新婚旅行と魔法建築で留守にしていた間の事務書類は……セシリアとミハエラが纏めておいてくれたものだ。2人に感謝しつつ確認して印章を押し、各種書類に目を通してそれらをやっつけていく。


 イルムヒルトがゆったりとした落ち着いた雰囲気の呪曲を奏でる中、バロールを隣に並べ、計算の必要のない報告関係の書類は五感リンクで認識。内容に問題が無ければ確認の印鑑を押せる書類と判断して確認済みの書類として重ねていく。

 数字の確認が必要な書類は――マジックサークルを展開して、術式を制御する要領でマクロを組んで、さっくりと計算を済ませてしまう。書類の計算に齟齬があれば浮かべた光球が赤くなり、問題がなければ光球が青くなるといった具合だ。


 そして書類を全て確認したところで一気に判子を押していく。判子に水魔法で朱をつけて、書類をカドケウスが捲りながら、俺が判子を押してぽんぽんとタイミングよく処理していく。


「便利な物ねえ……。執務って、本当はもう少し手間のかかるものなのだけれど」


 ステファニアが俺の作業風景を見て、感心したように言った。


「まあ、能率化できるところは最大限しておいた方が、みんなと一緒にいられる時間も増えるからね」

「ふふ。嬉しいです」


 と、お茶のお代わりを持って来てくれたグレイスが微笑むと、みんなもにっこりと笑った。アシュレイもこちらの会話をモニター越しに聞いて笑顔になっている。


「テオドール様の計算用の術式は、便利そうですね」


 と言いつつも、アシュレイも水魔法で朱を塗って手際良く書類に判子を押していたりするが。


「んー。計算用の術式は後でアシュレイにも教えるよ」

「はい。ありがとうございます」

「四則演算を自動でやってくれて、見た目にも分かりやすくて記録も同時にしてくれる……とか。そんな魔道具やゴーレムがあれば……事務仕事には便利だよね」


 色んなゴーレムや魔法生物を作るノウハウも蓄積されているし、そのへんを組み上げるのは難しくはない。電卓やPCではなく、書類を視覚で読み取って計算してくれるゴーレムを作って事務仕事の補助をさせる、などすれば、執務も捗って更に時間が有効に使えるようになる。


「事務仕事の能率化というのは……良い案ね」


 と、ローズマリーがうんうんと頷いている。


「あんまり便利にしてしまうと今度は役人の仕事が無くなるから、程々にしておくけどね」

「雇用を奪ってしまっては本末転倒だものね」


 俺の言葉にクラウディアが苦笑する。オートメーション化も良し悪しだからな。

 広く普及させるなら電卓。俺達が最終確認の段階で能率化を図るために事務用ゴーレムというのが良さそうだ。きっとメルヴィン王やアウリアも喜んでくれるだろう。


「後は、印鑑の改良が急務かな」

「ん。普段使う道具は大事」


 と、シーラが頷いた。うむ。何事であれ共通する真理である。


「ああ。確かに、数が多いと面倒そうだものね」

「そのあたりの負担が減ると、父様も喜ばれるのではないかしら?」


 イルムヒルトとステファニアが言う。メルヴィン王も喜ぶと聞いてマルレーンもにこにことしている。

 朱を毎回つけて、力を込めてズレやムラがないように押す。これが、回数が増えると非常に面倒臭いのだ。俺やアシュレイは水魔法で工程を省略してしまえるが。


 こう、現代日本のように、力要らずでくっきりはっきりという、押しやすい印鑑が必要だ。

 今の環境なら……そうだな。既存の印鑑をセットするだけで、自動で朱を付けて、軽く乗せて上から押すだけで均一に判を押してくれる。そんな魔道具が求められているだろうか。

 戦いが終わって日常に目を向ければ、か。

 うん。後でアルフレッドにも相談してみよう。ブライトウェルト工房としても、これからは日用品開発の方向性で考えていたわけだしな。


 まあ、まずはアシュレイの仕事を手伝いに行くか。それからお互い領地の視察をして、工房に顔を出しに行くとしよう。




「それは――良いね。実に良い」


 諸々領主としての仕事を終えた後、工房に顔を出して事務仕事の能率化というアイデアを話して聞かせると、アルフレッドは諸手を挙げて賛成してくれた。


「術式や仕組みの雛型はある程度できてるよ」

「平和になったわけだし、開発もそっちに力を回せる。実際、需要もかなり高いと思うよ」


 アルフレッドはそこまで言って、一旦、思案するような様子を見せた。そうして言葉を続ける。


「それに……その内容だと今度タームウィルズを訪問するオーレリア陛下やレアンドル陛下へのお土産としてもかなり喜ばれるんじゃないかな?」

「ああ。それは確かに」

「父上と陛下達に……試作品を渡せるように頑張りたいところだね」

「あー。アルフレッドは、大丈夫?」


 キャパシティについては問題ないだろうか。


「うん。タルコットやシンディーもかなり頼りになるし、商会の職人達も頑張ってくれてるからね。僕に関しては……戦いの前の準備よりは結構余裕があるよ。温泉で疲れも残さないようにしてるし。王族としての仕事は楽をさせてもらってるからね」


 と、アルフレッドのモチベーションは相当に高いようだ。

 それじゃあ、オーレリア女王、レアンドル王のタームウィルズ訪問前に、試作品が間に合うように頑張る、ということで。

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