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番外28 建築講義

 さて。魔法建築の講義という事で、教本で得た一般的な知識を披露していく。用いる術式やその使い方のコツ等々。

 一軒丸々建築するというのとは違い、今回は部分的な修繕が目的となる。壁が崩れた場合等は、崩れた部分をそのまま建材等として再利用すればいいのだが……例えばその崩れた瓦礫等が長い年月で失われてしまっている場合などは……それをどこか別の場所から調達してくる必要が出てくる。

 そこで土を石化させてその場で作り出したり、石を変質させたりして形成し直したり、木魔法で木材を加工したり、といった感じで対応するわけだ。


「――だから修繕する時に必要になるのは、さっき教えた術式に応用を利かせて、色合いや質感を合わせることになってくるかな」


 後は術式制御の力量や慣れに応じて、修繕の痕跡そのものを目立たないようにしたり、一気に作業が進むように大規模化したり、効率化したりという方向になっていく。

 基本を分かった上で自分の実力と経験に合わせて作業を進めていけば、まあ何とかなるだろう。俺も最初に物置を作った時はそうだったし。

 そういった俺の話の内容に、ステファニアは真剣な表情で頷いている。ヴィンクルとコルリスも……いや、コルリスの表情については今1つ分からないが、ともあれ静かに聞いていた。


 というわけで話も終わったところで、実際の修繕作業に移る。城の壁が崩れていたりするが……やはり全体的に瓦礫の量が足りないように思う。そもそも何故城が壊れたのかと言えば、経年劣化ではなく、魔人と戦った時の被害によるものが主だろうから、吹き飛ばされて穴を開けられたりしたのだろうことが容易に想像がついてしまう。

 特にベリオンドーラ攻略戦にはガルディニスのような高位魔人も参加していたわけだからな。スターレスバスターのような大魔法が使われた可能性もある。


「それじゃあ、始めるわね」


 ステファニアは先程教えた術式を――最初は詠唱によって行使する。

 練習なので転がっている瓦礫同士を混ぜ合わせ、形の整った石材に戻すことから始めた。

 何度か石材を作り出したところで、もうマジックサークルから術式を行使することができるようになったようだ。このへんの魔法行使能力は流石と言える。

 ヴィンクルもステファニア同様、土魔法を行使して瓦礫を石材に戻していく。こちらも魔法制御は完璧だ。魔力量や出力等はまだまだ発展途上ではあるが、制御能力は流石である。


 コルリスはと言えば――転がっている瓦礫を咀嚼すると、そのまま両手を前に出して、似た色合いと質感の石壁を地面から生やした。

 ああ、うん……。石材の不足分は割と簡単に補えそうだな。コルリスの魔力を消費するわけだから無尽蔵にとはいかないだろうが、魔法建築のパートナーとしてはこれ以上ない使い魔と言える。魔物の扱う魔法は、固有の能力というかなんというか色々特化した術が多いが、味を見てそこから感覚的に建材を再現してしまうあたり、コルリスらしいというか。

 そんなコルリスを、笑顔のステファニアが頭を撫でる。


 次の段階。作り上げた石材で壁の補修だ。石材を組んで積み上げ、崩れないように石材の間をコンクリートで固めている。これは地球で言うところの、いわゆる古代コンクリートという奴だ。

 火山灰等から作られるのだが……ベリオンドーラの城に関しては、これらも含め、月の船の合成炉や土魔法を駆使して作ったものと思われる。


 土魔法での製法と工法については――これらも一応確立されている。コンクリを作るための術式がしっかりあったりするのだ。

 通常のような施工の工程を辿らず、建材を配置したところに魔法で流し込めば空気を抜いたりする手間等無しにコンクリが固まった状態の出来上がりを作れてしまう。このへんは魔法建築での利点だろう。だから石材とは別にコンクリを作って、後は魔法で正しく配置して処理していくだけで良い。


 ゴーレムを作り出して石材を正しく配置。それから作り上げたコンクリで隙間を埋め、詠唱によって固め、接着していく。基本はそれの繰り返しだ。

 俺の場合は……建材そのものからゴーレムを作って再形成等しているが。それは応用ということで。


 とは言え、基本形に慣れてきたらしいステファニアとヴィンクルはゴーレムからの再形成に挑戦しているようだ。一度に扱うゴーレムの数が少なければ2人とも問題無く作業を進められるようで。

 石材が配置された所に、コルリスがコンクリを生き物のように操って流し込み、それをステファニアやヴィンクルがマジックサークルを閃かせて固めていく。


「建材、ここに置けば大丈夫かしら?」

「ええ。ありがとう、マリー、マルレーン」


 ローズマリーは羽扇の向こうで素っ気なく頷き、マルレーンはにこにこと元気よく頷く。2人は建材や瓦礫をステファニアの作業しやすい場所に運んでいく。

 2人だけでなく。他のみんなもだ。作業をしやすいように瓦礫や建材を近くに運んで行ったりと手伝いをしている。


「土魔法の使い手限定ではあるけれど、実際これは、かなり魔法の訓練になりそうよね」


 レビテーションで瓦礫を動かしながら、クラウディアが修繕を見て感心したように頷く。


「んー。実際なると思うよ。色々訓練を考えたけど、魔法建築だと普段意識しないような細かい制御に目を向ける必要があるからね。そういう意味では魔法技師の技術もそうかも知れないけど」


 そう言って視線を向けると、アルフレッドは静かに頷く。


「かも知れないね。まあ僕は制御はともかく、出力が大したことないから訓練にはなっても攻撃魔法に活かしたりとは、いかないんだけどね」


 と言って軽く笑うアルフレッドである。


「あの光球による魔法建築は、やはり難しいのですか?」


 と、首を傾げるシオン。


「んー。あれは、確かに飛行船や建物の建造のために使ってるけど、本当は錬金術の領域の魔法だからね」


 確かに大規模な建造に使っているが……本来的な意味で言うと、魔法建築とは関係がない。いくつかの素材を魔法的に融合させて任意に形成するという術だったりするので、魔法建築に用いようと思えば可能である、というだけだ。


「あれ自体、かなり高度な魔法じゃからな。出力と制御能力、両方に優れておらんとならん。テオドールのように効果を広範囲に広げつつ、ゴーレムと同時に持続的に扱うというのは……まあ、桁違い過ぎて他の者の参考にはならんのう」


 と、お祖父さんが説明してくれた。

 まあ……あの融合術式はともかくとして。魔法建築本来の土魔法、木魔法主体の基本形と応用形ならば、ステファニアもヴィンクルも問題無くこなせるし、コルリスもきっちりサポートができるようだ。中々の作業効率と速度で、仕上がりも綺麗なものである。


 今回は石材を組み合わせる建築様式なので継ぎ目云々も関係ないし、魔法建築の経験を積むのにはかなり適した条件であると言える。

 ステファニアは木魔法もある程度扱えるようだし、ヴィンクルは言わずもがな。こうやって経験を積んでおけば、後で他にも色々作れるようになるだろう。ステファニアは、随分と楽しそうに作業を続けるのであった。




 途中で休憩を入れて、みんなで冷やした桃を食べたりお茶を飲んだりしながら、賑やかにベリオンドーラの修繕作業を進めた。

 崩れた尖塔等は俺も修復に加わったりして。最終的に外から見て壊れていた個所は大分綺麗になって見栄えも良くなったと言えよう。


 内部は既に修繕が進んでいるところと、まだ荒れているところとあるが……まあ、このへんは修繕というより片付けに近い部分がある。折りを見てのんびり進めて行けばいいだろう。


 オーレリア女王とレアンドル王を迎えるための準備についても予定が定まったらしい。ドラフデニアと打ち合わせるための書状の用意ができたと通信機に連絡が入った。

 というわけで魔力送信塔からシルン伯爵領に移動し、月神殿から転移して書状をドラフデニアに届けてくれば今後の予定についても確定できるだろう。レアンドル王やロベリア、ペトラもタームウィルズ訪問を楽しみにしているということだしな。

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