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番外21 戦利品検分

 大部屋を制圧したところで剥ぎ取りを進めていく。

 新しく出現したのは網切り、輪入道、それから絡繰りの足軽と、ガーディアンの白拍子だ。


 網切りについては腕の鋏が中々良質な切れ味を持っているようだ。魔石を抽出してもそこそこの品質になる。

 輪入道については出現が単体だったので魔石については保留。入道の顔が消えて車輪が残ったので、持ち帰って何か使い道が無いか考えてみる。もしかするとマルレーンのソーサーを強化するのに使えるかも知れない。


 足軽と白拍子の扱いは忍者達と同じだ。装備品を鹵獲したものが戦利品になる他、内部構造の解析であるとか、動力源である魔石に利用価値がある。


 とは言え……白拍子に関してはガーディアンなので足軽や忍者達とは一線を画しているのは間違いなさそうだが。


 そうして諸々の剥ぎ取りを終えてから迷宮核で新区画に繋がる入口の場所をフォレスタニアの入口の塔に移す。ゴーレム達を動かし、まだ通行止めの状態を維持しつつ、フォレスタニアの、冒険者ギルドオフィスに顔を出した。


「おお、テオドール公」

「これは境界公」

「こんにちは」


 と、挨拶してくるアウリアとベリーネ、ヘザーである。


「こんにちは。皆さん揃い踏みだったようで」

「新しい支所の立ち上げということで……私達が支所の責任者となる見通しです」

「タームウィルズ本所と連携していきますし、打ち合わせもありましたので、ギルド長にも御足労頂きました」


 そう言ってヘザーとベリーネが丁寧に一礼してくる。

 なるほど。ヘザーは俺達の担当をしていることを鑑みての人選だろうし、ベリーネは仕事量の多い場所への助っ人として動くことが多いらしいからな。シルン伯爵領に派遣されてきたのも、元々そういった理由だった。


「というわけで、今後はこういった態勢でやっていくつもりなのですがの。よろしく頼みますぞ」

「こちらこそ。今後ともよろしくお願いします」


 と、アウリアに返す。

 後、公的な場所でないなら今まで通りで良いとアウリアには伝えておこう。これまで通り気楽に、というと、アウリアは嬉しそうな表情をしていた。

 さて。フォレスタニアとタームウィルズの冒険者ギルド――。どちらにも新区画について話をしなければならないと思っていたが、これだけの面子が揃っているなら話も早い。挨拶もそこそこに、早速話を切り出す。


「実は――迷宮に新区画が作られたようでして。冒険者達の探索が可能な区画かどうか……主に危険性についての様子見をしてきたところなのです。話を通してからと思ってまだ通行止めにしていますが、もうフォレスタニアから移動できるはずですよ」


 そう言うとアウリア達は目を瞬かせる。


「ほほう」

「それはまた……」

「多層の区画で……上層の危険度はまあ……そこまででもないかなと。致死性の高い罠などもありませんし、ガーディアンはともかくとして、出現する魔物もそこまで厄介な性質も備えてはいません」

「但し、全く未知の魔物ばかりだから、そのあたりは注意喚起が必要よね」

「性質や能力に関する、知識面での集積や対策が必要になってくると思うわ」


 クラウディアとローズマリーが情報について補足してくれる。


「確かに、それは仰る通りですね。しかし未知の魔物というのは……?」

「恐らく、どこか遠く離れた異国の魔物の情報を、迷宮が集積したものが表出したものと思われます。区画内部の建築様式にしても、ヴェルドガル王国やその周辺国の、いずれとも趣が違うものでしたからね。ですから、その土地由来の魔物なのではないかと」

「というわけで、魔物やその素材も運んできました」


 と、グレイスが入口の外を指差す。支所の外に荷車に積んで持って来てあるのだ。荷車を引いて来たコルリスがギルドの中にいる俺達に向かって手を振る。


「こちらで利用したいと考えているものもあるので、全て売却というわけではありませんが……ギルドの関係者には一通り見て頂いて貰おうかと。どんな魔物かもその時に説明ができると思いますし」


 そんなわけで色々とアウリア達に見てもらう。

 傘化けなどは見た目がそのままだし、絡繰り人形もゴーレムの一種と考えて貰えば分かりやすい。更にイメージが伝わりやすいように土魔法やマルレーンのランタンによる幻影で、実際の姿や攻撃方法などを再現して見せたりといった具合だ。


「これは面白いのう……」

「機構を組み込んだゴーレム……というよりは人形ですか」


 絡繰り忍者達は色々懐に忍ばせているようで。煙玉や鉤縄等も確保している。アウリアはヘザーと共に興味深そうに手裏剣や分銅を手に取ったり、絡繰り忍者や足軽達の内部構造を覗き込んだりしていた。


「連中、斥候的な動きをしていましたね。こっちは衛兵と言いますか。姿形で役割が違うようです」


 忍者と足軽の動きの違いについても説明する。


「目を塞いだり顔を吹き飛ばしたりすると、混乱を起こしてた。感覚を潰すと良いみたい」


 シーラが絡繰り人形達に付いて補足する。確かにそれらも明確な弱点ではあるだろう。


「また、凄い業物ですね、これは」


 ベリーネは白拍子の持っていた長刀を見ながら言った。アウリアもヘザーも真剣な面持ちで頷いている。

 魔物の素材や冒険者の武器等、普段から色々見ていることもあって、目が肥えているのだろう。


「その武器を使っていたのはガーディアン級ですからね。他の魔物や絡繰りとは格が違うようで。後で鍛冶師にも見てもらおうかと」

「ガーディアンであれば、確かに納得でしょうか」

「ふむ。それで――これは何かのう」


 アウリアが首を傾げるのは……今回の問題児。ぬっぺふほふの肉片だ。切り取られたぬっぺふほふの肉片は……血も筋肉も脂肪もない、もちもちとした質感の塊なので、素甘というか餅というか、そんな印象もある。焦げた匂いに関して言うなら肉が焼ける匂いだったが。


「あー。それなんですが。肉塊的な魔物が出現しまして。見た目や動きはこんな感じです」


 ランタンの幻影で説明をする。


「随分変わった魔物じゃな」

「雷で焦した匂いが妙に香ばしいものだったので、食べられるのかな、と……。これから魔法建築絡みで出かけるのですが、その前に少し試食を、と考えていました」

「ふむ。新区画からしか手に入らないとなると、味が良ければ冒険者からも人気になるやも知れんのう」


 アウリア達も迷宮や魔物に携わる間で色々慣れているせいかそれほど驚いたところがない。見た目に難有りだが食える魔物というのは結構いるしな。


「ガーディアン程では無いにしても、絡繰り人形の武器や防具の質は中々のもの。鎧は普通に入手しようと思うと高価ですし、手に入れたがる人も多いかも知れませんねぇ」


 そうだな。炎熱城砦に行けば甲冑も手に入るが、あの場所は高熱にしろ、魔物の配置にしろ、色々と過酷だ。地下20階の分岐点でそれなりの装備や素材が手に入るのなら需要はあるかも知れない。


 まあ、そんなわけでギルドの厨房を借りて、少しぬっぺふほふの肉を調理してみる。とりあえず火を通したり油で揚げれば何とかなるだろう。


「まず、俺が食べて様子を見てみるよ。アシュレイ、何か問題が起きたようなら解毒を頼むね」

「分かりました」


 アシュレイが神妙な面持ちで頷く。食べられるんじゃないかと言ったのは、前世知識のある俺だしな。責任を持って俺が最初に試食させてもらう。

 問題があるようなら……早めに注意喚起をしなければならないし。肉体的な異常や魔力的な異常には対策がいくつもあるし、体内魔力の動きを追うにしても俺自身に関することであれば些細な変化にもすぐに気付けるという寸法だ。


 というわけでぬっぺふほふの肉を手頃な大きさと厚さにスライスし、フライパンで焙って醤油を垂らし――火が通って香ばしい匂いが立ち込め始めたところで皿に移す。

 味付けに醤油を使ったのは……まあ和風同士なら相性が悪くなることはないだろうという安直な発想だ。


 みんなが見守る中、まずは一口食べてみる。


「どう、かしら?」


 ステファニアが心配そうに尋ねてくる。みんなも真剣な表情で見守っている。


「原物はあれだけど、味や風味は悪くないと思う」


 ……食感や味としては練り物のソーセージに近いかな。いや、うん。中々繊細な味と風味で、実際美味いと言っても問題無いと思う。

 続いて体調の変化や魔法的な要因から来る体内魔力の変化に注視していたが……これは。


「何だか、探索で消費した魔力が回復してきている、ような……」


 マジックポーションを飲んだ後の感覚に近い。体内魔力の動きもそうだ。


「薬効付の食材というわけか……。これは結構な掘り出しものかも知れんのう」


 アウリアが表情を明るくした。

 そうだな。特に冒険者にとっては腹を満たしつつ魔力回復もできるということで、かなり有用かも知れない。

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