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番外19 夜桜と瓦塀

 灯篭が照らす石畳の道を進んでいくと、すぐに迷路のような場所に入った。

 高い塀が延々と連なって……あちこちに分かれ道が続いている、という具合だ。

 いわゆる瓦塀を壁にして作られた迷路という印象である。塀の上には結界が張られているようで、直接乗り越えて進むことはできないらしい。

 要所要所に灯篭が立って明かりが灯されていて暗いことは暗いが視界は悪くない。

 桜や柳の木も生えていたり、道の端に水路があったりなかったりと、景観はそれなりに変化に富んでいる。通路の幅は広く、比較的戦いやすい部類ではあるだろう。


「何か、来る」


 シーラが足を止めて、手を横に広げる。みんなで足を止め、得物を構えて様子見をしていると、少し先にある曲がり角の向こうから何かが出てきた。


「……傘?」


 イルムヒルトが出てきたものを見て怪訝そうに呟いた。

 一本足で跳躍するように移動する傘。大きな目玉に長い舌……と。いかにもな風貌だ。傘化けだとか、から傘お化けと言われる……妖怪だな。それが何体か、飛び跳ねながら出てくる。


 傘化けに続いて、のっそりと現れたのは……あー……。ぬっぺふほふ、だったか。肉の塊から手足が生えたような正体不明の物体だ。胴体に顔のような皺があるようなないような……。身長3メートルはあるだろうか。結構大きい。その姿を見たコルリスが首を傾げているが。


「壁の向こうからもまだ来る」


 シーラの注意を促す声。階層の魔物達は結界を素通りできるのか、壁を乗り越えて何やら暗い色合いの忍び装束を身に纏った連中が出てくる。……忍者だな。どう見ても。

 目の部分がぼんやり光っている点と、心臓のあたりから魔力が供給されて動いているのを見るに、ゴーレムや魔法生物の類であって人間というわけではないのだろうが。その数、3体。1体だけ少し身のこなしというか、毛色が違うように思うが。


 さて。どの程度の実力を持っているのか。まずは様子見といこう。

 傘化け達はこちらの姿を目にすると一瞬身を屈め――そこから全身で突きを食らわせるように突撃してきた。飛んできた連中をシールドを使って斜めに逸らせば、傘を開きながら空中に舞い上がる。

 全身を使った突撃。速度も威力も中々だが――。


「俺はあの、壁を乗り越えてきた奴らを抑える!」

「分かった!」

「では、後衛の守りはお任せを」


 シーラとヘルヴォルテが跳躍して後ろに逸らした傘化け達に突っ込む。傘化け達は回転しながら傘の縁で斬撃を繰り出して来たり、一本足で蹴りを繰り出したりしてきた。


 ヘルヴォルテは斬撃に対して槍を回転させて払い、シーラも傘化けの蹴り足を空中で転身して避け、そのままの勢いで胴薙ぎにしていた。

 こちらに向かって迫る傘化け。それを横合いから突っ込んできた、マクスウェルとベリウスがかっさらっていく。マクスウェルは斬撃で切り裂き、ベリウスは三つの顎で噛み砕いて。


「行きます!」


 ぬっぺふほふに突っかけたのはグレイスだ。斧を脇腹に叩き込む、が、切り裂きはしたものの、血も何もでない。裂かれた部分が餅でも捏ねるように盛り上がって再生した。

 ぬっぺふほふは丸い腕を振りかぶり、砲弾でも飛ばすように肉の塊を投げつけてきた。身体に前や後ろの区別もなく、関節のようなものもないのか、人を模したような動きをすることはするが、振り返りすらしない。

 飛来した弾丸を、グレイスが跳んで避ける。壁に激突する肉の弾丸はかなり重い音を立てている。重量と威力はかなりのものだろう。

 恐らく捕まればクレイゴーレムがするように、その身体の内に塗りこめられて動きを封じられてしまうはずだ。鈍重ではあるが、物理的な攻撃では分が悪い――か? しかし、そこに。


 エクレールが飛来するなり、雷撃を浴びせていった。

 白煙を上げながら、ぬっぺふほふの動きが一瞬揺らぐ。そこにグレイスが猛烈な速度で踏み込んでいく。すれ違いざまに斧を振るえば、餅のような質感の肉が斬り落とされて、頭の付近が斜めに削がれる。


「なるほど。ある程度の量が集まらないと、いけないようですね!」


 弾丸として飛ばしたぬっぺふほふの一部がそれ以上動かない事に着目した、というわけだ。

 反転。振り下ろしてくる腕を斬り飛ばして、縦横に斧を振るう。あっという間に巨体が削れていく。身体を削がれて、ぬっぺふほふそのもののサイズが小さくなっていく。

 比較的サイズの大きなものは別の個体として手足を生やして立ち上がるが――。


「邪魔はさせません!」


 アシュレイの足元から水が走り、分離した個体を包み込んだところで瞬時に氷結する。そこにイグニスが踏み込んで文字通りに粉砕していった。


 そして、本体はと言えば――グレイスの連撃により肉体を削られていた。別個体として再生する大きさをグレイスは既に見切っているのか、小さく細かく切り裂いていたが――。


「今っ」


 大上段。闘気を纏った斧がぬっぺふほふの頭頂から叩き込まれ、真っ二つにしていた。続けざまに胴薙ぎで四つに分かたれて――それで、終わりだ。切り裂かれたぬっぺふほふが動かなくなった。


 俺はと言えばグレイスに手裏剣を投げつけようとしていた忍者の集団に突っ込んでいる。こういった手合いは好き勝手させないのが肝心だ。

 連中はこちらの接近を察知した途端に煙玉を地面に投げつけて散開しようとしたが――無駄だ。魔力反応は目で追っている。立ち込める煙幕お構いなしで突っ込み、忍者刀で受けようとしたそいつの胴体に向かって、ウロボロスを叩き込む。


 想像していた手応えとは、若干異なっていた。ウロボロスの一撃を受けたそいつは、硬質な音を立てて吹っ飛ぶ。木の歯車やら金属をより合わせた線やらが飛び散らかす。


 ――絡繰り忍者、というところだろうか。それについて思案を巡らせる暇を与えない、とばかりにクナイと手裏剣が飛び交う。個体によって持っている武器が違うか。


「マグネティックウェイブ!」


 飛道具を磁力線で絡め取りシールドを蹴って突っ込む。反応が遅い! 分銅から忍者刀に持ち替えようとしたそいつに雷撃を叩き込み、最後の一体に突っかける。


 そいつは後ろに跳びながら印を結んだ。脇腹の当たりから火線を引いて、炎がこちらに迫る。水弾を作り出して迎撃。突っ込めば忍者刀で受ける。打ち、払い、巻き上げて刀を吹き飛ばして踏み込み、魔力衝撃波を叩き込めば、そいつは後ろに吹き飛ばされて壁に激突。何か壊れるような音がして動かなくなった。


 ……下忍と中忍といったところだろうか? 同じ忍者にしても結構実力に隔たりがあったな。




「手応えとしては――そこまででもない、かしら?」


 というのがローズマリーの感想だ。


「そうね。地下20階あたりで出没する魔物としては、実力はそこまで突出しているわけではなさそうだわ」

「先程の変な物体も、物理的な攻撃が効かないわけではないようですし、エクレールの放った雷が、かなり効いていましたからね」


 クラウディアとグレイスも同意する。

 確かに。傘化けもぬっぺふほふも、そして絡繰り忍者も。妙な動きはしていたが、そこまで強力というわけではないだろう。ぬっぺふほふはやや変わった特性ではあるし、忍者達も中々小賢しい動きはするが、個々はそこまで強いわけではなかった。中堅所の実力を持つ冒険者であれば十分対応可能だと思われる。


「何階層かに分かれているのなら、このあたりはまだ、それほど強力な魔物が出てこないのかも知れないわね」

「だとするなら、冒険者も呼び込めるから歓迎ではあるかな」


 先程の戦闘は割と小規模だった。まだ簡単な階層だというのなら、仕掛けや罠もえげつないものはないだろうと思われる。とすると、後は問題になるのは大部屋か。

 もっと大集団になるとどの程度変わってくるか、だろう。まさか傘化けとぬっぺふほふだけということもないだろうし。


 どうあれ、遭遇した連中から剥ぎ取りはしておこう。

 倒した傘化けはやはり付喪神ということなのか、普通の古ぼけた傘に戻ってしまっている。

 ……損傷の少ないものならまだ使えそうだな。魔力は感じるから、損傷の大きなものは魔石を抽出してやればいいだろうか。


 忍者達は……うん。持ち帰って調べたい。心臓部に魔石が組み込んであるからやはり、ゴーレムに近いのだろうが。

 鹵獲した武器も忍者刀、鎖分銅に手裏剣、クナイと、色々あるな。シーラが武器をチェックして、鎖分銅を振り回して壁に分銅を投げつけたり、それをステファニアとマルレーンが興味深そうに眺めていた。


 問題は……ぬっぺふほふだな。

 エクレールの雷撃で焦された部分など、妙に香ばしい匂いが立ち込めていたりするが……。

 確か、景久の記憶が確かならぬっぺふほふは食えるとか何とか……。食うのか、これを。

 確かに迷宮で産出する食えそうな魔物は、大体食えるしなぁ。うーん。

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