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番外15 戦い終わって

 ソードリザードの鱗は性質をそのまま残しているようだ。軽く魔力を流してやると剣のように伸びる。強度そのものも高く、コンパクトな鱗から剣のサイズまで伸びるという、武器にするにせよ防具として利用するにせよ面白い素材だと言えよう。


 ジュエルタランテラに関しては背負っていた魔石の数々が面白い。人の手による物ではなく、タランテラ自身が作った魔石だ。やはり、一風変わった術が見受けられるが……その中には糸の制御を司るものもあったりして、例えばローズマリーの魔力糸を操る術や、シーラの扱う蜘蛛糸を更に複雑に変化をさせたりといったことも可能だろう。


 グレンデルに関してはどこの部位に特色があるというわけでもないが、魔石を抽出するとかなり質の良い土属性の魔石が手に入った。どう利用するかは追々考えていくとしよう。


 そんなわけで魔物の素材の剥ぎ取り等をした後、手に入った物資と共に戦った人員を、シリウス号を使って古都スタインベールに送ったりと、後始末にも奔走したのであった。


 そうして仕事も一段落したところで、王都に向けて進んでいると、ヴィンクルが近くにやってきて小さく喉を鳴らした。


「ああ。労ってくれるのかな。ありがとう」


 そう言うと、ヴィンクルはこくんと頷く。

 ヴィンクルに関しては、まだ生まれたばかりだ。魔力等はかなりのものだが、今の段階でどれ程のことができるのか、戦闘力をこちらも把握していない。

 ラストガーディアンという立場もあるし、いきなり未知数の相手、しかも集団戦で実戦に出てもらうという事はせず、シリウス号の艦橋でマルレーンのボディーガードをしながらモニターで戦場の様子を見学してもらっていたわけだ。


「みんなの戦い方だとか、レアンドル陛下の采配を見て、集団戦なんかの参考になれば良いんだけどね」


 ヴィンクルは首をこくこくと振った。参考になった、という返答で良いのだろうか。

 見ていると土魔法で自分に似たゴーレムを作り出したりして、それを動かして実験している……というか遊んでいる様子だ。


「どうやらコルリスやグレンデルの戦法が印象に残ったらしいわね」


 と、そんなヴィンクルの様子を見てクラウディアが微笑ましいものを見るような表情を浮かべる。


「んー。あれはあれで強力だからな。ラストガーディアンとして動いた場合、初見の相手を撃退するってことを考えれば、ああいう戦法もありなのかもね」


 ヴィンクルは魔法を操れる高位の竜だ。魔力資質にしても特定の属性を得意としているわけではなく、かなり多岐に渡る魔法を使えるようだから、ミラージュボディやコンパクトリープ等、色々教えてみるのも悪くないかも知れない。


 原初の精霊の片割れ――コルティエーラと融合していた時は、精霊に干渉して大規模な事象を起こす事ができたが、分離した今となっては同じ戦法が使えない。代わりに武器になる手札はあったほうが良いだろう。近接戦闘の技術や魔法の応用、発想……そしてそれらの攻略法まで含めて伝えておくことは、幅広い対応力や洞察力を鍛えることに繋がる。


 ヴィンクルの様子を眺めながら色々思考を巡らせていたが、そうこうしている内にやがてシリウス号はドラフデニア王都、スタインベールへと戻って来た。

 河口港に停泊させて、船から将兵と冒険者、それから物資の荷降ろしを進めていく。


 それが終わったところで王城からの迎えの馬車に乗って街中を移動することになった。

 物資と人員の輸送のために、何度か悪霊と戦った戦場と往復している。その間に黒き悪霊の撃退に成功したという話も伝わって広まっているのか、沿道に人が詰めかけていた。


「何でも再来した黒き悪霊を倒したのは、ヴェルドガル王国最強の魔術師って話だ」

「少し前に魔人殺しの噂があっただろ? その本人らしいぜ。レアンドル陛下と共に悪霊を誘き寄せて、結界の中に封じて戦ったとか」

「そりゃまた……凄い話だな。一目ぐらいは見ておきたいところだが」


 といった噂話も聞こえてくる。噂話というか……黒き悪霊の討伐に冒険者が参加していることもあり、当事者が話を広めているのかも知れない。


「口止めをしておいた方が良かったでしょうか?」

「いえ、それは構いませんよ」


 隠しておいて欲しいと思うのなら、自分からそうして欲しいと頼むし。

 実力を隠しておくより周知しておいた方が余計なトラブルを避けるのには良いと考えているから、別に構わない。

 そう答えると、ペトラは少し逡巡した後にこんな事を言った。


「その……魔人殺しの噂を広めた時に、便乗した者がいたので、偽情報を流す必要が無くなってからはある程度の実態を周知するということで、冒険者ギルドとも話が付いているのです」

「便乗、ですか?」


 グレイスが首を傾げる。


「そうです。自分の腕を高く売り込むために、西から来た魔人殺しを名乗る不届きな輩が出た、という事件がありまして。その時は偽情報を流している手前、噂話を積極的に訂正するわけにもいかなかったので……その者達を呼び出して詳しく話を聞き、厳重注意をするに留めました」

「ああ……」


 ペトラの答えに苦笑してしまう。


「確かに、異界大使や爵位を詐称するのとは違うわよねえ」


 ローズマリーも羽扇の向こうで肩を震わせる。そう。そのあたりはペトラの言っている連中の上手いところというか、冒険者らしいたくましさを感じさせる話でもある。決して感心できる話ではないのだが。

 連中も考えたもので、公的な身分や貴族家を詐称するのは調べれば明確に嘘だと分かるし罪に問われるが、冒険者が何々を倒したことがある、等と吹聴するのはどうかというと、中々事実確認も含めて難しいと言わざるを得ない。


 魔人殺し等と言っても、結局魔人を倒した者の称号であって、俺を指す言葉とイコールでもない。ましてや情報操作の最中で、実像が不明確な状況だ。これ幸いと便乗する者が出たとしても不思議ではない。


「まあ……目に余るような悪事を働いたのでなければ、僕としては笑うしかないお話かなと。ドラフデニア王国の皆さんにはお手間を取らせてしまいましたが」


 不当に腕前を高く見せかけて報酬を釣り上げようとするのも悪事ではあるけれど……何というか悪事というよりもセコさを感じるような内容なので、あまり怒りもわいてこない。直接迷惑を掛けられたわけではないし、解決もしているようだし。


「境界公は寛大でいらっしゃいますね」

「場合によりけりですよ。自分を寛大とは思ってはいませんが……。偽情報の拡散に一役買ってもらったと考えることにしましょう。レアンドル陛下はその連中を突き止めて、注意もして下さっているわけですし、この上僕から何かを言うこともないでしょう」

「今は逆に、正しい情報を周知している状況です。その連中は冒険者仲間にも嘘がバレて、白い目で見られているそうですよ」


 と、ペトラからその話のオチも聞いたところで、みんなからも苦笑が漏れたのであった。

 馬車はそのままスタインベールの王城へと入っていく。

 女官に案内されて向かった王城の広間では、既に宴会の準備が進められていた。戦いに参加した将兵は勿論、冒険者達やロベリア率いる妖精達も城に通され、食事と酒が用意されているという状況だ。

 将兵と冒険者、それから妖精とが一つ所で楽しそうにしているというのは、実に冒険者の国ドラフデニアらしい空気という感じがして、悪くない。


 席に案内されてみんなで座る。テーブルについた俺達の姿を確認すると、レアンドル王は相好を崩す。


「どうやら役者が揃ったようだな。では、宴を始めるとしようか!」


 そう言って、酒杯を掲げる。


「皆の者、聞くが良い! 黒き悪霊の再来と、憑依された魔物の群れの襲撃! 建国以来の未曾有の危機とも呼べる事態を収め、被害を最小限に留めたのは、友邦ヴェルドガル王国より参られた若き魔術師、フォレスタニア境界公とその奥方達の力添えがあればこそ! 英雄殿の我が国の危機への助太刀に、深い感謝の意を示すと同時に、共に肩を並べて戦えた事を余は嬉しく思う! 故に、この勝利を盛大に祝い、後世に今日の日のことを語り継ぐとしようぞ!」


 レアンドル王がそう言うと、列席者から歓声が上がった。


「というわけだ。どうかお礼の宴を楽しんでいって欲しい」

「ありがとうございます」


 レアンドル王に一礼する。楽士達の奏でる音楽に合わせ、妖精達が広間の上の方で楽しそうに踊る中、食欲をそそる匂いを漂わせる料理が次々と運び込まれてくるのであった。

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