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71 王子と王女の道

「ええと。グレイスは靴のほかに斧の改良。アシュレイがアクアウォークとレビテーション。シーラが基本の3種、イルムがエアブラストとレビテーション、かな」

「それらの魔法を装備品の形にする、と」


 アルフレッドとビオラを交えて話し合った要点を纏めている。

 それぞれ得意とする物や戦法が違うから必要とされる魔道具の種類も異なってくるだろうというわけだ。特にアシュレイ。シールドを足場にして跳躍するという方向性より、水魔法が得意だから前に憶えた水上滑走の技術を応用した方が、と考えている。


 シーラは器用だから3種の魔道具を綺麗に使いこなしてくれるだろう。彼女の場合は応用範囲が広ければ広いほど活用して対応してくれるはずだ。

 イルムヒルトは――やや手探りだが、彼女に関してはシールドを使って跳躍という選択がないので。弓矢が武器である事も考えて、エアブラストの魔道具を増やすという方向で考えている。


「えーと。そうと決まれば、あたしは皆さんの採寸をしてきます」


 それぞれの基本方針が定まったところで、ビオラがグレイス達の所へ歩いていく。

 刺繍をしているグレイスとアシュレイの手元を、マリアンが食い入るように眺めている姿が印象的だ。リュートの穏やかな旋律が奏でられ、日陰の風通しの良い場所に腰かけたシーラはうつらうつらと船を漕いでいる。

 まあ、あちらはあちらで、和気藹々とのんびりとした時間を過ごしているようである。


「それにしても、良かったよ。マリアンも今日は楽しそうだ」


 アルフレッドは穏やかな表情で妹を見ている。


「んー。まあ、彼女達は子供の扱いが上手い人が多いでしょうから」

「そう、みたいだね」


 ――マリアンことマルレーン姫は……後々、月神殿の巫女となる子である。

 BFOでは当代で最も高い能力を持つ巫女姫などと言われていた。

 魔力資質が巫女向きなうえに、視覚であれ聴覚であれ元々備わっている機能の1つを閉ざす事により女神との繋がりを深くできるから、という事だ。

 制約を受けている期間が長ければ長いほど良いとされ、魔力資質、血筋、容貌、制約などを総合して考えた場合、神殿からしてみると相当有望な巫女になる、という事なのだろう。


 ただマルレーンのそれは、自ら望んでのものではなく、BFOのクエストで得た断片的な情報から判断するに、暗殺されかかった結果という事のようだ。

 宴席で謀られた毒による後遺症か、それとも心因性によるものか。ともかく彼女は九死に一生を得たが、その際母親を喪い、それ以来マルレーンは話す事ができなくなった。


 将来的に彼女が巫女に収まるのは、言葉を話せない彼女を権力闘争や貴族社会から遠ざけようとするメルヴィン王やアルバート王子の意向があっただとか、巫女頭がマルレーンを可愛がってくれるからだとか……まあ、色々理由はあるみたいだが。

 神殿になら彼女の必要とされる場所があるし、頭角を現しても王権とは分断されているから政敵に目の敵にされることも無いというわけだ。


 で、アルバート王子自身は、街中を遊び歩く放蕩王子の振りをしながら人材を集めたりしているわけである。

 武術の結実には時間が掛かるからと早々に見切りをつけて、知識と器用さで勝負できる魔法技師を選び、宮廷の貴族達には積極的に関わらず権力闘争からは距離を置いて。

 お忍びで町中に出かけて放蕩しているように見せかけて、冒険者や冒険者ギルドとの結びつきを強くしておき、いつの間にか王国にとって必要不可欠な人材になっているのが理想、という感じらしい。まあ、中々に強かだ。


 俺がリネットを倒した一件で王城に出向いた時、王城の内部に居場所を望んでいたら、多分アルバート王子は俺から距離を置いたのではないか、とも思うが。

 俺が王城に積極的に食い込んでいくと、アルバート王子が俺に近付くと必要以上に警戒されて注目されてしまうわけだからな。今の状態もリスクが無いとは言わないが、様々な所を天秤にかけて鑑みて、大丈夫、と判断したのだろう。


「話が逸れたな。ええと。訓練と試験を兼ねた簡易的な装備が必要になりそうだね。なるべく早く揃えるようにするよ」

「よろしくお願いします」


 お互い空中戦用の装備を身につけての訓練。そこから得られるデータを取って調整を繰り返して、装備品を洗練されたものにしていくわけだ。


「その分、魔法通信機の開発が遅れてしまうのは申し訳ないですけどね」

「いや。あれは長期的に見てるし。まあ、焦らず行こうと思ってる。それより僕としては、テオ君が僕に敬語なのがちょっと気になるんだけどね」

「んー。気になりますかね」


 俺としては別に、平常運転という感じなんだが。


「そうだよ。僕なんか所詮しがない宮廷貴族の四男坊だからね。雇い主だとかそういうのは気にしないでいいんだ」


 いや……。王子をしてしがない宮廷貴族とは中々言うものだが。これをメルヴィン王が聞いたら――恐らく笑うような気がする。

 そしてさりげなく自分の出自が宮廷貴族の子供であると設定を匂わせてきた。俺が何も聞かなさ過ぎるというのもあるんだろうけど。

 でもまあ……そういう事なら普通にするかな。


「分かった。これで良いかな?」

「ああ。というわけで、今後ともよろしく」

「了解。それじゃ、俺にできる部分は早めに済ませとくよ」


 詠唱を文章化して、手を加えるべき部分に注釈を付けて。

 後はそれをアルフレッドが翻訳(・・)したり削れる部分を削ったりして。ビオラと相談しながら道具や魔石に組み込んでいく感じの作業となる。

 ポーションを煮込んでいる鍋の塩梅を見てもらいながら羽根ペンを紙に走らせていると、アルフレッドが話しかけてきた。


「そういえば、チェスター卿の事だけど」

「ふむ」

「彼は元グレッグ派という事もあって、立場は微妙だけど、責任を問われるという事はなさそうだよ」

「魔人討伐にも参加してたし。まあ。その辺は放免になったんじゃないかって思ってたけど」

「うん。ただね、ローズマリー殿下との関係は戻らなかったみたいだ」


 そうなの、か。まあ、チェスターとの関係はグレッグ派の壊滅に繋がってはいるが、グレッグが失脚したところで、チェスターの行動が元に戻る理由にはならないが。


「チェスター卿が大腐廃湖に向かっているというのが相当気に入らなかったみたいだよ」

「危険だから?」

「いや。汚いからだって。自分より汚物を選ぶような騎士はいらないって、面と向かって言い放ったそうだ」

「……うーん」


 ローズマリーの事はあまり積極的に関わり合いになりたくないから、どうでもいいとして。チェスターからしてみると、優先したのはローズマリーとの関係よりも、本来の騎士の務めの方なんだとは思うが。

 それがローズマリーの好みからは外れているのだろうが、面と向かって言い放たれるというのは、中々キツイな。

 ここのところ、チェスターは立て続けに人生観を揺さぶられている感じに見えなくもない。


「……チェスター卿の探索班は魔道具ぐらいは、対策に用意してるのかな?」

「ん? それは大腐廃湖の対策?」

「そうそう。臭気と毒気はエアスクリーンで遮断しながら、エアスクリーン内部の空気を定期的にピュリファイで浄化して。で、アクアウォークで汚泥の湖上を直接踏破する、と。あそこは足場が自由に使えるだけでも全然難易度が違うと思うし。湖面の下と、上空を気にしなきゃいけないから、槍みたいな長物も有効だと思う」


 深みに足を取られなければ存分に戦えるし。汚泥の中から出てくるスラッジマン辺りも、中に嵌って戦うのとでは天と地ほどの差がある。

 臭気を気にしなくていい。毒を受けた時の心配をしなくていい、となれば精神的にも余裕が出てくる。各々が冷静に戦況を見られるようになれば連携だって自然にできてくるはずだ。


「……んー。どうだろうね」


 アルフレッドは腕組みをしながら何か思案しているようだ。

 チェスターに一任すると根性でと言い出しそうな気もするが、上が気遣ってくれれば、それはそれで感激して素直に受け取って活用しようとするタイプだと思うのだ。


 だから、これだけ攻略のヒントを提示しておけば、アルバート王子にその気があるなら勝手に動くだろう。

 派閥から切れて騎士道に邁進しているチェスターは、王子からしてみるとタルコットと同じで宙に浮いた存在なわけだし。


「間に合わせるなら……また、徹夜かなぁ」


 などと、小さな声でアルフレッドが呟いているのが聞こえた。うん。仕事を増やしているみたいで悪いな、とは思うけど。

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