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番外14 霊魂解放

 核を破壊したからか、それともアケイレス王とグエンゴールの悪霊が吹き飛んだからか。眼下の戦場でも変化が起こった。


 憑依していた霊が力を失って、魔物の身体から次々と抜け出していく。

 アケイレス王国の――兵士達の霊魂だ。光を放ちながら空へと舞い上がり、段々と薄れるように消えていく。空中にいる俺の近くに飛んでくる霊魂達の中には、まるで礼でも言うかのように俺の身体の周囲を回ってから消えていくものもいた。


 憑依されていた魔物達はと言えば――霊魂達が散った頃合いになって正気を取り戻したのか、いきなりの状況に戸惑っていたようだが、最初にゴブリン達や鳥や蝙蝠の魔物達が逃走を始め、それから他の魔物もそれに触発されたかのように森へと逃げ込んでいった。


 ドラフデニアの将兵達は霊魂達の放つ光に見惚れていた者、敬礼で見送る者、それから武器を頭上に掲げて勝鬨の声を上げて追い立てる者と色々だが、逃げていく魔物に対して実際の追撃を行うようなこともなかった。ゴブリンやオークなどは敵対的種族ではあるのだが、まあ、この状況で追い討ちをかけるのも些か忍びないということなのだろう。当分は森から出てこないだろうしな。


 こちらの被害に関しては――アシュレイが敵を氷壁で分断しながら遠隔の治癒魔法を用いていたりしたので、最小限に留まっている様子だ。結果から見れば、完勝と言って良いか。


「みんな無事のようで何よりです」


 と、ティエーラが声をかけてくる。


「いや。手伝って貰えて助かったよ」

「不自然な仕組みで沢山の魂の流れを歪めてしまうというのは、私としても看過できませんから」


 ティエーラはそう言って穏やかに笑った。


「テオドールと一緒の場所で力になれて楽しかったよ!」

「うむ。魔人達の時は儀式であったり、力を送ったりで、共に同じ場所でとはいかなかったからな」


 と、ルスキニアとプロフィオン。ヴァルロスの時と、イシュトルムの時の話だな。


「みんなのところへ行きましょうか」

「テオドールを待っているだろうからな」


 マールとラケルドの言葉に頷き、砦の前にみんなで集まる。シリウス号の中で祝福と召喚術、ソーサーの制御に集中していたマルレーンも、明るい表情でタラップを駆け降りてくる。


「みんな、怪我はない?」

「私は大丈夫です」

「ん。同じく」

「私も、セラフィナちゃんも大丈夫よ」


 集まったみんなに尋ねると、各々顔を合わせて頷き合う。みんなに怪我が無いことを確認。使い魔達やリンドブルムも問題無さそうだ。


「私達は問題ありません。テオドール様は……大丈夫でしたか?」

「うん。大丈夫。少し危なそうに見えたところもあるかも知れないけど」


 アシュレイに答える。分解魔法で防御したあたりは傍から見たら直撃を食らったようにも見えただろうし、アケイレス王の巨大剣で弾き飛ばされたあたりもそうだ。そこで心配をかけてしまっていたらみんなには申し訳ないと思う。だが、アシュレイは俺の返答に頷くと怪我が無かったことに、嬉しそうに笑みを返してくる。


 そうしてグレイスに呪具の封印を施したり、みんなと揃って無事に戦いに勝ったことを喜ぶように抱擁し合ったりする。


「コルリスと一緒に上手く戦えて、良かったわ」


 ステファニアはそう言って、隣にいるコルリスの背中を軽く撫でる。コルリスもこくこくと頷いてステファニアの言葉に同意を示していた。


「色々と戦い方に、テオドールの影響が見れたわね」

「そうかも知れないわね。ミラージュボディやゴーレムの扱い方も、指導してもらったもの」


 ローズマリーの言葉にステファニアは笑顔で応じていた。マルレーンはクラウディアににこにこと抱き着いたりしている。


 ドラフデニアの将兵達と妖精達も戦いに勝ったことを喜び、勝鬨をあげたり、レアンドル王や……俺の名を称えるような声をあげていたりする。


 そこにレアンドル王とドラフデニア将兵の重鎮達、それからロベリアやペトラ、その師匠もやって来た。

 まずは高位精霊達を紹介してしまう。精霊王達は名前が知られているからそのまま。ティエーラも魔人との一件を通して知己を得た、精霊王達に並ぶような高位精霊、ということで微妙にお茶を濁しつつ紹介する。


「高位精霊とは聞いていたが、まさか精霊王とは……。いや、寧ろ納得するところなのかも知れんな。先程の戦いを見てしまった以上は」

「よろしくお願いしますね」

「ドラフデニアの王、レアンドル=ドラフデニアと申します。精霊王と知己を得られて嬉しく思います」


 マール達を紹介すると結構な衝撃を受けていたようだが、レアンドル王はすぐに気を取り直して丁寧に挨拶を返していた。

 それから、紹介が終わったところで俺達に向き直る。


「境界公には此度のことには、感謝の言葉もない。もし悪霊に余らだけで戦っていたとしたら、夥しい犠牲を払っていただろう。あのような災厄としか言いようのないものを退けられたのは、ひとえに境界公の助力があればこそ。我が国の危機を救ってくれたこと、重ね重ね感謝する」


 そう言ってレアンドル王と将兵達は敬礼をしてくる。


「いえ。お役に立てたようで何よりです。それにアケイレス王やグエンゴールのやり方には、僕としても気に入らない部分があったので」

「確かに、な」


 復讐という行為そのものは、俺は否定しない。

 だが、アケイレス王の場合は実際にろくでもない悪政を行っていたようだし……逆恨みと言って良いだろう。しかもそのために他の連中まで呪縛して延々自分の恨みに付き合わせる始末だ。

 自分の復讐をやりたければ自分で動け、と言いたいところだが……最後の最後に追い詰められるまでほとんどアケイレス王自身は動かなかったからな。まあ、今回は大魔法を直接叩き込んでやれたから良しとしておこう。


「しかし、テオドールの魔法は凄かったのう! バチバチいったり、ドーンと光ったりしておったぞ!」


 と、ロベリアが明るく笑って言う。何やら高位精霊達がやって来ていることもあり、妖精達もハイテンションで飛び回ったり勝利のダンスをしていたりと、賑やかなことになっているが、ロベリアも上機嫌な様子で、身振り手振りを交えて悪霊との戦闘を振り返っているようだ。

 察するに……バチバチが重力球で、ドーンがスターライトノヴァだろうか。


「いや全く。聞きしに勝るとは、あのことですな。ペトラよ、しかと見たな?」

「はい。伝説級の秘術を目の当たりにさせていただきました」


 師匠の言葉に神妙な表情で答えるペトラ。


「確かに高位魔人に勝利した理由も分かろうというものだ」


 レアンドル王は目を閉じて頷いていたが、相好を崩して言葉を続ける。


「何はともあれ、国を挙げて境界公に感謝を表したいところではあるな。新婚旅行に水を差してしまうような出来事ではあったが、祝勝と感謝の宴を以って境界公の助力に応えたい。我が国に滞在中は自分の家にいるものと思って寛いでいって欲しい」

「ありがとうございます。滞在中は妻達と共に、のんびりさせてもらおうかと思います」


 そうして一段落ついたところで冒険者ギルドの関係者が声をかけてきた。


「陛下。戦場の後始末に関してですが――」

「事後処理が残っていたか。確かに、このままにしておくというわけにもいくまいな」


 ああ、剥ぎ取りなどもあるか。これも1つの戦後処理かも知れない。将兵達も冒険者達と笑い合いながら普通に準備を始めているあたり、冒険者出身の将兵というのも多いのかも知れない。

 冒険者の国らしい戦後処理とも言えるな。


「まず、ジュエルタランテラやグレンデル、ソードリザードのような高位の魔物から得られる素材に関しては当然、境界公や奥方らに所有権があろう。それ以外の魔物に関しては……どうしたものかな」


 量が量だからな。オークは勿論、ゴブリンもグリフォンの食事になるということで、無駄になるものはないが、鮮度等の観点から多すぎても良いというものでもないだろう。

 俺達としては高位の魔物の素材を貰えるというだけで充分なので、それ以外に関してはレアンドル王や冒険者ギルドに全部任せるという事で返答しておく。

 余剰ならば無駄が出ないよう魔物の身体から魔石抽出を行い、回収し切れないものは衛生状態等を鑑みて地中に埋めたりといった作業も視野に入ってくる。その場合は土魔法で手伝うことにしよう。

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