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番外10 王城での対策会議

「ブラウヘイムの黒き悪霊……悪王と災厄の再来とは」


 と、ドラフデニア王国騎士団長が渋面を浮かべる。

 方針が定まったのでドラフデニアの王都スタインベールの王城に戻り、王の側近達にも話を通して騎士団やお抱えの魔術師を組織。悪霊に対抗するための準備を整えることとなった。

 例のグエンゴールの手記を持ち帰り、騎士団長やペトラの師匠である宮廷魔術師、それからドラフデニア冒険者ギルドの長達にも目を通してもらっているのだ。


 冒険者ギルドの長も対策会議の場に呼ばれているあたり、ドラフデニア王国らしいと言えよう。


「お待ち下され陛下。まだお話は終わってはおりませんぞ!」

「話すべきことは話しただろう。余の代わりにいかなる者がアケイレスの王を誘き出す役ができると? 余の息子や娘か? それとも王家の血を引く家臣に肩代わりをさせるか?」

「それは……しかし、御身にもしものことがありましたら……」


 隣室で話し合っていた宰相とレアンドル王がそんな会話をしながら戻ってくる。レアンドル王の囮作戦には……やはり宰相を筆頭に何人かの者が反対意見を示したのだ。それを対策会議の人員が集まる前にレアンドル王自らが会議場の隣室で説得していた、という構図である。


「余は……自ら成すべきことを他の何者かに押し付け、それに甘んじて身の安寧を得ることを良しとはせぬ。余の身を案じる、そなたの忠義には理解を示そう。しかしだ。ドラフデニア王家の残した業ならば、これは余の責務であるのだ」

「む、う。そこまで仰られるのでしたら。しかし、無策でというわけにも参りますまい」


 宰相は言葉に詰まったが、それでもただ送り出すのは不安だと食い下がる。


「境界公と共に封印を解き、グリフォンと飛竜で戦場となる場所まで逃げる、というところまでは考えているが。シリウス号――飛行船を近くに随伴させ、もしもの場合はそれに乗って全速力で逃げることも視野に入れている」

「境界公と、飛行船ですか……。確か、あの飛行船は、魔人と戦うためのもの、とか」

 

 宰相がこちらに視線を向けてきたので一礼をする。

 メルヴィン王からは悪霊対策としてはある程度の情報公開も含めて、俺の裁量に任せるとのお墨付きを既に貰っているしな。


「はい。魔人と戦うことを想定して作った船です。ご心配ならば、シリウス号の装甲や戦闘用の機動、全速力等もお見せできますが……。そういった強度や速度よりも、悪霊相手の場合は魔法的な防御が必要かも知れませんね。バロールを陛下に連れて行ってもらうというのはどうでしょうか。事前に込めた魔力の分だけ、マジックシールドや各種防御用の魔法を、僕の制御によって離れた場所から用いることができます」

「おお……それは心強い」


 宰相はレアンドル王を説得することは無理と判断したのか、シリウス号やバロールについて説明すると明るい表情になった。


「生きたマジックスレイブのようなものですかな。何とも素晴らしい魔法生物ですな」


 と、ペトラの師匠が言う。


「シルヴァトリアの秘宝でもありますね」

「なるほど……。道理で」

「ふむ。悪霊はさておき、シリウス号の戦闘機動と全速力、というのには興味があるな。差し支えなければ見せてもらいたいものだが」

「では……この会議が終わった後にということで」

「うむ」

「め、迷惑でなければ私もご一緒させて下さい」


 レアンドル王の言葉を受けて、宰相が気合の入った面持ちで言う。


「ええと……かなり速度が出ますよ。大丈夫ですか?」

「勿論です! こうなっては陛下のお気持ちを尊重したいと考えておりますが、諸侯を説得するためにも、自分の目で見て、経験したことを語るのは重要かと存じております」


 どうやら宰相の決意は中々に堅いようだ。

 では、宰相にも会議が終わってからシリウス号に乗ってもらうとするか。ある程度のところを見せれば安心してくれるだろうとは思うし。


 約束を取り付け、宰相もある程度納得したところで、そのまま集まった面々と対策会議に移る。

 犠牲を抑えるための精鋭の選出。戦うための場所の選定。黒き悪霊の伝承から想定される能力とそれに対する対策――。


「ギルドからは……事態が解決されるまで妖精の森への立ち入りを禁じる通達を出しましょう。同時に、国軍と共に戦う志を持った実力者を募ります」


 と、ギルド長が言う。国難に当たってギルドも全面的な協力をする、というのはヴェルドガルとも同様だ。


「悪霊は時間と共に力を増す……とは言え、それはグエンゴールも長い年月を想定しての言葉。できるだけ迅速に対応するのが得策ではありますが……数日なら誤差の範囲内でしょう」


 封印がどの程度もつかは未知数だが玄室にはハイダーを配置してきているからな。

 監視の目を残してあるから、また魔物が迷い込んできたとか、実際に封印が解けただとかの事態が起こればすぐに把握して対応に動ける。

 そういった緊急事態が起こらなければ、悪霊を迎え撃つ戦場に精鋭を配置してから動くことが可能になるだろう。


「そうだな。この場合は墓所の状態を監視しつつ、間違いのない対応ができる状態を整えてから動くというのが良さそうだ」


 レアンドル王も頷く。


「もう一点。ヴェルドガル王国の飛竜には空中戦を有利にするための魔道具を装備させているのですが――」


 レアンドル王が囮作戦を決行するのなら、グリフォンのゼファードにもリンドブルムと同様の魔道具を装備させ、その動きに慣れてもらえば作戦に有利に働くと思う。

 そういった考えを説明するとレアンドル王は言った。


「そのような貴重な魔道具……借りてもよいものなのか?」

「対魔人同盟の将兵には公開された情報です。有用と判断されれば今後広まっていくものと予想されますし……ヴェルドガル王国と貴国は昔からの友邦です。魔人関係の事でも協力を頂いていますから」


 悪霊対策としてそういった魔道具の提供は問題無い。このへんについてもメルヴィン王とのやり取りを終えている。


「なるほど。では、その言葉に甘えさせてもらおう。作戦が決行されるまで、ゼファードと訓練をさせてもらう」

「我等はどうしたものか。勿論、森の一大事に指を咥えて見ているつもりはない。共に戦うつもりでいるが……」


 会議を静かに聞いていたロベリアが言った。


「後方から魔術師の部隊的な位置付けで前衛の支援をしてもらう、というのはどうでしょうか? 妖精達の幻惑の術を考えれば、前線に出るよりも補助的な立ち回りの方が全体が強固なものになるように思いますし」


 と提案する。反対意見は特に出なかった。ドラフデニア国軍と妖精の共闘というのは、今後のことを考えれば色々と有意義なものではあるだろう。


「ふむ。あい分かった。存分に力を振るって見せようではないか」


 ロベリアが不敵に笑って頷いた。上位種が一族を率いた場合の力というのは、妖精に限らず本当に侮れないからな。まるで別種というほどの力を発揮するのだ。頼りにしても良いだろう。

 その他、悪霊対策について具体的なところを諸々話し合って、会議は終了した。一旦解散して各々が自分の仕事に動き出すわけだが……俺達とレアンドル王とペトラ、それから宰相は実際にシリウス号に乗ってみるということで、馬車に乗って河口港へ向かった。

 妖精達は大半が王城で居残りだ。ロベリアだけが俺達に付き合ってシリウス号に乗り込む。


 シリウス号に乗り込んだところで、注意事項を説明する。


「座席に着いたら、帯は確実に締めて下さい。身体を固定していないと投げ出される可能性があります」


 俺が注意事項を言う間にも、みんなはベルトをしっかりと締めている。

 みんなそのあたりは慣れたものだ。それを見て、見様見真似でレアンドル王達がベルトを締めた。


「妖精用の座席があるというのは良いのう」

「ここをこうするんだよ」

「うむ。すまぬな」


 ロベリアもセラフィナに教えてもらって、妖精用の座席に座って準備は整った。装着に問題がないことをこちらでもしっかりと確認させてもらう。


「では、参りましょうか」


 河口港に停泊させていたシリウス号を出港させ、ゆっくりと浮上させていく。宰相は物珍しさと緊張からか、やや落ち着かない様子だ。


「速度を上げる時には事前に言います。かなり速いので、その場合、舌を噛まないように口をしっかりと閉じていて下さい」

「承知した」

「うむ」

「分かりました」


 返答があったところで……シリウス号の速度を上げていく。

 都市から離れ、人のいない方向を目指して飛んで行く。


「シリウス号に本気を出してもらうというのも暫くぶりね」

「私はあの感覚好きだわ」

「ん。結構楽しい」


 クラウディアの言葉に、ステファニアやシーラが答え、マルレーンも笑顔でこくこくと頷く。グレイスやアシュレイ、イルムヒルトも慣れたもので、割合平然としている。ヘルヴォルテもいつも通りだ。

 そんなみんなの反応に、宰相が安堵の表情を浮かべた。ローズマリーは羽扇の向こうで何やら苦笑して、アルファはにやりと笑っているが……。


「では、速度を上げて行きます」


 推進器が空気を取り込み、火魔法で爆発的な加速を行う。宰相とペトラは驚きに目を見開き、レアンドル王やロベリアはどこか楽しそうな雰囲気だった。

 加速度を身体に感じながらシリウス号がかっ飛んでいく。

 戦闘機動、とは言ったが、そこまで無茶なものはするつもりがない。一先ず高度を変えながらの旋回ぐらいで充分だろう。


「お、おおおおッ!?」


 猛烈な勢いでモニターに見える景色が流れていく。

 二度三度と同じような軌道で上昇や降下を行い、真っ直ぐな飛行に戻していく。火魔法による加速で馬鹿げた速度で景色は流れていくが、安定飛行に入っているので旋回などしなければ船内は静かな物だ。


「これは……爽快だな」

「こんな速度で飛べたら心地良いじゃろうな!」


 レアンドル王とロベリアは割合楽しんでいるようだ。


「こ、これが最高速ですか。これほどの速度を、どうやって――」

「た、確かにこれならば、かの悪霊とて追い付けますまい!」


 と、段々落ち着いてきたのか、ペトラはもう好奇心が頭をもたげているようだ。宰相も些か興奮した様子で、拳を握って言った。

 一応……魔力光推進も見せておくべきだろうな。まあ……こっちは真っ直ぐしか飛ばないから大丈夫だろう。


「いえ。その……。申し上げにくいのですが、最高速はもう一つ上の段階がありまして。ですが、こちらは直線的に動かすだけなのでご安心頂ければと」

「はい?」

「――え?」

「ほほう」


 俺の言葉に、ペトラと宰相は言葉を失い、レアンドル王とロベリアは期待に目を輝かせるのであった。

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