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番外3 案内人ペトラ

「――お初にお目にかかります。陛下より案内役を仰せつかりましたペトラと申します」


 女官に案内されて貴賓室にやってきたのは、ペトラと名乗る少女だった。折り目正しく挨拶をしてくる。年齢は俺やアシュレイと同年代ぐらいだろうか? ローブを羽織り、魔術師風の出で立ちであるが……。


「年齢は若いが、宮廷魔術師の高弟でな。魔法の腕も中々のものだが……国内の歴史や遺跡に関する知識も結構なものでな。案内役としては申し分ないと考えている」


 なるほど。レアンドル王の言葉に頷き、俺やみんなを含めて自己紹介をしていく。


「よろしくお願いします」


 みんなを紹介して一礼を返すと、ペトラも若干緊張した様子で一礼を返してきた。

 確かに、俺に同行させるなら騎士よりも魔術師の方が適任だろう。

 それに、宮廷魔術師の高弟ともなれば将来有望だ。先々の人脈形成にも繋がるかも知れないし、俺が魔術師だから、何かしら良い刺激になると考えたのかも知れない。


「では後程、晩餐の席で。宿までの案内は頼んだぞ」

「はい、陛下」




 というわけで、レアンドル王から案内役として紹介を受けたペトラに、宿まで案内してもらう事となった。晩餐の時間までまだ間があるし、折角なので早速、都市内の名所などを見学しながら街を巡る、という感じだ。


「これがアンゼルフ王の彫像です」


 と、ペトラが馬車を止めて教えてくれる。

 街の広場に噴水があり、そこにアンゼルフ王とその相棒のグリフォン――グリュークの彫像があった。翼を広げたグリフォンに跨るアンゼルフ王。その造形は……勇猛さよりも柔和な印象があるな。グリュークも……勇猛さより優美で高貴な印象を追及している印象だ。アンゼルフ王が助けた時の脇腹の傷もしっかり見て取れる。

 ドラフデニア王国の人々が親しんでいるアンゼルフ王の姿がこれ、というわけだ。彫刻も結構写実的に見える。


「これなら、幻術の参考にもなるかしらね」

「確かに、これだけ写実的なら充分参考になるな。ええと。この彫像の由来についてお聞きしても?」


 ステファニアの言葉に頷き、ペトラに尋ねてみる。


「彫像に関しては肖像画を元にして、高名な彫刻家が作った物と聞いています。元となった肖像画も王城に飾られておりますので、晩餐に向かった折りに見ることができるかと」

「グリュークもですか?」

「そうですね。アンゼルフ王と並んだ肖像画として残っておりますよ。もっとも、肖像画の中ではこういう躍動的な姿ではなく、大人しくアンゼルフ王の隣に座っていましたが」


 なるほど。確かにペトラの知識は広い。こういう解説が普通に出てくるのは助かる。因みに、ドラフデニアではグリフォンは国獣として大切にされているそうだ。子供のうちからきちんと世話をしてやると懐くそうで。


「ところで幻術、というのは何のお話でしょうか?」


 と、ペトラが首を傾げた。


「ああ。幻術を用いてアンゼルフ王にまつわる逸話を舞台劇のように観賞できないかと、少々試行錯誤しておりまして」

「それは……興味深いお話ですね」

「ドラフデニア王国へ新婚旅行に来た理由も、幻術劇の細部に厚みを持たせたいからというのがあります」

「そうね。私達が冒険者として活動していたからそういう意味で思い入れがある、というのもあるけれど」


 クラウディアの補足を受けてペトラが嬉しそうな表情を浮かべた。 


「境界公も冒険者として活動していらっしゃったのですか。では……私も案内役として責任重大ですね」


 そう言いながら頷き、何やら気合を入れ直しているペトラである。グレイスやクラウディアは、そんなペトラの様子が微笑ましく映るらしく、彼女を見てにこにことしていた。


 ふむ。念のためにここで土魔法を使って彫像の複製を作っておくか。後で色々参考にできるからな。アンゼルフ王の顔立ちとか、グリュークの傷の形や位置とか……。肖像画を参考にしているとなると、実物に近いものなのだろうしな。


 というわけで早速土塊から形成して彫像の縮小コピーを作り、石化させて固めれば完成だ。それを覗き込んで興味深そうに目を瞬かせているペトラである。


 それからみんなで馬車に乗り込んであちこち街中の施設を見て回る。学問や文化を奨励していたというだけあり、コンサートホールやら学舎やらと色々面白そうな施設もある。


「学舎に関してはタームウィルズのペレスフォード学舎に感銘を受けたアンゼルフ王が、即位した後に後進の育成こそが国の未来を支えると仰り、開校したという話が残っています」


 といった、ペトラの解説を交えてのものだったので、有意義な時間であった。

 異国の街並みや行き交う人々。そこから垣間見える文化の違いなど、情緒を満喫しつつガイドを受けながらの観光旅行というわけだ。


 そうして俺達は、冒険者ギルドのオフィスにも足を運ぶ。

 スタインベールのギルドは、冒険者達にとって若干特別な意味合いを持つ。元を辿れば冒険者ギルドも、アンゼルフ王が作り上げたものだからだ。


「ギルドの看板もグリフォン」


 シーラの言葉にマルレーンが楽しそうにこくこくと頷く。その反応にペトラが嬉しそうに笑みを浮かべて答えた。


「グリュークにちなんでのものですね」


 冒険者ギルドは……別に総本山のように自称しているわけではないが、ギルド発祥の地ということもあり、かなり大きな建物だった。歴史を感じさせる伝統的な建築様式が由緒正しさを感じさせる。


 戦乱で仕事を失っていた人達に仕事を斡旋。その中で頭角を現した人材をスカウトしたりといった、れっきとしたアンゼルフ王の政策の一環だったそうだ。冒険者ギルドの現在のシステムも、ほとんどこの時に完成されていると言って良い。


 やはり、冒険者達で賑わっているな。


「冒険者の数が多いけど……魔物が多いのでしょうか?」


 と、アシュレイが首を傾げる。


「そうですね。魔物はそこそこの頻度で出没します。ほとんどの場合はゴブリンで、時々オークなど……でしょうか。南西に大洞窟、北東に妖精の森、と呼ばれる場所があるのです」

「大洞窟……。タームウィルズの迷宮みたいな場所かしら?」


 イルムヒルトの質問にペトラは少し思案してから答える。


「地下大空洞と呼ばれています。構造が変わったりの不思議なことはありませんが……かつては地竜の住むねぐらだったと言われている場所です。複雑で広大なために奥までは管理の手が及ばず、ゴブリンやオークなどが地上に出てきて悪さをする者もいたりで……もっとも、我が国としてもそれらの魔物はグリフォンの食料にもなるので依存している部分もありますが」


 地竜の住処か。多分、奥底には魔力の流れる地脈があるんだろうな。

 魔物は体内の魔石成分に魔力を吸収することで活動できるから、魔物にとっては良い環境とも言える。竜の住処だったということは、かなり大きな地脈だろう。

 広大で探索し切れないというのは、赤転界石のような安全な帰還方法がないから、かも知れない。魔物が外に出てきたりというのもタームウィルズの迷宮とは大きく違う点だ。

 出てくるということは、危険になったら逃げ込むということもできるわけで。敵対的な魔物の根絶も難しいわけか。


「妖精の森、というのは?」


 と、ヘルヴォルテ。セラフィナも興味津々といった様子でペトラに視線を向けている。


「そっちは不用意に奥深くまで行かなければ危険な場所では無い、とされています。その名の通り妖精達も住んでいますが……薬草がたくさん生えていて、それを冒険者の方々が採取してきたり、といった具合ですね。それをポーションに加工して、魔物の討伐の際に活用する、という仕組みが出来上がっていたりします」

「……興味深いわね」


 薬草という言葉に反応しているローズマリーであるが……。

 ともかく、冒険者達の仕事は沢山あるというわけだ。

 妖精の森も地脈が通っている場所かも知れない。ペトラの言葉を裏返すなら、奥深くまで行くと危険がある、ということになる。人里離れた奥地の魔物というのは、地脈の魔力が噴出できるようなポイントを独占できるような、強力な魔物や種族であったりする可能性が高いからだ。経験則的に、奥地は危険、というわけである。




 そんな調子でペトラにスタインベールを案内してもらってから俺達は宿屋に到着したのであった。

 河口港から程近い大きな建物で……王家の紹介という事もあり、格式高い印象であった。

 最上階の部屋を用意してくれていたそうで、寝室、居間等、何部屋かの間取りで構成された客室は風呂、トイレも完備。

 内装も上品で落ち着いた印象である。バルコニーからの見晴らしも良く、かなり居心地の良さそうな部屋だ。


 さてさて。この分だと明日からのドラフデニア観光も色々充実したものになりそうだ。中々楽しみである。

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