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703 式に向けて

 領地絡みの事が一先ず落ち着いて、結婚式の準備もどんどんと進んでいく。

 今日は出来上がったウェディングドレスやアクセサリーの類の試着をするために、デイジーがタームウィルズの俺の家に訪れてきている。


 しかし残念ながら、俺がその出来上がりを見るのはもう少しお預けだ。花嫁衣裳については当日まで新郎が見るのは不吉と言われているからだ。晴れの日なのだから、そう言ったことにも気を遣っておくべきだろう。

 とは言え、デイジーやハーピーの職人達の腕は確かな物だ。使われている素材も一流品だったりするので、仕上がりについてはみんなの目で確かめてもらえばそれで大丈夫だろうと思う。服飾デザイン等については門外漢だし、本人達が納得してくれる形の方が良い。


 そんなわけでみんなが花嫁衣裳とアクセサリーを合わせている間、手違いで俺が見てしまうことがないようにと工房を訪れていたりする。カドケウスとバロールも一緒だ。家で何か問題が起これば、ラヴィーネやコルリス、エクレールが教えてくれる、という寸法である。

 ヴィンクルはと言えば、家の中庭でベリウスやマクスウェルと一緒に飛び回って遊んだりしていた。ベリウスも背中に乗せたりと案外面倒見がいいというか。


「いやあ、こうやって準備が進んでいくのが目に見えると、わくわくしてくるねえ」

「そうだなぁ……」


 工房で茶を飲みつつ、アルフレッドと魔道具作りを進める。のんびり作業をしながらその合間に駄弁ったりといったところだ。

 花嫁衣裳は当日まで見れないが、こうしてウェディングドレスも仕上がってきたとなると段々実感が湧いてくるというか。


 貴族として考えても割合結婚までの年齢が早いところはあるのだが……まあ、これにも理由がある。今後世界を救った、なんて冗談のような功績が話として広まれば広まる程、どうしても多数の相手から興味を引いてしまう。


 従って婚約者という立場で宙に浮いたままの期間を長くしていると……例えば獣王国のように横槍を入れてきたり、一枚噛もうとする者が増える可能性がある。

 婚約者の人数が多いのはそれだけで相手からの縁談を断る理由として使えるが、まだ境界公夫人としての身分が確定していない状態なら策謀によって破談に持っていける、なんて考える輩もいるかも知れない。


 だから境界公とその夫人としての身分を確定させてしまい、今後のみんなを守るための手とする。

 結婚式に立ち会い、祝福するのが各国の王だったり精霊王だったり国内の大貴族だったりするからな。式後にちょっかいを出してくるというのは、俺や立会人を敵に回す行為になる、というわけである。


 婚約者には年齢の幅があるから、結婚したからといって、すぐに全員との間に後継ぎをという性質のものでもない。今の状態から肩書きが少々変わるぐらいのもので――いや、年長組はその限りでもないが。


「ちなみにテオ君の新郎衣装の準備はどうなのかな?」

「そっちはまあ、大丈夫。デイジーの腕が良いから」


 ジェストコールにベスト、キュロットというスタイルだ。細かな刺繍が丁寧な仕事ぶりをうかがわせるもので、流石はデイジーといったところだ。


「なるほどね。家紋も決まったんだっけ」

「ああ。尻尾を咥える竜の紋章になった」


 家紋についての話が出たのは、先日領地をお披露目した後でのことだ。

 アルフレッドは一足先に工房の仕事があるからと帰っていったのでまだ見ていない。

 というわけで土魔法で実際の家紋の模型を作ってみせる。これについては幾つか候補を作ったのだが、俺がウロボロスを使っているからということもあり、象徴的で分かりやすいということで円環の竜を紋章風にアレンジしたものが、婚約者達からもメルヴィン王達からも好評だったのだ。


「このまま指輪に出来そうな感じだね」

「視認性を重視して輪っか状にしてるんだよ」

「紋章は勝手に複雑になってくからねぇ」


 ウロボロスは杖に対して螺旋状に巻きつくようなデザインだが、紋章ということで割合あちこちで出番が多い。だから尾を咥えた竜、というのを分かりやすい形にしたのだ。

 紋章に関しては妻の家の紋章が半分だけ組み合わさったりと、継承などに従って複雑化したりするので個々ではシンプルなほうが良いというのもある。

 紋章のデザインが決まったので、それをフォレスタニアの居城や外門に刻んだりといった作業もして領地の準備は万端だ。


「……っと。幻術回りに関してはこんなところで良いかな?」


 アルフレッドが手にしていた魔石を作業台の上に置く。結婚式の演出に用いる幻術を仕込んだ魔道具は仕上がったが、他にも色々やらなければならないことがあるのだ。

 アルフレッドとは幻術絡みの技術を用いて、フォレスタニアにタームウィルズとは違うタイプの劇場を作れないかと話をしている。


 構想の段階ではあるのだが、タームウィルズの境界劇場がコンサートホールなら、フォレスタニアの劇場は映画館だ。やってくる機会の多い冒険者をターゲットに、冒険者王アンゼルフ王の物語を幻影によって上映する、といった事を考えている。新婚旅行にドラフデニアに向かうのも、ディテールを細かくするのに一役買ってくれるし。


 ……ますます観光地化の方向に向かっているな。まあ、領地で収益を上げられる売りは欲しいし、競合相手がいないなら暫くは話題性で稼げるだろうが、それは追々といったところだ。


 工房では他にも現在、アルファの新しい器の製作や、マクスウェルの日常生活用ゴーレムを作ったりといった作業を行っている。アルファやマクスウェル達が自由に動けるようになる分、そちらの方が優先度が高い。

 ベリウスと同じ方式で、例えて言うなら魔石が本体。器が使い魔という関係性を結び、五感リンクを行うことで器を掌握して動かすことが可能となる。


 ……が、この技術、他にも応用方法があるような気がしてならない。


「この技術ってさ。上手くすれば義肢なんかにも使えるような気がするんだよな」

「ああ、それは――良い案だね」


 考えを口にすると、アルフレッドは少し思案を巡らせてから表情を明るくした。

 義手、義足や義眼。魔法生物に類する身体パーツを作り、同等の機能を持たせて五感リンクで繋いでやれば、起動と維持に魔力を消費するものの、意思通りに機能する義肢を作れるはずだ。いわば、魔法的な義肢装具技術というかなんというか。


 とはいえ、実用化には考えなければならないことも多い。

 身体に直接装着するものなので素材の選定もしなければならない。扱いやすいよう重量を削ったり頑丈にしたり、魔力の少ない者でも問題なく使えるように省エネ且つ高効率化するとか、或いは魔石に魔力を蓄えて動く、動力元を外付けにするという方式もあるか。

 それに、コストの問題もあるか。できるだけ低価格に抑え、恩恵を得られる者が増えるようにするのが望ましいだろう。


 ああでもないこうでもないとアルフレッドとあれこれ話し合っていると、女性陣も試着が終わったのか工房の中庭に姿を見せる。

 窓の外に見える彼女達は……中々上機嫌そうな様子で色々談笑して盛り上がっている様子だ。試着の結果が納得いくものだったのだろう。


「ああ、テオ。試着は無事終わりました」

「ん。お疲れ様。どうだった?」

「ふふ。当日お見せできるのが楽しみな仕上がりです」


 と、グレイスがにこにことしながら言うとマルレーンも嬉しそうにこくこくと頷く。

 うん……。そう言われると俺も楽しみだな。8人のウェディングドレス姿、というのは……相当破壊力が高そうに思うが。


「テオドール様も、アルフレッド様と何やら楽しそうにしておいででしたね」

「魔道具で何かいい案でも出たのかしら?」

「そうなんだよ。テオ君がまた面白そうな考えを出してね――」


 と、ローズマリーの言葉にアルフレッドが先程の話を説明する。俺もアルフレッドの話を補足するようにその内容に相槌を打つと、みんなも興味深そうにその話に耳を傾けるのであった。


 さてさて。結婚式までの準備も整ってきた。ヴェルドガル王国を挙げての式となるので無様なところは見せられないが、リハーサルを行いつつ本番を待つばかりといったところだろうか。

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