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689 迷宮貴族

 今回の話し合いについては他にも色々だ。魔力送信塔の建造地についても建造の候補地を決めなければならない。


「どこでも良い、というわけでもありませんので……候補地の見積もりが必要になります」


 エスティータ達は広げられた地図を見ながら真剣な表情で言う。

 その条件は地脈の流れに沿う場所や、俗に魔力溜まりと呼ばれる場所だ。

 幸い候補地として選定可能な場所はヴェルドガルに留まらず、北はシルヴァトリアから南はバハルザード、グランティオスの勢力にある海底、とかなり広大ではあるのだが。


「魔力溜まりは魔物の凶悪化を防げるので悪くはないのだがな。だが下手に魔力溜まりを潰すと、そこを食い扶持に活動している冒険者や、その懐を当てにしている周辺住民の暮らしに影響が出る可能性はあるな」


 メルヴィン王が言うとファリード王も頷く。


「ベリオンドーラがあった場所も、今となっては人里から遠く、管理を行き届かせるには中々難しいところがあろうな」


 ああ。利便性も考えなければいけないのか。


「タームウィルズに建造して迷宮から魔力を送る、という形でも良いけれど。迷宮への多少の影響を考えないといけないわね」


 と、クラウディアが目を閉じる。迷宮への影響か。これから改造することを考えると、そのあたりも考慮に入れたいところではあるな。


「地脈の流れを調べて……最も良さそうな場所を見繕うところから始めなければいけないかも知れませんな」


 ハンネスが言うと、それに反応したのはティエーラだった。


「地脈の流れなら分かりますよ」


 そんなふうに事も無げに言うと、ティエーラの手から淡い光が舞い――それが、川の流れを表示でもするかのように地脈の流れを、地図上に描き出していく。


「おお……。これは。普通なら調査するだけでも相当な時間を要するものを……」


 ハンネスが目を丸くする。ティエーラにとっては、自分の身体のことのようなものだからな……。

 そんなわけで、地脈の流れを把握したところでどこが良いかの候補地を見繕っていく。その候補地の1つが――。


「――シルン男爵領の近く、か」

 地図上での有力な候補地の1つがそこだ。


「正確には、シルン男爵領の近隣の森ということになりますか」


 アシュレイは自分の領地に関わってくるかも知れないことだけに真剣な表情だ。んー。蟻やらがやってきた場所だな。敵対的な魔物が現れることが多く、街道沿いの難所とされる場所。

 ヴェルドガルの国内には分類されるが、開発の手は入っていない。森の奥地はシルン男爵領の領内からは外れ、名目上は王家の所有する土地、ということになるだろうか。


 ティエーラの助力で判明したのだが、森の奥地には迷宮に引き寄せられている大きな地脈の支流の1つがあるようだ。しかし支流は迷宮まで到達せず、魔力溜まりとしてあちらこちらから小さなものが噴出している、という形になるらしい。


 迷宮に影響が出ないのに魔力資源が豊富。タームウィルズからも近いので将来的に魔物が出なくなったり大人しくなったりしたとしても、その場合は迷宮に行けば冒険者が困ることは無い。

 男爵領は元々農業を中心に堅実にやっていたし、冒険者に依存している体質でもない。王都からも近く、一度完成してしまえば管理の手も届きやすくなる……と、メリットは多い。


「送信塔の建造を手伝うのは元々約束していることですから、この場所が最良であるというのなら、助力は惜しみません」

「ふうむ」


 俺が言うと、メルヴィン王とハンネス達が揃って思案するような様子を見せた。

 送信塔を建造するにあたって、魔物との戦闘も予想されるしな。

 しかし、建造するだけならそこまで奥に行かなくても魔力の流れを引っ張って来れる。資材を月の船に乗せ、空から乗りつければいいだけだからそこまで大変でもない。


「うむ。あい分かった。ハンネスらに異存が無ければ、この案を採用しよう。東の街道における難所がなくなるのは、ヴェルドガルとしても得るところの大きい話。王家としても助力は惜しまぬぞ」

「では、よろしくお願い致します。メルヴィン陛下。テオドール卿」

「こちらこそ」

「では、資材の準備はこちらで進めておこう。それと……もう一点。テオドールとしては、やはり爵位を受けて、領地を経営するよりも、今のように迷宮に関わるほうが性に合っておるのかな? そちの将来にも関わる事ゆえ、忌憚のない返答を聞きたい」


 メルヴィン王に問われて考える。


「魔人絡みや迷宮の問題が解決すれば、状況も変わるかなと思っていましたが……。そうですね。迷宮に関わる仕事は好きですよ」

「では……それを加味した上で爵位を与えるとしよう。テオドールの領地を迷宮の奥にすれば良いのだ」


 それはまた……大胆な発想だ。目を丸くする俺にメルヴィン王はにやりと笑う。

 一応迷宮は、名目上ヴェルドガル王家の管理下であり、王家の保有する土地とも言える。その一部を家臣に領地として与えるというのは……まあ、筋が通っているとは言える。

 迷宮の奥は俺の家が管理している場所だから、勝手に侵入禁止とも言えるようになるわけだしな。ティエーラとコルティエーラを守る手段としても機能する。


「とは言え、実際のところはクラウディア様の管理する場所。余の立場としてはそのように言うこともできる、というだけの話でな」

「だったら、問題ないわ。管理者が伴侶に迷宮の一部を預けて、何の不都合があるというのかしら。どちらにせよ迷宮の制御術式の改変をテオドールに任せる以上、テオドールの影響を受けた新たな区画が作られてしまうのも予想されるし」


 どうやらクラウディアもメルヴィン王の話に乗るつもりらしい。目を閉じ、楽しそうに笑ってそう答えたのであった。


「領地経営という意味で言うなら、迷宮から得られる資源でテオドールは既に様々な物を作っておるしな」


 エルドレーネ女王が愉快そうに笑う。あー。まあそうかも知れないが。

 今後も飛行船を建造したりとか、迷宮絡みでは色々仕事もあるし。

 魔石を集めて色々作るのが領地経営により出た利益、と当てはめてしまうこともできるわけで……。なるほどな。メルヴィン王も上手いこと考えるものだ。


 まあ、通常の領地経営はシルン男爵家側でもあるので、そういう方向での負担は増えない、ということになるかな。


「今の生活に近い形を維持したままにできればよかろうと話し合っておったのだ。爵位も少し特異なものを考えんといかんな。迷宮公……境界公……ふうむ。まあ、それは追々考え、正式な場にて通達するとしよう」





 ――とまあ、そういった具合に。俺の爵位と領地も決まり、アシュレイやエリオット、ステファニア姫にも今後の話が伝えられ、王城での話し合いは終わりとなった。

 細部を微妙に変えて魔人や迷宮の問題解決後も、現状維持をできるように道筋を整えた、という印象だな。


「まあ、実績と功績のある人材を他の分野に回すよりも、適材適所で継続して活躍してもらう方が正しいわよね」


 とは帰りの馬車の中での、ローズマリーの感想である。


「あー。まあそうかも知れない」

「このまま王都に留まっていられそうなのは、コルリスの事を考えても嬉しいわ」

「ん。食べ物に困らないし」


 帰りの馬車ではステファニア姫も一緒だ。ステファニア姫の言葉にシーラと一緒にうんうんと頷き、イルムヒルトがくすくすと笑う。

 食べ物……つまりコルリスの鉱石についての心配がいらなくなるわけだな。当人は馬車の後ろから、飛行してついてきている。

 王城から俺の家へ。生活の場を移すわけだが。んー。中庭のどこかに巣穴を掘ってもらうか……。俺が巣穴を作るよりも本人が納得するような形の方が良いだろうし。


「色んな話が進んでるけど……準備が整うまでの間に迷宮中枢に行って、制御術式の解析と修正をしてこないといけないかな。クラウディアとヘルヴォルテは、早めに迷宮から解放してあげたいし」


 そう言うと、マルレーンがこくこくと頷いた。

 ヘルヴォルテはガーディアンというよりも、当人的な感覚ではクラウディアに仕えている。だから、一緒に迷宮から解放する予定だったりする。


「そうなった場合、クラウディア様の迷宮での自由な転移は、今までのようには使えなくなるのですか?」


 グレイスが尋ねると、クラウディアは首を横に振った。


「ティエーラ様と契約すれば転移については大丈夫だと思うわ。迷宮からの魔力供給ではなく、私自身の魔力を消費することになるから……寧ろ今までより融通が利く部分も出るかしらね。魔力を消耗して眠りに落ちるなんてこともなくなるし……月女神としての性質に変わりはないから、神殿間の移動に関しても問題ないわ」


 なるほど。クラウディアの立場が変わることで、色々変わるところもあるが……そのあたりは事前に予測がつく部分は対策し、後は状況を見ながら対応していけばいいだろう。

 いずれにせよ明日は迷宮中枢へ向かい、まずは齟齬を起こしている部分の修正から始めるとしよう。

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