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688 絆

 当人同士で話し合いをということで、迎賓館の一室に場所を移して話し合いをすることになった。

 俺の領地に関する話等、他にも議題はあったが、まずはその話の結論が出るにせよ出ないにせよ、触れておかないと集中できないだろうということで。


 俺達が話し合っている間に、メルヴィン王達はメルヴィン王達で相談し、他の事に対する色々な案を考えておく、とのことである。


 婚約者が増えるかどうか。

 一先ず王女という立場等は一時忘れ、互いに忌憚のない意見を出し合えればそれ以上はあるまい、というメルヴィン王の言葉。その前提の上での話し合いになった。


「これまでの事を考えるなら……大事なのは当人の意思と、私達の意思の確認かしら。当人が望まない婚約でないのなら、私はあれこれとは言わないわ。私だって、みんなに受け入れて貰えたことが嬉しかったのだから」


 と、クラウディアが言う。その言葉を受けてローズマリーは自分にも思い当たることがあるのか目を閉じた。だが、すぐに目を開いてステファニア姫を見て尋ねる。


「はっきり言えば……好き放題してきたわたくしよりも、姉上の方が幸福であるべきとは思うけれど、何を以って幸福や満足と思うかは人それぞれよね。そのあたり、どうなのかしらね、姉上は」


 ローズマリーに問われ、ステファニア姫は真剣な表情で頷いて答える。


「いきなりな話で少し驚いているし、申し訳なくも思っているわ。テオドールだって婚約者が多ければ苦労も多いでしょうし。でも……本音で話をするのなら、ね……」


 ステファニア姫は一旦言葉を区切り、遠いところを見るような目をする。


「月から帰って来た時、これで終わりなんだって寂しく感じたわ……。第1王女として、ヴェルドガル王国とシルヴァトリア王国の友好のために役立てることを、不満になんて思わない。だけれど……今回のお話でまたテオドールやみんなと一緒に旅や冒険ができるかも知れない、なんて思ったら……それがとても嬉しく思えてしまって……。私が……根本の部分で不真面目、だからなのかしらね」

「そんなことは――ないと思います」


 自嘲するステファニア姫に、グレイスは首を横に振った。


「私は……こういうお話の時は、テオの横にいることに対して信頼できる人かどうかで考えています。そういう意味で言うのでしたら、今回のお話に不満はありません。今まで一緒に戦って、近くで見ていたのですから。それは不真面目なのではなく、ステファニア殿下の公私共に目的が一致してしまって、いきなりだから戸惑ってしまっているだけなのではないでしょうか?」

「信頼や誠実さという意味では……そうですね。私は一緒に旅ができて良かったと思っています」


 アシュレイが言うと、マルレーンもこくこくと首を縦に振り、そして言った。


「私も、姉さま達といっしょなのは、嬉しい」

「みんな……ありがとう」


 ステファニア姫はマルレーンの言葉に驚いたような表情を浮かべて、それから静かに目を閉じる。

 マルレーンは、大事な言葉はちゃんと伝えるからな。


 ステファニア姫は……そうだな。好奇心旺盛だったりもするが、公私の線引きをしっかりしている。不真面目どころか……根が真面目だからこそ公私の目的が一致して、喜んでしまうことを不謹慎だと思ってしまう、という印象があるが。


「シーラは?」

「私は……嫌いな相手と一緒に何かしたいと思わない。イルムヒルトのことを助けてもらってからずっと一緒にいたのは、恩がある以上にテオドールやみんなと一緒にいるのが好きだったから」

「……そっか」

「ん。だから、テオドールの力になれるなら、なりたい」


 シーラの言葉はストレートだ。迷いなくそう言い切って見せた。ここでそう答えることの意味は、分かった上でのことだろう。

 対照的にイルムヒルトは少し戸惑っているような、不安げな印象である。


「私は半分蛇だし、血を吸わないと体調も悪くなっちゃう。テオドール君は、そういうのは、嫌……じゃない?」

「いいや」


 その言葉には迷いなく首を横に振る。俺がそう答えるということは分かっていた、というようにグレイスが微笑む。

 グレイスは昔、ダンピーラである自分に小さい頃の俺が微笑んで……それが嬉しかったと言っていた。ラミアであるとか、血を吸うとか。そう言われても特に悪い感情は覚えない。それこそ、ずっと一緒に戦ってきて気心も知れているし。


「嫌だなんて思ったことなんて無いよ。だとすれば、後は考え方とか性格になるんだろうけど、俺もシーラと同じでさ。嫌いな相手と一緒に行動しようとはあまり思わないんだ」


 そう言うと、イルムヒルトは嬉しそうに微笑み、シーラの耳がぴくぴく反応する。あまり表情に出さないシーラだが、今は小さく穏やかに笑みを浮かべていた。


「うん。私も……シーラやクラウディア様や……みんなと一緒なのは嬉しい」


 そんな、イルムヒルトの言葉。頷き、少し間を置いてから、俺も俺の考えを述べる。


「立場とか、種族とか、状況とか。色々あるから好き勝手言えるわけじゃない。……それでも一緒にいたいと思える人と一緒に暮らせるのなら。それは良いこと、なんだと思う」


 みんなの顔触れを見れば……種族であるとか社会的立場であるとか。色々自由にならないことの多い面々ではある。特に婚約は繊細な問題であるし。

 俺も……周囲を見渡せば、世界を救ったなんて言われて大事になっていて。

 みんなは……俺には勿体ないぐらいの人達だけれど、それでも俺が良いと言ってくれるのなら……それに応える。できる限りの力で。


「俺がみんなに相応しいのかって言われたら分からないけれど。でも、結婚するって決めたのなら、みんなと一緒に暮らしていくって決めたのなら、みんなで幸せになれるよう、後悔させないように努力する。それを……信じてくれるなら、一緒に行こう」


 そう言うと……みんなは頷いた。


「テオドールが、有言実行なのはみんな知ってることだものね」

「婚約者が一気に増えて色々大変とは思うけれど……まあ、何とかなるでしょう」

「そうなると、取り決めも色々話し合わないといけませんね」


 と、そんなふうにクラウディアとローズマリー、グレイスが言葉を交わす。

 取り決めは後程。婚約者の面々の間で話し合って決める、ということで、一先ずは王の塔のサロンに戻る。


 因みにセラフィナは……家妖精だから婚約云々は考えていないそうだが、取り付いている家が栄えて賑やかになることが何よりの喜びだそうで。婚約者が増えたからか、かなり上機嫌な様子であった。


 そうしてサロンに戻り、メルヴィン王達に話し合って決まった内容を伝えると安心したように笑みを見せた。


「そうか。うむ。そうなると、心配の種も1つ消えたな」


 と、メルヴィン王。


「余達も話し合っていてな。盟主ベリスティオの件で少しそなたに意見を聞きたい」


 エベルバート王の言葉に少し目を丸くする。


「ベリスティオ、ですか」

「うむ。その散り際の事を考えると、種族を越えて地上に住まう民は彼の者に恩があろう。シルヴァトリア王の責務である儀式は……彼の者の静かな眠りを願い、祈るもの。であれば、継続したほうがよいのかと考えてな」

「……そういうことでしたか。僕も、どこかに神殿や祠を作って祀ったりはできないかと考えていました。ベリスティオだけではなく、ヴァルロスの助力もありましたし、遺言があったからこそ開けた道もあります」


 ベリスティオや、ヴァルロスとの約束。ラストガーディアンの器を手に入れたら、約束が守られていないと感じられたときに災いをなす、というようなことをベリスティオが言っていたけれど。それを……後世にも伝え、忘れないようにしたい。

 そういった考えを説明するとメルヴィン王が目を閉じる。


「余も……それには否やはないな。後世に伝え、彼の者らの思いが踏みにじられることのないよう戒めとすべきであろう。地上の未来を託されたのだと思わなければ……戦いは不毛よな」


 そうだな。何を願って、何を託したのか。伝える意味はある。

 シルヴァトリア王の儀式で瘴気侵食などはもう起こらないだろうけれど。静かな眠りを願う気持ちを伝えるというのは……意味があると思う。


「それに関連した話で、盟主ベリスティオはいなくなってしまったが……封印の巫女には引き続き、原初の精霊の封印を守るための任についてもらいたい、と考えていての。シャルロッテもその話には頷いておる」


 ジークムント老が言った。ああ。原初の精霊への感謝についてもそうだな。後世に伝えるには、精霊に仕える巫女が必要だ。


「となると、シルヴァトリアに戻るのではなく、タームウィルズに留まって、そのまま神殿で仕事をするということに?」

「そうなるじゃろうな」

「巫女……とは。少し、楽しみかも知れません」


 椅子に静かに座ったままで。原初の精霊は微笑みを浮かべる。


「ふむ。それにしても、原初の精霊殿、と呼び続けるのも些か味気が無いように思う。名は――ないのでしょうか?」


 ファリード王が尋ねると、原初の精霊が答える。


「私に決まった名はありません。人がこの地上をルーンガルドと呼ぶのなら、そうかも知れませんが」

「うーん。名前を名付けると、それはそれで性質を縛ることに繋がってしまったりしますからね」

「ふむ。確かに、そういった話は聞いたことがあるが」


 エルドレーネ女王が少し思案するような様子を見せる。

 だが、原初の精霊の反応はあっさりしたものだった。


「構いませんよ。名前を決めてくれるのが、テオドールであるなら」

「……良いのですか?」

「あなたは私の性質や今までのことを理解してくれていますから。名が、あなた達との絆となるのであれば」


 絆か……。

 原初の精霊からそう言われて、少し考える。


「ティエーラとコルティエーラというのは……どうでしょうか?」

「……良い名前、ですね。あの子の名も一緒に考えてあげたのですね」

「はい。同じ名前が良いなら統一しますが」

「いいえ。これで良いです。これからは同じ道を歩いていきますが、あの子と私は違う道を歩いた時間が確かにあったのですから」


 原初の精霊改め、ティエーラは胸の辺りに手をやって自身の名を噛み締めるように呟く。そうして――暫くの間、嬉しそうに微笑んでいた。

 テラは大地を意味する言葉で……ティエーラはそのもじりである。コルは心。大地とその心、といった意味合いの名になるだろうか。

 彼女達の性質を縛ったり歪めたりすることなく、絆になってくれれば嬉しく思う。

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