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663 新たな道の先へ

 さて。メルヴィン王と精霊王達の再封印の儀式が完了したということで……日を改めて王城へと向かい、今後のことを相談しようと思っていたのだが――。

 何やら俺が王城に出向くのではなく、メルヴィン王達が家に来る、ということになってしまった。

 どうやら戦闘直後の俺の怪我の度合いについて色々報告がいったらしく、俺に足を運ばせるよりもメルヴィン王達から見舞いに行く、という流れになったらしい。


 そんなわけで馬車に乗ってやってきたメルヴィン王とジョサイア王子、アルバート王子、それから精霊王達を玄関ホールで迎える。

 挨拶をすると、メルヴィン王が目を丸くした。


「む、テオドール。凄まじい激戦をくぐり抜けたと聞いていたが……もう動いても大丈夫なのか? 此度は見舞いに来たのだから、横になっていてくれて構わなかったのだが」

「怪我したって聞いたから、心配してたんだよ」


 ルスキニアが言って、マール達も頷いて心配そうに俺を見てくる。


「戦いの直後は、傷だらけだったと聞いているからね。脇腹の傷も相当な深手だったようだし」


 と、ジョサイア王子が言う。うーん。みんな心配そうな表情だ。

 まだ腕は固定して三角巾で吊るして治療中だから、痛々しく見えてしまうところがあるかも知れない。

 ふむ。現状についてはもう少し詳しく説明しておくか。


「腕の治療に関してはもう少し、と言うところですね。脇腹の傷は塞がっていますし、戦闘直後から比べれば、大分復調していますよ」


 魔力循環の反動や身体への負荷関係での鈍い痛みも、かなり薄れて来ている。問題ない、というように小さく笑うと、メルヴィン王は静かに頷いた。


「そう、か。うむ。まず言わせて欲しい。そなたが……そなた達が無事に戦いより帰って来てくれて良かった」


 そう言って、メルヴィン王に肩を抱かれるようにしてそっと抱擁された。背中に何度か軽くぽんぽんと触れて、静かに離れる。

 実はメルヴィン王だけでなく、七家の長老達にも戦いの後にこうやって抱擁されてしまっていたりする。確かに怪我はしたが、あまり気を遣われるのも、こそばゆいものがあるというか……。


「ありがとうございます」

「うむ。そなた達の功績に関しては最早どのような言葉を尽くし、どのような褒賞であろうと釣り合わぬな」

「勿体ないお言葉です。しかし問題はまだ解決しておりません。イシュトルムは何と言いますか、一切合財の破滅を望んでいるように見えましたから」

「うむ……。その報告も聞いておる」


 イシュトルムの名前が出ると、メルヴィン王は真剣な面持ちになって静かに頷いた。




 遊戯室に場所を移し、そこで腰を落ち着け、ティーカップを傾けながら話を進めていく。



「想定していた脅威に対する戦果としてはこれ以上ない程だ。余としても祝勝の宴と行きたいところではあったのだが……。イシュトルムのことを考えると可能な限り早い対処を、ということになってしまうのか」


 想定していた脅威。つまりヴァルロス一派との決戦についてだな。

 タームウィルズの防衛。高位魔人達の撃退と、月光神殿の再封印。これらの目的は確かに達成された。

 しかしまだ問題解決には至っていない。イシュトルムが世界の終焉とやらのために何をするつもりなのか、何時その行動を起こすつもりなのかと考えると、気を緩めるというわけにもいかず、このまま迅速に対応策を進めていく必要がある。


「月に向かったイシュトルムを追うためのシリウス号の改修については、既に着手しております」


 と、アルバート王子が言う。


「うむ。苦労をかけるな」

「いいえ」


 アルバート王子は笑みを浮かべて首を横に振った。


「イシュトルムはラストガーディアンを連れ、月へ。単なる時間稼ぎであればいいのですが、月にあるものが未知数ですし、いずれにしてもベリオンドーラを保有していることを考えると、時間を与えるわけにはいきません。対策としては……まず、原初の精霊について話を聞いておきたいのですが……」

「私達の感覚的な話で良ければ……」


 視線を向けると、精霊王達が頷く。


「イシュトルムが口にしたものと同じ存在かは解りませんが……大きな存在と共にある、というのは、私達精霊なら感じたことがあると思います」


 マールが言うと、ルスキニアも頷いた。


「人で言うところの……おかあさん、みたいな感じかなあ。優しくて、私は好きだよ」

「確かに、あの存在には穏やかで静かな印象があるな」

「普段は眠っているというか、ただ見守っているというか……存在の大きさは感じるが、活動はあまりしていないように思えるのう」


 と、プロフィオンとラケルド。


「何と言うか。精霊というよりは神様のように思えるわね。私のように、後からそう言われたような存在ではなくて、もっと……本当の意味で」


 クラウディアが目を閉じて言った。

 ふむ。景久の知識からの話になるが……地球の生物達全体が作り上げる環境を一個の巨大な生命体に見立てる、というのがガイア理論、だったか。


 そのガイアというのも元を辿れば大地の女神の名前だ。

 星そのものを司る精霊。他の精霊を生み出した祖のような物がいるとしたら、それを指して女神や地母神などと呼ぶのは分かる気がする。


「……ラストガーディアンに怒れる精霊が宿っていると考えれば、納得できるところはありますね」


 と、ヘルヴォルテが静かに言う。クラウディアと共に、ラストガーディアンと対峙した経験があるわけだしな。


「そうね。ただ純粋な怒りや殺意みたいな……ラストガーディアンの意識めいたものは感じたことがあるわ。私達はそれを、ラストガーディアンという特殊性故に、高い自我があるのかぐらいに思っていたけれど……精霊の一部の側面が宿っていると考えれば、頷けるわね」


 純粋、というのは、非常に攻撃的ではあるが、それは悪意故のものではない、ということらしい。

 ふむ。一見すると殺人を目的とした機械のような動き。意識も侵入者の排除に特化した方向性で、成り立ちから考えれば制御された存在故の挙動にも見える。

 だが、イシュトルムの言葉を前提にした上で背景を知ると、原初の精霊の破壊衝動が切り離されて宿っていることで、そういう性質に固定されてしまったから、ということなのかも知れない。


「原初の精霊が、穏やかというのも……一部の側面が切り離されているからと考えれば理解できるわね」

「そうですね。テフラ様だって、自身の怒りが火山を噴火させないようにって気を付けていましたし」


 ローズマリーの言葉にアシュレイが頷く。

 テフラの怒りがテフラ山の噴火なら……原初の精霊の怒りは魔力嵐。全世界規模の災害を引き起こす、か。


「聞くだにとんでもない存在だね」


 ジョサイア王子が眉をしかめてかぶりを振る。


「器はあくまでラストガーディアンの物なので、能力もそこに由来するものに限定されてくるとは思います。ですが……こういった荒ぶる御霊は、真っ当に対峙するよりも鎮魂して奉ることで、静かに眠っていてもらう、という対応の方が良いのかも知れませんね」

「エベルバートが、盟主の魂を鎮めていたようにというわけか?」


 メルヴィン王が尋ねてくる。


「そうです。儀式を以って原初の精霊の怒りを鎮める、と。ラストガーディアンの器から切り離すにしても、原初の精霊と再び統合してしまうと、自然災害が起こりやすくなりそうな気がしますし」

「思ったのですが……原初の精霊そのものとの対話を試みて力になってもらう、というのは無理なのでしょうか?」


 グレイスが首を傾げると、マルレーンもこくこくと頷く。


「んー。本来の原初の精霊は……誰にとっても敵でも味方でもない、と思う。でも、怒りが切り離されている今なら話も通じる、かもね」


 多分、本来の原初の精霊自体は自然の化身であるために、人間にとっては敵でも味方でもないだろう。いや、人間どころか、魔人も魔物も精霊もか。

 星にある全ての祖であり母。分け隔てなく慈しみを与えるが、時に荒ぶりもする。そういう存在だ。


 だから、ラストガーディアンに宿る精霊に関しては、慰霊であるとか片割れを通しての説得、という対処法を取るのは確かに有りだ。これは精霊に関することだけに、アウリアにも相談したいところだな。


「それを操るイシュトルムに関しては……議論を待つまでもないな」

「そう、ですね。イシュトルムに関しては、対応は1つしかありません。死睡の王であるというのなら、尚更でしょう」


 奴は俺やグレイス、それにアシュレイにとっても仇だ。

 イシュトルムの話になると個人的な事情から暗い感情が湧き上がって来てしまうのだが……それを差し引いても、他の全てに対して破滅を願い、実際に行動している奴に交渉の余地などない。今度こそきっちりと引導を渡す。それだけだ。


「ふむ。イシュトルムへの対応で思い出したが、例の捕虜となった魔人2人についての話もしておこうか」

「はい」

「まず、イシュトルムと共謀しての偽装降伏という線はないようだ。そなたに語った言葉も、全て本気のようだな。魔人との共存については今までの経緯から考えても慎重に話を進めざるを得ぬが、あの2人に関しては、一先ず信用し、余の責任で受け入れることとした。隷属や誓約魔法に関してすら同意しておるからな」

「なるほど……」


 故事通りの苦肉の策、というのも有り得ない話ではなかったが、嘘は吐いていないらしい。

 そうなると……種族全体との関係や、魔人化を解く術の研究に関してはともかくとして、あの2人への対応は落ち着いたものとなるだろう。


「魔法により行動を抑制するという前提があれば、将兵達も安心できるであろうし、イシュトルム討伐への参加を認めることもできよう。行動を以って自らの信用を積むという名分も立つであろうしな」

「そうですね。それは……彼らの望みでもありますし」


 将兵達の感情もある。納得してもらうためには笑って放免とは言えないが、海王ウォルドムからの降将であるエッケルス達のことを考えれば、拒絶すれば良いというものでもあるまい。

 エッケルスが魔人達との決戦に志願したのと同様に、イシュトルム討伐に彼らを加える理由にも繋げられる、というわけだ。


 ヴァルロスの遺志を引き継ぎつつも、ヴァルロスとは違う方法で人間達との共存の道を模索する魔人達、か。

 その意味するところは……小さくはあるまい。

 エッケルスに思ったことと同様だ。感情的な蟠りが無いわけではない。しかしそれと同時に、テスディロス達の進む道の先を、見届けたいと思っている。

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