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636 王城の昼食会

 エルドレーネ女王とヴェラの話は一先ず纏まったと言えるだろう。そうなるとこちらからも提案しておくべきことがある。


「他の集落のハーピーの皆さんに連絡するのでしたら、シリウス号を出しましょう」

「いえ、それには及びません。我等は人の耳では聞こえない音で他の集落から集落へと連絡を取ることが可能なのです」


 俺が提案するとラモーナがそんなふうに答えた。

 なるほど。超音波による交信か。山彦が届かない距離でも狼煙のように集落から集落へと伝言ゲームをしていけば幅広い領域をカバーできる。


「峰々に秘密の言葉と歌を響かせ……最も遠い集落からでも2日もあれば私達の集落に皆を集めることができましょう」

「流石に、空を飛べるとなると違うものよな」


 と、メルヴィン王が頷く。

 2日でヴェラの集落へ。そこから石碑でタームウィルズへ。確かに迅速だ。

 そうなると、俺も下手にシリウス号であちこち回るより、ヴェラ達と話し合ってハーピー達の装備を考えたりといった、準備を進めておくなどした方が良いのかも知れない。


「分かりました。では、僕もタームウィルズから動かず、ハーピーの皆さんの戦力を底上げできるような、魔道具の装備品等について打ち合わせる時間を頂きたく思います」

「おお。そのようなものが?」

「突撃と防御を兼ねた円錐型のマジックシールドを展開する魔道具や、風の抵抗を無くすためのフィールドを作り出す魔道具がまず思い浮かびますね。機動力や防御力の向上になるかと。後は――脚部から氷の矢などを射出する魔道具、といった類の品も手軽に扱えるのではないかと思います」


 後は空中戦の基本装備として、エアブラストによる加速、シールドによる反射、レビテーションによる負荷の緩和などもハーピー達にとって有用だろう。

 一度に色々と持っても使いこなせないという面もあるが、そこは元々飛行能力を持つハーピー達である。個々人の好みと能力に合わせたものをいくつか所持してもらう、というのが良さそうだ。


「では後程、拝見させて頂きたく思います」

「はい。用意を進めておきます」


 実際の使用感を試してもらうということで。


「後は……セイレーン達との連係よな。混成部隊を作るという案は妾も良いと思う」


 と、エルドレーネ女王が言う。


「臨機応変に呪歌呪曲による補助をできるようにしていきたいですね」

「となると、互いの手札を教え合って練習をする時間が必要かも知れませんね。対応できる幅が増えることでしょう」


 マリオンの言葉にラモーナが答える。

 流石に呪歌の性質を熟知している者同士という感じがするな。何をどうするのが自分達の術の効果の増強に繋がるか、しっかり理解しているようだ。となれば、こちらとしては思う存分練習できるような環境を用意してやればいいだろう。


「練習する場所が必要なら、やはり造船所を使っていただければと思います。外に影響が出ないよう結界を張りましょう」

「おお……。そんなことも可能なのですか」

「あの場所なら、港の側なので便利そうですし、練習もしやすそうですね。よろしくお願いします」


 ラモーナとマリオンに頷く。さて。他に何か……できることはあるだろうか。


「もし良ければ……呪歌呪曲の練習を少し見せて頂きたく思うのですが」

「何かお考えが?」


 俺の言葉に、マリオンが首を傾げる。


「現時点ではまだ何とも。案はあるのですが上手くいくかは不透明ですから、何かしらの底上げに繋がれば御の字、というところでしょうか。こちらで用意するので手間はかけさせませんし、危険なこともない内容になると思います」


 例えばマイクのような魔道具を作って遠隔で呪歌を流したりできないかとか、魔力楽器の類で呪曲を底上げできないかとか……幾つか考えはあるが、現時点での効果の程は何とも言えないな。




 そうして話し合いが終わった後で、メルヴィン王達やエルドレーネ女王、ヴェラ達に味噌と醤油をお披露目する、ということになった。

 劇場と温泉、植物園関係に関しては、ハーピー達が集まったら歓迎の意味合いを込めて、改めて案内する、というのが良いだろう。特にヴェラ達とはこの前隠れ里まで行って、歌や踊りの返礼として出張公演を行ったわけだし。


「いやはや、試食会の時から気になってはおったのだ」


 話も上手く纏まったからか、メルヴィン王は上機嫌そうな様子だ。んー。味噌と醤油の感想はステファニア姫から話を聞いたのだろうか。


 食材は王城で色々と用意してもらっているので、それを王城の料理人――ボーマン料理長達にも手伝ってもらう形で、迎賓館の厨房で料理をし、バルコニー席でのんびり昼食にしようということになった。

 厨房に移動し、早速準備を進めていく。


「姫様から聞いておりましたが……これが豆を発酵させて作ったものとは。興味深いですな」

「発酵の過程、原材料や合いそうな食材や調理法は、お渡しした覚書の通りです」


 ボーマンは家から持ってきた味噌と醤油、それから俺の書いたメモを見て、真剣な表情で頷いている。


「少し味見をさせて頂いても?」

「勿論です」


 と、味噌と醤油を小皿に取り、ボーマンは嗅覚や味覚でそれらを確かめていく。

 目を閉じてしっかりと吟味した後でボーマンは頷いた。


「これは……深い味わいと風味ですな。この、醤油の方は色々なものに少し加えて味付けや風味付けをしても面白そうですが」

「かも知れませんね。塩分が含まれているので、毎日多量に摂取しているとあまり身体に良くないですが、適量であれば問題ないかと思います」


 米も用意している。今日作るのはカツ丼に豚汁、貝の網焼き、キノコのソテー。魚の照り焼き、それにサラダといったところだ。

 みりんが無いので酒と砂糖などで味付けを代用する形になってしまうが……まあ何とかなるというのは家で色々料理してみて実証済みである。


「それでは、豚汁はお任せください」

「私もグレイスと一緒に豚汁を作るわ」

「それでは、私はキノコを」

「ならわたくしは、照り焼きを作らせてもらうわ。マルレーンも手伝ってくれるかしら?」


 ローズマリーの言葉に、マルレーンがにこにこしながらこくんと頷く。


「ん。こっちはイルムヒルトと網焼きの塩梅を見ておく」

「うん。みんなよろしく」


 みんなに頷く。豚汁担当がグレイスとクラウディアだ。アシュレイがキノコのソテーを受け持つ。照り焼きがローズマリーとマルレーン。網焼きがシーラとイルムヒルトといった具合だ。和食も何度か作ったので、みんなも手慣れたものである。


 最初にカツを作り、醤油や酒、砂糖などを混ぜた調味料で玉ねぎを煮込み、出来上がったカツと溶いた卵を加え――後は米の器に乗せれば完成である。

 

 豚汁のほうはボーマン達の手も借りて、寸胴鍋で炊き出しができるぐらい大量に作る。お城のみんなにも振る舞えるようにというわけだ。

 出汁は少し工夫して、小魚を水魔法と風魔法で乾燥させ、細かく砕いたものを使用させて貰っている。


 そうしてタイミングを合わせて料理を完成させ、ワゴンに乗せて迎賓館のバルコニー席へと運ぶ。


「いやあ、良い匂いだね。あんまり良い匂いが漂ってくるものだから、すっかりお腹が空いてしまったよ」

「新しい料理のお披露目だと言うから、朝食を少なめにしたんだ」


 と、おどけたように笑うのはジョサイア王子。ジョサイア王子よりも真剣な表情で己の腹に手を当てているのはヘルフリート王子である。


「お待たせしました」


 と、笑みを返して料理を机に並べていく。グランティオスの面々やハーピー達も揃い踏みである。そうして各々に料理が行き渡ったところで食事となった。

 カツ丼は……良い味だ。カツの食感と肉汁、卵の味と玉ねぎの甘味、調味料の味わいが混然一体となって、口の中で米に染み込んでばらけていく。


「おお……。これはまた……白米に誂えたような味ではないか」


 カツ丼を口に運んだメルヴィン王が表情を綻ばせる。米に合うようにと確立された料理なので、メルヴィン王の感想は的を射ていると言えよう。


「これも美味いな……。タレが香ばしくて貝の味が引き立つというか……」

「このスープも、美味しいし暖まりそうですね」


 ジョサイア王子やヘルフリート王子にも好評のようだ。貝の網焼きは、醤油の味が分かりやすいようにというチョイスだったりする。


「新しくて美味しい料理なんて嬉しい限りです」

「グランティオスでは中々こういった料理は食べられませんから、尚更ですね」

「これを大使殿が作ったと……」

「ううむ。流石はテオドール殿。何とも素晴らしい」


 マリオンやロヴィーサもにこにこと食事しているし、ヴェラやエルドレーネ女王達も舌鼓を打っている。


「んー、やっぱり美味しいわ」

「役得じゃのう……」


 ステファニア姫達やアウリアは和食も2回目ということもあり、食事を楽しみながらも皆の反応を嬉しそうに見ていたりする。


 練兵場でもお城の武官、文官に豚汁が振る舞われていた。練兵場の端に巣穴を作っているコルリスも、兵士達が楽しそうに鉱石を与えていたりと、中々楽しそうな風景がバルコニー席から見て取れる。

 うむ。とりあえず昼食に味噌醤油を使った料理を出して楽しんで貰って、親睦を深めてもらおうという目論見であったが、中々上手くいったようだな。

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