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635 女王と族長と

 ――さて、今日は王城でグランティオスの女王エルドレーネと、ハーピーの族長ヴェラが顔を合わせる日である。

 俺達や冒険者ギルドの面々、ドミニクとその肉親達も一緒だし、グランティオスからマリオン達もやってくるので、ユスティアも同行する形だ。

 精霊王達に関しては、後から顔合わせをすることになるだろう。


 そこそこ大所帯ではあるが受け入れ先は王城なので問題はない。諸々準備を整えていると、アウリア達が家にやって来たので、頃合いを見計らって馬車に乗って王城へと向かったのであった。


 王城に到着して、馬車から降りるとそのまま迎賓館の貴賓室に通される。


「ああ。テオドール殿」

「こんにちは、お二人とも」


 そこにいたヴェラとラモーナと挨拶をする。ハーピー達は昨晩、王城に宿泊したので、当然先に迎賓館の一室に通されている。

 少し早めに到着したのでメルヴィン王もエルドレーネ女王もまだやってきていないようだ。では、まず同行してきたアウリア達とヴェラ達を互いに紹介する。


「冒険者ギルド長のアウリアじゃ。よろしく頼む」

「副長のオズワルドという」

「職員達を代表して参りました、ヘザーと申します」


 アウリア達の挨拶に、ヴェラ達も自己紹介を返す。


「ハーピーの一族の長をしている、ヴェラという者だ」

「ラモーナと申します」

「まずは……我が一族の娘、ドミニクを助けてくれたことについての礼を言わせて欲しい」


 そう言ってヴェラが静かに頭を下げると、冒険者ギルドの面々が頷いた。


「そう言って貰えると嬉しいのう。末永く良好な関係でありたいものじゃな」

「こちらこそ」


 アウリアが握手を求めると、ヴェラがそれに応じる。


「まあ、こうして代表として話をしてはいるが、儂はその時タームウィルズを留守にしていたからの。となれば、オズワルドの指示やヘザー達の応対によるところが大きいとは思うのじゃがな」

「いや、俺も報告を受けて指示を出した程度で、大したことはしていないな。ドミニク達が感謝をしているというのなら、それは職員達の対応が良かったからということになるのだろう」

「私達もドミニクさん達にはあまり大したことはできなかったのですが。それに、それこそテオドールさんがいなかったらですね」


 と、ヘザーは首を横に振る。


「まあ、僕は当時、タームウィルズに来たばかりで公的な立場も無かったですからね。やはり、冒険者ギルドの皆さんの協力があったからこそだと思っていますよ。今だから言えますが、そもそもの話をするなら、友人を心配して探していたシーラと会っていなかったら、こうはなっていなかったでしょうし」

「ううむ。となると、私は誰に最も手厚く感謝の言葉を言ったものか」


 そんなふうにヴェラが冗談めかして首を捻りながら言うと、周囲から和やかな笑いが漏れる。それでもヴェラはその後で一人一人、シーラにも律儀に握手を求めて礼を言っていた。


「ん。あの状況ですぐに解決できたのは、テオドールのお陰」


 と、シーラはそんなふうに割と迷いなく答えるのであるが。まあ、俺やカドケウスへの礼は既に受け取っているからな。


「何だか、昨日のアンゼルフの王様とクラウディアさまみたいなお話」


 リリーはそれを見てにこにこしながら言った。善意が巡り巡って、今に至るというような意味だろうか。


「アンゼルフ王……冒険者ギルドを創立した人物だったかな」

「はい、ヴェラ様。実は昨日こんなことが――」


 と、ドミニクが昨晩朗読が一区切りついた後の話をヴェラ達に聞かせる。


「縁というものは……どこでどう繋がって来るかわからないものですね」

「確かに。我等も、この縁を大事にしたいものだ」


 ラモーナが感心したように言うとヴェラが頷く。

 そんな和やかな空気の中で、貴賓室の扉がノックされた。

 返事をすると女官が扉を開け、メルヴィン王とエルドレーネ女王、ステファニア姫達、それにマリオンが姿を現した。みんなで立ってメルヴィン王達を部屋に迎える。


「うむ。皆揃っているようだな」

「おお。テオドール。皆も元気そうで何よりだ」


 と、エルドレーネ女王は俺達を見ると笑みを浮かべるのであった。




 久しぶり、という程、間は空いていないが、エルドレーネ女王はグランティオスの王都の復興もあって、色々忙しかったらしい。もっと気軽にタームウィルズに遊びに来たいのだが、と笑っていた。


 メルヴィン王やエルドレーネ女王との挨拶をして、皆が腰を落ち着ける。

 マリオンとユスティアも公的な場所だからか、再会の挨拶は割合さらっとしたものであったが、笑みを向け合ったり隣り合って座ったりと、姉妹仲の良さが傍目からも窺える。

 そうして皆が落ち着いて、各々にお茶が淹れられたタイミングで、エルドレーネ女王とヴェラが互いに挨拶と握手を交わす。


「お初にお目に掛かります。ハーピーの族長、ヴェラと申します」

「グランティオスの民を預かる、エルドレーネという」


 2人の挨拶と握手を見届けメルヴィン王が口を開いた。


「さて。余は既に、話すべきことを話している。ステファニアの口にした通り、喜んで対魔人同盟に迎えたく思う」

「無論、妾も共闘については諸手を挙げて歓迎する。グランティオスは様々な種と友好を結び、志を同じくする者と歩んできた国故に。暮らす場所こそ違えども、志を同じくする友として共に歩んでいきたいと願っている」

「我等は一部族に過ぎませぬが、受けた恩をお返しし、大使殿と娘達が繋いだこの縁を、大切にしていきたいと思っております。魔人達の脅威についても他人事ではありません。見過ごすことはできますまい」


 まずは各々の意思の確認といったところだ。この場にいないエベルバート王やファリード王については、名代であるアドリアーナ姫、エルハーム姫からそれぞれ書簡を送ったとのことである。


「メルヴィン陛下の意向を確認しなければならないと思ってはいましたが、他の集落の仲間達に対しても魔人達の企てについて明かし、共闘を求めることも可能かと。我等一族にとっても魔人は脅威なのです」


 ヴェラが言う。ハーピー達はいくつかの集落があちこち点在しているが、それは言うなれば離れて暮らしている親戚関係に近いもので、しっかり血縁もあるらしい。ヴェラの集落はその中でも大きな方に当たり、人口も大人数ということになるそうだが。

 まあ、それでも他の集落は他の集落だ。ドミニクの一件や魔人の暗躍を聞けば、皆も立ち上がるだろうとヴェラは言うが、協力を呼びかけるにしても、まずはメルヴィン王達に、諸々の事情を他の集落に対して明かしていいかどうか話を通しておく、というのは重要なことだろう。


「それは願っても無いことではあるが……」


 メルヴィン王は思案を巡らしながら言った。


「仮にここで共闘の道を選ばずにいれば、各個撃破か魔人への恭順を迫られることになりましょう。これは我等一族全体の自立と命運、そして誇りを懸けてのこと。そこを慮って頂く必要はありますまい」


 ヴェラの理屈は明快だ。その言葉にメルヴィン王もエルドレーネ女王も真剣な面持ちで頷いた。


「うむ。確かに……魔人に恭順したとしても、我等グランティオスが海王と争った時のことを考えれば、魔人の支配下では魔に堕ちる子供が増えることが考えられる。さもなければ眷属として隷属し、変質するか……」


 ああ。確かに魔物にとってはそういう話になるな。魔人に対して恭順した場合の実例があるのだから、分かりやすい話だ。


「一般に魔物と呼ばれる種族は、体内に魔石の元となる物を有しています。それが環境魔力を取り込むことで魔物の活動の助けとなるのですが……幼少期の環境魔力の良し悪しで、魔に堕ちる者が出て来てしまう、と推測されています」


 そういった事情を説明すると、ヴェラは目を見開き、そして腕組みをして思案するような仕草を見せる。


「なるほど。納得できる部分が多々ある話。ならば尚の事。事態は差し迫ったものと言えましょう」


 そんなヴェラの仕草に、エルドレーネ女王は話を切り出す。


「聞けば、精霊達の声を聞いて集落の場所を決めているとか。穢れた魔力溜まりを払ったり、邪気や瘴気を浄化する術を用いれば、更に活動範囲を拡げることもできるものと思うのだが」

「そのような秘術がある、と仰るのですか?」


 ヴェラやラモーナは驚いたような表情を浮かべる。エルドレーネ女王は真っ直ぐに2人を見ながら頷いた。


「秘術、とは呼ぶまい。グランティオスは海中の国故に、どうしてもそういう術を編み出す必要があった。共に戦い、共に歩む仲間であるならば、この術は誰しもが恩恵を受けるものと、妾は先代より意志と共に術を引き継いだ。それこそが、グランティオスの慈母の願いであり、代々の女王が連綿と続けてきた責務に他ならぬ」

「それは……いや、しかし……」

「それに、妾達はテオドールやメルヴィン王に返し切れぬほどの恩を受けた。ヴェルドガルと共に戦う者のためにこれらの術が役に立つというのならば、グランティオスの民は、誰しもが納得するであろう。どうか、我等の術を役立てて欲しい」


 エルドレーネ女王の言葉に、ヴェラは目を見開いていたが、やがて深々と頭を下げるのであった。

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