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631 隠れ里と魔道具と

 諸々通信機で報告と連絡をし、魔道具の職人や隠蔽術等についても互いに話を通したりと道筋を整え……それから一夜が明けた。


 朝一で族長の家、岸壁側の奥に更に1つの部屋を拡張。

 石碑を設置し、部屋に結界を張って契約魔法を用い、族長の許可が無いと使用できないようにする。

 クラウディアの展開したマジックサークルが光を放ち、石碑が燐光を纏う。


「これで……この地に住む族長が石碑を封印しようと思えば機能しなくなるわ」

「ありがとうございます、女神シュアス様」

「クラウディアで良いわ。そう呼ばれるのはあまり好きではないから」

「分かりました、クラウディア様」


 クラウディアが苦笑して答えると、ヴェラは静かに答える。

 

「しかしまあ、転移やあの空に浮かぶ船もそうですが、土魔法による魔法建築に、結界術、契約魔法と、高度な術式を立て続けに目の前で見せられると、感覚が麻痺してきますね」

「私が人里で学んだ経験から言えば、伝説だとか秘術扱いされるようなものばかりではあるかな」


 ラモーナの感想に、ヴェラが薄く笑ってかぶりを振った。


「取引してもらった魔道具の数々もですね」

「我等にとって良い取引であったとは思うよ」


 演出用の魔道具や、トランプにチェス、ビリヤードにダーツ、炭酸水製造機、クリアブラッドに破邪の首飾り等々、友好の贈り物として使えるようにと色々持ってきたのだが……それらの品々を友好のために持ってきたのだと言うと、魔力キーボードを既に貰っている以上は、貴重な品々をただ貰ってばかりではと固辞された。


 そこでハーピーの隠れ里の特産品と交換ではどうかと取引を持ち掛けたのだ。

 その結果、こちらも羽毛布団やロックファンガス、鏡苔に装飾品等の特産品を交換させて貰っている。


 ロックファンガスは重要な位置付けであるため、隠蔽魔術の結界であるとか、監視用の装置等を設置するのも含めての条件ではあるが。それはこちらもハーピーの隠れ里が手薄にならないよう既定路線として進めさせてもらおうと考えていたことなので問題無い。

 ハーピー達にとっても隠れ里の職人達が魔法技師として進んだ技術を学べるということも含め、色々と魅力的な条件であったらしい。


 交換で手に入った様々な品は、集落の者なら誰でも気軽に使えるように、開放された公共スペースに置かれる形になる。何でも族長の家は公館も兼ねているらしく、一部のスペースには集落の者なら自由に立ち入れるのだとか。


 そうして石碑部屋も予定通り作ったところで、皆で連れ立って族長の家を出る。 


「おはよっ!」

「うん、おはよう」


 外の広場に出たところで明るく朝の挨拶をしてきたのは、上機嫌な様子のドミニクである。どうやら家族と、のんびりとした時間を過ごせたようだな。

 他にも集落の住人達が広場にやって来ている。ヴェラが声をかけて、集めた者達だ。今日、石碑を用いてタームウィルズに移動する予定の住人達である。

 朝の挨拶をしていると、魔法技師の職人として招く予定の、鳥人の一人がやや自信無げに言った。


「我等のような姿をした者が、人里で受け入れられるのでしょうか……?」

「その点については……僕やステファニア殿下も共におりますし、国賓として招待しているのでご安心を。それにタームウィルズには普段から様々な種族が暮らしていますから」

「私達の使い魔も、普段から街中で活動しているものね」


 ステファニア姫が笑みを浮かべる。その言葉を受けて、鳥人達が少し離れた場所に視線を送ると、コルリスは広場にぺたんと座ったままで彼らに手を振る。


「……なるほど」


 と、納得してもらえたような、若干戸惑っているような反応ではあるが。


「主殿の言う通りだ。タームウィルズの人々は懐が深いのだろう。我も暖かく迎えられた。心配には及ばぬだろう」


 マクスウェルも浮遊しながら言う。鳥人達はその言葉に頷いているが、まあ、不安は軽減できただろうか。


「さて。最初にタームウィルズに向かう面々はこれで全員でしょうか?」

「そうだな。全員揃っている」


 最初にタームウィルズに向かうのは、ドミニクとその家族、リリー達、ドミニクの親戚達、それから志願してきたハーピー達と鳥人の職人達だ。

 ドミニクの家族や親戚達に来て貰うのはタームウィルズを実際に見てもらって集落の者達への信用や安心感を高めてもらうという狙いもあったりするが……まあ、重要な事から順番だ。一旦石碑でタームウィルズへ飛んで、もう一度隠れ里に戻ったりと、行ったり来たりもする予定である。まず必要な人員が行き来できる状況を整えてしまおうというわけだ。


「では……早速ではありますが、タームウィルズへ移動しましょうか。アルファ、俺はすぐ戻って来るけど、少しだけ船を頼む」


 広場に来ていたアルファに声を掛けると、にやりと笑って俺の言葉に応えた。それを見届け、みんなで連れ立って石碑の部屋へ向かう。そして光に包まれ――それが収まると俺達の姿はタームウィルズの迷宮入口にあった。


「これは……驚きだな」

「ここがタームウィルズの迷宮入口です。ここから隠れ里に設置した石碑に飛ぶことが可能です」


 石碑の扱いについては既にヴェラ達に説明してあるが、話に聞くのと実際に移動してみるのとでは大きな違いがあるということなのか、ヴェラ達は目を丸くして周囲を見渡している。


「お待ちしておりました。メルヴィン陛下が王城でお待ちしておいでです」


 既に正装に身を包んだ騎士達と王城からの使いが迎えにやって来ている。

 ヴェラと挨拶と自己紹介を交わし、それから俺やステファニア姫達にも挨拶をしてきたので、こちらも挨拶を返す。


「では、ヴェラ様は、私達が責任を持って王城へ案内します」

「よろしくお願い致します、ステファニア殿下」


 ステファニア姫達がヴェラをメルヴィン王に引き合わせて諸々の話をしてくる。ラモーナの部下数名がヴェラと同行するが、その他の面子は一旦このまま石碑を使って隠れ里に戻る。腕の立つ者達が隠れ里を空けてしまうのも不用心だからだ。


「おはよう、テオ君」

「おはようございます」


 と、挨拶をしてきたのはアルフレッドとフォルセト、シオン達だ。

 諸々準備を整えて、ハーピーの集落に監視用魔道具を設置に行こうというわけである。




 さてさて。メルヴィン王とヴェラの会談はステファニア姫達に任せ、俺達はアルフレッド達と共に再びハーピーの隠れ里に戻り、早速色々な魔道具を設置したり魔法生物を配置していく流れとなった。


 設置にあたってはラモーナと職人達に立ち会ってもらう。

 集落の入口付近の四方を監視するための目であるとか、隠蔽術の結界であるとか、入り口を岩に偽装して塞いでしまえるゴーレムの扉などを順々に設置していくわけだ。

 地図を見ながらみんなで相談して、監視の目の配置場所などを検討する。


「監視の目を山頂のこの地点に置けば――南の人里の動きが一望できるかと」

「ここはライフディテクションを併用するわけね」

「うん」

「と、仰いますと?」


 俺とローズマリーの言葉にラモーナが首を傾げる。どうやらラモーナはライフディテクションの魔法を知らないらしい。


「生命反応を光で見ることができる魔法よ。悪天候でも問題が無くなるわ」

「ああ、山は天候が変わりやすいですからね」


 その疑問にはクラウディアが答え、グレイスが納得したように頷いた。そうだな。高い山はすぐに霧がかかったり雪が降ったりするし。


「それは……有り難いですね。集落の中から人里の動きが把握できるなら、子供達を遊ばせたりもしやすいし、外での採取や狩りもしやすくなる」

 

 加えて隠蔽術で岩山に興味が向きにくくなるし、入り口自体も前より巧妙に偽装されて分かりにくくなると。

 族長の家の隣に外部監視用の警備室を作り、内部に水晶板やらを設置してミスリル銀線などを張り巡らしていく。


「水晶板の使い方は、この部分に触れて……」


 と、アシュレイがハーピー達に設備の使い方を説明していく。アシュレイの説明の横で、マルレーンが実際に操作して実演していた。

 そうしてみんなで色々と作業を進めていると、ステファニア姫達とヴェラ達もタームウィルズから戻ってきたらしい。


「これはまた……色々と凄いことになっているな」


 警備室の中を覗いたヴェラが目を丸くする。


「ヴェラ様! お帰りなさいませ」

「ああ。メルヴィン陛下とは、中々有意義な話をさせてもらった。明日、エルドレーネ女王ともお会いできるそうだ」


 と、ヴェラは嬉しそうに微笑む。メルヴィン王との会談は和やかなものだったそうだ。内容については、俺やステファニア姫と交わした話や約束の確認ではあるが、セイレーン達との混成部隊についてもその方向で話が進んでいると通信機に連絡が来ている。


「いやはや。ヴェルドガルの技術は凄いものですな」

「これなら、見張りを外に置く必要が無くなりそうですぞ」


 ヴェラへの挨拶もそこそこに、設置に立ち会った職人達は些か興奮した様子で設備についての説明したりしていた。

 ヴェラも興味深そうに岩山に設置した水晶板モニターを眺めている。


「この作業が終わって、動作に問題が無ければ僕達はシリウス号でタームウィルズまで戻るつもりです。もしよろしければ、転移でなくシリウス号に乗ってタームウィルズまでご一緒しますか?」

「あの船にも乗れるのか。面白そうではあるな」

「速度を上げて移動するので、あまり風情はありませんが」


 と伝えたが、同行する予定のハーピー達のテンションは結構高くなっているようだ。リリーもドミニクに嬉しそうな笑みを向けていた。

 まあ、道中楽しんで貰えれば俺としても嬉しいが。

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