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627 族長との対話

 さて。こうやって信じてもらえたのは良いとして。後は、ここからの話をしっかり進めないといけない。

 ドミニクの意向を尊重してやりたいので、一旦故郷に帰った後に再びタームウィルズに向かうという方向で話を進めたい。なので、その説得にも協力するつもりだ。

 まずは……そうだな。今のヴェルドガルの状況を話しておくか。そこを話した上でないと、説得できたとしてもハーピー達を騙す形になってしまうし。


「それから、今のヴェルドガルの状況なのですが――」

「ふむ」


 俺から魔人集団絡みの話をする。今の状況であるとか、これから決戦が控えていることとか。


「この状況を説明した上で、ドミニクから族長に頼みたいことがあると」


 諸々の説明をした上で、ドミニクに視線を送ると、彼女は俺の目を真っ直ぐ見て頷く。それからヴェラと両親に切り出した。椅子から立ち上がり、胸に手を当てるような仕草を翼で見せると、正面から訴えかける。


「族長様。お父さん、お母さん。あたしは、あたしを助けてくれた人に恩を返したいって思っているんです。あたしの歌が、何かの力になるならって」


 ドミニクの両親は目を丸くし、ヴェラは静かにそれを聞いていた。


「つまり……タームウィルズに戻り、呪歌を用いて彼らの力になりたいと?」


 ヴェラに問われ、ドミニクははっきりと頷く。


「ユスティアだって、あたしの故郷がまだ見つかってないからって、帰らずにいてくれた。約束だって言って、一緒にいてくれたんです。それが……すごく、すごく嬉しかった。こうやって、また故郷のみんなに会えたのはとっても嬉しい。だから、あたしだけ安全な故郷に帰るなんて、できない」

「ドミニク……」


 ドミニクの両親は驚いたような顔をしていたが、その言葉に、真剣に耳を傾けているようだ。魔人との決戦が控えている場所に戻りたいという内容なので、やはり心配そうではあるが……。


「そうか……。良い友人を得たのだな」


 ヴェラは心配そうに成り行きを見ているユスティアに一瞬視線を向けて、それから顎に手をやってしばらく考えていたが、やがて口を開く。


「恩と絆のためにタームウィルズに戻りたい、という気持ちは分かった。元より、我等は終生の伴侶を見つけたならば、故郷を後にすることも構わないとしている。ならば、成すべき事を見つけた者を引き留める事など、誰にもできまいよ」

「族長様……」

「2人も、それで良いか?」


 ヴェラから意見を求められた両親も暫く考え込んでいたが、やがて母親の方が口を開く。


「呪歌を使って、というのは……そのギルド、という場所での仕事と同じく、治療の手伝いをしたりということになるのでしょう?」


 母親から問われ、ドミニクは頷いた。


「うん。前に立って戦ったりはしない、と思う。他にも、街の皆を避難させる時に歌を聞かせて落ちつかせたり、とか」

「……それは、良い仕事だな」


 ドミニクの父親が、静かに目を閉じる。


「決まりだな。ドミニク。お前の命はお前のものだ。悔いの無いように、お前に精一杯できることをやるが良い。皆に迷惑がかからないようにするのであれば、帰ってきたくなったら戻ってくるのも構わない。故郷というのは、そういうものだろう」

「あ……ありがとうございます!」


 ドミニクが深々と頭を下げる。


「良かったわ、ドミニク」

「また、一緒に歌えるね」

「うん、ユスティア! イルム!」


 そう言ってドミニクはユスティアやイルムヒルトと抱き合って喜ぶ。


「ん。私も嬉しい」

「おめでと、ドミニク!」

「ありがとう!」


 そのままの流れで嬉しそうにシーラやシリルとも抱きついたりしていた。


「テオドール君、みんなも……ありがとう!」


 感極まって抱きつきそうになったところをみんなの手前、思い留まり両手を握られる形でドミニクからお礼を言われる。


「そうだね。良かった」


 と、俺も笑みを浮かべる。まあ、ここからは俺の仕事だ。決戦で負けるわけにはいかない。

 ヴェラはそんなドミニクの姿を見てから目を閉じ、口元を軽く笑みの形にして頷いていたが……やがて顔を上げてラモーナを見やる。


「残る問題は、我等自身の矜持に関する事だ。魔人に娘を攫われ、ヴェルドガル王国よりこれだけの恩を受けておいて返さぬのであれば我等一族は臆病者、卑怯者と末代までの笑い種であろう」

「それに……魔人がそのようなことを目論んでいるのなら、この地にも影響は及びましょう」

「ああ。だが、それらについての話は後にしよう。まずは客人達を歓迎し、持て成さねばな」


 ヴェラとラモーナの話の内容としては、ハーピーの戦士を派遣してヴェルドガルに協力できないか、というところか。

 ハーピー一族の矜持の問題と言われては、こちらとしては方針そのものに口出しはしにくいところはあるが……まあ、タイミング的に丁度良いか。転移魔法やらシリウス号の話をしておくとしよう。

 ハーピー達の助力がどういう形になるにせよ、転移魔法の道筋がついていると安心できるところはあるからな。




「……というわけで、ドミニクが里帰りをしやすいようにと、転移魔法で移動可能になる拠点を増やすことを考えていたわけです」


 方法は二つ。月神殿と石碑だ。それぞれの方法を説明しておく。その際、月の民や迷宮に関する話もする必要があったが。


「転移魔法に、月女神とは……。確かに、クラウディア殿の魔力は普通のそれではないが……まあ、それを言うなら大使殿もか」


 ヴェラは眩しい光を見るように俺やクラウディアに視線を向けて言った。片眼鏡で見ている限りだと、ヴェラは他のハーピー達よりかなり魔力が強いようだ。

 精霊の動きや感情など知覚できることと言い……色々と他のハーピー達とは毛色が違う印象があるな。ラモーナが戦士であるなら、ヴェラは魔術師か巫女、とでも言えば良いのだろうか?


「まあ、僕も月の民の系譜のようですので」


 そう言うと、ヴェラは納得したように頷く。


「契約魔法を用いれば、石碑の使用を族長の意志に委ねることはできるわ。私達としてはいきなりやってきて、それをあなた達に信じて受け入れて欲しい、というのも難しい話だから、近くの人里にある月神殿からの転移を、と考えていたのだけれど」


 クラウディアが言う。

 何分、ハーピー達とはグランティオスの民とは違って交易などの接点があったわけではないからな。色々慎重に話を進めなければならないところもある。


「……いや。その言葉を信じよう。ドミニクに呪法の類が刻まれている様子もなく、何より、精霊達に好かれている。嘘であるとか悪意からの言葉を弄している場合、精霊達の動きはこうはならない」


 ……なるほど。ヴェラはやはり、精霊達の動きを判断材料にしているわけだ。

 はっきりとした顕現が難しいような希薄な精霊達は基本的に、人に姿を見せたり存在を感知されるのを嫌うという。

 それは知識のない者に幽霊などと思われて怖がられると、そのイメージに影響を受けてしまうからだとされている。それはつまり、人の感情や意思に、割と鋭敏に反応するということで。


 だから逆に、精霊に対して理解のある者、危害を加える意思のない者は好まれる、だとか。そうしてみると、精霊の動きを感知できる者からすると、その動きで信用が置ける者かどうかぐらいの判断はついてしまう、というわけだ。

 ハーピー達との話はどうなるものかと思っていたが、ヴェラの能力や精霊達に色々助けられているな。


「そのシリウス号という船も見てみたいものだな」

「では……隠れ里の近くまで来て貰うことにしましょう。使い魔達に留守番してもらっているのです」


 シリウス号には色々と手土産も積んできているしな。歓迎のもてなしをしてくれるというのなら、こちらも盛り上げられるようにしたいところだ。




 俺達がシリウス号で戻ってくると、ハーピー達の隠れ里では宴会の準備が進められていた。

 族長の家の前の広場に椅子やテーブルを出し、狩りの獲物を料理したりと、住民達が大忙しといった様子だ。だが、ドミニクが帰ってきたこともあり、誰も彼も嬉しそうに見える。シリウス号の事も通達されているのか、ハーピー達も好奇心旺盛なものはヴェラやラモーナと共に隠れ里の入口から出て、近くまで飛んできたりと興味津々といった様子である。


「――船と言っていたが、白い翼が大きな鳥のようではあるな。美しいものだ」


 里の入口まで飛んで来たヴェラはシリウス号を見て、楽しそうに口元に笑みを浮かべる。


「ありがとうございます」


 というわけで、隠れ里側からは見えるように。それ以外の方向から光魔法のフィールドで遮断して、里のハーピー達にお披露目である。

 まだ飛べない幼い子供ハーピー達は、獣化した父親か、母親に背負われる形で近くまで見に来ては、目を輝かせたりしていた。落下しないように紐で背中に固定する装具のようなものを身に着けていたりと、色々ハーピー達独特の文化があるようである。


 さてさて。シリウス号の留守を預かっていた面々も甲板に出て来て貰って、ヴェラやラモーナに紹介していく。

 名前を呼ぶと、順々に動物組が頭を下げて一礼したりして、ヴェラ達に挨拶をする。


「お初にお目にかかる。マクスウェルと申す」

「……ケルベロスに喋る斧とは……驚きだな。ベリルモールにも驚かされたが……喋る斧は寡聞にして聞いたことが無い」


 と、ヴェラはその面々に目を丸くしている。


「色々ご存じなのですね」

「昔、人の姿で人里に足を運んでな。色々世間のことを勉強させてもらったことがある。里を守るには外の世界について無知では務まらないからな。ベリルモールは……こういう隠れ里で暮らすなら知っておかなければなるまい。鉱脈が無い場所であれば、里を作るのに向いているということになる」


 ……なるほど。確かにそうだ。

 そうしてヴェラは使い魔なら問題はないからと、里への出入りは好きにして良いと許可を出してくれた。

 では……宴会会場に楽器の類も持っていくとするか。石碑の設置やドミニクの行き来にも許可が下りた。ハーピーの助力などについては色々話し合うこともあるが、まあ、まずは宴会で親睦を深めてから、ということで。

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