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624 記憶の風景

 早速中庭から遊戯室に場所を移し、テーブルの上に地図を並べて話を聞くことにした。


「西側は、今のところハーピーの集落は見つかっていないです。海が広がっているというのもありますが、ハーピー達の生息圏とはやはり違うようですね。海を渡って――シルヴァトリア王国やグロウフォニカ王国までとなると……流石にまだ情報伝達ができていません」

「同様に、人里でハーピーを見かけた者がいないかと捜索の範囲を広げているが、そういう情報もないようでな。ホークマンのような有翼種もいるし、人化の術もあるから、目撃情報だけでは完璧とは言えんだろうな」


 マールとラケルドが言う。マールは海沿い、川沿い、湖付近など、水源を拠点に色々辿っているらしい。一方でラケルドは人里を中心に捜索中とのことだ。火の精霊が活動しやすい場所が人里というのは、まあ、確かに。夜の照明にしろ炊事にしろ、人家があれば火は使うからな。


「ラケルドが人里を探すならと、儂はドワーフらの住処や、人があまり立ち入らぬ森林の奥地を捜索した」


 と、プロフィオン。なるほど。4人に呼応した精霊達はそれぞれの活動しやすい領域で分担し、捜索範囲をタームウィルズを中心に広げるようにしていったらしい。


「とまあ……広い範囲を探していますが、私達としては、やっぱり山岳地帯を中心に探すのが良いのかと思って、南北と、それから東側に力を入れることにしました」

「なるほど……山岳地帯でもそれぞれ活動しやすい領域は変わりますからね」

「うん。それで、みんなからの情報で見つかったのが、こことここ……それから――」


 ルスキニアは地図をいくつか指差していく。


「なるほど……。では、ここから色々と調べていきましょう」


 さて。ここからが俺の仕事だ。

 ……発見されたハーピーの集落はタームウィルズから見て、東側の広い範囲にいくつか点在している。東側というより、南東、北東と言った方が良い場所もあるが……。いずれも人里から離れた奥地だ。

 メルヴィン王からもらったヴェルドガル王国の保有しているデータ――地図や、測量図等々を基に、土魔法によってそこから類推される地形図などを作っていくわけだ。


 ヴェルドガルも歴史が長いもので、近隣諸国に跨って地形図を作ったりといった活動もしているらしい。地形データというのは軍事的な情報としては重要なものだからだ。

 飛竜も保有しているので、人の踏み入らない奥地まで含め、色々調べてはあるらしい。

 まあ、こういったデータに対しての歴代の王の思惑、建前や本音はそれぞれで違うのだろうが……永らく他国との戦争はないというのが事実だ。

 なのでこれらのデータに関しては幸いにして活用されることなく死蔵されてきた。


 メルヴィン王としては故郷探しのような真っ当な目的のために使われるのなら、これらの資料も浮かばれよう、とそう言って笑っていた。


 精霊王達から齎された情報と地図、地形図などの資料の情報を統合し、ハーピーの集落周辺の立体模型を土魔法で作り上げていく。

 それだけではピンと来ないところもあるかも知れない。


「マルレーン。ランタンを借りてもいいかな?」


 マルレーンに言うと、彼女はこくんと頷いてランタンを手渡してくれる。

 どんな植物が生えていただとかは、既にドミニクからリサーチ済みだ。地形図を元に、そこから見える風景、地形図を想像して幻影として投影する。

 東西南北を合わせ、どの方向から太陽が照らすかなども反映した風景が映し出された。


 山岳地帯の風景だが……少しずつ幻影の風景が高所から見たものとなって、周囲の地形を含めてぐるりと360度見回すように動いた。日の出、日の入りも分かりやすい判断材料になるだろうと、それらの風景も映し出して見せる。


「どうかな?」

「……違う、と思う」


 ドミニクが首を横に振る。


「それじゃあ、次だな」


 2件目、3件目と同様の手順で幻影を作っていく。

 そして――3件目の幻影を映し出したところで、ドミニクの表情に変化があった。目を丸くして、その風景を食い入るように見る。


 高度を上げて、周囲の地形を見回し、そこから見えるであろう山々の稜線を映し出す。日の出、日の入りの風景を見せる。


「この場所?」

「うん……うんっ! 多分……ううん。絶対そう! この山の形――覚えてる」


 他のものと反応が違う。かなりの確信がありそうだ。生まれ育った場所から見る風景を、忘れるはずもないか。

 あくまでもこの光景は地形図からの俺の想像だ。細部のディテールをドミニクから聞き出し、そして反映していく。


「そこのごつごつした、岩山の陰があるでしょう? そこにみんなが暮らしてるの!」


 なるほど。幻影を作っていても気付いたが……ハーピーの集落というのは、高所の岩山の中に隠すように作られているらしい。他の場所でも地形に共通する特徴が見られた。

 ドミニクの話によると、上から見ても分からないように工夫されているらしい。多分……空を飛ぶ魔物などの襲撃を避けるためだろう。


「一応、発見された他の場所も見ておこうか。ここが最有力ではあるけれど」


 そう言うとドミニクが真剣な面持ちでこくんと頷く。

 最有力候補の集落は――そうだな。シリウス号を思い切り飛ばせば問題の無い距離だ。リネットの召喚術がどういったものだったかは不明だが、ユスティアが魔法で引っ張られてきたグランティオスとて、ヴェルドガルの国内だったしな。結果には納得できる部分もある。


 そうして、念の為に他の場所も見てもらった後で、まずはランタンをマルレーンに返す。


「ありがとう」


 そう言って手渡すと、マルレーンは嬉しそうにランタンを受け取る。

 さて。では、最有力の集落の話だな。


「ドミニクさえ良ければ、早速、明日出かけてみようか」

「本当に、良いの?」


 と、ドミニクは喜び半分、申し訳なさ半分といった様子で尋ねてくる。


「勿論。約束したし」


 そう答えると、ドミニクはイルムヒルトやユスティアと手を取り合って喜ぶ。

 今回の調査結果で見付かった場合で、それもシリウス号で迅速に帰って来れる距離に見つかったなら、という条件を提示してはいるが、通信機でメルヴィン王にも許可を取ってある。ドミニクの一件は魔人に端を発しているし、魔物との融和ということでクラウディアの意向にも関わってくる話である。メルヴィン王としては異界大使の仕事の範疇だろうと、そういう太鼓判を貰っていたりする。


 約束でもあり、仕事でもある。勿論、この時期なので、何か問題が起こったらすぐに転移魔法で戻れるからこその許可ではあるのだろうが。


 それに……今を逃して期間を空けてしまうと、瘴珠移送のタイミングなどが重なって来て臨戦態勢に移行するというか、警戒度が高くなるので、どうしても決戦後ということになってしまう。


 状況もゴタゴタするだろうし、決戦が終わったらすぐに動けるようになるかと言えばそれは不透明だ。些か慌ただしい日程にはなってしまうが、ドミニクとの約束はしっかりと果たしておきたい。


「それじゃあ明日、朝一番で出発っていうことで」

「うんっ、ありがとうね!」


 ドミニクは明るい笑顔を見せた。

 さて。では旅支度を整えるとともに、そのハーピーの集落から最も近い人里の位置等々、必要になりそうな情報も纏めておくことにしよう。


「ハーピーの集落も見てみたいけど……僕は、タームウィルズに残って色々作業を進めておくよ。やることは色々あるからね」

「そうじゃな。儂らも工房でやることがある」


 と、アルフレッドが言う。ジークムント老達もやることがあるので残る形か。では、工房組はタームウィルズに残って作業ということになる。


「私も……ついていってもいいかしら?」

「それは勿論」

「ありがと!」


 ユスティアの言葉に頷くと、手を握られて礼を言われた。うむ。友情に厚いことだ。


「故郷に送っていくわけだから交渉なんてことは無いと思うけれど。シリウス号で行くなら、私も同行したほうが信用してもらえるのかしら?」


 と、ステファニア姫が言う。


「そうしていただけると助かる面はあります」

「では、決まりね。私もステフとご一緒させてもらうわ」

「それなら、私もご一緒します」

「同じく。山岳と海では離れすぎてはいますが……」


 アドリアーナ姫、エルハーム姫にロヴィーサも同行、と。

 行き先はヴェルドガル国内と呼べる場所ではないからな。隣国の領主の力が届く場所でもない気がするが……念の為に各国の王の名代がいてくれると、何かあった時にこちらの言い分を通しやすくなる。

 それに、ハーピー達と国の間で約束事を交わしたり、信用を得たりもしやすくなるだろう。

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