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617 マクスウェル初陣

 さて。討魔騎士団が作業のメンバーに加わったことにより、作業時間がかなり短縮された。

 以前立てた作戦と計画通りに砦の内外で色々と魔道具を仕込んだ後で、ステファニア姫達とシオン達、アウリアに動作確認を手伝ってもらった。

 面子が面子だけに中々楽しそうに砦のあちこちを巡っていたが、何であれ積極的に仕事をしてくれるというのは良いことだ。

 そして動作確認も順調に終了し、俺達は一旦タームウィルズへと戻ることになった。


 メルヴィン王や、アウリアを初めとした出向してきた冒険者ギルドの職員を、シリウス号でタームウィルズに送って行く必要がある。それから、迷宮へ実戦訓練に向かうというマクスウェルとの約束もあるからな。

 これは約束でもあるが、マクスウェルの動きをしっかり見ておき、互いの信頼関係や連係の精度を上げておきたいという目的もある。そこはきっちりとやっておきたい。


 討魔騎士団はと言えば、一旦この場に留まり、まずは砦の機能や構造に慣れるためにサイモン達と共に訓練に参加する、とのことだ。程無くして物資も到着するだろうし、その時に各国の騎士達も同様の訓練に参加することになる予定だ。


「――皆が砦に慣れてきた頃合いで、そなたが実戦的な訓練をするというのは、中々良さそうではないか」

「そうですね。アクアゴーレムなどで部隊を作り、侵入者を迎撃するという想定で色々やってみようかと」


 メルヴィン王の言葉に答える。


「では、それまでに私達は、砦にしっかりと慣れておく必要がありますね。空中戦の訓練と併せて、習熟しておきたいと思います」


 と、エリオットが笑みを浮かべた。

 こちらとしては内部構造を熟知しているから、騎士達の練度に合わせて難易度を変えられる。そういう前提の上で訓練を積んでもらうことで騎士達の訓練へのモチベーションを上げていこうということなのだろう。作戦を自分達で考え、色々な状況を想定して訓練してもらった方が、実力が付くというわけだな。


「砦の機能等に不具合が出たり、気になった点がありましたら、その都度通信機で教えて下さい。それは次回砦に来た時に対応しますので」

「分かりました」


 そうして、討魔騎士団達とサイモン達に見送られ、俺達はシリウス号に乗り込んで砦を後にした。

 次回は……月神殿の関係者も同行することになるのだろう。砦に陣取り、騎士達に祝福を与える役が必要になってくるからな。

 艦橋に腰を落ち着けると、グレイスが早速お茶を淹れてくれた。


「ありがとう」

「いえ」


 礼を言うと、グレイスがにっこりと微笑む。さて。この後の予定でも話しておくか。


「まだ結構早い時間だし、帰って荷物を整理したら、早速迷宮に行ってみるっていうのも良いかもね」

「マクスウェルを待たせてしまいましたからね」


 と、グレイスが苦笑を浮かべる。うむ。


「いや。我は砦作りを見ているのも楽しかったぞ。無論、迷宮に向かうのは望むところではあるが……皆はどうなのだ?」

「森の監視や魔道具の設置といっても、わたくし達は体力も魔力も大して使っていないわ。だから、わたくし個人に関して言うなら、このまま迷宮ということでも何も問題は無いわね」


 そう言ってローズマリーが皆を見ると、各々が頷く。


「ん。こっちも問題無い」

「魔物も出ませんでしたからね」


 シーラとアシュレイが答えると、イルムヒルトがにっこりと笑みを浮かべる。


「あんなふうに、大きなゴーレムが並んでいたり、砦の様子がどんどん変わっているのを見せられたら、魔物も逃げたのではないかしら?」

「確かに、そうかも知れないわね」


 その言葉にクラウディアが小さく肩を震わせ、マルレーンが同意するようにこくこくと頷く。

 敵対的な魔物といっても環境魔力で凶暴化している場合と、ゴブリンやオーク、オーガ達のように最初から人間達に対して敵対的な種族と、色々いるからな。

 凶暴化している場合はそれでもお構いなしに突撃してくるのだろうが。ゴブリンなどは臆病なところもあるので、ヒュージゴーレム等を見たら森の奥深くに逃げていく可能性は高い。


「ふうむ。資料を見る限り、街道の旅人狙いの魔物の襲撃が多かったからのう。ゴブリン等は森の奥に引っ込んで、当分は鳴りを潜めるかも知れん。過去の事例では凶暴化した魔物も散発的に出没もしておったようじゃが……それは砦に残っている者達の事を考えれば、物の数ではあるまい」


 と、アウリア。冒険者ギルドの資料を見た上での言葉である。このあたりは間違いあるまい。

 魔に堕ちて凶暴化した魔物というのは、例えばゴブリンにとっても脅威になるところがあるのだろうが……逆に言うとそういう魔物が出没するような、魔力溜まりのある環境というのは、人間が森の奥まで入って来ないということでもある。

 ゴブリン達にとっては、人間の掃討の手が及びにくい安全な環境でもある、ということだ。


 ゴブリンは人里が近ければ作物や収穫物、家畜を盗んだりと色々と悪さを働く。

 こういう街道沿いで旅人を襲撃するのは、行商人などを襲って物資を略奪するのが、連中の主な目的となる。

 だが、大して物資を持っていないからと安心することもできない。得物を使う知恵があるのに、高度な武器を作る技術がないものだから、人間達の持っている武器そのものを目当てに襲ってくるなんてこともあるのだ。襲われないまでも、ゴブリンが夜中にこっそり盗んでいったなんて話も聞くし。


 そうやって人間やドワーフから上等な武器や防具をかすめ取ったゴブリンは、それによって力や知恵を誇示して群れのリーダー的存在になっていったりするらしい。

 何ともまあ、迷惑な話だ。ドワーフ連中もゴブリンに関しては苦々しい思いをしているのか、相当嫌っているしな。

 まあいずれにせよ、連中が大人しくしていてくれる副次効果が、あの砦作りにあったとするなら喜ばしいことだ。




 タームウィルズに戻り、余計な荷物等を自宅や工房に持って行った後で、予定通りに迷宮――魔光水脈へとみんなで向かった。

 魔光水脈へは水竜夫婦に用があって何度か足を運んでいたが、こうして普通に降りるのは久しぶりな気がする。


 地下水脈の中に光源となる水晶があちこちに生えている。

 洞窟内部が水中から照らされて……相変わらず何とも幻想的な空間だ。人によっては不安感なども覚えそうな光景でもあるが。


「最初は水中に入らず、普通に探索していこうか。深層よりは危険度は低いけれど、甘く見て気を抜くと怪我の元になるから、油断せず、いつも通りに進んでいこう」

「ん。了解」

「分かった」


 シーラが頷き、セラフィナが元気よく答える。うむ。

 ではまずは……落水した時のために、水中呼吸の魔法をみんなに用いておこう。まあ、精霊王達の加護もあるので必要ないかも知れないが、念のためにということで。

 探知役であるシーラとイルムヒルトのすぐ後ろにマクスウェルが陣取った。マクスウェルの実戦訓練だからな。


 俺はと言えば、後衛の護衛になる形でバロールとカドケウスを携えて、隊列の少し後ろからついていく。


 洞窟を右に左にと曲がりながら暫く進んでいると、左右に水場のある場所に出た。道は真っ直ぐ続いている。その一本道に、何歩か足を進めたところで、シーラが水面を見ながら身構える。


「敵。来る」


 短い警告の言葉。一瞬間を置いて、四方から魚人の魔物が同時に飛び出し、先頭のシーラ目掛けて躍り掛かった。

 マーフォーク。グランティオスの半魚人の武官達とはまた別種の水棲の魔物である。

 その襲撃を見て取ったシーラは、迷うことなく、一方向から突っ込んできたマーフォークに自ら突っ込んでいった。包囲されるよりも早く、1匹を倒して囲みを破ってしまおうという判断だろう。殆ど同時にイルムヒルトとマクスウェルが動く。


 シーラの背後側に飛び出してきた1匹の頭部を、イルムヒルトの矢が寸分違わず射抜き、マクスウェルが大きく弧を描いてもう1匹の胴体を薙ぎ払う。シーラは既にマーフォークを難なく切り捨てている。残り一匹。反転したマクスウェルが砲弾のような速度で、最短距離を戻ってくる。マーフォークの脇腹を抉るように、斧の刃が掠め、体勢が崩れたところをイルムヒルトの二の矢が止めを刺した。

 4匹のマーフォークがそれぞれ僅かな時間差で地面と水面に落ちる。襲撃も迎撃も一瞬のことだ。


「マクスウェル、良い動きしてる」

「初めて実戦で連係したとは思えないわね。私達の動きも分かってる感じがするわ」

「お誉めの言葉、痛み入る。主殿から皆の動き方なども学んでいる故」


 シーラとイルムヒルトから言われて、マクスウェルはお辞儀をするように身体を傾け、核をぴかぴかと光らせる。

 うん。今のは良い動きだった。

 シーラとイルムヒルトの動きと狙いを把握した上で、最善に近い動きをした。最短距離を動いて刃の端で斬撃を加えていく動きも、狭い場所では有効に働くだろう。マクスウェルの戦闘能力、判断能力もかなりのものだ。この調子で探索を進めていくとしよう。

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