表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
617/2811

597 虹色の泉

「ハルバロニス、ですか。シオン様達は誕生の経緯が私に似ているように思います」


 昼食後に食堂で談笑していると、ふとハルバロニスのことに話題が移った。

 外の世界のことを話して聞かせるということで、魔人絡みの今までの経緯やらを話していたのだが……ハルバロニスについての話をすると、シオン達が自分の事情をヘルヴォルテに話をしたのだ。


「僕もそう思って。最近になるまであまり外の世界を知りませんでしたし」

「そうですね。どこか、誰かを守っている、というところも似ているかも知れません」


 シオンの言葉に、ヘルヴォルテは普段通りというか、あまり表情を変えないながらも何か思うところがあるのか、目を閉じてそんなふうに返した。


「ヘルヴォルテ様はお城を守って、私達はハルバロニスを守ってたからって……ことかな」


 マルセスカは何時になく真剣な面持ちでヘルヴォルテの言葉に思案しているような様子を見せた。


「人というのは、生業の中にも様々な目的や理由を求めるものだとエンデウィルズの住人を見て学びました。私の場合はそれを最初から持っていましたが……シオン様達の場合はフォルセト様達を守る、というところにそれを見出した、ということでしょうか」

「……私達の場合は勝手にやっていたこと、だけど、そうなのかも」

「結局、やり方は間違っていましたが、そうしようと思ったのは僕達も何かをしたかったからで……ヘルヴォルテ様の言う通りだと思います」


 と、シグリッタとシオンも頷いた。

 ヘルヴォルテにしてもシオン達にしても、守ろうとしている人がそれに値する相手だからそうして来れたという部分はあるだろうとは思う。

 そんなシオン達とヘルヴォルテの会話を見て、クラウディアは柔らかい笑みを浮かべた。


 ふむ。引き合わせて話をさせたら互いに刺激になるだろうとは思っていたが。生まれや境遇などについても似ているところがあるし。

 少なくとも傍から見ている限りではシオン達はヘルヴォルテに好印象を抱いたようだ。ヘルヴォルテの場合はぱっと見では分かりにくいが、クラウディアの様子からすると好ましい反応のようである。

 マルレーンもクラウディアが嬉しそうにしているのでにこにことしている。


「改めて、よろしくお願いします」


 と、シオン達とヘルヴォルテは互いに握手を交わす。城で訓練をしていくことを考えても、良好な関係というのは歓迎すべきことだろう。


「そう言えば、城での訓練ですが、どうなさいますか? 色々予定ができてしまったのでは?」


 そんなことを考えていると、ヘルヴォルテが俺に向き直って尋ねてきた。


「ああ、どうしようかな。確かに、今日は実戦をこなしたし、その後すぐに訓練っていうのもな」


 ヘルヴォルテの言う通り、魔物の素材の処理をしたり使い道を決めたりというのもあるし。


「今日のところは深層に慣れてもらうぐらいでいいのではないかしらね。この後城の中を少し見学してそれから一旦帰りましょうか」

「んー、そうするか。ハイダーの配置位置とか色々決めながら、地下の入口を見てから帰るっていうことで。訓練は明日からかな」

「戦闘を見ていた限り、皆様共に鋭く的確な動きをしていました。私としても城の守りをしている魔物達に新しい陣形や戦法、戦術を教えることができそうな気がしています」


 なるほど。ビーストナイトやリトルソルジャー達は迷宮の魔物ではあるのだろうが、城の魔物を統括しているヘルヴォルテならば、指示を出して魔物に新しい戦い方を教えることもできるというわけだ。

 高度な要求に応えられるスペックを持った魔物達と、相手に応じて臨機応変に戦法を変えさせられる指揮官。こう考えると城の防衛は思った以上のものだな。

 まあ、互いに得る物があるようで何よりではあるだろう。




「――このお城は興味深いものばかりね。この浮石もそうだけれど」

「謁見の間や書庫の入口ね。あれは中々素敵だわ」

「あの騎士達と訓練というのも、楽しみね」


 と、ステファニア姫とアドリアーナ姫も城の中で色々見られて満足している様子である。

 食後に休憩を挟んでから、城のあちこちを見て回ったのだ。書庫の入口も、謁見の間のように彫刻が動いて道を作ってくれるという仕様になっていた。

 そうして一通り見て回ってから浮石に乗ってクラウディアの居住区画から降りてきたところである。


 クラウディアの私室に関しても見せてもらったが……基本的にはあまり使ってはいないらしい。迷宮村に作った洋館にいたりすることが多いそうで、今度機会があればそちらに案内してくれるそうだ。クラウディアとしてもそちらの方が思い入れのある場所なのだろう。


「ハイダーの位置はやはり浮石の間と、地下中枢の入口が良いかと存じますが」


 浮石が下まで降りて周囲を包む光のカーテンが消えたところで、ヘルヴォルテは腕にハイダーの一体を抱えたままクラウディアに尋ねる。


「そうね。その2点を押さえておけばとりあえずは大丈夫かしら」

「では、まずこの場所に」


 クラウディアの許可が下りたところで、ヘルヴォルテはそう言ってハイダーを浮石の間に放った。ハイダーはヘルヴォルテの指示を受けてちょこちょことした足取りで歩いていくと、所定の場所にしゃがみ込む。すると周囲に同化して見えなくなった。


「この浮石に関しては、やはりクラウディア様かヘルヴォルテ様の許可がないと動かなかったりするのでしょうか?」

「そうね。謁見の間より奥に人を入れることはあまり想定していないのだけれど、ここも侵入者対策という意味では許可しない限りは起動しないようになっているわ」


 グレイスの質問にクラウディアが頷く。


「さて。それじゃあ地下中枢区画の入口まで案内するわ。入り組んでいるからはぐれないようにね」


 そう言ってクラウディアは、浮石の間から続いている通路の内の1つに向かって歩き出す。俺達もそれを追った。

 通路はそれまでの回廊に比べると幾分か狭い。脇道などが多く、クラウディアの言葉通り、かなり入り組んでいるようだ。

 右に左にと曲がりながら進んでいくと、開けた場所に出る。そこは浮石の間と全く同じ作りの場所であった。


「戻ってきた……というわけではなさそうね」


 ローズマリーは一瞬怪訝そうな顔をしたが、頭の中で今まで歩いてきた道順を思い描いたのか、そんなふうに言う。


「そうね。浮石の間に似たような場所には何回か出るけれど、全て違う場所よ。間違った道を選ぶと、ぐるぐると歩かされて元の場所に戻って来てしまうという作りなのよ」


 なるほど……。目印でも残さないとマップを作ろうとしても混乱してしまいそうだな。

 仮に侵入されたとしても、悠長に探索をしていたらクラウディアやヘルヴォルテに察知されて、戻される地点に大量の魔物を配置して待ち伏せされる、などということになるだろう。

 浮石の間もそうだが広場には四方八方に通路があるから。包囲するにはうってつけだ。

 クラウディアに関しては手元に正体不明のマジックサークルを展開している。術式というよりは目的地まで向かうための正しい道順を示したもののようだ。時々曲がり角などでマジックサークルを確認しながらみんなを先導していく。


 そうして……どれぐらい歩いただろうか。何回か同じ構造をした広場に出たが、最後に広場を抜けて到着したそこは――縦に続く大きな穴の内径に、螺旋階段を設けたという、これまた見覚えのある場所だった。


「迷宮の入口に、似ていますね。というよりは、あの場所がここに似ているということでしょうか?」

「ええ。そうなるわ。この一番下には石碑ではなく、中枢に入るための設備があるのだけれど……。折角だし、下まで行ってみましょうか」


 螺旋階段を降りて下の広場へと向かう。そして――俺達は底に到着した。

 やはり迷宮と同じように広場になっていたが、神殿のように柱が何本も立っていて、その中心に虹色に輝く泉のようなものがあった。

 水なのか何なのか。鏡のようにあたりの景色を映し出している。綺麗ではあるが……片眼鏡を使わなくても肌で感じる程の魔力に満ちている。


「ここから中枢に降りられる?」

「ええ。この泉に飛び込めば、そこはラストガーディアンの統率下にある区域になるわね。地脈に一体化して融合した月の船の、内部でもあるわ」


 シーラの言葉に、クラウディアが頷いた。

 ……なるほど。迷宮の中枢はクラウディアの乗ってきた月の船そのものか。いや、融合したというのだから、船の姿を留めているとは限らないが。

 通り抜けて中枢部に入るということは、この泉はゲートのような役割を果たしているのだろう。

 何にせよゲートの先に進んだ場所の探索は明日から、ということになる。今日のところは引き上げて、アルフレッドと新しい魔道具等についての話をしてくるとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ