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596 深層城での試食会

「さて。では行きましょうか」


 イグニスの背中についたローズマリーがそう言うと、デュラハンの跨った馬がいななきを上げた。

 そうしてイグニスとデュラハンは一定の距離を取りながら肩を並べてその通りを疾駆していく。それぞれの重量武器を振り回し、途中にいるソルジャー級の群れをなぎ倒しながらだ。


 ローズマリーの操り糸が輝きを増し、デュラハンの大剣が闘気を纏えば――蟻兵士達がばらばらに吹き飛ばされていく。脇目も振らず一直線。肩を並べた戦士と後方を信頼していればこその動き。


「後ろはお任せください!」


 イグニスとデュラハンが討ち漏らした蟻達はシオン達やラヴィーネ、ベリウスらが空中から強襲を仕掛けて各個撃破する形だ。

 通りの逆側から挟撃を食らわせていた俺達と合流すると、バロールからの映像情報を元にカドケウスの変形したマップに従って次の場所へと移っていく。


 俺とグレイスが大物を叩き潰し、シーラ達がミジンコを片付けたので、味方全体の動きに融通が利くようになった。

 市街地を舞台として大規模な戦闘というと、ガートナー伯爵領でのエルマー達との戦いやカハールを倒しに行った時のことを思い出すが……あれと似たような状況だ。


 ライフディテクションやコルリスの探知で蟻達の地下の動きを把握して地下道を潰したり、セラフィナが相手の超音波による伝令を攪乱させたりといった要素が加わっているぐらいか。攪乱にはマルレーンのランタンやフラミアの幻術も力を発揮してくれている。


 そうして土魔法や水魔法、マジックスレイブによる魔法糸などで通りを封鎖しつつ、蟻達を誘導しながら挟撃を食らわせていけば……程無くして蟻兵士達の殲滅も完了したのであった。




「――プリズムフリーとソルジャー級は数が多いから……大体一ヶ所に集めておいて貰えれば、魔石を抽出しようかなって思ってる。有用な素材が取れそうなら、幾つか確保しておくけどね」

「分かったわ。では、鎧兵達にはそう指示を出しておく」


 戦闘が終われば……まずは剥ぎ取りの時間だ。みんなも色々聞きたいことはあるかと思うが、敵の第二陣などが出て来てしまったりすると話どころではないので。


 ミジンコと蟻兵士達は悠長に素材剥ぎをしていると日が暮れてしまうので、大半は魔石にしてしまう予定ではあるが――クラウディアの統制下にある鎧兵達が手伝ってくれるのでかなり捗りそうだ。

 蟻はそれなりの武器防具を装備しているので、そちらも回収、ミジンコは熱線を照射していた単眼あたりが剥ぎ取り部位に相当するだろうか。

 門番の鉄巨人は身体を小さくして屈むと、蟻やミジンコを丁寧に掻き集めて、それぞれを分けて山にしていく。


「この大きなのは?」


 と、シーラがT‐レックスに触れながら言った。


「んー。牙と爪、額の水晶を貰ったら、後は食材にする感じかな? 捌くのは大変そうだから魔法でやっておくよ」

「ん。了解」

「食用ですか。かなりの人数分になりそうですね」

「まあ、ね」


 アシュレイの言葉に苦笑する。


「マンモスソルジャーの肉とはまた違うし、食用に適してるかはまだ分からないけど……味が駄目なら後で処分すればいいし」


 とりあえず量だけはマンモスソルジャーを上回っているし、燻製や干し肉にすれば日持ちもするだろう。


「でしたらこの後、城に運んで少量を料理し、試食をしてみるというのは?」

「ああ。それが良いかも知れない」


 ヘルヴォルテの言葉に頷く。味が駄目なら纏めて魔石にしてしまうしかないだろうな。


「ドラゴニアンはどうしましょうか」


 グレイスが尋ねてくる。


「鱗……は闘気で強化してないと強度はそこまででもないかな。斧は業物みたいだから貰っていくとして――」


 後は魔石を抽出して、何か特殊な装備に使えたらと思う。グレイスと近接戦で競り合えるだけのポテンシャルを秘めているのだから、結構良質な魔石が取れるだろうと思われる。


「コルリスも、お疲れ様」


 ステファニア姫が笑顔で地面から顔を出したコルリスを迎える。

 地面から出てきたコルリスは、蟻や蟻の残した装備品を持って来てくれたようだ。結晶中に埋め込むような形で、地面から引っ張り出していた。

 どうやら地下道で片付けた蟻達を回収してきてくれたようだな。では、作業をすすめていくとしよう。


「それにしても、さっきテオドールの使った技は凄かったわね」


 そうして暫く作業を続けていると、剥ぎ取りの状況が一段落してきたからか、ローズマリーがそんなふうに言った。


「確かに、さっきの魔力循環は――何か普段と違いましたね」


 グレイスもそう言って俺を見てくる。ふむ。確かに、みんな気になっているし心配しているようなので、ある程度説明しておく必要があるかな。


「んー。長老の文献や母さんの研究を元に、魔力循環に応用を加えたんだけどね。オリハルコンで集めた環境魔力を変質させて取り込んで……循環で今まで以上の増幅を得る、と」

「……何というか。色々無茶をしているように聞こえるのだけれど」


 クラウディアが言った。

 環境魔力を取り込む、というところで、みんなが心配するような眼差しを向けてくる。


「循環錬気で見ても今の魔力の流れは正常だよ。オリハルコンで変質させてるお陰だから、その点は問題無さそうだけど……それとは別に課題も見つかってる」


 と、先程実際に使ってみた後で思った事をみんなに伝えていく。強化し過ぎた場合に考えられる反動や、意識とのギャップ等々。


「――だから、術を使うにしても無理はできないっていうか……身体能力への意識の差を埋められないと、結局戦力が下がってしまうことも考えられるから。このへんは練習して、上手く釣り合いの取れるところを見つけていくつもりではいる」


 諸々隠さず話すと、みんなは真剣に聞き入っていたがやがて頷いた。


「本当に、無茶はしないで下さいね」


 真剣な表情でグレイスが言う。確かに……そうでなくても心配をかけているところはあるしな。


「そうだね。分かった」


 そう答えるとグレイスは目を閉じて頷く。みんなもそれ以上は魔力循環については触れないことにしたようだ。

 こうやって信頼してくれているわけだし……俺もしっかりと練習はしておかないとな。




 転送して良いものは迷宮外へとクラウディアに転送してもらい、俺達はそのままクラウディアの居城に向かった。

 魔物が出るとは言っていたが予想以上の大規模戦闘で、蟻兵士の掃討戦までやってしまったからな。

 クラウディアの居城で訓練をしたり、城の地下から繋がる中枢部への道を見たりするという予定でいたのだが……まずは休憩し、昼食がてらにT‐レックスの試食会をするということになった。


 クラウディアによればソードメイデンが料理してくれるということで……好みの味付けなどを聞かれたのでみんなの要望を取り纏めて伝えておいた。


 そうして暫く食堂で待っていると、香ばしい匂いが漂ってくる。ソードメイデンが銀の食器に盛り付けて料理を運んできてくれた。

 昼食に関してはこちらも用意してきているので、ローズマリーが魔法の鞄から取り出したバスケットから、サンドイッチなどをみんなに配っている。


 肝心の恐竜肉であるが……香辛料を利かせて、まずはシンプルに焼いてみた、という感じだ。

 各々のところに料理とお茶が行き渡ったところで試食会となった。中毒症状などに備えてクリアブラッドの魔道具もあるので対策はばっちりだ。


「それじゃあ、頂きます」


 ナイフとフォークで切り分け、口に運ぶ。

 ……ああ。これは――。


「鳥肉、ですね」

「鳥だわ」

「ん。鳥の味」


 と、みんなの声が重なる。満場一致で鳥肉、という感想だった。ああ。恐竜は鳥類に近いという話だしな。

 それにしても……もっと大味かと思ったが意外に癖が無いというか。

 臭みを余り感じないので、保険の意味合いで使ってもらった香辛料が無くてもいけたかも知れない。


 特筆するべき部分があるとするなら……皮の部分が肉厚なので、鳥皮が好きなら満足いくまで食べられるかなというところだ。油でパリパリに揚げたり、焼き鳥ならぬ焼き恐竜にするというのも相性が良さそうだな。うん。とりあえずT‐レックスの肉は全て確保ということで。

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