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574 賢者達の魔道具

 後程、賢者の学連に向かってから魔道具等を見せてもらうということで、一先ず長老達との話は一段落した。


「おお。本当に鉱石を食べておるな……」

「うむ。興味深い生態だ」


 長老達としてはやはり珍しい物に興味が行くのか、真剣な面持ちでコルリスに鉱石を食べさせている。別の長老は俺達の作った魔道具を見て、アルフレッド達と色々技術的な話をしたりであるとか……魔術師らしい好奇心旺盛な部分を見せていた。


 シャルロッテもグレイスやアシュレイと共にアルファやラヴィーネ、ベリウスをブラッシングしたり、食事を与えたりして過ごしてご満悦といったところである。まあ……楽しんでくれているようで何よりであるが。


 その傍らで、俺もリンドブルムやカドケウス、バロールに食事や魔力を与えたりして過ごす。イルムヒルトがリュートを奏で、窓枠に座ったセラフィナが足をぱたぱたと動かしながら鼻歌を歌ったりと、のんびりとした時間が過ぎていく。

 マルレーンなどは、クラウディアとペネロープがいるので上機嫌な様子であるが。


「――確かに、若い巫女達をタームウィルズに残しているので、気がかりではありますね」

「そう? でも、その巫女達は……寂しがるというよりも、心配のほうが強いように思えるわ。慕われているのね」


 クラウディアが目を閉じ、穏やかな笑みを浮かべながらペネロープに答える。

 若い巫女達というのは、マルレーンと同年代ぐらいの巫女達のことだろう。小さい内から神殿に入って修行している巫女見習いや神官見習いも多いし。クラウディアには、何となくそういう気持ちも届くのだろう。

 もしかすると、ペネロープを心配しているタームウィルズの巫女達がクラウディアに祈りを捧げているのかも知れない。


「今晩あたり、私から声を掛けて……安心してもらえるかしらね」

「それは――あの子達も喜ぶのではないかと」


 表情を明るくするペネロープの言葉に、マルレーンもこくこくと頷く。

 クラウディアは神託という形で、信徒にメッセージを送ることができるのだったか。夢枕に立つとか、そういうイメージで良いのだろうか。


 そうして時間はゆっくりと過ぎていき……やがて陽が暮れかけた頃、見知った顔の女官が俺達を呼びに部屋へやってきた。

 初めてシルヴァトリアにやって来た時にも王城を案内してくれた人物である。

 ステファニア姫とは元々顔見知りであったはずだ。立場上警告などをするのが難しいながらも、俺達を案内してきたジルボルト侯爵と、ザディアスとの間に繋がりがあることを心配してくれていた記憶がある。


「晩餐の用意が整いました」

「ありがとうございます。カルメーラさん」


 頷いて答えると、カルメーラは穏やかに笑みを浮かべて一礼してくる。


「久しぶりね、カルメーラ」

「はい、ステファニア殿下」


 ステファニア姫にも声を掛けられ、笑顔で応対していた。

 さて。では晩餐の席に向かうとしよう。歓待を受け、その後で賢者の学連に行くというわけだ。


「それじゃあ、行ってくる。留守番を頼む」


 そう言うと、中庭の使い魔達が頷くようにして答えた。コルリスに関してはぺたんと腰を下ろしたままで、片手を上げて応じたが。

 それを目にしたカルメーラの笑みが一瞬硬直した気がするが、どうぞ、とすぐに復帰して俺達を案内してくれる。その後に続いて王城の回廊を進んでいくと、やはり前にも来たことのある、大きなダンスホールに通された。


 既に討魔騎士団も案内されていたようだ。風呂上がりという者もいるらしく、髪が湿って、血色が良くなっている者もいた。

 俺達が長老達とゆっくりと歓談をしている間に、彼らも彼らで寛いでいたらしいな。


 テーブルには豪勢な料理が並んでいた。ホールに流れる楽士達の奏でる音楽等々、前にヴィネスドーラの王城で宴席に出た時に似た印象だ。そうしてホールを見通せるバルコニーに用意された席に通される。


「何かありましたら、声をお掛け下さい」


 カルメーラはそう言って一礼すると、バルコニー席の端で静かに待機する。

 と、そこにエベルバート王やシルヴァトリアの重鎮達、貴族や騎士、魔術師達もやって来た。楽士達が奏でる曲を変え、ダンスホールに招かれた者達の談笑の声も静まっていく。

 エベルバート王はそれを見届けて頷くと立ち上がり、ダンスホールに声を響かせた。


「タームウィルズから――いや、我等が対魔人同盟、4ヶ国から結集したそうそうたる勇士達を、今宵、この席に迎えることができたことを余は喜ばしく思う。さて、先だって魔人達の跳梁が我が国に騒乱をもたらしたことはそなたらの記憶にも新しいであろう。我が国のみならず、古今、その被害を追っていけば枚挙に暇がない。強大な力を持つ魔人達相手に、余らの力が及ばず後手に回ってきたのも事実だ。しかしだ。我等はこうして手を取り合って立ち上がった」


 そうしてエベルバート王は一旦言葉を切り、居並ぶ諸侯を見渡す。


「余は――この討魔騎士団の派遣が、防衛ではなく魔人共に対する反撃に繋がる一手になることを願っている。故にその任務の成功と武運、そして無事を願い、今宵の宴を開いたのだ。勇士達の旅の疲れを癒し、活力を与え、存分に力を振るえるように。盛大に彼らを持て成そうではないか!」


 エベルバート王がそう言うと、諸侯達から大きな歓声と拍手が巻き起こった。エベルバート王の名や討魔騎士団を称える声がダンスホールに響く。

 防衛ではなく、反撃に繋がる一手、か。そうだな。今回のベリオンドーラ調査は確かにそういうものだ。相手の全容や手札が解らなければ迂闊な手出しが難しいのは事実である。気合を入れて臨むとしよう。


 そして晩餐の席が始まった。楽士達はまた奏でる音楽を楽しげなものに変える。皆が談笑しながらの賑やかな席だ。

 宴の席の目的が俺達や討魔騎士団に楽しんでもらうというところに主眼が置かれているからか、貴族達の挨拶回りというようなこともない。バルコニー席から見ていると、貴族達よりも武官同士の交流のほうが多いような印象ではあるが。


 料理も見た目は手が込んでいるが内情は香辛料の利いた肉料理であるとか、いかにも力が付きそうなものが主流だ。武官向けに作った料理であるが、食べていると体の内側から熱くなってくるというか。

 まあ、あまり重いものばかりにならないように配慮もされているようだが。サラダやら果物やら、色々用意してある。


 とりあえず、ここはしっかり食べて明日に備えるべきだろう。シーラなどはナイフとフォークを両手に食事を満喫しているしな。

 そうして晩餐の席は賑やかに過ぎていくのであった。




 やがて晩餐が終わり、俺達は賢者の学連へと向かった。エリオット達討魔騎士団は、今日は王城に泊まる形だ。使い魔達は――俺達と同行する形で学連に来ている。


「学連も久しぶりですね」

「ああ。ここの庭の雰囲気は結構好きだな」


 グレイスの言葉に頷く。ヴァレンティナの話では、この少し森のようになった中庭を母さんも気に入っていたのだとか。

 雪を被った学連の敷地内の中庭を眺めながら、魔法の明かりに照らされた歩道を進んでいくと、大きな塔の入口へとたどり着いた。


 ジークムント老の後に続いて、学連の大書庫に通される。塔を貫くように内側の壁に書棚がずらりと並んでいるという……相変わらず壮観な光景だ。

 こうやって本に囲まれて暮らすというのは……割と嫌いじゃないな。俺も小さい頃は父さんの書斎から色々な本を拝借してきて読み漁ったりしていたし。


「ここは良いわね。時間があるのなら、長期滞在したいところではあるのだけれど」


 と、ローズマリーが書棚を見上げながら呟く。まあ……ローズマリーも王城の隠し書庫で色々研究していたようだからな。


「散らかっていて済みませんな。色々と文献を漁ったりしていたもので」


 と、シャルロッテの父、エミールが言う。彼の言う通りテーブルの上には様々な古文書の類が積み重なっていた。

 ベリオンドーラや魔人に関する書籍。或いは魔人達に対する研究等々といったところか。


「いえ。ここにある書物は魔人関係のものなのでしょうし」

「ご理解いただけて助かります。では、早速本題に入りましょうか」


 エミールは苦笑を浮かべたが、真剣な表情になった。

 そう。昼間話をしたが、作戦の補助になるような術式ないし魔道具の用意があるそうで。


 長老達が小さな指輪を持ってくる。


「これは?」

「ふむ。これは魔人対策として我等が代々研究を進めていたものでしてな。あの連中は、人の感情を糧にしている。忍び寄ってきた者をそれで察知したり、戦いの場においても感情の揺らぎを見出して、それに付け込んできたりするわけです」

「確かに」


 ただ、連中は自分に流れ込んでくる感情を察知できると言っても、何となく分かるというだけで、相手の正確な位置まで察知はできていないようだし、感情の動きだけでは相手が何を考えているかまでは正確には分からないのだろう。

 まあ、自分に敵意や恐怖を向けてくる者がいると察知できるだけでも不意打ちは通用しにくくなるし、隠れていること自体がバレてしまうというのはある。

 だから感情を察知されない、ゴーレムを送り込むという作戦になるわけだ。


「魔人に相対する者は、細かな感情の動きを塗り潰すような激情を以って立ち向かうか、或いは戦いの中にあっても常に勇気によって己を奮い立たせ、冷静さを保たねばならない。でなければ怯えや慢心、油断に付け込まれる――と、七家では言い伝えられておりましてな」

「ん。テオドールは、塗り潰す方?」

「あー。そうかも知れない」


 首を傾げるシーラに、苦笑してそう答える。


「ですから、テオドール殿のゴーレム――シーカーを使う作戦には感心させられました。確かにあれは有効でしょうな。話を戻しますと……この指輪は、魔人達へ感情が伝わるのを遮断する効果がある、というわけです」

「この指輪は1つだけでなく、作り置きがあります。全て持っていって下され」


 なるほど……。魔人と戦う時の対策にもなるし、仮にベリオンドーラにある廃城への潜入調査を人力で行うのなら、必須と言っても良いぐらいだろう。

 数があるのなら、前に出る人員全員に配備したいところだ。この指輪を使えば……魔人に対しての作戦の幅も広がるだろう。とは言え、無理はせずに作戦の補助用として位置づけるのが今回は無難だろうけれど。


「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」


 そう言って頭を下げると、長老達は笑みを浮かべて頷くのであった。

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