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563 旅立ちへ向けて

 ミシェル達と別れ、男爵家に戻る。

 アシュレイやエリオットとカミラの帰郷で喜んでいるケンネルやドナートを見ていると、みんなでもう一泊と行きたいところではあるが、メルヴィン王やエルドレーネ女王を初めとして、色々忙しい身の人物が多いので……何日も休暇を取るわけにはいかない事情がある。ベリオンドーラ行きの準備も色々とあるしな。


 とは言え石碑での行き来は簡単にできるので、先にタームウィルズにメルヴィン王達を送っていき、その後で男爵家に戻ってきて過ごすというのも可能だ。予定が空いているのなら、そういうのも悪くはないかも知れない。

 そういった事情を話すと、ケンネルは相好を崩して頷いた。


「――そうですか。では夕食など、こちらでいかがでしょうか」

「分かりました。では、後で戻ってくることにしましょう」


 賓客がいると歓待の宴会だなんだと大きな準備が必要だが、身内だけということになれば普通の夕食で済むだろうしな。


「では、ドナート殿も、それまでゆっくりしていって下さい」

「かたじけない」

「それでは、一旦私達はタームウィルズに戻りますね」

「はい。アシュレイ様」


 また夕食時に戻ってくるということもあって、別れの挨拶も割合簡素ではあるが、アシュレイとエリオットはケンネルの体調はどうかなど、色々と気に掛けている様子だ。


「いやいや、前より本当に仕事も少なくてですな」


 と、ケンネルが苦笑する。どちらかと言うとケンネルの性格からして無理をしてしまうところを心配している感じだな。


「2人が心配なら循環錬気で軽く診ておこうか?」


 と、提案してみると、エリオットが笑みを浮かべて頷いた。


「それは、助かります」

「内側の事は自分では分からなかったりするものね」

「メンフィス様やジークムント様もどうでしょうか?」


 アドリアーナ姫の言葉にステファニア姫も頷いて、メルヴィン王やジークムント老に循環錬気を勧める。


「ふむ。折角の機会であるしな」


 ……というわけで健康診断を兼ねて何人かに循環錬気を行ってから帰る、ということになったのであった。


 そうして、一人一人簡単な問診をしながら循環錬気で内側の状態を見ていく。……なんだか、医者の真似事をしているような気分ではあるが。


 結論から言えば、内面から見ても大きな異常はなかった。とは言え、健康診断というのは定期的に行うのが重要なので、またこういう機会を作るのは良いのかも知れない。

 異常、不調はなくとも個々人で弱い臓器、負担のかかっている臓器というのはあるものなので、そういったところを魔力の流れを良くして活性化させてやれば、表面的な、自覚できる部分での体調も良くなるという寸法だ。


「天候が崩れると古傷も痛むものなのだがな……」


 と、ドナートは循環錬気で魔力の流れを整えて補強した、その結果に目を丸くしていた。


「うむ。確かに身体が軽いのう。テオドールはこういった治癒術の方面でもやっていけるのではないかな」

「どうでしょうか。医術と言っても一部の真似事でしかないので、専門にするにはまだまだではあると思うのですが。まあ、今の状況が片付いたらそういった研究をしてみるのも良いかも知れませんね」


 機嫌の良さそうなジークムント老の言葉に苦笑する。

 研究というと……例えば、発酵促進の魔法を使ってカビから抗生物質を抽出したりだとか。

 言うほど簡単ではないだろうし、水魔法系の治癒魔法についてはそこまで得意でもないので、今のままでは魔力反応からの診断と、それに伴う整調、補強程度のものではあるから、専門にするにはもう少し勉強しないといけないだろうな。




「では、ケンネル。また後で会いましょう」

「はい、アシュレイ様。お待ちしております」


 循環錬気を終えて、ゆっくりと茶を楽しんでからタームウィルズへ戻るということになった。

 ケンネルに見送られて、石碑からタームウィルズへ飛ぶ。目を開くと俺達はタームウィルズの迷宮入口へと戻って来ていたのであった。


 通信機で連絡してあるので、迷宮入口には騎士団が既に待機していた。メルヴィン王を迎えに来たのだろう。


「お帰りをお待ちしておりました」

「うむ。テオドール、エリオット。例の調査の件で話がある。帰ってきたばかりで済まぬが、共に来てもらえるかな」

「はい」

「承知しました」


 例の調査の件。つまりベリオンドーラへの討魔騎士団派遣と、調査の話だ。色々と打ち合わせやら確認やらがあるからな。


「私も行った方が良さそうね」

「同じく、ご一緒します」


 クラウディアとフォルセトが言う。クラウディアは転移魔法絡みで万が一の際に動いてもらうことになるし、ベリオンドーラは月の民に関係が深い。

 フォルセトはと言えば、相手の首魁であるヴァルロスを知っている。2人の意見は参考にできるだろう。


「では、私達は一旦家に戻ります」

「分かった。カドケウスとバロールはそっちにつけておくよ」


 グレイスの言葉に頷く。猫の姿をしたカドケウスがグレイスの隣に行き、バロールが俺の肩から離れた。カミラも家まで送って行かないといけないしな。


「それじゃあ、後から王城に行くわ」

「うん。みんなの意見も聞きたいからね」


 ローズマリーの言葉に頷く。人が多ければ俺が気が付かないことも気が付いてくれる可能性が高まる。視点は多いほうが良いだろう。

 同様に、エルドレーネ女王も王城へ向かって、打ち合わせに加わってからグランティオスに戻ることになるわけだ。

 迷宮入口から外の広場に出て、共に用意されていた馬車に乗り込んで、各々の向かうべき場所へと向かう。コルリス達も、殿について車列の警備だ。


 無事に王城に到着すると、すぐに迎賓館の貴賓室に通された。


「ふむ。まずは着替えてくるとしよう。少々待っていてくれ」

「私達も、着替えて来るわね」

「また後程」


 変装用の指輪を外して、メンフィスからメルヴィン王に戻るということなのだろう。ステファニア姫達も、お忍びなので目立たない服装にしていたが、王城に戻ってきたからには相応しい格好をしなければならないようで。着替えてくると言って部屋を出て行った。


 茶を飲みながら待っていると、言葉通りすぐにメルヴィン王達は戻ってきた。ジョサイア王子も一緒だ。


「さてさて。では話を始めるとしよう」

「はい」


 まずは基本的な確認事項からだな。出発の日時、装備は整っているか、訓練の成果は……等々の話からである。


「魔道具や装備品については予定通りの仕上がりです。討魔騎士団全員に防具も行き渡りました」


 エルハーム姫が言う。このあたりはビオラと連日頑張っていたからな。


「では、予定通りに動けそうではあるな」

「まずステファニア殿下の領地に立ち寄り、そこから海を渡ってジルボルト侯爵の領地へと向かう……ということになりますね」


 シルヴァトリアとも連携して、という形になるだろう。当然、各国国王の名代となるステファニア姫達3人も同行する形になるわけだ。


「魔人達の根城を調査、か。危険な任務であるな」


 エルドレーネ女王がその内容に目を閉じて言う。


「そうですね。敵からは察知されずに敵戦力の大まかなところを見極められれば理想的ではありますが。ただ……連中の今までの動きからすると……目的が近いので大きな戦闘は避ける可能性もあるかと。このあたりは両方の出方と戦力次第でしょうか」


 敵が必要以上の追撃を仕掛けてくるような構えを見せるなら、撤退すると見せかけて分断して叩くなどの戦法もできるだろう。シリウス号はそういった戦闘を、しやすくするためのものである。


「くれぐれも深追いはしないように。テオドール達と討魔騎士団だけに負担を強いるようなことは考えておらんのでな」

「分かりました」


 メルヴィン王の言葉に頷く。敵拠点を攻めるより戦力を整えた状態での迎撃を行う方が有利、というのはローズマリーの意見ではあったが。そのあたりはメルヴィン王やジョサイア王子も意見を同じくしているらしい。


「それに、エベルバート王とファリード王より、封印解放の日より前に援軍を送るとの書状を貰っている」

「無論、グランティオスもな」

「それは心強い」


 ジョサイア王子とエルドレーネ女王の言葉に笑みを返す。エルドレーネ女王は頷いて続ける。


「タームウィルズの住民達には避難訓練をさせているという話であったな。呪歌を上手く使えば、住人の不安や恐慌を抑えることができると思うのだが」

「それは良いお考えですね」


 冷静に考えて行動し、パニックを起こさせない。避難訓練の通りに動けるとなれば、怪我人なども避けられるだろう。

 となると呪歌を放送するための拡声器の魔道具も必要だろうか。警報装置やシリウス号の伝声管を少し改造してやれば行けるだろう。


「自主的な避難が難しい住民のいる家も把握しておるし、それらの者達を迅速に収容する手順も確認済みではある。冒険者達にも保存の利く食料を多く買い取るように依頼の通達を出して来ているのでな。前に言った迷宮からの物資に頼らずとも、籠城となっても食料面での不安も少ないと思ってもらって良いぞ」

「なるほど」


 水源に関しても城で独立して確保できている状態だしな。

 そんな話をしていると、カミラを送ってきたグレイス達も、迎賓館にやって来たのであった。

「お待たせしました」


 と、グレイス達が部屋に入ってきて、一礼する。


「うむ。では、揃ったところで想定され得る事態や可能性などをもう一度詰めておくか」


 そう言って、メルヴィン王は何枚かの地図をテーブルの上に広げた。

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