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531 男爵領での再会

 精霊王達は月神殿へ向かい、それから王城へ向かうとのことだ。

 メルヴィン王によれば、俺達との話し合いをしている間に歓迎の準備を整えておいたとのことである。

 確かに、精霊王が揃って来訪というのも割合急な話だったからな。精霊王側としてはあまり歓待などを求めるなどの思考はないのだろうが、月光神殿の封印を護ってくれている相手だけに、ヴェルドガル側としては巫女を交えて歓迎するというのが当然だろうし。


 そんなわけで、儀式場での話し合いも解散となった。

 ラスノーテに関してはマールを介してアルフレッドのほうから人化の術の魔道具を渡しておいてくれる、とのことである。明日はまた、地下水田に精霊王達が見学に行きたいと言ってたが、ラスノーテの一件も含めて、どうなることやらといったところだ。


 俺達はと言えば、家に帰って明日からの仕事に備えると言ったところか。それに……昨日約束した風呂の一件もあるしな。


 そう。風呂だ。今日は早め早めに風呂に入ったりしてみんなと長時間を過ごす予定なので、家に戻ってからすぐに湯を張って入浴となった。

 先に湯浴み着に着替え、湯の温度の具合などを見ていたわけだが……うーん。やや落ち着かない。というのも、今日一緒に入浴する顔触れが――。


「テオ、失礼しますね」

「入るわよ」


 浴室にグレイスとローズマリーが入ってくる。

 2人とも湯浴み着であるが……こう、2人してスタイルが良く、温泉の湯浴み着よりも露出度が高いので、直視していると頭がくらくらしてきそうな光景ではある。襟元が開いているし、スリットが深いので割合太腿も露出しているしで。

 ローズマリーは自分の肘の部分に手をやって軽く腕組みをするようにして胸元を隠そうとしているが……かえって胸を強調してしまうような結果になっている。

 まあ……指摘するのも泥沼なので何も言わないでおこう。


「あー……。お湯の温度はこれぐらいでいいかな?」


 と、注視していると精神的に厳しいので2人に尋ねてみる。

 入浴するにしても、それぞれにお湯の好みの温度があるのだ。アシュレイやマルレーン、ローズマリーは温めの湯に時間をかけて浸かるのが好きなようだし、グレイスとクラウディアはそれよりも少し熱くしたほうが好みであるから……今日はほんの少し高めにしてどちらのニーズも満たせるような温度にしてある。


「そうですね。丁度良いのではないでしょうか」

「入っている間に温度も下がるものね」


 グレイスとローズマリーは浴槽に触れてから頷く。


「では、そちらへ」


 と、グレイスが言う。この後は洗い場で掛け湯をしてもらいながら髪や背中を洗ってもらったり、逆にこちらが洗ったりというのが何時もの流れだが……。


「わたくしは……ええと、そうね。背中を流すことにするわ」

「分かりました。では、私が髪を」


 気恥ずかしげなローズマリーに、穏やかな笑みを浮かべたグレイスが答える。


「それじゃあ……よろしく」

「はい」


 風呂用の小さな椅子に腰かけてグレイスとローズマリーに手桶で掛け湯をしてもらう。前と後ろから湯浴み着の2人に挟まれているので若干落ち着かないが……髪を洗う段階になれば目を閉じてもいられるか。

 髪を濡らして洗髪剤を馴染ませ、グレイスのほっそりとした指が頭皮をマッサージするように動く。


 ふと、脇腹に指先で触れられる。ローズマリーの手だろう。


「テオドールの身体は、傷が多いわね」

「その脇腹の火傷の痕は、炎熱の魔人の時の物ですね」


 俺は髪を洗ってもらっている途中なので代わりにグレイスが答えた。


「わたくしがまだ、王城にいた頃の話だわ」


 ローズマリーが言って、傷痕のあるらしき場所に触れた後、背中を軽く撫でてきたりする。


「何というか……わたくし達とは違うのよね。弾力というか何というか」


 グレイスが一緒にいるからだろうか。2人の時よりも逆にローズマリーの知識欲旺盛な部分を素直に出せるところがあるのかも知れない。


「そうですね。テオも男の人、だからでしょうか」

「かも知れないわ」


 そんなやり取りをしながらグレイスも首から肩にかけて軽く触れてきたりする。


「いや……。ちょっと、くすぐったいんだけど」

「あら……? それは申し訳なかったわね」

「ふふっ」


 洗髪剤を洗い流してもらい、そのままローズマリーに背中を洗ってもらう。

 その後はいつも通りにというか。俺も2人の髪と背中を洗う。それから各々が身体を洗い終わったところで3人で湯に浸かった。

 俺の両隣をグレイスとローズマリーが固める形になった。最初はやや落ち着かなかったが、湯に浸かる心地良さに身を任せていると段々とリラックスもできてくる。

 2人と手を繋いで循環錬気を行えば、文字通りに疲れが湯に溶けていくような感覚であった。




 そして――翌朝。

 昨晩は炬燵のある和室で循環錬気を行ったり、寝室で循環錬気を行ったりとのんびりと過ごさせて貰った。早めに床に入って睡眠時間を多めに取ったせいか、目覚めはすっきりとしたものだ。


「……ん。おはよう、アシュレイ」

「おはようございます」


 目を覚ますと、アシュレイの顔がすぐ隣にあって。視線が合うと微笑みを向けて来た。


「今日は、ミシェルさんを迎えに行くのでしたか」

「そうだね。朝食をとって、少しゆっくりしてから男爵領に行く感じかな」

「分かりました」


 男爵領に足を運んで、ケンネル達にも会うことになるからか、アシュレイは朝から上機嫌な様子であった。昨晩は循環錬気に使う時間も長かったからか、血色も良いし。

 と――背中から軽く触れられる。肩越しに振り返ると、マルレーンが屈託のない笑みを浮かべていた。


「ああ。昨日、お風呂場でのことを話していたのよね」

「そうですね。テオの背中に触れると、鍛えてあるのが分かって頼もしいなと」


 クラウディアの言葉にグレイスが微笑み、マルレーンがこくこくと頷く。


「テオドール様は、お腹のほうも私達とは大分違いますよね」


 と、アシュレイが腹筋のあたりに触れてくる。アシュレイを見やると、悪戯っぽく小首を傾げて笑う。


「あー……。何か……前にもこんなことがあったような」


 そう言うと、彼女達は顔を見合わせて目配せし合う。

 ローズマリーがこの後のことを予想したのか、小さく肩を震わせて笑った。そして僅かな間を置いて、みんなが布団の中でじゃれるように抱きついてきたり、くすぐったりしてきた。


「いや、ちょっと……その人数は――」


 多勢に無勢だし跳ねのけるというわけにもいかないので、どうにも分が悪いというか何と言うか。ほとんどされるがままに任せて擽られたり、あちこち撫でられたりしてしまうのであった。




 ――といったアクシデントがあり、朝から色々と賑やかなことになってしまったが……朝食をとってからは予定通りだ。シルン男爵領に飛んで、温室を預けている魔術師、ミシェルを迎えに行く。


「お帰りなさいませ。お待ちしておりました」


 男爵家の地下にある石碑部屋から邸内に出ると、連絡を受けて待っていたシルン男爵家の家令、ケンネルが俺達を迎えてくれた。


「ただいま戻りました、爺や」

「ご無沙汰しております、ケンネルさん」


 アシュレイと共に挨拶をするとケンネルは相好を崩した。


「アシュレイ様は、今日は一段と血色が良くてお元気そうでいらっしゃる」

「ふふ」


 ケンネルの言葉にアシュレイは小さく、楽しそうに笑った。朝のことを思い出したのかも知れない。それを見てケンネルもますます嬉しそうに笑みを浮かべる。まあ、こうして安心してくれたのなら何よりと言ったところではあるが。


「ケンネルさんは、最近のお身体の調子はどうなのですか?」

「私めのことまでお気遣いいただけるとは。いや、最近良いことが重なっておりますし、今までこっちでやっていた仕事も冒険者ギルドと分担になっておりますからな。仕事の量も少なくなっており、食欲も以前よりも増しているぐらいでして、至って健康ですぞ」


 そう言ってケンネルが笑う。うん。確かにケンネルも血色が良い。ギルドとの関係に始まり、エリオットが帰ってきたことや、カミラと結婚したこと、男爵家の家臣達の動静等々色々な問題も落ち着いているしな。

 まあ、念のために後で循環錬気で体調を見ておけば尚安心といったところだろうか。


「さてさて。ミシェル嬢も、もうお見えになっておりますよ」


 と、再会の挨拶もそこそこに、ケンネルは応接室に向かって案内を始める。うむ。約束の時間よりは早めに動いているが、向こうもそうらしい。待たせてしまうのも悪いのでミシェルに会いにいくことにしよう。


 温室の経過観察の資料も貰える予定だからな。ノーブルリーフに関してもミシェルから色々聞けると思うが、ケンネルの和やかな様子からすると、どうやらそのあたりの結果も良好そうだ。

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