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527 迷宮と討魔騎士団

 初めてベリウスを見る騎士団員達がほとんどだったのでその姿に若干驚いていたようだが、ステファニア姫とアドリアーナ姫がベリウスの喉元や頭を撫でたりと、割合気軽に接しているのを見て、気が抜けたようにも見える。ベリウスはベリウスで、大人しく尻尾を振っているし。

 というわけで、第一印象的な物は悪くないようだ。騎士団員達はマンモスソルジャーやプリズムディアーなどの解体に移った。


「今日からはしばらくマンモスソルジャーの肉が食えるのか。ありがたいな」

「俺は鹿も好きですよ」


 と言った具合で、討魔騎士団の面々は談笑しながら魔物を捌いたりとサバイバル生活に慣れてきているというか、タフになって来ている印象がある。

 手際良く解体すると、必要のない資材は迷宮外に送ったりと、てきぱきと作業を進めていく。

 毛皮、角や牙、それから間欠泉の中からスノーゴーレムのメダルを拾い上げ、それを外へと転送。

 肉の類は討魔騎士団の食事になるということなのか。迷宮外に送るより確保する分が多い。外に送るのは王城に献上する形だろうか。

 間欠泉の水を手桶に汲んで、台車に積み込み、あっという間に本陣に戻る準備も完了といった具合だ。コルリスも、岩ミミズの残りを持ち帰るようで肩に担いでいたりする。


「では、帰投する」

「はっ」


 準備が整ったのを見て取ったエリオットが指示を出すと、台車を中心に護衛する隊形をとって移動を開始する。物資輸送も軍の仕事と考えると練度の高さが窺えるな。

 ウェルテスやエッケルスは元々軍属だけあってそういう練度の高さを理解できるらしく、感心したように頷いていた。




 討魔騎士団の野営地は――そこからはそう離れてはいなかった。

 きちんと陣地としての体を成しており、周囲の樹氷を切り倒して柵を作り、そこから先端を削った木を張り出させる形で組むことで構造の補強をしつつ防御力も高めているといった具合だ。

 陣地には魔法的な結界が張ってあるらしく、柵の内部は案外暖かかったりする。天幕の中なら快適なのではないだろうか。樹氷の森は長時間過ごすには割合過酷な場所ではあるが、色々工夫が窺えるな。

 討魔騎士団の本隊が帰ってくると後詰めの騎士団員達が顔を見せる。


「これはテオドール殿。ステファニア殿下、アドリアーナ殿下もお帰りなさいませ」

「こんにちは」

「ええ。ありがとう」


 一礼してくる騎士達に挨拶を返す。


「ご無事で何よりです、団長殿」

「ああ。敵陣は落としてきた。間欠泉は残るから、氷を砕かずとも水はしばらく豊富に使えそうだ。マンモスソルジャーも倒したから、食事も豪華になるかも知れない」


 エリオットが言うと、出迎えに顔を見せた騎士団員達が沸き立つ。


「それは素晴らしいですな!」

「だが、食事の準備を始める前に、新しく討魔騎士団に加わる顔触れを紹介する必要がある。速やかに発令所の前に整列するように」

「はっ!」


 命令を受けて騎士達が伝令に走っていく。戦利品を運んできた騎士はそれを炊事場に持っていった。


「どうぞ、こちらへ」


 と、エリオットに野営地の中心部に位置する建物に案内してもらう。


「天幕ではないのですね」


 アシュレイがその建物を見て首を傾げるとエリオットは穏やかに笑みを浮かべて頷く。発令所は……石のブロックを組んで作られた建物であった。作りは簡易だが頑丈そうではある。

 継ぎ目などが見られるので魔法建築で作られたものだ。この手の魔法建築ができそうなのは……討魔騎士団ではライオネルあたりだろうか。


「そうだね。月齢の構造変化で無くなってしまうものだけれど、魔物に陣中まで攻め込まれた時に砦代わりに使えるものがあると命運を分ける部分もあるかなと思ってね」

「確かに、これなら内部で安全に赤転界石も使えますね」


 グレイスが発令所を見上げて頷く。2階部分もあるようで、見渡しのいいところから矢を射掛けたりもできるようだ。実際騎士が何人か発令所の上に弓矢を装備して周囲を警戒していたりする。


 陣内の様子を興味深く見ていると、騎士団員達が発令所前の広場に集まって整列する。

 伝令が見張り以外の全員が揃った旨を伝えると、エリオットは頷いて騎士団員達に向かって言った。


「まずは今日の戦闘に参加した者達、そして後方で我等が帰るべき陣地を守った者達に、感謝と労いの言葉を述べたいと思う。我等はこうして魔物の陣地を陥落せしめ、笑い合うことができている。それもこれも各々が自身の仕事に誇りを持ち、互いに連携したからこその結果だろう。我等は様々な国、組織より集まった一団ではあるが、今日の戦いは、造船所や迷宮での訓練を経て、親兄弟のように強い絆で結びついているものと確信できる内容だった。私は団長として諸君らと共に戦えることを誇りに思う」


 そう言ってエリオットは一旦言葉を切ると、ウェルテスとエッケルスに視線を送り、手ぶりを交えて続けた。


「さて。既に聞き及んでいる者もいると思うが、海の国グランティオスから精鋭の武官が派遣され、我等討魔騎士団に加わることになった。ウェルテス卿とエッケルス卿だ。今日より我等と寝食を共にし、互いに研鑽し合っていくこととなる」

「グランティオス王国のウェルテスと申します。お見知りおきを」

「同じく、グランティオス王国の末席に名を連ねております、エッケルスと申します」


 2人は静かに頭を下げる。自己紹介を受けて、討魔騎士団の面々は拍手を以ってそれを迎えた。拍手が収まるのを待ってからエリオットが言う。


「通達はもう一点。迷宮深層の準ガーディアンであったケルベロスが、魔法生物としての身体を得て再生し、ベリウスの名を与えられ、異界大使殿と行動を共にしている。ベリウスは討魔騎士団に加わるというわけではないが、我等と関わる機会も今後多くなるだろう。魔物と勘違いしたりすることのないように」


 エリオットの紹介に合わせてベリウスが口の端を歪ませて笑う。その仕草に騎士達が目を丸くしたが……すぐに表情を戻したのはコルリス達で耐性ができているからか。


「以上だ。では、各自昼食の準備に移るように。見張りの交代要員は、現在の見張りに発令所に来るよう、連絡をしておくように」

「はっ!」


 騎士達は姿勢を正して敬礼すると昼食の準備であるとか各々の仕事に移るのであった。




 ウェルテスとエッケルスの、討魔騎士団としての初仕事は炊事に加わることであった。同じ釜の飯を食う仲間とはよく言ったものだが、そう言った仕事も共に行うことではやく騎士団に溶け込めるようにと配慮しているのだろう。


 ノンフライヤーの魔道具も持ち込まれており、マンモス肉に卵と小麦粉、パン粉を塗しているウェルテスとエッケルスという、中々に物珍しい光景が見られた。

 しかし……何やら、マンモスをカツにするのが定番化してしまっている気がするな。討魔騎士団の面々は美味そうにマンモスカツを楽しんでいるようなので問題はないが。

 鹿肉を野菜と共に煮詰めてスープにしたりと、討魔騎士団の料理は地産地消で、なかなかにワイルドな印象の割に味は繊細で手が込んでいたりするのが窺える。


「ふむ。野外……ではなくて、迷宮内なのでしょうけれど……こういう空気の澄んだ場所で、こういう料理というのは悪くないわね」


 ローズマリーが言うと、マルレーンが屈託のない笑みでこくこくと頷く。シーラも黙々と料理を口に運びながら頷いていた。

 樹氷の森は……空気が澄んでいる気がするし、景色も綺麗と言えば綺麗だしな。料理が美味く感じるというのも分かる気がする。スープも身体が内側から温まるので、より染み渡る感じがあるのはこの場所ならではだろう。


 ラヴィーネやフラミア、ベリウスも骨付きのマンモス肉や鹿肉を齧ったりしている。

 コルリスも岩ミミズを平らげて、椅子を作ってそこに腰かけて、膨れた腹をさすったりしていた。まあ……巨大ミミズなのでさぞかし食いでがあっただろうが。


 何やら若干まったりしてしまって迷宮で野営して訓練しているというより、キャンプでもしているかのような気分であるが。

 食後の茶を飲みながらイルムヒルトの奏でるリュートを聞いたりと、発令所でのんびりとしていると、通信機に連絡が入った。


「どうかしたのかしら?」


 と、クラウディアが尋ねてくる。


「いや、マールから連絡があって。タームウィルズのどこかで会えないかって」


 うーん。他の精霊王達に連絡が取れたとか、そういう話だろうか。

 文面からすると緊急の用事ではないようだが……とりあえず今日迷宮に降りた目的は達成されているし、落ち合う場所を決めて返信しておくとするか。

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