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517 冬の花妖精達

「あははっ! ただいまっ!」


 植物園の温室に顔を出すと、花妖精達が出迎えるかのように顔を出し、温室入口の近くに集まってきた。

 温室の中に入ったセラフィナが迎えに来た妖精達に言って、みんなと楽しそうに飛び回る。


 セラフィナと一緒に飛び回る者もいれば、俺達の近くまでやって来て、スカートの裾を摘まむようにして挨拶していく者、周囲を元気よく飛び回ってから温室の天井まで飛んでいく者等々、個々人によって性格の違いがあるように見受けられる。



「前より妖精が増えている気がするわね。ここは暖かいから、集まって来ているのかしら」


 クラウディアが表情を綻ばせて首を傾げる。


「かもね。設備に問題はないみたいだし、冬場にも元気でいてくれるならそれはそれでいいかなとは思うけど」


 と言うと、マルレーンがこくこくと嬉しそうな表情で頷き、クラウディアが目を細める。


 例によって火精温泉は営業時間が終わってから貸し切りになる予定なのだが、営業時間終了までには少し早い時間だ。だから、先に植物園を見て来ようという話になったのである。


「これはまた……この妖精達の数は見物であるな」


 周囲を興味深そうに見回しながら、エルドレーネ女王が言う。


「花妖精達は元々タームウィルズ近くに暮らしていたのですが、火精温泉の環境を気に入ったらしいのです。フローリアやハーベスタがここを管理しているので、妖精達も植物の育成を手伝ってくれるようになったと言いますか」

「なるほどのう。外とは随分と温度や湿度が違うようだが、妖精達には居心地がいいのかも知れぬな」


 確かに。妖精達は元気に淡い光を放ちながら飛び回っている。


「温室に関しては、南方の植物を育成するためのものですね。冬場でも植物にとっては良い環境なので、確かに居心地は良いのかも知れません」

「陸上の植物の事はよく分かりませんが……海とは全然違って面白い形をしたものが多いのですね」

「確かに。入口に植えてある椰子は海岸付近で見たことがあります」


 ロヴィーサが言うと、エッケルスが興味深そうな様子で頷いた。エッケルスが見たというのは、慈母の時代の話か。俺からしてみると違う意味で興味深い話だな。


「いらっしゃい、テオドール」

「おお、帰って来たか」


 と、温室の奥からフローリアとテフラが一緒にやって来る。ハーベスタも一緒だ。植木鉢ごと浮かんでいる。


「ああ。工房での仕事も終わったよ。ただいま、テフラ」

「うむ」


 テフラは笑みを浮かべて頷く。フローリアの働いている温室に遊びに来ていたわけだ。

 ……というわけで、初対面の面々を紹介してしまう。


「テオドール殿はよくよく精霊と縁があるのだな。エルドレーネという。よろしく頼むぞ」

「テフラという。こちらこそよろしく頼む」


 紹介を済ませるとエルドレーネ女王とテフラが握手を交わす。テフラはそのまま、ロヴィーサやマリオン、ウェルテスとエッケルス、ギムノスそれぞれと挨拶をする。

 うむ。互いの紹介が終わったところで植物園巡りと行くか。


 植物園の温度管理がしっかりできているか、魔道具の調子はどうか、各区画の植物の育成状況は順調か等々を見ながら植物園を見て回っていく。


「何だか、ウニやハリセンボンに似ていますね」


 サボテンを見たロヴィーサがそんな感想を漏らす。


「これは……針を飛ばしてくる、などということは?」


 ウェルテスが尋ねてくる。


「いえ、これは普通の植物なので大丈夫です。サボテンの魔物はそういうこともしてきますが」


 ウェルテスとエッケルス、ギムノスは女王や水守りの護衛役の自覚があるからか、若干警戒している様子だ。まあ……ウニの魔物は針を飛ばしてくるからな。

 答えると、3人は俺の言葉に警戒を解いたようであった。


「良いわね。生育も順調なようだわ」


 薬草の区画を見ながらローズマリーが満足そうに頷き、フォルセトが笑みを浮かべた。


「流石に成長が早いですね。時々見にきて、収穫時期になったらお知らせします」

「ん。果物は楽しみ」

「稲苗の植え付けも、もうそろそろとお聞きしましたが」


 シーラが頷き、グレイスが首を傾げて尋ねる。


「そうですね。後数日もすれば頃合いではないかと思います」

「その時は……シルン男爵領からミシェルさんにもこっちに来てもらうか」


 ミシェルはシルン男爵領に作った温室を管理してもらっている魔術師だ。将来的にはシルン男爵領でも米作りをと考えているので、苗の植え付けなどは見てもらいたい。


「男爵領の温室も順調なようですよ。経過を書類で纏めてくれているそうです」

「それは有り難いな。こっちも一通りの米作りの手順は纏めてあるから、その時に渡そう」


 アシュレイはまめにケンネルと通信機でやり取りしたりしているからな。あっちの状況もしっかり把握している。

 そんな調子で、アルフレッドやジークムント老達と共に魔道具の調子を見たり、温室のガラスに罅が入っていないかなどを点検して回る。特に異常は無いようだ。

 地下区画も――問題なさそうだ。明るい光を浴びて、地下水田は綺麗な水を湛えている。


「おお。ここにいたか」


 と――そこにメルヴィン王もやって来た。ジョサイア王子とヘルフリート王子も一緒だ。


「これは陛下。お二方も」


 そう言って一礼する。


「ああ、無事に帰って来て何よりだ」

「ありがとうございます」

「こんばんは。いやはや。こんな数の妖精達に歓迎されるとは思っていなかったよ。妖精達は元気だね」

「ああ、恐らく温室が暖かいからかなと」


 と、ジョサイア王子とヘルフリート王子に挨拶をする。


「温室も順調なようであるな」

「はい。そろそろ地下水田も植え付けができそうです」

「ほほう。いよいよか」


 稲苗が出来上がれば後は植え付けて、時期と育成状況を見ながら環境を調整していく感じになる。地下水田の環境が安定していることやフォルセト達に十分なノウハウがあること。フローリアやハーベスタ、花妖精達の協力を考えれば、稲から直接話を聞けるので、不安要素は少ないだろう。

 一通り見て回って異常がないことは確認した。後は時間になるまでテラス席で過ごすなり、植物をのんびり見て回るなりすればいいだろう。




 そして時間も良い頃合いになったので温泉に移動することになった。

 花妖精達とは初対面という者もいたが、妖精達は明るい性格をしているので馴染むのが早いというか。

 ウェルテスやエッケルスとギムノス。それにコルリスやベリウスの背中や肩に乗っかったりと、随分と仲良くなっている様子だ。割合シュールな光景であるが。


「みんなも一緒に温泉に行きたいって言ってる」


 セラフィナが言う。


「んー。どうでしょうか?」

「余は構わぬぞ」

「妾もだ」


 メルヴィン王とエルドレーネ女王は相好を崩す。セラフィナに頷くと、妖精達が嬉しそうに飛び回った。


「外は些か花妖精達には寒いであろう。我が加護を与えるか」


 ふむ。テフラの加護を受ければ花妖精達も大丈夫だろう。そんなわけで花妖精達も引き連れて、火精温泉へと向かう。


「うむ。陸上の植物も花妖精達も……グランティオスでは望むべくもないからな。実に楽しいぞ。温水で暖を取るというのも、それほどは多くないしな」


 エルドレーネ女王達は割合タームウィルズ観光を満喫しているようだ。

 確かに、それらはグランティオスでは珍しいものだろうな。何にせよ、楽しんでもらえているなら何よりである。


「それじゃあ……風呂からかな。休憩所に夕食を用意してくれているらしい」

「はい。それでは、後程休憩所で」

「また後でね、テオドール君」


 グレイスが笑みを浮かべ、イルムヒルトが言う。というわけで、入口のところで男湯と女湯に分かれて火精温泉の奥へ向かう。


「マーメイドやセイレーンはお湯が大丈夫というのは確認しましたが……温泉などは大丈夫ですか?」


 ウェルテスとエッケルス、それからギムノスに尋ねる。


「火傷するような極端な温度でなければ問題はありません」

「同じく。寧ろ私達の方が耐久性があるかも知れませんな」

「肉体の耐久性に関して言うならそうでしょう。水守りの方々は魔法で高温も防げるので一概には言えませんが」

「まあ、温水を作って暖を取ったりということもありますので、我等も温泉は問題ないかと」

「なるほど……。流石は戦士の一族だね」


 アルフレッドが納得したように頷く。温水を作るというのは、焚き火で暖を取るような感覚かも知れないな。

 湯疲れなどにならないよう、程々に楽しんでくれたら俺としては有り難い。ドワーフの職人達に触発されてサウナで無理をしたりなどが無いように、一応気を付けておくが。

 まあ、まずはゆっくりと温まってからだな。のんびりと湯に浸からせてもらうとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 温泉で気になったのですが、彼らはやはり恒温なんですよね。 でありながら、浅瀬ではなく深海に住んでいる。 この際水圧は無視(出来ないけど)するとして、では体温はどうなのか。 水棲哺乳類は、体…
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