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514 黒犬再生

 ――明けて一日。今日も今日とて、ケルベロスの身体を作るための作業を進めていく。

 物が形になってきたからか、みんなもモチベーションが高いらしく、昨晩からかなりの速度で作業を進めてしまったらしい。必要なパーツも全て揃い――予定より早めに出来上がりそうだ。


「それじゃ始めよう」

「ええ。いつでも良いわ」


 クラウディアが頷く。

 魔法陣の中央には俺と、そこに置かれたケルベロスの身体。向かい合うようにクラウディア。部屋の四隅にジークムント老、ヴァレンティナ、フォルセト、シャルロッテが立ち、それぞれがマジックサークルを展開させると、足元の魔法陣が眩い輝きを放ち出す。


 輝く魔法陣の中心に鎮座するケルベロスに諸々の部品を取り付け――喉や胸などに魔石を配置する。胸に収められた黒く輝く魔石が、内側に炎を宿しながらゆっくりと回転しだした。

 それを見届けてから俺もウロボロスを握り、マジックサークルを展開する。魔石を格納するために黒ゴーレムの素材で覆い、その上から更に筋肉繊維で覆っていく。

 筋肉繊維の上から薄く皮下組織に相当する黒ゴーレム素材の膜を張って定着させる。身体部分が出来上がったところで、用意しておいた毛皮を被せていく。


 体表を覆うのは炎熱城砦に出没する犬の魔物――ヘルハウンドの毛皮だ。数頭分の毛皮を繋ぎ合わせ、更に魔術的な処理を施してある。

 元々が炎の属性を持つ犬の魔物である。ケルベロスとの相性は悪くないはずだ。炎に対する高い耐性を持っているし、対呪法の紋様魔術が裏地に施されてエナジードレイン等は無効化、自己再生のエンチャントまで施されていると、至れり尽くせりだ。

 俺のキマイラコートと同じで、破損は自然に修復してくれるだろう。それを皮下組織の膜と融合させるように繋ぎ合わせていく。


 全てが終わったところで未処理の部分がないか魔力循環で確認。

 ……どうやら良いようだ。魔石から供給される魔力の流れも全体的な調和が取れていて自然な流れに見える。

 そして――多重にマジックサークルを展開する。シルヴァトリアに伝わる、クリエイトゴーレムの系統に属する高等術式である。


 魔力の輝きがケルベロスの身体から放たれ、そして魔法陣ごと目を開けていられない程の白光に包まれた。

 そしてそれが収まると――閉じていたケルベロスの目蓋がゆっくり開かれる。そしてのっそりとした動作で立ち上がった。


「調子はどうかな?」


 尋ねると、ケルベロスは3つの首を巡らせて耳を動かしたり、前足で床を掻いたり、鼻をひくつかせたりと、1つ1つの動作を丁寧に確かめていたようであったが……やがて納得したのか、口の端をにやりと歪ませ、低く喉を鳴らす。

 ああ。咬合筋と共に顔の筋肉も作ったし、咆哮共鳴弾のために音の魔石も組み込んであるからな。笑いもするし咆えもするだろう。

 先程までは僅かに作り物めいていた眼球や鼻などの質感も、さながら本物のようだ。このあたりはクリエイトゴーレムの効果であろう。魔法生物として動き出したわけだから。


 それから3つ首が、俺に向かって頭を下げるように一礼すると、静かに歩みを進めてクラウディアのところへ向かった。クラウディアにも静かに頭を垂れ、四隅を固めるジークムント老達にも挨拶して回る。


「どうやら、良いようじゃな」


 ジークムント老がケルベロスの様子に頷いた。ケルベロスはクラウディアの隣に控えると、静かに腰を落ち着ける。


「……後は外装かな? 鎧を着せるって言ってたけど」


 アルフレッドが尋ねてくる。


「うん。装甲にインビジブルリッパーと同じような魔法を刻んで、魔道具が発動した時には姿を見えなくしようかなって考えてる」

「いやはや。更にこの上にと言うわけか」


 ジークムント老が渇いたような笑い声を漏らした。


「アルファやケルベロスの魔石は魔力を補給せずとも時間で自然回復させているようですので普段は手間はかかりませんが、全力全開での戦闘が長引くようなことになると、やはり活動時間に限界があるかなと思いますので。念のために要所要所で力を発揮しやすいようにしてやるのが良いのかなと」

「なるほどのう」


 まあ、アルファやケルベロスのスペックの高さを見れば戦闘が長時間に及ぶということそのものが滅多に無いだろうが……不可視になってから攻撃を仕掛けられるようにすれば魔力の節約にもなるからな。限界は未知数なところがあるが、対策をしておいて悪いことはあるまい。


「名前を決めなければいけないかしらね?」

「あー。そうなるかな」


 クラウディアに問われ、考える。

 個体名なのか種族名なのか曖昧だし、こうして身体を得たなら別の名で呼んでやる方が良いのかも知れない。

 ケルベロスは3つの頭で俺のほうを見てくるが……。んー、それは俺に名付けろということなのか。

 クラウディアが名前を付けて使い魔にするという手も考えてはいたのだが、そうなると魔力供給の問題もあるしな。クラウディアの魔力に関しては極力温存する方向で考えたいし。


「ベリウス……っていうのはどうかな?」


 そう呼ぶとケルベロスは頷いて、3つの頭を揃えて遠吠えをした。気に入ってくれたのかどうかは分からないが、受け入れてはくれたのだろうか?


「ん、気に入ったみたい?」


 シーラが首を傾げながら言った。あー……。尻尾は振っているな。

 ベリウスというのは……ソロモン72柱の悪魔ナベリウスからのもじりである。ケルベロスに語感も似ているか。


 ナベリウスは烏の姿をしているとも三つ首の犬の頭を持った貴族風の姿をしているとも言われ、ケルベロスやネビロスとも同一視されることがあるという悪魔だ。まあ、悪魔というわけでもないし、多少形を変えて、というわけである。


 そんな話をしていると、いつの間にか工房にアルファもやって来ていた。空を飛んできたらしい。中庭に降り立つと、玄関から部屋までやって来る。

 割合神出鬼没というか……割合自由に動いているアルファであるが、ベリウスと視線が合うと、互いに申し合わせたように口の端を歪ませる。

 傍から見るとやけに剣呑な光景だが、ラヴィーネがのんびりと床に寝そべって尻尾を振っていたり、ピエトロも窓際の日当たりの良い場所で寛いでいたりするので、問題はあるまい。


「これから、よろしくお願いしますね、ベリウス」


 グレイス達に挨拶をされてベリウスは静かに頷く。アシュレイやマルレーン、それにシオン達が背中を軽く撫でたりしているが、ベリウスは巨体に反して大人しくしている様子であった。

 ……部屋を片付けて休憩と行くか。ゴーレム達を作り出し、魔法陣を消したり、余った材料などを種類ごとに整頓したりと、後始末を行っていく。


 休憩しようという話になって、イルムヒルトが楽しそうにリュートを用意したりしている。

 ふむ。ギリシャ神話のケルベロスは音楽を聴かされると眠ってしまうなんて逸話もあったが……ベリウスはどうなのだろうか。


「外装が仕上がる前に、一度迷宮に潜ってどのぐらいの力があるか見ておいたほうが良いのかも知れないわね」


 ローズマリーが思案しながら言う。


「んー。確かに、透明になれるようになってからだと分かりにくくなるか。俺としては、ウェルテス達が合流してからって考えてるけど」

「討魔騎士団の訓練に合わせて、ウェルテスやエッケルス共々、力を見てみるということかしら」


 エッケルスについては魔法審問と面談の結果次第ではあるが、その予定で考えてはいる。


「そうなるかな」


 他にやることは……ゴーレム兵の作成か。これは時間がある時を見てやっておこう。

 樹氷の森のスノーゴーレムや、星球庭園に出たカボチャの庭師から、かなりの数のメダルを得ているので。それを組み込んでゴーレム兵を作っておくというのが良いだろう。

 コスト的な問題があるのでどれもこれも最高品質というわけにはいかないが、数を揃えておくというのはそれはそれで使い道がある。

 ベリウスの身体を作るのに、色々ゴーレム作りの経験を積ませてもらったから、それを活用するという意味でも仕事をしておこう。


 とりあえず……今日のところは作業も一段落だ。

 エリオットとミリアム、それからエルドレーネ女王達が後から工房にやって来て話をするということになっているので、それまではのんびりとさせてもらうとしよう。討魔騎士団絡みだけではなく、迷宮商会に関係した話もあったりするのだ。

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