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507 盤上の召喚術師

「――女王陛下には、タームウィルズでお会いできるのを心待ちにしているとお伝えください」


 と、迷宮商会店主のミリアムは上機嫌な様子で笑みを浮かべた。その手には、グランティオスの海洋熟成酒があったりする。


「分かりました。僕達も数日もすればシリウス号で帰って来れると思います」


 子供達と潮干狩りや釣りをしたり、セイレーン達がコンサートをしたりと、島での休暇は中々に賑やかで楽しいものであるが、アウリアとエリオット、それに討魔騎士団の砲手達、ジークムント老、フォルセトは元々休暇を取る予定ではなかったということもあり、一足先にタームウィルズに戻って仕事を進めておきたいということらしい。


 アウリアはギルド長としての仕事、討魔騎士団の面々は訓練の再開、ジークムント老とフォルセトは魔法研究とケルベロスの器を作る準備だ。

 ケルベロスの器については下準備を進められるところまで進めておいて、俺達が帰ってきたら仕事に取りかかれるように、というわけだ。但し、ヴァレンティナとシャルロッテは島に残る。

 フォルセトは、ジークムント老と共に工房での研究開発に戻る他にも、稲苗の様子を見ておきたいらしい。苗についてはフローリアとハーベスタ。それにミハエラ、セシリア達が様子を見てくれているということもあり、生育が順調ではあるのは確認済みだ。


 というわけで、転移魔法でみんなをタームウィルズまで送り届けた後、俺達は俺達で、折角タームウィルズまで送っていくのならということで、洋館用の魔道具やビリヤード台、ダーツなどを持って島へ戻り、洋館の遊戯室や舞台回りの設備を完成させてしまうという方向で動いていた。


「んー。大体こんなところかな?」


 アルフレッドは工房の中庭に置かれた魔道具とビリヤード台、ダーツボード等を確認して頷く。


「じゃあ、行ってくるけど……アルはやっぱり、休暇は良いの?」

「うん。僕のことは気にしないでいい。やることが多いし、オフィーリアも親戚がこっちに来ているから遠出はできないみたいだしね。それが無かったら遊びに行きたいところではあるけど」


 そうか。出かけるならオフィーリアも一緒にというわけだ。


「ん。分かった。それじゃあ、落ち着いたらみんなでかな」

「ああ。楽しみにしてる」


 というわけでアルフレッドと約束を交わし、それから見送りのアウリア達に顔を向ける。


「ではな。島では色々楽しませてもらったが、一足先に帰らせてもらうとしよう。まあ……仕事も少々溜まっているのでのう」


 と、アウリアは少々残念そうに笑う。


「そうなんですか?」

「うむ。秋から冬にかけては貴族からの依頼が増えるのでな。今年は少な目ではあるが」

 なるほど……。まあ、アウリアの助っ人は色々助かるところではあったが。

 エリオットはエリオットで、カミラが工房へ迎えに来ていたりと仲睦まじい様子ではある。


「では、妹をよろしくお願いします」

「分かりました。エリオット卿も訓練、お気をつけて」


 そう言うと、エリオットは静かに笑みを浮かべた。


「ヴァレンティナとシャルロッテには、儂らのことは気にせず楽しんで来るようにと伝えておいてくれるかの」

「シオン達のこともお願いします」

「はい。では――」

「うむ」


 と、みんなに見送られる形でシリウス号の甲板へ転移魔法で移動したのであった。




 さて。洋館にビリヤード台やダーツボードを運び込み、各種演出用魔道具を陸と海の舞台に設置することで、休暇もより充実したものになった。

 エルドレーネ女王はビリヤードが気に入ったようで、遊戯室で水守り達やウェルテスらとかなり熱中している様子である。

 子供達もカードを楽しんでくれているようだ。


 しかし、ビリヤード、ダーツにカードと……基本的には陸上の遊びである。俺としては陸上でも水中でも変わらずに楽しめるようなゲームを提供したいところではあった。

 鬼ごっこのような遊びは普遍的なものなのか、グランティオスの子供達の間でもあるとのことだ。だが、これも陸と海とで変わらずに遊べるかというと、泳ぐ速度であるとか人化の術の有無などの関係上から、互いに公平にとは中々いかない。


 となると……やはり将棋やチェスなどが最適解だろう。共通のルールさえ押さえておけば、遊ぶ場所が陸でも海でも互いに楽しめるというわけである。

 この手のゲームは今のところ五目並べで遊ぶ程度ではあったが……さて。


 みんなが遊んでいるその横で、遊戯室の端に少々の石材を持って来て構想を練っていると、それを見たシーラが首を傾げた。


「ん。何か作る?」


 と、尋ねられた。ふむ。何となく雰囲気的なもので察したらしいが。


「うん。海でも遊べる物が欲しいかなって思ってさ」


 作るのは……そうだな。チェスが良いだろうか。

 まあ……考えすぎかも知れないが駒をキングだとかクイーンと呼称するのは、こういう時代背景では不遜だなどと言われる可能性もあるので少しアレンジしておくか。

 キングを召喚術師として……ポーンをゴブリン、ナイトをペガサスといった具合に魔物に当て嵌めていくわけだ。

 ルーク、ビショップ、クイーンがそれぞれウッドゴーレム、ファントム、デーモンといった具合だ。

 ポーンがゴブリンなのは……ゴブリンメイジ、ゴブリンライダー、ゴブリンロード等々、上位種が豊富だからである。ポーンのプロモーションをここで再現する。

 ゴブリンはまあ……臆病な割に好戦的なので、最初だけ2歩動ける理由づけにもなるだろう。威勢は良いが油断が大きいので同族のゴブリンに背後を取られるとあっさりやられてしまうというような具合だ。


 ウッドゴーレムはルークのモチーフに当てはめてのものだな。普段はツリーハウスということにしてキャスリングに当てはめる。

 ゴーレムとして動かしたら家ではなくなるので、キャスリングができなくなるという理由付けをしておこう。

 ファントムはビショップがモデルということで、襤褸布を纏った幽霊のような魔物である。

 デーモンは召喚術師の相棒役ということになるか。となれば、それなりに上級の悪魔っぽく作るのがいいだろう。

 後はそれぞれのモチーフに合わせて土魔法で駒を作っていく。その頃になると、みんな俺の作業に気付いて周囲に集まって来ていた。


 まずは少しデフォルメしたゴブリン達を8体。

 ……プロモーション用に装備品を変えられるようにしておくか。背中にグライダーを付けたり、狼に跨れるようにしたり、ナイフから杖に持ち替えたり、冠を装備できるようにして、それぞれナイト、ルーク、ビショップ、クイーンにプロモーションしたというのを視覚的に分かりやすくしておく。

 んー。所詮ゴブリンなのに妙に小道具に凝ってしまっている気がするが……まあいいか。


「これは……ゴブリンの人形、ですか?」


 グレイスが首を傾げる。


「うん。これを駒として盤上で動かして相手の駒を取っていくっていう遊びだね。最終的には自陣の召喚術師本人が取られると負け」

「面白そう!」


 と、セラフィナがゴブリンの駒を見ながら笑みを浮かべる。うむ。中々好感触だ。

 その調子で他の駒も作っていく。ウッドゴーレムはトレントをモデルに作るが、家であることを示すために、ドアや窓枠などをくっつけておくか。

 召喚術師は……どうしたものかな。モチーフというのは視覚的に分かりやすい程良いと思うので、ローブに髭と杖、という如何にもな魔術師風に。デーモンは元がクイーンなので女の姿にして尻尾と翼を生やしておこう。

 そして――最後に縦横8マスずつの盤を作れば完成、というわけだ。


「ほうほう。どうやって遊ぶのかな?」


 エルドレーネ女王も興味津々といった様子だ。


「では――これから駒の動かし方などを説明していきます」




 ええと。ステイルメイトにパーペチュアルチェックに――まだ説明していないルールはないだろうか。細々としたルールを説明し、その内容を紙に纏めていく。

 海中でもルールブックがあったほうが良いだろう。これは石板などに文字を刻む形で纏めておくか。


「……なるほど。こういう配置だと、最初は中央のゴブリンから動かして行ったほうが良いようね。隙間から後ろのファントムが動かしやすくなるわ」


 と、ローズマリーが駒の動きを見てそんなふうに分析する。

 ……中央に展開していくというのはチェスの序盤での定石だな。合理的に考えると同じところに行き着くのかも知れない。ローズマリーはチェスや将棋などが得意そうだ。


「俺はもう少し数を作ってみるから、みんなで遊んでみてくれるかな」

「それじゃあステフ。一緒にどうかしら」

「ええ。相手になるわ」


 アドリアーナ姫はステファニア姫と勝負をするようだ。ローズマリーもそうだが、2人ともこの手のゲームは得意そうだな。

 みんながルールに慣れて上達してくると面白いことになりそうだが……。今は観戦ではなく普及に努めるためにそこそこの数を用意して、グランティオスにも持ち帰ってもらう分を量産しておくとしよう。


 ふむ。デフォルメの具合を変えて、小さい子供でも親しめるようなバージョン違いを用意したりしておくか。

 反対に、大人用には駒の姿を精巧で迫力のある物にするであるとかが良いのかも知れない。




 結果から言うとチェスはかなり好評であった。まあ……細かいルールなども既に確立しているところから持って来ているわけだし、楽しんでもらえるだろうとは思っていたが。

 強いのはやはり、ローズマリーやステファニア姫達だ。公爵やオスカーも得意なようである。


 グランティオスの面々や大人、子供問わず盛り上がっているようで何よりだ。

 半魚人達がチェスボードを挟んで思案している様子は中々珍しい光景であるような気がするが。

 ともあれ、俺達もそろそろ休暇を終えて帰るということになるだろう。子供達からは懐かれている分、別れの時に名残惜しいということになりそうだしな。


 次に会う時までにチェスなどを上達しているようにだとか、俺達が帰ってからも楽しめるようなお土産を残しておいてやれば、目標であるとか他に集中できるものがあるので、別れの寂しさも紛れると思ったわけだ。

 中長期的には陸と海で、共通ルールのゲームが広まれば交流もしやすくなるだろうということで。

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