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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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498 海上の宴

 予定通りアイアノスに立ち寄り、勝利の報告であるとか諸々の戦後処理についてなどの、必要事項を連絡。それから物資を積み込んで、ドリスコル公爵領へと向かった。
 非戦闘員は公爵領に避難中だ。アイアノスには後詰めの兵士達しかいないという状態であったが、それでもかなりの喜びようではあった。

 そして海底都市アイアノスから、洋上に浮かぶ街――ドリスコル公爵領へと移動する。前に来た時と同じように海に着水し、城の近くに通じる水路を通って船着き場へとシリウス号が向かっていく。

「空から見ていても思ったのだが……美しい街よな」

 モニターから公爵領の街並みを眺めて、エルドレーネ女王が呟くように言う。水路と青い海、明るい色合いの街並みと……公爵領は確かに綺麗だ。

「ありがとうございます。私は少々、兵士達に顔を見せて参ります」

 公爵はエルドレーネ女王の言葉を聞いて上機嫌な様子で、そう言いながら甲板へと向かった。姿を見せて水門を開いてもらうためだ。護衛として、ラヴィーネが公爵の後ろをついていく。

「ヴェルドガル王国は、タームウィルズも凄かったですよ。話に聞いていた通り、とても大きなお城がありました」
「テオドール様が作った劇場も凄かったです」
「うむ。いずれ妾も行かねばなるまいな」

 ロヴィーサとマリオンの言葉に、エルドレーネ女王が相好を崩す。

「その時は歓迎しますよ。通信機に前もって連絡を頂ければお迎えに上がります」
「それは楽しみだな。とはいえ、ヴェルドガルは魔人達との争いもあるのだったか。その戦いには妾達も協力を惜しまぬぞ」
「そうなると……メルヴィン陛下との会談からでしょうか」

 通信機で連絡を取り合って、会談をセッティングしなければならないだろう。

「うむ。メルヴィン陛下とテオドール殿には大きな恩がある。それを返さねばならぬし……ウォルドムの裏で魔人達が糸を引いていたとなれば、その連中は妾達にとっても敵であろう」

 海からの援軍か。主戦場が海中になるということはないだろうが、中々に心強い。

「魔光水脈の水竜親子には、私から話をしておくわ」

 クラウディアが言う。

「ああ。確かにあの親子には、話を通しておいたほうが良さそうだ」

 あの水竜は理性的で、縄張りに入られたからと即座に攻撃を仕掛けるような性格ではないが……今後ヴェルドガル近海までグランティオスの民が来る機会が増えることを考えると、お互い事前に知っておいたほうが良いだろう。

「水竜とな?」
「迷宮の奥に、水竜の親子がいるのです。ヴェルドガル王家とはかなり友好的で、タームウィルズ近海にも時々出て行っているようですね」
「むう。水竜に知己があるとは……」

 エルドレーネ女王は感心したように唸った。
 そんな話をしている間にもシリウス号は水路を奥へと進んでいく。水路周辺には人々が集まっていた。水門を開くために甲板に姿を見せた公爵が笑みを浮かべて公爵領の民衆に手を振ると、それで水路周辺に集まっていた人々はグランティオスでの戦いの結果を察したらしく、大きな歓声が上がった。

 そのまま水門が開き、シリウス号が船着き場の中へと入る。
 シリウス号は空から戻ってきたので、兵士達の連絡も早かったのか、アイアノスから避難していた非戦闘員――人魚や半魚人の子供達が船着き場に集まっているのが見えた。



「おかえりなさい!」
「おかえりなさい、女王さま!」
「うむ。そなたらには不安な思いをさせてしまったな。これこの通り、妾達は無事だ。海王達もテオドール殿のお力添えのお陰で、成敗することができた」

 下船したところで、グランティオスの子供達が集まって来る。帰還と勝利を喜ぶ声が船着き場に響く。

「いや、すごい歓迎振りだね」

 ヘルフリート王子が子供達のはしゃぎようを見て苦笑する。うむ。子供に周囲を固められてしまって動けないところはある。
 アシュレイやマルレーンなどは子供と手を取り合って嬉しそうにしている。ローズマリーは少し落ち着かない様子で羽扇で顔を隠したりしていたが、人魚の少女からお礼と言われて光る貝殻を手渡され、静かに頷くと、その人魚の子供の髪を軽く撫でたりしていた。

 コルリスがのっそりと甲板に姿を現し、船着き場に降りてくると、そちらにも子供達が嬉しそうに群がっていた。船着き場に腰を降ろして背中に乗せたりと……コルリスは中々に面倒見が良い印象だ。
 リンドブルムにアルファ、ラヴィーネ、ラムリヤ、フラミアと、動物組が次々と甲板から出てきて……そちらにも子供達が分散していく。

「テオドール様、父上、ご無事で何よりです」
「お帰りをお待ちしておりました」

 少し状況が落ち着いたところで公爵家の兄妹、オスカーとヴァネッサが静かに一礼してきた。レスリーも一緒に出迎えに来ている。

「うむ。留守を守ってもらって済まなかったな。何か変わったことは?」
「タームウィルズから、デボニス大公が手配なさった商人が参っております。島に運ぶ資材を手配するとのことで」
「ふうむ。予定とは少し違っておりましたが……かえって良い頃合いになったような印象がありますな。そちらの話は私が進めておきましょう」

 デボニス大公が言う。島用の建築資材か。確かにタイミング的にはぴったりな気がする。公爵はその報告に頷いてから、こちらに向き直る。

「では……早速ではありますが、宴の準備を進めるとしましょうか。遊覧船で水路を巡りながらのんびり寛ぐというのも、中々乙なものですぞ」

 と、公爵は笑みを浮かべるのであった。



 夕暮れの公爵領の水路を――二隻の遊覧船が進む。
 ドリスコル公爵が用意した遊覧船は、形状としては屋形船と言えば良いのか。そこそこのサイズの船だ。小さな水路までは入っていけないそうだが、街中にある主だった水路を巡る分には問題のない大きさらしい。

 貴族御用達の遊覧船だけあって細かな装飾が施されているが、華美になり過ぎず、かと言って地味にもなり過ぎずという、総じて上品な印象の船であった。
 その船に、主だった者で乗り込んで、街中を巡り談笑しながら食事を楽しむというのが、元々俺やデボニス大公、ステファニア姫達の訪問にあたり、公爵が企画していた宴であった。グランティオスからの客も増えたので、更にもう一隻増えることになったが。

 遊覧船から見る眺めは……中々に風情があって良い。あちこちにある橋の下を潜ったりしながら公爵領の街並みがゆっくりと流れていく。

 料理はやはり、魚介尽くしだ。こう、握り拳ほどもある大きな貝だとか、タームウィルズでは見かけない珍しい魚だとか。新鮮な食材に、手の込んだ調理が施されている。見た目にも鮮やかで盛りつけも凝っていて、食欲をそそる。

「絶品」

 と、シーラは食事を満喫しているようだ。

「西部の味付けはまた違いますね。魚介の味をうまく引き出していて感心します」

 グレイスがスープを味わいながら静かに頷いている。まあ、これで後から食卓に色々反映されたりするので、俺としては有り難い限りではあるのだが。
 次第にあたりが暗くなってきたが、それで終わりというわけではない。カンテラに明かりが灯され、水路に面した通りにも魔法の明かりが灯っていく。

「ふむ。そろそろ見えてきますぞ」

 と、水路の曲がり角に差し掛かったところで公爵が言った。
 言葉の意味はすぐに分かった。街の大通り沿いの水路に差し掛かったのだが、ここは……水路の中からライトアップされている。青い輝きを満たす水がゆらゆらと揺れる。

「ああ……。これは綺麗ですね」
「元々、街の中心部へ向かう船が夜間でも動きやすいようにと、水路の底に魔道具を設置したわけです。まあ、観光用でもありますが」

 なるほど。綺麗なものだ。
 幻想的な輝きの中を、遊覧船がゆっくりと進む。街の中心部から、海側へと。
 そこにも船が停泊していて……その甲板上に、水守りやセイレーン達、それからグランティオスの子供達の姿もあった。エルドレーネ女王が立ち上がって言った。

「今日は宴の席に招待して頂き、誠に嬉しく思う。助力を頂いた上に、グランティオスの民を匿ってもらい……本来ならば妾達こそ宴の席に招待しなければならない立場ではあるのだが……」

 エルドレーネ女王はそこで一旦言葉を切る。中々タイミングが合わないところがあるからな。その代わり、アイアノスから珍しい食材を、この宴で使ってもらうために持ってきたり、こうやって宴の席の催しとして飛び入り参加で企画を立ててくれたりと色々してくれているわけだ。

「今日のところは、ささやかながらではあるが、妾達の返礼を、どうか受け取ってほしい」

 エルドレーネ女王の言葉に応じるように、甲板にいるセイレーン達が澄んだ歌声を響かせ、神秘的な音色を奏で始めた。
 俺達への礼でもあり、公爵領の人達への礼でもある。更に水守り達がマジックサークルを閃かせると停泊している船を中心に、海がきらきらと光を帯びていく。
 水守り達が使っているのは浄化の魔法ではあるのだが、この場合演出としても作用しているな。これはマリオンの発案だそうで……劇場の影響があるように思われる。

 話を聞いて港に詰めかけていた人々も、思い思いの場所で腰を降ろして、セイレーン達の歌声と演奏に耳を傾けている。月明かりと星空の下、海の演奏会といった風情だ。
 こちらの遊覧船に乗っているイルムヒルト、ユスティアとドミニク、それからシリルとマリオンという面々も向こうの船と同じ歌を歌う。

 イルムヒルトは今回、前線の戦闘に参加していたからな。ようやく何の気兼ねもなく歌や演奏をすることのできる時間を持てたからなのか、随分と楽しそうに見える。
 ユスティアとマリオンが顔を見合わせ、微笑み合いながら声を合わせる。

「このような場面を迎えられたのも……テオドール殿達のお陰よな」

 その光景を見て、エルドレーネ女王は嬉しそうに目を細めるのであった。
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