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495 海都復興に向けて

「ウォルドムは――そんなことを言っていたか」


 戦いの顛末をエルドレーネ女王に話して聞かせると、目を閉じてかぶりを振った。


「ウォルドムが魔人であったのなら、深淵で封印を生き延びたのは、妾達の畏怖を受けてのものかも知れぬな。慈母を語り継ぐというのは、同時に海王についての恐怖も語り継がれるということだ」

「……かも知れません。小さい頃、慈母のお話を聞かされた時は、海王を怖がったりもしましたから」


 エルドレーネ女王の言葉に、ロヴィーサが神妙な面持ちで答える。


「かと言って、今まで語り継いできたものを止めるというわけにもいくまいな。地上では封印された魔人を眠らせるべく祀ってきたとも聞いた。あのように邪気を溜め込んでしまったことを考えれば、妾達もこれからはそれに倣う必要があろう」


 地上では、というのは、シルヴァトリア国王の執り行っている儀式のことだな。エルドレーネ女王はアドリアーナ姫から話を聞いたのかも知れない。

 災いを成した怨敵も、祟らないように祀れば神にもなるか。盟主は生きているが、ウォルドムは滅んだ。だからシルヴァトリア王が背負わねばならない瘴気による侵食のようなデメリットは無いだろうけれど。


「死者の霊を慰めるとなれば、私達もお役に立てるのではないかと」

「セイレーン達の鎮魂の歌か……。うむ」


 マリオンの言葉に、エルドレーネ女王が目を閉じて頷く。

 ……さて。ウォルドム達との戦いも終わり、眷属達も投降して一先ず状況は落ち着いた。俺達の姿はグランティオスの城の奥にあった。女王の居室などのある区画だが、戦いの舞台となった場所からは離れていたので、この近辺は無傷だ。

 水を引かせて、そこにみんなで集まってゆっくりと話をしている、というわけである。今日はグランティオスに滞在し、戦いの疲れを癒してから色々動くということになっているが……その前に色々とエルドレーネ女王に許可を取っておこう。


「後で城のあちこちを見て回りたいのですが、構いませんか? 大魔法を2度も使ったので、崩落の危険がないかぐらいは見ておきたいのです」

「有り難い話だが……この上そこまでしてもらうというのは申し訳が立たぬな」

「僕が放った魔法でもありますし、修繕や補強ぐらいはしておくべきかなと。目に見えない部分の危険は分かりにくいですし、魔法制御の修養も兼ねているところもありますので、お気になさらず」


 そう言うと、エルドレーネ女王は少し思案していたようだが静かに頭を下げてくる。


「すまぬな。重ね重ねの助力、恩に着る。兵達にはそのように通達を出しておこう」


 話は纏まったか。では、今日は夕食を取ったら早めに休むことにしよう。みんなの体力や魔力の消耗から来る疲労や、グレイスの吸血衝動の反動などを、時間をかけて循環錬気で取り去っておきたいからな。




 翌朝の目覚めは――前日の晩にたっぷりと時間をかけて循環錬気を行ったということもあり、なかなかに快調であった。傷口も塞がって痛みも怠さもなく、思考と身体が軽く感じられる。みんなは循環錬気に時間をかけたから寝付きが良かったらしく、まだ起き出してきてはいないようだな。


「おはようございます、テオ」


 横になったままで手の中に魔力を集中させたり拳を握ったりと調子を確かめていると、隣で眠っていたグレイスが小さな声で言った。


「ん。おはようグレイス。起きてたんだ」

「はい。起きていたのですが……何となく勿体なくてテオの横顔を見ていました」


 ん……。少し気恥ずかしいが……。まあ、グレイスも激戦だったしその分だけ吸血衝動の反動も大きかったのだろうとは思う。


「体調は如何ですか?」

「悪くないよ。昨日はゆっくり休めたし。グレイスは?」

「はい。お陰様で。循環錬気に時間を使うと、身体の奥で温かさが続く感覚があると言いますか……よく眠れますし、目が覚めた時も調子が良いので」


 そう言って微笑む。うむ。疲れが取れたのなら何よりだ。


「……んん、おはようございます」

「おはよう、なかなか……良い朝ね」


 と、アシュレイとローズマリーも目を覚ましたようだ。


「おはよう。ああ――。何だか、とてもよく眠れたわ」


 クラウディアの声。そちらに目をやると、マルレーンも目を覚ましていた。

 目を覚ましているが、みんな身体は起こさない。横になったままで温かな寝床でリラックスしているという、何とも緩い空気感が漂っていた。

 まあ……昨日までが忙しかったから習慣で早めに起きてしまっているだけという部分もあるのだ。どうせなら朝食に呼びに来るまで、このままでというのも悪くはないだろう。




 少しのんびりとした朝食を済ませてから、セラフィナを連れてみんなと共に城の中を見て回ることにした。まあ、魔法建築なので俺が動くわけであるが、レビテーションを使えば運ぶのが難しい大きな瓦礫も動かせるからと、みんなも手伝ってくれるというわけである。

 グランティオスの兵士達も戦闘では役に立てなかったからと、早速再建に向けて動き始めているらしい。城の中を慌ただしく走り回っていた。忙しそうではあるが、皆一様に明るい表情で、精力的に働いている様子が窺える。


 瓦礫の類は集めて積んでおいてもらえれば再利用するとは伝えてある。

 まずは……ヴォルカノンハンマーとドラゴンズロアーを撃ち込んだ場所周辺を見ていくことにしよう。瓦礫を再利用するにしても、肝心の基礎がしっかりしていなければ意味がない。修繕するならば、それからだ。

 というわけで城の中をあちこち巡り、セラフィナと共に危険な場所を潰すことから始めた。


「このへん、危ないかも」

「了解。ええと……となると、このあたりかな」


 セラフィナの言葉に周囲を見回し、気になる柱に触れる。

 それなりにセラフィナと共に建築経験を積んできたこともあり、どこが脆くなっているのか、バランスが崩れて力が余分にかかっている場所はどこかなど、何となく分かるようになってきた部分もある。


 魔力をソナーのように撃ち込んで、その反射の感覚から脆くなっているところを補強したり、ズレた部分を直したり、崩れそうな場所は前もってゴーレムにして、別の場所で待機させたりと、危険個所を潰していく。

 安全がきっちり確保できたら周辺の構造と建築様式を参考に、下から建材を積み直していく、という寸法である。


 その傍らでヴォルカノンハンマーを撃ち込んだ時にぶちまけられた溶岩をゴーレムにすることで回収していく。

 このゴーレム達は後でドラゴンズロアーで作ってしまった穴を埋めるために使う。あの穴の部分にあった建材等は、砂になって亀裂の底に流れ落ちてしまったからな。瓦礫を回収しても穴埋めには至らないわけで。

 それから……回収するのが難しい、細かな埃、破片の類は渦を作って巻き上げることで掻き集めて資材に戻す。


「そう言えば、シーラは身体の調子はどう?」

「もう大丈夫。昨日は私も循環錬気してもらったし」


 シーラはオーベルクの使い魔と戦った時に少しダメージを受けていたからな。超音波のような攻撃方法で、外傷はないが内側に蓄積するタイプの攻撃だったので、昨晩はシーラにも循環錬気を行っているのだ。

 そんな調子で世間話をしながら作業を続けていると、エルドレーネ女王やマールにロヴィーサ。ステファニア姫、アドリアーナ姫とエルハーム姫、大公と公爵、エリオット、ジークムント老達にアウリアとユスティアやドミニクという面々がやって来た。


 使い魔達も一緒だ。状況は落ち着いたが、念の為にということで護衛についてもらっている。

 コルリスがぺこりと頭を下げるように朝の挨拶をしてきた。ラムリヤとフラミアもそれに倣うように頭を下げてくる。俺達と一緒にいたリンドブルムやラヴィーネ、エクレールも頭を下げてコルリス達に挨拶を返す。俺もおはようと、使い魔達に朝の挨拶を返した。


「いやはや……。あれだけ瓦礫が散らばっていたというのに。妾が兵達に指示を出しているこの短時間で、ここまで綺麗になってしまっておるとは」


 現場を見に来たらしいエルドレーネ女王は、その様子を見るなり目を丸くした。

 細かな石などを集めたり、散らばっている瓦礫を整列させて積んでおくだけでも見た目は随分すっきりするものだ。



「お邪魔ではないかしら? 私達もレビテーションやゴーレムで、手伝えることがあったらと思ったのだけれど」


 ステファニア姫が尋ねてくる。ステファニア姫もフットワークの軽いことだ。手伝ってくれるというのならそれは歓迎である。他の面々も手伝う気満々といった様子なので……まあ、ここは厚意に甘えておくか。


「恐縮です。一先ず構造が脆くなっているような危険な個所、崩れそうな場所を何とかすることから始めたのですが、崩落するようなことはもう無くなったと思うので……そうですね。目につく瓦礫をみんなと一緒に積んでおいていただけると助かります」

「分かったわ」


 ステファニア姫は楽しそうに笑みを浮かべ、みんなと共に作業に加わっていく。

 集まった瓦礫をゴーレムにして、そのまま破損個所と一体化させるように整形し直していけば破損していた部分が段々と塞がっていく。


「うむ。いつ見ても見物よのう」


 アウリアが瓦礫を浮かせながら腕組みをして、その光景に感心するようにこくこくと頷いている。


「魔法建築とは聞いていたが……治癒魔法で傷が塞がるような速度で継ぎ目も分からぬとは……。いや、あれだけの大魔法を使えるのなら寧ろ納得するところではあるのか」

「霊廟の慈母像に関しては元の姿を見ていないので、色々教えて頂けると助かります。劣化防止の塗料もあるのでしたか?」

「あ、ああ。そうであったな。塗料も塗らねばならぬが、それはこちらでやっておこう。すぐ塗らねばならぬというものでもないしな」


 修復の光景を見て思案しながら呟いていたエルドレーネ女王であったが、声をかけると我に返ったような様子で、少し慌てたように答えた。


「分かりました」


 では、このままどんどん作業を進めていけばいいだろう。調子も良いし、バロールに魔力を込めれば2ヶ所同時に並行して修繕していくこともできそうだ。うん。それでいこう。

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