挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

512/1320

493裏 深淵の騎士団・後編

「何!?」

 脱落したはずの親衛隊がローズマリーの操り糸で動かされ、親衛隊の横合いから攻撃を繰り出す。弾幕を捌きながらピエトロの分身達と戦っていた親衛隊は、仲間が加勢に来たものと思っていたのか、まともにその一撃を食らう。
 そこをローズマリーのワンドから放たれた光の波が直撃した。顔面に爆風を食らって悶絶したところをイルムヒルトの光の矢により手足を撃ち抜かれて沈む。
 唖然とする親衛隊達を見て、ローズマリーが笑う。

「おのれ――!」

 親衛隊数名が激高する。ローズマリー目掛けて突撃を敢行するが――。

「待て! 深追いをするな! 敵陣近辺の水温がおかしい!」
「――そこまでです!」

 その警告は間に合わなかった。ローズマリー目掛けて踏み込んだ連中が、一瞬で氷結の中に呑み込まれたのだ。突然生じた巨大な氷塊に、親衛隊達が巻き込まれて動きを封じられる。

 それは――アシュレイの魔法によるものだ。アシュレイの制御下にある海水の温度を、前もって下げられるだけ下げておき、術の発動により瞬間的に範囲内を凍結されられるようにしておいた、というわけだ。後はその空間に敵が踏み込めば、氷結の罠として作動する。

「ぐおおっ!」

 身動きが取れなくなれば後は圧倒的な弾幕を浴びて沈黙させられるだけだ。
 それを見ていた親衛隊達は、自分達を見上げる銀髪の少女の、水魔法への習熟振りに目を見開いた。城の壁をぶち破った魔術師は別格としても――あの少女とて自分達とは比較にならない程の魔法の使い手ではないのかと。水の中にあって有利になれないという事実に戦慄を覚える。しかし、考え事をしている時間は無い。

「怯むな! 1人で当たらず隊列を立て直せ! 深追いはするな! 一体一体確実に片付けるのだ!」

 親衛隊はそれでも戦意が揺るがない。隊列を立て直そうとする。そこに――シオン達3人が切り込んできた。

「イグニスの相手――倒してくるわ」
「援護しますぞ」

 ピエトロが言うと、マルレーンも頷く。

「ええ。よろしく」

 ローズマリーが笑った。戦況は数的な不利を覆しつつある。シオン達が戻ってくれば後衛の防御も問題はない。状況を見て取ったローズマリーがディフェンスフィールドから出て、イグニスへの援護に回る。それを、ピエトロの分身達や、マルレーンのソーサーが護衛する形で敵陣を突っ切る。

 シオン達に切り込まれて混戦となっている親衛隊達を横目に、ディボリスと戦っているイグニスの元へローズマリーが到達する。

「むっ!」

 イグニスの戦鎚をシールドで止めながら、ディボリスは後方から前に出てくるローズマリー目掛けて魚群を放つ。ローズマリーはそれを予期していたとばかりにマジックサークルを展開した。
 闇魔法第5階級ブラックドランカー。ローズマリーの前に黒い盾が生じて、魔力で作られた魚達はそれに呑み込まれて消失した。魚群を放つ魔法は、生成する時にそれなりに魔力を使う。掻き消されたからと何度も放つわけにはいかない類の魔法だ。

「やりおるな、小娘!」

 ディボリスがローズマリーの防御魔法の選択に称賛の声を上げる。次の魔法を行使する前にイグニスが間合いを詰めて戦鎚を叩き付ける。それをディボリスはシールドで受けた。が、ローズマリーの魔力糸がイグニスの四肢に接続されると、続けざまの二撃目がマジックシールドを揺るがし、術を支えるディボリスの表情を歪ませる。

「これは――!? そうか。加勢ではなく、2体で1つというわけか! 面白い!」

 水の衝撃波をイグニスに放つ。しかし先程は大きく吹き飛ばされていたはずが、今度は後ろに引き下がらない。
 それを見るや否や、ディボリスの指先にマジックサークルが浮かんだ。更なる戦鎚の一撃を歯を食いしばってシールドで受け止めると同時に、魔力魚を生み出す。
 先程のような小魚ではなく、大きな魚を一匹。その上に胡坐をかくように座り込んで、機動力を確保したディボリスは水の弾幕を張りながら後退する。

 それをイグニスとローズマリーが追う。ディボリスの肩口に魔力魚の頭部だけが浮かぶ。そこから――ローズマリー目掛けて魔力の弾丸を放ってきた。

「イグニス!」

 魔力の弾丸を戦鎚で撃ち落とす。操り糸を切り離し、魔力消費を抑制しつつもイグニスの背中に乗る形でディボリスを追いかける。ワンドからの光弾で応射。ローズマリーはマジックスレイブを随伴させて、そこからも氷の弾丸を放つ。
 高速機動を行いながらの射撃戦。天地を入れ替え、互いが互いを自身の弾幕に呑み込もうとばかりに撃ち合う。すぐそばを掠めていく魔力の光と氷の礫。

「クカカッ! 陸の人間にしては大した魔力よな! ではこれではどうかな!?」

 ディボリスはマジックサークルを閃かせて手の上に小さな渦を作り出す。規模は小さいが、この局面でイグニス相手に向ける魔法だ。威力が見た目に比例するとは限らない。

 ローズマリーも応じるようにマジックサークルを展開する。応酬する弾幕に混ざって放たれる渦を包むように氷を作り出し、隔離するように封じ込めることで、ディボリスの制御を遮断して無力化する。魔法対魔法の応酬。制御力を競うような展開に、ディボリスは笑みをますます深める。
 互いのマジックスレイブがあちらこちらに浮かぶ。本体と共に動くものと、固定砲台として残すものと。敵本体からの射撃と、あらぬ方向からの射撃。そして固定砲台を潰すための射撃。四方八方から魔法が飛び交う。
 弾道計算は魔法制御能力の一部を割く。マジックシールドを使うまでも無いものはイグニスが防ぎ、ディボリスはマジックシールドだけに頼らず、自前の甲羅をも活用することで受け止める。互いの精神力、集中力を削るような戦い。

 だが――ディボリスにはこのままの展開を続けていった際の、先が見えている。ディボリスはガルディニスほどではないにせよ、魔眼による魔力の探知能力を有するのだ。
 恐らく、魔力の総量という点では自分に分がある、とディボリスは見ていた。
 消耗戦となればこちらに軍配が上がるだろう。そうなればあの人形の強化は覚束ない。人形を強化するための術式そのものがそれなりに高度で、更に強化に応じただけの、相応の魔力を送り込まなければならないからだ。つまり、消耗した分だけ近距離戦が有利になる。対応し切れなくなったところを、距離を詰めてから水の衝撃波で叩き潰せば良い。人形はともかくとして、人間のほうはそれで沈められるだろう。

 ローズマリーの放った複数のマジックスレイブがディボリス目掛けて飛来してくる。
 その内のいくつかを、ディボリスは無視した。マジックスレイブは複数発射されたが、込められた魔力に差がある。大きさや輝きなどを調整することで見た目からは分からないよう上手く偽装しているようだが、ディボリスにはそれを見抜くことができる。

 ディボリスは込められた魔力の大きいものだけを優先して潰していく。弱いマジックスレイブは甲羅による防御だけで充分に凌げるからだ。
 ただ魔力を無駄にしたようなものだと、ディボリスは笑ってローズマリーを見やるが――。

 酷薄な笑みを浮かべるローズマリーの姿がそこにはあった。
 至近を通過したマジックスレイブが発光して術式を繰り出す。次の瞬間、爆音が響いてディボリスの身体と思考が揺らいだ。

 衝撃と鈍痛、魚の上から投げ出される身体。回る景色。その中にあって、ディボリスは理解できない状況を整理しようと思考を巡らせていた。
 火魔法による爆発。そこまでは良い。あの程度の規模しかなかったマジックスレイブが、どうしてここまでの威力を? 計算に合わない。

 答えは出ない。ローズマリーが用いたそれは、テオドールが教えた水中用爆発魔法の応用法に他ならない。それを知らないディボリスに、正しい答えを導ける道理はなかった。

 敵の術の正体は分からない。だが、まだ動ける。魔力魚も健在。吹き飛ばされた位置は悪くない。敵方が間合いを詰めてくる前に魔力魚に乗って離脱を――。

「ぬおっ!?」

 ディボリスの背中に、巡ってきた魔力魚が勢いを乗せた体当たりを食らわせる。魔力魚のその身体に――ローズマリーの手から伸びる操り糸が絡みついていた。爆発の衝撃で制御の甘くなった魔力魚を乗っ取ったのだ。

「当てが外れたわね」
「お、おおおおっ!?」

 運ばれる。そのまま運ばれる。突っ込んで来るイグニスとローズマリーに向かって。戦鎚を振りかぶるイグニスの姿。馬鹿げた相対速度。
 咄嗟にマジックシールドを展開する。しかしイグニスはシールドを鉤爪で挟んで、ディボリスごと受け止め――。

 爆裂音が再度響き渡る。マジックシールドを砕き、飛び出した杭の先端がディボリスの腹にめり込む。そこから電撃が放たれた。

「ぎっ!」

 突き刺さったパイルバンカーは先端だけだ。浅い。しかし雷撃を食らって完全にディボリスの思考が停止する。無防備になったそこに、容赦なくイグニスの戦鎚が振り下ろされた。重い衝撃と共にディボリスの意識が途絶える。



 壁を突き破り、天井を貫いて戦闘の余波で城を破壊しながらも、グレイスとオーベルクは双斧と大剣で切り結ぶ。
 激突と衝撃。弾かれての反転。至近距離で互いを押し合い、離れ際の一瞬に幾度も武器を振るって無数の火花を散らす。僅か皮一枚の距離を互いの武器が切り裂いていく。
 大剣と手斧では間合いの面で大剣が勝る。しかしグレイスの斧は投擲も可能であるし、闘気を飛ばすこともできる。そして懐に潜り込んでしまえば小回りの面では有利だ。

 一方で、オーベルクの武器は瘴気剣であるために何も大剣に拘る必要はない。距離が離れれば瘴気弾で応射。踏み込まれた際は瘴気を2つに分け、剣と盾への形態変化をすることで、高い対応力を見せた。
 打ち込まれた斧を盾で受け流し、身体が流れたところを、首を刈り取るように剣を振るう。一瞬早く、グレイスの姿が剣の間合いの外へと離れる。
 足に闘気を集中。シールドを蹴って馬鹿げた速度で後方へと離脱したのだ。同時に猛烈な速度で飛来する斧。それを瘴気の盾で受け止める。重い衝撃。腕が痺れるような感触が突き抜けてくる。 
 そのグレイスの判断と動き、そして攻撃の威力に、オーベルクは目を見開く。

「水の中でこれほどまでの動きを見せるとはな。加護の力もあるのだろうが……貴様とこれ以上、まともに打ち合うのは賢い選択とは言えまい」

 オーベルクは自身の掌を見やる。芯に残るような重さが残っていた。グレイスの一撃一撃が、重いのだ。覚醒した魔人の膂力と技量を以ってしても危険を感じさせるほどの威力。
 それでも尚、いや、だからこそオーベルクは楽しそうに笑う。

「この場所は――全く陽の光が届かないので夜の気配が強い。調子が良いのです」

 グレイスは双斧を構えて闘気を漲らせる。

「くくくっ、なるほどな。互いにとって都合のいい場所というわけか。だが、我も水牙の二つ名を持つ身だ。この場所で後れを取るわけにはいかんな!」

 瘴気の剣と盾を消失させたオーベルクが全身から瘴気を立ち昇らせ――脱力したような姿勢から、手を横薙ぎに払う。
 瞬間、グレイスは勘に従って飛んだ。オーベルクの手の動きに連動するような、猛烈な水の流れが生まれる。寸前までグレイスのいた場所を、水が薙ぎ払っていった。太い柱を易々と両断するような一撃。

 続けざま、オーベルクが腕を振るう。その動きに合わせるように、グレイスが回避行動を取る。
 上から下へと引っ掻くように。手元の動きが幾倍にも増幅されて、床にオーベルクの指と同じ形に穴が穿たれる。掌底を突き出せば壁が押されるように粉砕された。

 グレイスが飛ぶ。右から左へ。天井を蹴って柱へ。柱からシールド。足場を作ってあらぬ方向へと反射し、オーベルクに先を読ませないよう、動きを捉えられないように飛び回る。手刀を増幅した水の斬撃をぎりぎりで回避し、泳ぎ回るオーベルクとの間合いを詰めながら闘気を帯びた斧を投げつけてくる。
 オーベルクが掌を開いて水を薙げばそれは水の壁となる。軌道を逸らされた斧を泳いで避けるが闘気で操られた鎖は水の壁を突破して、生き物のようにオーベルクの足鰭に絡みついた。

「ちっ!」

 オーベルクの舌打ち。グレイス本体には近寄らせない。水の斬撃を放つが身をかわされ、そのまま力任せに振り回された。柱に向かって次々と激突する。腕を交差させて柱を突き抜ける。
 オーベルクは牙を剥いて笑いながら、自身は防御を捨てて、振り回されるに任せて水の斬撃と打撃をグレイス目掛けて矢継ぎ早に放つ。
 もう一方の斧で飛来する水の連撃を斬り払う。が、対応としてはそれだけでは完璧とは言えない。

 オーベルクの攻撃の本質は手元の動きを幾倍にも拡大して、連動した水を操るというものだ。巨大な、実体のない腕が迫って来るようなものである。
 攻撃が大きいので斬撃のみで相殺することはできない。だが、勢いを弱めることはできる。闘気を前面に集中させて突破するが、今の攻防でグレイスはどこかを怪我したのか、僅かな出血が見られた。それは、グレイスの膂力で柱へと叩きつけられたオーベルクも同じこと。手傷を負いながらも拘束からは逃れ、鎖から距離を取るように離脱していく。

 そのまま、お互い戦いへの支障はないとばかりに間合いを詰めていく。
 オーベルクが動きを変える。大振りの一撃を避け、動きを読ませないように細かく速く、両腕で水を操る。先程までの大振りの技とは違い、威力は低いが技の出所が分かりにくい。が、そういった技は、回避はともかく、グレイスにとっても迎撃が容易い。
 グレイスが双斧を振ってオーベルクの技を切り払って突破を試みる。
 そこに――威力を乗せた本命の一撃を織り交ぜることで吹き飛ばした。この機を逃さぬとばかりに水を操り、弾幕を張る。それを、グレイスは斧を交差させ、闘気を漲らせて受け止める。

「ぐううっ!」
「おおおあっ!」

 裂帛の気合と共にオーベルクが腕を振り抜けば、グレイスが壁まで吹き飛ばされる。更に追撃の構えを見せるオーベルクに、グレイスは背中側にある壁を拳で砕くと、後ろに飛んでその向こうへと消えた。
 逃げたかとオーベルクが思ったのも一瞬のこと。壁を挟んで猛烈な勢いで斧が飛来した。
泳いで身をかわす。しかし、斧が壁越しでありながら正確にオーベルクの位置を狙って飛んできた。

 両腕の斧を矢継早に投擲しているのか、凄まじい勢いで引き戻されていった斧が、次々に壁をぶち抜いてオーベルクに迫る。
 速度を上げて泳ぎながら反撃を放つ。しかしオーベルクはグレイスの正確な位置が分からないので投擲の勢いが弱まることはない。壁の向こうで並走しながらオーベルクに付いてきているようだ。
 こちらの位置を掴む手段がある、ということだろう。魔法? いや、シールドを用いるにせよ、全て魔道具を介していたはずだ。ならば、それは――。

「血か!」

 水の中に漂う、オーベルクの血。吸血鬼故に血の臭いに対して優れた感覚を有するのか。いや、これだけ瓦礫があたりに飛び散り、水を攪拌されているのに正確に追尾してくるのだから、匂いによってというのは考えにくい。ましてや壁越しだ。

 それは恐らく嗅覚という物理的な五感ではなく、種族に依存した別の知覚能力なのだろう。
 血を用いて魔法的な繋がりを作り、血を用いて相手を隷属させるのが吸血鬼だ。獲物を逃さぬように、血を覚えた相手の位置を把握するというのも可能なのではないだろうか。或いは、この場所が海中であることも関係しているのだろうか。
 いずれにせよ、これを防ごうと思うのならば、魔法による浄化や結界などという、魔法的な探知を遮断するような技術が必要となるだろう。
 だが、そんな時間も用意もない。見る見るうちに水が濁っていく。それは、オーベルクにとって不利な状況を構築するはずだ。

 オーベルクは――逃げるという選択肢を笑止と断じて、自ら斧の弾幕の中へと飛び込んでいく。壁をぶち破って隣の部屋へ。斧を投擲して来たその方向へと、引き戻すタイミングに合わせて真っ直ぐに瘴気の槍を構えて突っ込む。

 瓦礫の欠片が飛び散り、埃が舞い上がる濁った水の中を突き進むも――そこにグレイスの姿は無かった。
 闘気を帯びた鎖が続く先は――天井だ。突撃を察知したのに合わせて上の階へと動き、鎖を闘気で操って誘い出したのだとオーベルクが理解する。

 見上げるのと、グレイスが天井をぶち破って突っ込んで来るのはほとんど同時だった。紫電を放つほどの闘気を身に纏い、爪で引き裂くようにオーベルクの身体に斬撃を見舞う。月女神の祝福による中和と、馬鹿げた量の闘気を以って瘴気の防御を突き破り、半身を切り裂く。

 人で言うのなら足に相当する部分だ。傷は浅くない。オーベルクは自身から機動力という手札が失われたということを理解する。
 ならば、次は? 吸血鬼は斧を引き戻し、必殺の一撃を見舞ってくるだろう。距離を取れたとしても、もはやあの斧の投擲を回避することは覚束ない。勝負を仕掛けるのならば、ここしかない。

「潰れろ、吸血鬼ッ!」

 声と共に、両手で上下から挟み込むような仕草を見せる。グレイスの周囲にある水が連動し、まるで巨大な顎のようにグレイスに水圧をかける。

 それを――グレイスは全身に闘気を纏って、腕を頭上で交差させるような体勢で受け止めた。見えざる力で圧力をかけるオーベルクと、闘気による強化で耐え凌ぐグレイス。
 術を制御するオーベルクの手にも反動があるのか、ぎしぎしと軋むような音を立てて、手の平から火花を散らす。

「お、おおおおおぉっ!」
「はあああああっ!」

 両者の咆哮と共に、砕け散るような音がする。力比べで押し負けたのは――オーベルクだった。両腕が大きく後ろに弾き飛ばされる。
 がら空きになった防御。闘気によって引き戻される斧。高めた闘気そのままに踏み込んで来る赤い瞳の吸血鬼。口から瘴気弾を吐き出そうと集中するも、それは間に合わなかった。
 斧による致命的な一閃が、身体の中を奔っていったのを感じた。ぐらりと。海洋生物の半身を残して、オーベルクの上半身が沈んでいく。

「見事だ、吸血鬼」
「ダンピーラです。吸血鬼では、ありません」
「そうか。それは……済まなかったな」

 くっく、と楽しげな含み笑いだけを漏らして。
 オーベルクの身体が崩れ、水の中に泡となって散る。グレイスはそれを見届けると、高まった破壊衝動を抑えるように大きく息を吐くのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ