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491 深海火山

 次第にグランティオスが近付いてくる。そしてそこにフラフラになりながらも這う這うの体で逃げていく僅かな眷属達も、シリウス号のモニターはしっかりと捉えていた。

 僅かに落ち延びた連中だが……生命反応は――城の中に逃げ込むとすぐに薄れて見えなくなる。どうも何かしらの結界を構築しているようだな。侵入を拒むものか、それとも……あの邪気が別の影響を及ぼすようなものか。


「甲板に出て、直接見てみます」


 そう言って、艦橋から甲板へと移動する。

 城の外周部は薄っすらと見えるが、中央部は生命反応での感知がしにくいために何とも言えない。それならば、魔力で敵の布陣や重要施設にあたりを付ければいいのだ。ガルディニスが同じような魔眼を持っていたことを考えると……奴がベリオンドーラと戦った時も重宝したのだろうなという気はするが……。さて。

 甲板に出て片眼鏡を通して魔力反応を見てみれば――グランティオスにおいて、魔力の集まっている場所が明白になった。


 まず、あの王城の中央部。それから亀裂の淵近くにある、街の中で一番大きなドーム状の建造物だ。それに、あの邪気の流れ……。なるほどな。


 グランティオスにいるウォルドムの眷属達もこちらが攻め上ってきたのを察知したらしく、街の上方に大急ぎで展開し始めている。

 だが……平地での戦いに比べるとグランティオスにいる後詰めの兵力は微々たるものだ。

 生命感知については、とりあえず城の外の様子が分かるのならそれでいいだろう。

 グランティオスの街中に潜んで、こちらにゲリラ戦を仕掛けてくるような奴や逃走を図るような奴がいると面倒だが、それはバロールで位置を把握できる。小規模で動くつもりなら、端から各個撃破で潰して行けば良い。


 とりあえず、分かった情報をみんなと共有するべきだな。

 艦橋に戻り、エルドレーネ女王を始めとする皆に話をする。


「やはり、城の一部に魔力が集中しているようです」

「亀裂の奥は?」

「僕には……抜け殻のように見えます。上から覗いてみればもっとはっきり断言できるかと」


 エルドレーネ女王に答える。

 グランティオス攻略戦にあたり、とりわけ重要になるのは海王の所在だ。

 まだ封印が解けないから亀裂の奥にいるのか。それとも十全に力が発揮できないだけで、別の場所へは移動可能なのか。或いは……既に封印が解けているのか。


 仮にウォルドムがまだ亀裂の下にいるのならこちらから攻め入ることも可能だが、未だに噴き出す邪気の正体は、溜まりに溜まった連中の怨嗟がまだあふれ出しているに過ぎない。

 その邪気の帯びる魔力は城へと引き寄せられ……そこで増幅されて十重二十重にグランティオス王城を取り囲んでいる。

 魔力の流れ……片眼鏡で見えたものを皆に説明すると、ヘルフリート王子が言った。


「そういうことなら……海王はやはり城にいるんじゃないかな。ほら。連中城から出てくるが、亀裂側からは迎撃が出てこないし、守ろうとしているようにも見えない」


 と、ヘルフリート王子が眷属達の動きを見ながら言う。その言葉に、ドリスコル公爵が応じる。


「私も殿下の見立てに同意見です。海王を動かせるのなら、亀裂の底よりも、守りの厚い城の奥に運ぶのが道理というもの」


 魔力の流れと、兵の動き。状況から判断するならそういうことになるか。


「では、予定通り、街を制圧した後に攻城戦ということで。但し、戦略面で考えるなら亀裂の奥に伏兵がいないとも限りません。警戒と備えはしておくべきでしょう」


 海王はいないとしても、兵の動きから亀裂への警戒を薄れさせたところで襲撃を仕掛けるということは考えられるわけだ。


「うむ。監視の目を亀裂周辺に残しておく必要があるか。妾達は……万端準備を整えて、あれを浄化しにきたのだ。結界になっているというのなら、尚更あれを散らさねばならぬ」


 エルドレーネ女王は黄金の杖を握りしめながら言うのであった。




「進めーッ!」

「おおおおっ!」


 指揮官の号令一下、将兵達の咆哮が海の都に響き渡る。

 シリウス号から響き渡るセイレーンの大合唱をその背に受けて、将兵達が突っ込んでいく。


「お、おのれ……ッ! 雑魚共が数を頼みに調子に乗りおって!」


 数の違いは平地での戦いより更に広がっている。泳兵達が立体的な隊列を組み、槍衾を作り出す。上下左右を騎兵達が固めて進行することで、眷属達を圧倒していく。


 連中も自分達の防御が絶対でないと知れば槍衾を崩しにくることができない。

 密集隊形であるために遠距離から魔法を撃ち込まれるのには注意が必要だが――そちらの対策は、シリウス号が行う。

 女王と水守り達の魔法、セイレーン達の呪歌と呪曲、そしてシリウス号からの音響砲と弾幕が徹底的に敵の術式を阻害し、減衰する。


 魔術師達が遠距離から放つ攻撃では、密集しながら闘気で防御を行う将兵達の槍衾を崩すことはできず、かといって間合いを詰めて有効射程まで踏み込もうとすれば、甲板からの集中砲火を浴びるという寸法だ。

 投降を呼びかけて相手の戦意を殺ぎつつ確実に戦力を削っていく。


「沈めええェッ!」


 膨大な闘気を漲らせた騎士階級の眷属が、間隙を縫ってシリウス号船体への突撃を敢行する。長大な槍を突き出し、錐揉み状態で全身で飛び込んで来るが――。


「ば、馬鹿なッ! 何だ、この船は!?」


 騎士の巨躯が回転の勢いを弱める。槍の穂先はシリウス号の脇腹に向かって繰り出されたが――渾身の一撃を受けて尚、船体には傷1つついていない。例えば船体に穴を穿ち、そこから浸水させて沈めるなり内部に踏み込んで攻略するつもりだったのだろうが……代わりに、虹色の波紋がシリウス号の船体全体へと広がっていく。


 呼応するように変化したのは船の周囲を飛び回っていたアルファだった。遠吠えを響かせ、身体から金色の輝きを放ちながら、猛烈な速度の光弾となって騎士目掛けて突っ込んでいく。


 牙を剥いて迫る金色の狼の牙を、騎士は闘気を漲らせて槍の柄で受け止めようとした。しかし、光弾の輪郭が歪み、アルファの姿が一瞬にして変化する。四足の獣から、二足歩行の人狼形態へ。上から下へと。飛び込んでいく勢いそのまま、闘気を纏った爪が斬撃を見舞う。

 五条の残光が暗い海に刻まれる。受けようとした槍を寸断し、騎士の肩口から裂傷を刻む。


「ぐッ、ああ!?」


 悲鳴を上げて沈んでいく騎士。アルファは楽しげな咆哮を響かせると、再び四足の狼の姿に戻り、高速で甲板の上方へと戻って来る。

 シリウス号への攻撃は、アルファの魔石に力を与えるのと同義だ。今回はシリウス号の推進力として使う必要がないから、アルファ自身が力を発揮するために使ったというところだ。一瞬ではあるが、人狼形態にも戻れるようで。何やら活き活きとしているアルファである。


 とりあえず、船に取り付いたり、攻撃を仕掛けてもどうしようもないということは理解しただろう。そのまま戦線を前へ進めて圧殺していく。

 目的としては敵方の戦力を削ることではなく、迎撃に出てきた連中を城内部へと押し戻すことだ。


「ぐはっ!」

「だ、駄目だ! これでは手も足も――」

「ひ、退け! 城まで撤退するのだ!」


 アルファの姿に気を取られたのか、イルムヒルトの光の矢を食らって魔術師階級がまた1人脱落する。

 それが呼び水になったのか、連中が踵を返して城へと撤退していく。グランティオスに来てから、投降する連中はいない……か。

 ウォルドムかそれともその側近かが城の奥に控えているせいだろう。恐怖による支配か、それともこの戦力差でもそいつらが前に出れば勝てると思っているのか。

 敵方の動きを見ながら、こちらも人員を動かしていく。最後の1人が城へと逃げ込み、城門が閉ざされたところで――こちらも次の行動を起こす。


「では――始めよう」

「はい、陛下ッ!」


 甲板に陣取り、一斉にマジックサークルを展開するエルドレーネ女王と水守り達。女王と水守り達は都市内部の邪気を浄化する。セイレーン達は女王と水守り達の力の増幅だ。

 そして――俺にも役割がある。


「確認しますが、良いのですね?」

「……頼む。テオドール殿。妾はこのような有様のグランティオスを、いつまでも見ていたくはないのだ」


 エルドレーネ女王に再確認すると、静かにそう言われた。使用する魔法の種類。その結果の予測も伝えてある。その上での話だ。俺は頷き、甲板から飛び立つ。

 

「行くぞ、ウロボロス」


 俺の呼びかけに応えるように、ウロボロスが低く喉を鳴らす。

 眼下に邪気に纏わりつかれるグランティオスの城を見下ろして――竜杖を真っ直ぐに構え、魔力を増幅していく。循環循環。俺の身体とウロボロス、そしてオリハルコンを駆け巡る魔力が膨れ上がる。

 杖から広がる魔力の翼。青白い魔力光がグランティオスの街を白々と照らしていく。


「警告する。この方向と角度から――謁見の間まで通じる壁をぶち破る。巻き込まれて死にたくなかったら、今すぐ全員、城の右側から離れろ。なるべく遠くにな」


 セラフィナに俺の言葉を増幅してもらい、城目掛けて響かせる。数拍の間を置いてから宣言通りに大魔法のマジックサークルを展開した。頭上に掲げるウロボロスを中心に、巨大な魔法陣が広がっていく。邪魔をする者はいない。目標も逃げない。時間をかけて術式を丁寧に組み上げていく。


 火、土複合、第9階級ヴォルカノンハンマー。同じ種類の複合魔法――第9階級メテオハンマーの亜種と呼ぶべき魔法である。本来ならメテオハンマーと同格の魔法。

 しかしウロボロスがオリハルコンで強化された分、いつぞや、ローズマリーを助けに行った時に、本の中で放ったそれよりも更に強大になっている。


 頭上に、水の中で尚、赤々と熱を放つ岩が生まれる。見る見るうちにそれは膨れ上がった。頭上に掲げたのは岩というのも生易しい、圧倒的な暴力の塊。赤熱する溶岩を内側に秘めたそれを――。


「砕けろ」


 杖と共に振り下ろせば、真っ直ぐに城目掛けて小山のような岩塊が突っ込んでいく。狙い違わず邪気を増幅させているグランティオスの城、中枢部の壁に激突。ハンマーの外殻が破裂、内側に秘めた溶岩が撒き散らされる。海水に反応して膨張。巨大な爆裂を引き起こしながら城壁を砕き溶かしていく。

 遅れて着弾点から爆音と衝撃が伝わってくる。海底からの放射状の津波と言えばいいのか。グランティオスを揺らがすような水の圧力と流れが生まれた。


 瓦礫と水泡、舞い上がった泥――それが薄れてくると、狙った通り、城に大穴が穿たれているのが見えてきた。

 さて、ここからだ。あの大穴から突入し、ウォルドム一派を制圧する。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。


2巻発売日まで1週間を切ったということで

2巻の主要登場人物のラフイラストが公開となりました!

活動報告にて掲載しておりますので楽しんでいただけたら幸いです!


※9月18日の22:30頃に記事を更新して更に追加のラフイラストを公開しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 吸血鬼ん時自傷ダメージ食らってたし、海中でこんな規模の火魔法使ったら沸騰しちゃう(汗) 侯爵領に海王怒りの津波襲ってそう(主犯テオ) [気になる点] 少なくとも自軍兵士はみんなどっか行っ…
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