表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
499/2811

482 海中魔法講義

 早速、海域の監視を続けながら水中で有効な魔法の使用についての講義を行っていくことにした。まずは火魔法で、爆発を用いた水中戦用術式の話からだろう。


 浮かせた水球の中に石壁を作り出す。

 そして――指向性を持たせた爆発を放つと、石壁が粉砕された。アシュレイに、クラウディア、ローズマリー。それからステファニア姫、アドリアーナ姫、ジークムント老、ヴァレンティナ、フォルセト……と言った面々の目が丸くなる。


 魔法に詳しいほど奇異に映る部分はあるだろう。展開したマジックサークルのランクと、爆発から想像される威力、破壊の状態に整合性が取れていない部分があるからだ。まして、俺は循環を用いていないし。


「水中で爆発のような急激な圧力を起こすと泡が発生します。その泡の、瞬間的な膨張と収縮を利用して、少し条件を整えてやれば水中に強烈な衝撃波が発生する……というわけです。火魔法の爆発をうまく制御することで、水中でも十分に有効な攻撃手段として機能するという寸法ですね」


 単純な爆発でも確かに効果はあるのだが……それを応用し制御してやることで威力をより強力なものにすることができる。このバブルジェットと言われる衝撃波が生み出す破壊力は、単純な爆発を当てるよりも威力が上なのだ。


「……興味深い話じゃな」


 と、ジークムント老は顎髭に手をやって破壊された石壁を観察している。


「一部の海老の仲間に、同じ原理で衝撃波を放てるものがいますよ。こちらは爆発を使うわけではありませんが」

「ほう」


 テッポウエビという海老がいて、ハサミを閉じて水に急激な圧力を加えることで、飛び道具として衝撃波を放つことができるという話だ。衝撃波で獲物を気絶させて捕食するというのだから冗談のような話である。

 ともかく、火魔法に限らず、他の方法でもバブルジェットの衝撃波を作り出すことは可能ということを意味している。


 俺としても……そのテッポウエビの話にしろ、術式の応用による衝撃波にしろ、BFOで得た知識ではあるのだ。

 爆発系の術式に応用を加えることでバブルジェットを攻撃に用いようと研究したプレイヤーがいたのである。その結果として、しっかりと水中攻撃用の術式として確立されたという経緯を持つのだが……いずれにせよ、水中専用魔法という感じだな。


 これは運営側が最初から水中での機雷のような魔道具が作られることを想定して、仕様として組み込んでいたらしい。隠し仕様を仕込む運営も運営なら、ヒント無しで研究で再現してしまうプレイヤーもプレイヤーという気はするが……。


 ともかく、あるのだから恩恵に与るとしよう。アドリアーナ姫は前線に出ないが、水中で戦うのなら覚えておいて損はないはずだ。


 同様に、雷魔法の特性なども注意喚起をしていく。俺達は魔光水脈などにも向かうので、パーティーメンバーにはある程度教えていたりするが、この点はやはり注意が必要だ。

 水中に放電するのなら放った後も雷の制御をきっちり行わなければならない。自分や仲間が感電する危険があるからだ。


 シーラの雷撃の小手などはそのあたり、魔道具であるために水中での使用は控えたほうが良い。一方で、マルレーンの使い魔であるエクレールは自分に通電しても問題ないらしく、水中でも問題なく放電することが可能だ。とは言え、それは味方を巻き込まないのなら、という条件付きではあるが。

 また、塩素なども発生するので大規模な雷魔法を撃つ際はそのへんに注意しなければなるまい。


 というわけで、水中で有効に働く魔法。注意しなければならない魔法などを諸々説明していく。


「防御面での大きな問題としては……水の魔法を攻撃手段として用いてくる相手でしょうか」


 これは割合危険度が高い。水の中であるために、本来、陸上ならば見えるはずの術の軌道が、不可視になってしまうためだ。


「その場合はどうしたらいいのですか?」


 シャルロッテが首を傾げる。


「放つ魔法の威力に応じて相手も相応の溜めなりマジックサークルなりが必要だし、危険を感じたらシールドで防御するのが基本かな。無詠唱が多いようなら、距離を取ったほうが対処しやすい」

「ああ……もしかして、円錐型シールドの魔道具を持ってきたのはそのために?」

「うん。普通のシールドよりも水魔法の防御に向く」


 本来は飛竜などに騎乗して空気抵抗を減らし、相手に突撃するためのものであるが、魔法で制御を受けた水魔法の一撃を逸らすためにも使える。

 討魔騎士団のために数があったので、それを今回は持ち込んでいるのだ。


「アシュレイの場合は、自分の回りの水の動きを制御してしまうことで、相手の術を無効化することもできるかな」

「制御する範囲を、広めに取れば良さそうですね」

「ん。そうなる」


 アシュレイの返答に頷く。このあたりは水魔法を使い慣れているだけあるな。


「土魔法はどうなのかしら?」


 と、ステファニア姫。


「しっかりとした強度と密度があるなら問題ありません。例えばコルリスの結晶弾のような魔法であるとか。氷の魔法もそうですね。逆に泥を拡散させて煙幕や目潰しとして用いることも可能です」

「なるほど……」


 総じて土魔法は使いやすい部類かも知れない。

 風魔法は水に邪魔されるが、威力が大きい術程あまり変わらない使用感で用いることができるだろう。素直に水魔法で調節制御するほうが良いような気もするが。音関係の風魔法は射程が伸びたり威力が増えたりするものもあるので、相性は悪くない。

 普通ならば水の中で活動するには風魔法が必須でもある。そういう意味では、水中において補助的な役割を果たす位置付けだ。酸素を供給してやれば水中で火も起こせるしな。


 水の中では減衰しやすいので有効射程の問題もあるだろうか。ただ、そこはマールの加護で補えている部分もある。

 マールは有利不利はないと言っていたが、それは近接での話である。距離を取っての射撃戦では基本的にこちらにとって有利に働くだろう。


「光魔法と闇魔法は?」


 ローズマリーが少し思案するような様子を見せながら尋ねてくる。

 これはどちらも特殊効果のあるものが多いな。


「浄化や呪いの類の効果があるような術式には特に影響ないかな。光魔法で熱を利用するようなものは威力が落ちるけど。闇魔法は相性が良いかも知れない」

「ふむ。わたくしにとっては、それほど戦力が上下しないようね。助かる話だけど」

「んー。そうだな。加護もあるし色々使っていけると思う」


 ローズマリーの得意分野は闇魔法だし。まあ、比較的影響は少ない部類と言える。

 纏めてしまうと……やはり水中で使うのなら水魔法が一番ということになるか。次いで、影響の少ないもの、相乗効果で威力の増すものが挙げられる。火魔法も……限定されるが威力の高い、使える術はある、ということで。


「後は水魔法への対処法を実地訓練で行っていくのが良いかな。マジックサークルを偽装してくる相手や、無詠唱を使う相手への対処は……基本と同じで良い。水の中では見えないことを念頭に置いて、早め早めのシールド展開が重要になる」

「分かりました」


 グレイスが言うと、マルレーンもこくこくと真剣な表情で頷いた。

 マジックサークルの偽装はぎこちなさや違和感が出るし、一般に普通のマジックサークルに余計な工程を挟んでいる分、発動速度に差が出る。

 となれば攪乱し、がんがん攻めることで制御を乱していくのがいい。

 無詠唱に対しては、水中なら距離を取って水による威力の減衰を逆に利用してやるか、或いは威力の乏しさを見越した上で防御を固めて強行突破をするかだ。どちらにせよ大魔法は飛んで来ないので落ち着いて対処するということになる。


 このあたりは魔術師系への対策としてパーティーメンバーには伝えてあるし普段から訓練もしている。体術に関してはマールの加護のお陰で問題無いが、やはり独特の部分はあるので十分に慣れておく必要はあるだろう。


「まあ……今日は陽が落ちるまでここで待機して、アイアノスに戻ったら模擬戦でもやろうか」


 俺の言葉を受けてみんなが頷いた。

 ウェルテス達の動きも参考になるだろうし、アクアゴーレムとの訓練は水魔法を使われた時の違和感を見極めるのにも繋がってくるだろう。

 海王の眷属達がやってくるまで……後数日ぐらいだろうか。それまでにきっちり訓練を積んで臨みたいところである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] そもそも魔法を弄れる時点で自由度がやばいですね。 やってみたい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ