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481 迎撃準備

「――ああ、楽しかった」

「本当。外のお客様に歌を聴いてもらえるなんて滅多にないものね」


 演奏会が終わると、部族長の1人が心底満足したという様子で言って、もう1人がそれに同調するように頷いていた。

 他のセイレーン達も同様の感想を抱いているのか、表情が晴れ晴れしているように見える。

 まあ、歓迎の催しを楽しんだのはセイレーン達ばかりではなく、こちらもだが。みんな楽しそうな様子で何よりである。

 ふむ。練習の類ではなく、海王達との戦いに用いるという義務のためでもないというのが、セイレーン達の嗜好に合致した、というところだろうか。


「僕達も楽しかったです」

「ふふ。ありがとうございます」


 マリオンが相好を崩す。


「テオドール様達はこの後はお仕事ですか?」

「はい。公爵領の飛び地を巡って、航路に関する注意喚起をしたり……色々とやることがありますので」


 その際離島の月神殿なども転移可能な拠点にしたり、ロヴィーサが最初に襲われた海域を巡回して監視したり……色々だな。

 牢屋にいる鮫男の監視から得られた情報では、連中は特に夜行性ということもないようだし、大体の方向から人魚達の行き先を捜索するなどという、結果の保証がない任務では無理をし続ける理由がないわけだ。向こうとしても人魚の活動するであろう時間でなければ効率が悪いだろうし。


 というわけで……陽が高い内は件の海域の監視をしつつ、それ以外の合間を縫って水中戦の訓練などをしていく、という形になるだろう。水中で魔法を使う時の注意事項などは……まあ、何時でもできるか。


「それで、昨日お話した件なのですが」

「ああ。ドミニクさんやシリルさんの件ですね」


 俺の言葉にマリオンは頷く。ドミニク達も呪歌、呪曲の練習に混ぜて欲しいということでマリオンには他のセイレーン達に聞いておいて欲しいと頼んでおいたのだが。


「皆に話したら、大歓迎ということだそうですよ。その……ドミニクさんの呪歌にも皆興味津々という感じでして」


 と、マリオンは少し気恥ずかしそうに言う。苦笑して頷き、シリルについても尋ねてみた。


「シリルは呪歌が使えるというわけではないですが、踊りなどでも大丈夫ですか?」


 バグパイプも水中で使うには泡の中に入るなどの工夫が必要だ。


「問題ありません。歌の効果が及ばないようにもできますし、呪歌を使えない者が混ざっていても、目的を同じにすればより強い力になるのです」


 なるほど。このあたりも聞いていた通りではあるかな。


「それを聞いて安心しました」


 そう答えると、マリオンは目を細めて頷いた。


「私も今日は、みんなと一緒に練習しようかな」

「ええ。是非に」


 イルムヒルトが言うと、マリオンを始めとする部族長達も頷いて歓迎の意向を示す。


「イルムヒルトさんはラミアということでしたね」

「はい。私の知っている歌や曲は、ラミアの物というのとは少し違う気がしますが」

「でも、イルムヒルトは色んな歌や曲を知っているのよ」


 と、ユスティアが言う。

 イルムヒルトの知っている歌や曲というのは……つまりクラウディアや迷宮村の住人達から習ったものだ。

 それは月に伝わっていたものであったり……迷宮村に保護された魔物達、それぞれの種族が伝えていたものということになるだろう。或いは迷宮村の住人達が新しく作り出した曲もあるだろうか。それだけに色々とバリエーションが豊富だ。

 セイレーン達も、ユスティアのまだ覚えていない曲などを知っていそうだし、呪曲の練習ではあるのだろうが、知らない曲を互いにお披露目する場にもなりそうだな。


 クラウディアはそんな彼女達の会話を穏やかな表情で見ていたが、イルムヒルトから何か言いたげな視線を向けられて静かに微笑んで頷く。

 イルムヒルトはクラウディアの反応に笑みを浮かべていった。


「私の知っている歌は、クラウディア様に教えてもらったものだったりするの」

「……アイアノスに戻って来ている時なら、歌の話もできるかしらね」


 と、クラウディアが言うとセイレーン達は嬉しそうな表情を浮かべるのであった。




 さて。セイレーン達の歓迎会も終わったところで、早速色々と動いていく。アイアノスにはカドケウスを残しつつ、まずはシリウス号であちこちへ動いて転移拠点を作っていくというわけだ。

 同時に公爵領の各所に人魚達の国とヴェルドガルがメルヴィン王やジョサイア王子公認で正式な国交を結んだことを通達をしたり、主戦場になり得る海域では戦闘の影響が予想されるので航路を迂回するように呼びかけたりと、情報共有を進めていく。


「――というわけだ。もし、人魚や半魚人達が保護を求めるのであれば、城に続く水門を解放し、城の中へと避難をしてもらうように」

「はっ!」


 公爵の命令を受けた将兵達は敬礼で応じた。

 ドリスコル公爵領の各所を巡り、それから本拠地にも顔を出して、必要事項を伝えている。

 公爵の本拠地はアイアノスからもそれほど距離が離れていないこと、街に水路が張り巡らされていることなどから、緊急時は都市内部に人魚や半魚人が避難するのに割合都合が良いのだ。


「では、また少し、出かけてくる」

「いってらっしゃいませ、あなた」

「留守の間はお任せください」

「お気をつけて、父様」


 と、公爵は将兵への通達を終えたところで、夫人やオスカー、ヴァネッサと言葉を交わしている。公爵があちこち動いて留守の間は、オスカーとヴァネッサが領地を預かるというわけだ。まあ、家臣達もオスカー達を補佐をするのだろうが。


「レスリーも、ゆっくり休んでいてくれ」

「本当ならば私も働くべきなのでしょうが……」

「いや、話し合った通りだ。病み上がりの者に無理をさせるわけにはいかんよ。それに、グランティオスへの協力は私の仕事だ」


 公爵の言葉に、レスリーは頷いた。


「ありがとうございます。では、兄上のご厚意に甘えさせていただきます。生まれ故郷でのんびりするというのも、思えば久しぶりな気がしますし」

「うむ。この時期はタームウィルズより暖かいし、過ごしやすかろう」


 レスリーとしては夢魔の後始末などの仕事が控えているしな。自分の仕事をしっかりとするためにもといったところだろうが、公爵に心配をかけるのも本意ではないのか、互いに笑みを向け合って、そんな受け答えをしていた。


「では、参りましょうか」

「はい」


 諸々の話を終えた公爵と共にシリウス号に乗り込む。

 公爵はエルドレーネ女王ともまだ色々と話をすることがあるそうで、この後アイアノスに向かう予定だ。まあ、しばらくロヴィーサの襲われた海域で監視をしてからということになるが。


 エルハーム姫の作業の妨げとならないよう、ゆっくりとシリウス号を動かしていく。

 鍛冶設備の様子はバロールで見ているが……こちらも特に問題はないようだ。

 ラムリヤはエルハーム姫の傍らで、出来上がった槍の穂先を硬質の砂で研磨したりと、鍛冶仕事を手伝ったりしているようである。どうも、色々な意味でエルハーム姫と相性が良いようだな。


 やがてシリウス号は目的の海域に到着する。船の姿を光魔法で消しながら早速監視を始める。

 暗視とライフディテクションで海底の様子を見ながら待機というわけだ。


「ふうむ。シリウス号がここを離れている時は、儂が監視を引き受けてもよいぞ」


 と、アウリアが言った。


「大丈夫なのですか?」

「うむ。水の精霊を使役するのも、精霊王の加護のお陰で少ない魔力でできるようじゃからな。精霊がアイアノスに伝言を伝えにくるまでの時間差は生じてしまうが……使役する精霊だけでなく、精霊王に同調してくれる水の精霊も多い故、普段より広域を同時に見ることが可能じゃな」


 なるほど。


「では、お願いできますか?」

「うむ。任されたぞ」


 アウリアは腰に手をやりながらもう一方の手で自分の胸を軽く叩いていた。

 まあ……これで相手からは把握されずに、ほとんど24時間の監視が可能となるか。俺としては海王の眷属が現れるまではもう少し先と見積もっている。今のうちに、水中で有効な魔法等の話を皆にしておくべきだろう。

 火魔法にさえ、水中でも有効な術式や使い方があるしな。例えば爆発の魔法などがそうだ。寧ろ、水中の爆発というのは凶悪な威力が出たりする。火魔法主体のアドリアーナ姫には、このあたりの情報を伝えておくのは大事なことだろう。

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