挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

488/1325

471 女王の覚悟

「――各国の姫君に、近海を治めるヴェルドガルの公爵か。これはまた、そうそうたる顔ぶれであるが」

 まずはステファニア姫達3人と公爵が自己紹介を済ませ、その後で俺も同様に名乗る。

「お初にお目に掛かります。ヴェルドガル王国より参りました。異界大使のテオドール=ガートナーと申します」
「陛下。彼が海王の眷属を退けた魔術師です」
「ほう……」

 ウェルテスが言うとエルドレーネ女王が目を丸くした。

「ふむ。如何に精霊の加護を受けた魔術師とは言え、海中で連中に勝つとはな……確かに、凄まじいほどに研鑽された魔力を感じるが」

 ……水守りの女王か。魔力の質などを感じ取っているようだな。

「陛下。テオドール殿はその……魔法をほとんど使わずに普通に近接戦闘で海王の眷属を圧倒したと申しますか」
「む?」

 ウェルテスの説明にエルドレーネ女王が怪訝そうな面持ちになる。そして少し首を傾げて尋ねて来た。

「魔術師ではないのか?」
「魔術師です。そういった近接戦闘が得意分野なので」
「なるほどな……。ううむ」

 エルドレーネ女王は俺の返答に今1つぴんと来ない様子であったが、自己紹介がまだ途中であったためにそれ以上は聞かないことにしたようだ。
 まだ自己紹介の済んでいない2人を見るエルドレーネ女王は……今まで以上に真剣なもので、2人の魔力から何かを薄々と感じ取っているように見える。
 クラウディアがこちらを見て来たので頷く。そして彼女達も自己紹介をする。

「クラウディアよ。テオドールの婚約者で、月の女神シュアスと呼ばれることもあるわね」
「マールと言います。水の精霊王と呼ばれています」

 という2人の言葉にエルドレーネ女王とロヴィーサ、ウェルテス達は全員が固まった。ロヴィーサ達は、クラウディアに関しては聞いていなかったからな。
 魔力の質を感知して色々背景を察してしまえるのであるなら、下手に誤魔化すより本当のことを言ってしまったほうが良い。
 ややあってエルドレーネ女王はかぶりを振った。

「その魔力の特異さからして相当な内容だろうとは思っていたが……。お二方は、地上では多くの者達から信仰を受けておられたはずでは?」
「そうね。けれど、あまり女神という柄ではないわ」
「同じく。私とて元々は普通の精霊に過ぎませんでしたし」
「まあ、それは……妾にも分からなくはありませんが」

 元々水守りから女王になったということで、2人の言い分に共感できる部分が多いのだろう。エルドレーネ女王は俺の自己紹介の時よりは納得がいったというような表情を浮かべて頷いている。

「しかしそうなると、テオドール殿の特異さが尚更際立つというか」
「それについては話すと長くなるのですが――」

 地上の状況を知ってもらう意味でも、ある程度のことは掻い摘んで話しておく必要があるだろう。異界大使の仕事に関しても、俺達が女王達に協力する理由の説明にもなるしな。



「魔人達との戦いに、迷宮の月女神……。それに異界大使か。なるほどのう」
「というわけで、僕達としては陛下に協力する理由があるのです。地上の人々に利する理由があってのことというのは否定しません。僕自身も海洋の混乱は避けたいですし」
「……うむ。動機に関しては今までの話から納得がいった。これだけの面々を妾の代で地上よりお迎えすることになるとは思わなんだが」
「そう言えば、地上との接触を避けているという話でしたが……」

 そう尋ねるとエルドレーネ女王は少し思案するような面持ちになる。その理由如何によっては根の深い問題だが……協力するに当たっては話をしておかなければならないだろう。

「異界大使を名乗るそなたにとっては気になる話ではあろうな。だが地上の者に迷惑を被ったからなどと言うつもりはないぞ。海の者とて地上の者を攫うという事例はあるのだ。つまりは、互いにとって不幸な出来事を避けるためであるな。そういった不届きな連中は妾達の国でも処罰をしている。その点、貴国も志は同じであろう」
「なるほど……」

 要するに、そう言った連中は地上であれ海であれ存在する、ということだな。
 友好的な魔物を奴隷などにして売買するということを禁じている国々は多いし、冒険者ギルドもそうしたことをしないよう指導している。同様に、人魚の女王の国でも、自分勝手な接触は控えろと通達しているということなのだろう。実際、海の住人との交易は行われているのだから、正当な理由があれば認めもしているわけだし。

「それとな、これは良し悪しというわけではないのだが、半分が同じ姿であるがゆえに、若い人魚達には地上の者に興味を持つ者も多い。場合によっては色恋ということにもなろうが……妾達とそなたらでは暮らす場所が違うであろう? 過去にあった事例では破綻のほうが多くてな。そういったことまで禁止はしておらぬが、ある程度は冷静に考えてもらわねば困る」

 ……なるほどな。そう言えばアイアノスの住人達も興味津々といった様子だった。
 だが現実問題としてどちらがどちらかの生活環境に合わせる必要があるわけで。人化の術を使うなり、魔法を用いて海の中で暮らすなり、多少の無理は必要だ。
 そのあたりの問題が解決できても周囲は好奇の目を向けてくるだろうし、中々上手くいかない部分もあるだろう。
 これも……犯罪者同様に、地上から見た場合も同じ、ということになるが。

「妾達の地上に対しての感情はそこまで複雑なものでもない。お互い様だからな。それ故……そなた達の此度の助力の申し出は、誠にありがたく思う。どうか、妾達に力を貸しては頂けぬだろうか」

 エルドレーネはそう言って、深々と頭を下げる。

「元より、そのつもりです」
「海王の眷属を一蹴した魔術師、そして水の精霊王と女神。共に戦ってくれるというのならこれほど心強いものもない。正直な話をするならば、海王らの討伐と都の奪還には、相当な犠牲を強いられると予想されていてな。情けのないことだが」

 ふむ。封印が解かれる前に動き始めて、討伐と奪還まで考えていたわけだ。

「やはり、海王の軍勢達はまだ小規模というところでしょうか」
「封印の奥に見た石像の数から考えればな。しかし……妾等の武器は連中に歯が立たぬ故、兵力差が決め手にならぬ。別の対抗手段を考える必要があった」

 別の、対抗手段ね。

「……もし、連中を海溝に押し戻して、再度の封印をと考えているのなら、それには反対しますが」

 俺がそう言うと、エルドレーネ女王は目を丸くし、ロヴィーサ達が驚いた様子で腰を浮かせた。やはり、か。
 実際連中を海溝に押し戻す手段に目算が付けば、それで勝てるわけだし。そうなれば仕上げの段階だ。前回の再現をしてやるというのが一番手っ取り早い。
 兵力集めにしろ何にしろ、その方法を再現するための戦力を整え、状況を構築するための時間稼ぎでもあったのではないだろうか。

「……お見通しというわけか。しかし……そうでなければ多くの者に命を懸けさせるのは余りにも非道であろう。妾が命を懸けずして何とする」

 エルドレーネ女王の表情は些か険しさを増している。

「お気持ちは分かりますが……要するに海王とその眷属を征伐できればその必要もないはずです」
「そなたになら、できると? いや、自惚れとは思わぬが……。仮に可能だとしても妾は、地上の者に海の者のために命を懸けて欲しいなどとは口が裂けても言わぬぞ」
「僕が戦った眷属と同程度の相手ならば、正直何人来ても脅威には感じません。問題となるとすれば……やはり海王でしょうか。この者だけは、他の連中より隔絶していることが予想されます。もし、戦って敵わないと判断すれば封印を考えますが……だとしても、誰かが命を懸けるという方法は選ばずにですね。作戦の概要を聞かせていただきたく存じます。それに対して僕達の持つ魔法技術も集め、修正案を提示します」

 そう言うと、エルドレーネ女王は呆気にとられたような表情を浮かべた。

「なかなかに……無茶を言うものだ。その言葉を裏返すならば、勝てる相手なら押し切るということではないか。そなたは今までもそうして戦いの場に赴き、高位の魔人を悉く退けてきたわけか?」

 エルドレーネ女王はかぶりを振る。疲れたように俯くが、やがて俯いたままで愉快そうに肩を震わせた。そうして、顔を上げて笑みを向けてくる。

「なるほどな。面白い。では封印ではなく、そなたらの保有する戦力と技術を勘案した上で、きっちりと倒すことを考えさせてもらおう。元より、数の上では勝っているのだからな」
「ありがとうございます」
「ところで……その者には話は聞けるのかな? 水を固定し、話が聞かれないようにしてあるようだが」

 居室の後方で梱包されている鮫男に、エルドレーネ女王は目を向ける。まあ、盗聴防止の魔法の水版といったところだ。水が振動を伝えないなら音も伝わらない。

「どうでしょうか。もうそろそろ目を覚ましていてもおかしくはないかなと思いますが。この封印は、内側から腕力で解くことはできませんので、ある程度安全です」
「どうやらそのようだな。さて……」

 顔を覆っていたカバーを外してやると、鮫男はもう目を覚ましていた。眩しげに周囲を見渡して、俺を見やると牙を剥く。

「き、貴様……! い、一体、何をした……!?」

 そう言って身体を動かそうとするが身体能力は封じているので首を左右に動かす程度しかできない。ま、種明かししてやる必要はないので黙っておくが。

「……ふむ。海王の眷属か。大方、女王の身を押さえて、水守りの力を手にしようなどと考えておるのだろう。さすれば海王も邪悪を好む己の眷属を増やしていくことができるからな」
「な、何……!?」

 エルドレーネ女王の発した言葉に、鮫男が動揺を見せた。その反応にエルドレーネ女王は笑い、鮫男はしくじったという顔をする。

「まさか、お前が女王――」

 言いかけたところで鮫男の顔にカバーをかけて音を遮断する。石の下で騒いでいるようだが、まあ、音が聞こえないなら邪魔にもなるまい。

 ふむ。周囲の状況が把握できないところで目的そのものを言い当てられて動揺してしまったというわけだ。
 まあ、こいつは完全に脳筋寄りの武闘派のようだし、こういう搦め手に弱いのは仕方がないが、エルドレーネ女王も中々揺さぶりが上手いな。

 ともあれ、今の話を聞く限りだと、環境魔力が邪気等に汚染されていても次世代の理性を失わせない方法のようなものが存在する、ということになるか。
 女王の力を利用するか奪うかすることで、凶悪化した魔物の能力だけ備えて、破壊を好む仲間を増やしていくことが可能になるというわけだ。
 要するに、海王が勢力を伸ばすには女王なり水守りなりを捕える必要がどうしても出てくる。
 ともあれ、前回海王達が誘き寄せられたのも、エルドレーネ女王の今回立てた作戦の下地も、そのあたりを逆手にとってのものだろう。

 女王の狙いに海王の目的――。色々把握できてきた部分はあるが……ここから先のことを話す前に、まずはシリウス号にいるみんなも、こちらに来てもらうか。
 こちらの保有している戦力を女王達に把握してもらうという意味合いもあるが、人魚の国から拒絶されるということも無さそうだしな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ