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469 海底都市アイアノス

 光魔法のフィールドでシリウス号の姿は消している。このまま空中に待機させておけば船が目立ってしまって海王の偵察に隠れ里が特定される、ということもあるまい。まあ、海王の偵察は海の中を捜索しているわけだから空中は盲点になりやすいかとは思うが。


「このままの高度で待機しておいてくれるかな。必要な場合は通信機で指示を出すから」


 そう言うとアルファが頷く。パーティーメンバーも、船側に待機してもらっておくとしよう。


「船にいる全員が海の中に入っても大丈夫なようにしておきますね」


 そう言ってマールの掌から光が弾け、艦橋にいる者達に加護がかかる。

 ……ふむ。これで大体の事態には対応可能かな。

 土魔法で梱包された鮫男は顔だけ出してあるのでこのままでも話はできるが、まだ気絶中だ。海上との行き来がそれなりに大変そうなので、話を信用してもらうためにもこのまま連行してしまおう。

 梱包に使っている石材に魔石を埋め込んである。こいつ自身の魔力で封印術を持続させているためだ。なので自力では戒めを破ることはできない。まあ……万一逃げられた場合のことを考えて、顔にカバーをつけて視界も塞いでおくかな。地形などを覚えられたくないし。


「それじゃ、少し行ってくる」

「お気をつけて」

「いってらっしゃいませ」


 グレイスの呪具を解放状態にしてから留守番の皆と言葉を交わし、甲板に出る。

 レリーフのようになった鮫男にはレビテーションをかけて、ネメアが石材の端っこを咬んで連行する。


「では、私達に付いてきて下さい」


 ロヴィーサがそう言って、謁見のメンバーと共に海中に飛び込む。

 マールの加護が働いているのでほとんど陸上と変わらない行動が可能だ。同行者の面々はその感覚に驚いているようだった。

 そのまま降下して、すぐに海底に到達した。岩場が盛り上がっていて浅瀬のようになっているからだ。まだ十分に光も届くが、ごつごつとした岩があちこちで海面近くまでせり出していて、見通しは良くない。……なるほど。こうして見ると船が航行するには確かに向かないだろう。

 周囲の状況を確認し終わったところで、皆に声をかける。


「水中でも話ができますよ」


 と言うと、ステファニア姫達は少し目を丸くしてから笑みを浮かべた。


「ええと……聞こえるかしら?」

「はい」


 頷くと、アドリアーナ姫達も感覚を確かめるように話をしていた。


「これは……面白いわね」

「んん、何だか、変な感覚です」

「ほほう。これは便利なものですな」

「ふふ」


 エルハーム姫は戸惑いながらではあるが、割合楽しそうだ。公爵も珍しい経験ということで状況を楽しんでいる様子である。それを見てマールは微笑みを浮かべるのであった。


「こちらです」


 ロヴィーサはみんなの様子に楽しそうな表情を浮かべたが、道案内役であるからか雑談は後回しにしたらしい。ウェルテスと共に暗礁海域を迷いなく進む。せり出した岩場に登ると……そこからは急激に水深が深くなっていた。

 光の届かない、暗い海が眼下に広がっている。


「この斜面を降りて谷間を進んだところが、隠れ里なのです」


 と、ウェルテス。ふむ。海底の地形を陸上で例えるならば……今いるところは山脈の頂きのようなものか。そう思って見てみれば、せり出した暗礁は山の尾根のようにも見える。

 少し離れた場所にも同じような地形があるのを見るに、山と山の間の谷合いに里を作ったということかも知れない。

 案外急斜面なので、隠れ里を作るに当たって海の住人達が手を加えている可能性はあるな。例えば水流を操って地形を削るだとか……やってできないことはないだろう。


「では、参りましょう。下に降りていくだけですが、岩肌が露出しているところもありますので、怪我をしないようにお気をつけて」

「分かりました」


 まずはみんなに暗視の魔法をかけておくか。淵に向かって飛んで……ゆっくりと降下していく。

 下へ下へと進み……。大分暗くなってきたところで……ようやく谷の底に到着する。

 ……なるほど。整備されているわけではないが、細い道のようになっているな。道は緩やかな斜面だ。

 更に下へと続いているらしく、ロヴィーサとウェルテスは坂道を下へと進む。ごつごつとした岩壁が両側から迫ってくるような地形になった。圧迫感があるが、これもやはり道か。


 そう思っていると不意に、少し広い場所に出た。だが殺風景な場所で、しかも四方は岩の壁に囲まれた行き止まりであった。但し……片眼鏡はまた、別の物を捉えている。


「どうやら、結界が張ってあるようね」


 クラウディアが周囲を見回して言う。

 その袋小路には2人……ウェルテスと似たような姿の半魚人が立っていた。ロヴィーサ達の姿を認めると目を丸くして声をかけて来る。


「ロヴィーサ殿! それにウェルテスも! 無事であったか!」

「同行しているのは、地上の者に……水の精霊……か? 一体何者だ?」


 ふむ。言動から察するに、門番だろうか。


「この方達に危ないところを助けていただいたのです。地上の国の代表として、陛下への謁見を希望しておいでです」

「何と……」

「地上の者でありながら、我の見ている前で海王の眷属をあっさりと叩き伏せてしまったのだ」


 と、ウェルテス。


「この通りです」


 梱包された鮫男の顔に被せていたカバーを取り外して見せてやると、門番達の目が丸くなった。……鮫男はまだ気絶している。封印術で力を弱めているから虚弱になっているのか。生命反応は弱まっているが、安定はしている。まあ……死ぬことはあるまい。元通りにカバーを被せておこう。


「む、むう。その話は確かなようだが……」

「し、しかし、地上から陛下への謁見とは……。前代未聞ではあるな。門番に過ぎない我等には荷が勝ちすぎる話だ。少し……この場で待っていて頂けるだろうか」

「勿論です」

「では――陛下にお伺いを立ててくる」

 

 門番の片方が――岩の中に吸い込まれるように消えていった。

 やはり、結界だな。見た目を誤魔化す幻術の類のようだが、契約魔法か何かを組み込んでやれば、正しい手順なりで出入りしない限り、幻術が働き続けるというような効果を発揮できると予想された。


 少なくとも、海の上からでは分からない。海王達とてこれを見つけるのには苦労するだろう。人魚達の国はどこかにはある、などと言われていたが、案外こういった拠点などから地上に交易に来ていたのかも知れない。


 然程時間もかからず、先程の門番が岩の中から顔を覗かせた。


「女王陛下がお会いになるそうです。この場所から隠れ里に入って頂けるでしょうか」


 と、戻ってきた門番が言う。


「分かりました」


 そう言って、岩の壁に近付く。軽く手の平から岩壁に触れるが――感触が無い。ゆっくりと身体を岩壁に埋め込むように進む――と。


 岩の中を覗き込んだ瞬間、幻術が解けて周囲の景色が一変した。

 巨大な石の門を潜り抜け、石材で作られた都市に俺の姿はあった。都市。そう、都市だ。隠れ里などと言っていたが、規模はかなり大きいのではないだろうか。避難先に選ばれた理由がこれか。

 それに、明るいな。隠れ里を包む結界は、上から降り注ぐ陽光を内部で増幅する効果もあるらしい。青い世界に広がる――石材で作られた海底都市だ。


「これは凄いわね」

「おお、これは――」

「わあ……」


 後ろから、みんなの感嘆の声が重なる。振り返ると、みんなは周囲を見回してやや放心気味のようだ。気持ちはわかる。後で船を守ってもらっているみんなにも来てもらおう。


 門を潜り抜けた場所は、都市内部の大通りに当たる場所のようだ。

 沿道の民家も、大通りの奥――街の中心部に見える巨大な建造物も……全て石材で作られているが、海中だというのに建材の表面は滑らかで綺麗なものだった。僅かに……魔力を含んだ塗料のようなものでコーティングされているらしい。人魚達が交易の見返りとして魔石を希望するのは、このあたりが理由かな?

 道の端には色取り取りに光る珊瑚などが生えている。夜間の明かりになるのだろうか。まるで植え込みのように花壇のような場所にカラフルな海草が植えられていたり……民家の上を住人である人魚が泳いでいたりと……何とも幻想的な光景だ。


「ようこそ、アイアノスへ」


 ロヴィーサが笑みを浮かべた。海底都市アイアノスか。


「綺麗な場所ですね」

「本当……。こんなに素敵な場所だったなんて……」

「ふふ、ありがとうございます」


 ロヴィーサは上機嫌な様子である。


「我の客人であれば、街を案内してあげたいところではあるのですが、まずは……奥に見える宮殿まで同行いただけますか?」

「分かりました」


 ウェルテスの言葉に頷く。人魚の女王との謁見か。さて。どんな話になるやら。

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