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468 隠れ里へ向かって

 まずは……事実関係の確認からだな。方針を決めるのはその後だ。

 クラウディアとマールにも話を聞いてみようか。少し声のトーンを落とし、パーティーメンバーも交えて2人に尋ねてみる。


「2人とも、今の話に心当たりは?」

「あります。私は陸地の湖から顕現したので、他の精霊達から海で混乱があったと聞かされて知ったのはずっと後になってからです。女王が亡くなって、海の住人達が嘆き悲しんでいると。その他の細かな経緯も、あの2人の話とも概ね一致しますね。時期としては……盟主が封印されたよりも後の時代かしら?」


 そう言ってマールは眉根を寄せる。湖か。マールは普段、そこにいるのだろう。


「私は、ずっと迷宮の奥にいたから事実関係は分からないけれど……。あの鮫の亜人は怨念めいた負の力を色濃く纏っているわ。瘴気とまではいかないようだけれど、性質が良いとは言えないわね。きっと、そのままにしておくと酷いことになるわ」

「では海王側が勝利したら、ただでは済まないのでは……?」


 アシュレイが心配そうな表情を浮かべた。マルレーンも少し心配そうに俺を見てくるが、その目を見て頷いてやると、明るい笑みを見せてくる。


「そう、ね。それに、精霊達はそういった権力争いに対しては利害関係がないだけに、マールも話を聞いたことがあるのなら、あの2人の言葉は、本当なのでしょう」


 要するにあの2人の話は信用に値するというわけだ。

 海王が陸地に攻めてくるかどうかはまだ分からないが、あの鮫男の態度からするとこのまま勢力を伸ばせばその可能性は十分出てくる。少なくとも、女王の一族やその民の子孫に、迫害なりの報復や復讐には打って出るだろう。


「ヴェルドガルの方針がそれで変わるわけではないわ。交易相手である人魚を保護する立場を堅持するのなら海王との激突も、いずれは必至でしょうね」


 思案していたローズマリーが言った。そうだな。メルヴィン王が海王側に加担するとも思えないし。


「やはり、戦うなら早いほうが良い、ということでしょうか」


 グレイスが首を傾げながら言う。


「俺はそう思ってる。クラウディアは?」


 クラウディアと視線を合わせると、彼女はしかと頷いた。

 では、まずは事情と事実関係が分かったところでメルヴィン王に連絡をしておくべきだろう。返信待ちの間、この後の具体的な動きを決めておきたい。

 大公と公爵のところまで行き、話しかける。


「どうやら、事実関係としては間違いなさそうです。マール様がご存知でした」

「ううむ。中々、大事になりましたな」

「うむ。この時期です。海洋の混乱は避けたいところではありますが」

「メルヴィン陛下と、人魚の女王の意向にもよりますが……僕としてはこれ以上大事になる前に対応してしまいたいと思っています」


 そう答えると大公と公爵はその意味を理解して少し目を見開いた。

 ウェルテスとロヴィーサの話を聞いている限りでは、個々の戦力に歯が立たないとは言え、数で言えば海王の勢力はまだ少数のはずだ。であるなら、そこを補える戦力があれば女王達も対抗できるというわけで。

 更にもう一点。ロヴィーサの話には無かったが、少し気になっていることがある。


「何か……私に協力できることがあれば仰って下さい。すぐに用立てましょう」

「この地では公爵と違い、私にはできることも少ないですが……テオドール殿とクラウディア様の意思が通るように働きかけるぐらいのことはできますぞ」

「助かります」


 公爵と大公の言葉に謝意を示す。

 ドリスコル公爵の本拠地であるというのはこちらにとっての強みだな。


「私の帰還については、今は大使殿の判断に従いましょう。戦力になれないのは承知しておりますが、この状況では転移魔法も可能な限り温存しておきたいのでは?」


 大公が言う。それは確かに。大公は……公爵の領地でトラブルが起きたからこそ安易に自分だけ安全な場所に離れるわけにはいかないという部分と、あまり力になれないという部分とで板挟みになっているのだろう。その上で転移魔法の事情も勘案しているわけだ。


「では……どこか安全な場所に待機して頂く形になるかも知れません」

「ふむ。了解しましたぞ」


 シリウス号に乗せて空中に待機させるか、或いは信頼のおける護衛を付けて公爵と共に後方にいてもらうか。それならば海王の攻撃も受けないだろう。

 諸々の話を詰めていると、メルヴィン王からの返事があった。

 事実関係に間違いがないのなら、ヴェルドガルとしても女王の一族と正式に国交を結び、支援する用意があるとそこにはあった。避難場所の提供と物資の補給といった支援は行えるとのことである。

 そして――今戦ったほうが良い規模なのか、それとも退いて態勢を整えるべきなのかの判断は話を聞き、目で見て見極め、もう一度報告して欲しい、とのことである。


 ふむ。クラウディアの転移魔法があればギリギリまで判断の保留が可能か。


「陛下の意向がはっきりしているのだし、私も名代として女王に謁見してこなくてはいけないわね」

「そうね。シルヴァトリアも人魚達との交易はあるし」

「私も、お力になれることがあるかも知れません」


 ステファニア姫とアドリアーナ姫、そしてエルハーム姫が言う。

 ふむ。ではまずは……ウェルテスとロヴィーサに、女王のところまで案内してもらうというのが良いだろう。




 女王達の潜伏先は――公爵領の海域内にあるらしい。

 航路から外れる上に暗礁が多いとして、漁船が近付かない魔の海域というのがあるそうだ。確かに、海図にもその旨が記されている。

 海の都とは違うが、そこに人魚達の隠れ里が存在しているとのことである。まずはそこに行き、女王と話をしなければなるまい。

 引き続きライフディテクションで鮫男の仲間がいないかどうかを探りながらも、シリウス号の速度を速めてその海域へ急行することとなった。


「その、誤解して欲しくないのですが……」


 ロヴィーサが恐る恐ると言った調子で話しかけてくる。


「何でしょうか?」

「ええと。その、決して私達が船を座礁させているわけではないのです。暗礁があって人が近付かないから隠れ里にしただけで……」


 ロヴィーサは少し不安げな様子だ。


「ああ、それは大丈夫です。セイレーンの友人もいますが、人に歌や曲を聞かせるのが好きな、穏やかな方ですし」

「そ、そうなのですか?」

「ええ。イルムヒルトと一緒に演奏したりしていますよ」


 ロヴィーサは目を瞬かせる。イルムヒルトはそんなロヴィーサを見て、笑みを浮かべてリュートを奏でている。

 マーメイド、セイレーン、ニクシー。総称して一括りに人魚などと呼んでいるけれど、船を座礁させるという言い伝えに関してはセイレーンだろう。

 だが、それとて魔力環境によって凶暴化した個体だろうし。なので、ロヴィーサの心配は杞憂であると言える。


「ユスティア、というのですが。その名前をご存じありませんか?」


 ユスティアとドミニクは家に帰る方法が分からないと言ってタームウィルズに居着いたけれど……海の住人達ならユスティアについて心当たりがある可能性が考えられる。

 もし人魚達に遭遇できるなら、それも併せて情報収集しておこうとは元々考えていたのだ。まあ、空振りに終わった時にがっかりさせてしまうので、ユスティアには話していないけれど。


「……すみません、少し分かりません。隠れ里に行けばセイレーン達もいるので、もしかしたら……」


 しばらく思案した上で、ロヴィーサはそう答えた。ということは、ロヴィーサはマーメイドということかな。ニクシーは確か……川や湖などに住む、精霊寄りの種族と聞いたことがあるし。


「ありがとうございます」


 マールは他の精霊王と連絡が取れるようだし、もしかするとドミニクについても風の精霊王の持っている人脈というか……風の精霊達のネットワークを駆使すれば探せるかも知れない。


「セイレーン達……か。あの者達は、他者に歌を聞かせるのを生き甲斐にしているようなところがありますな」


 と、ウェルテスが言う。

 ふむ。確かに。あの2人も劇場で歌を聞かせられるのが楽しいから帰れなくても、というようなことは言っていたが……里帰りができるかできないかぐらい、自分の意思で決められたほうが良いに決まっている。


 いずれにしろだ。ユスティアの親族が女王達の派閥に属している可能性もある以上、そのあたりのことも確認してこなくてはなるまい。

 そういった話をしている間に、シリウス号は隠れ里のある海域に到着した。では……女王に会って話をしてくるとしよう。


 女王への謁見の同行者としては、クラウディア、マールと公爵の他にステファニア姫、アドリアーナ姫、エルハーム姫といった面々になるか。

 各国の王の名代ということで行動を共にしているわけだしな。

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