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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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45 国王メルヴィンとの謁見

「ただいま」
「おかえりなさい」
「お話は済んだのですか?」

 迎賓館の2階バルコニーに戻ってくると、2人に笑顔で迎えられる。

「ああ。こっちも別に王城に居座る気がないし、お互い不干渉でって事で話が付いた」

 実際あの約束の内容だと勝っても負けてもそんな感じだった気がするので。

「それで――今は何をしてるんだ?」

 広場を見ると、どこかから運ばれてきた一抱えほどもある石柱が聳え立っている。やや距離を取って向かい合う甲冑の騎士が1人。手にはバスタードソードが握られている。

「騎士団長の試技、だそうですよ」

 試技。つまり、あの石柱を輪切りにしようというわけだろうか。と見ていると、跳躍して大上段にバスタードソードを振りかぶる。闘気がバスタードソードの刀身を包み、落下の勢いに任せてそのまま縦方向から斬撃を叩き付けていく。
 石の砕ける音が響く。全く勢いを落とす事なくバスタードソードの刃が地面まで到達すると、薪割りよろしく石柱が綺麗に真ん中から2つになって左右に倒れた。
 一瞬遅れて観客席から拍手と歓声が巻き起こった。
 大剣武技、轟裂だ。その前の跳躍も武技の一つではある。騎士団長は腰の辺りに手をやって、王と観客に向かって一礼をして見せた。

「派手ですねえ」
「晴れの日だからな。本人は地味な戦い方を好んでおるよ」

 と、オズワルド。オズワルドは誰に肩入れするでもなく、強ければ良い、面白ければ良いみたいな考え方をしているようで。

「皆、見事だ。日頃の鍛錬の成果、はっきりとこの目で見せてもらった」

 騎士団長の演目が最後のものだったらしく、メルヴィン王が満足げに頷いて見せた。

「努力の痕跡が著しい者には以下に名を呼ぶ。恩賞を取らす故、望みのものを述べるが良い」

 王の口上に続いて、側近が一人一人騎士の名前を読みあげていく。望みのものと言うが……名を呼ばれた騎士達は判を押したように「我が君の御心のままに」としか答えない。褒美はあっちの裁量に任せるというわけだ。

「チェスター卿」

 広場に居並ぶ騎士達の中にチェスターも戻ってきていたが、彼はどこか上の空と言う感じで、名を呼ばれてもすぐに反応しなかった。

「チェスター卿?」
「は、はっ! 御無礼を」
「良い。何なりと望みを申せ」
「……我が君の御心のままに」

 跪き、家臣の礼を取ってチェスターは答えるが、やや歯切れが悪かった。メルヴィンの表情に怪訝な物が浮かぶが、それも一瞬の事だ。

「うむ。では、騎士団の者達は追って報せを待つが良い。さて――」

 メルヴィンは頷くと、俺の方に視線を移す。
 ……来たか。魔人を倒したと言う事から考えても、王家から何かしらの話があるとは思っていたが。

「我が王国の為に戦ってくれた功労者――小さな英雄には報いねばなるまいな。よって、功績に見合うだけの恩賞を取らせる。だが、そなたは余の召し抱えておる騎士とは違う故、より細やかな話をする必要があろう」

 メルヴィンは王の塔まで来るようにと言い残し、満足そうに笑って身を翻した。王を称える唱和が広場を満たす。
 恩賞の内容は応相談、と。
 いきなり召し抱えるだとか恩賞の内容だとか……俺の場合は公の場所では聞かれないだろう。お手盛りしゃんしゃんの騎士達と違って、俺が何か馬鹿な事を言い出したらフォローがしにくいからな。

「陛下から案内を仰せつかっています」

 そう言ってやって来たのは、白いマントを羽織った、壮麗な鎧を纏う女騎士だった。近衛騎士の鎧だ。

「では、私は一足先に戻っていようかと」

 グレイスが遠慮したのかそう言ったが、騎士は笑みを浮かべて答える。

「お連れの方の事も聞き及んでおります。どうぞそのまま王の塔まで来るようにと、陛下からのお達しです」
「……招待は受けましたが、私が同行しても大丈夫なのですか? 私は――」
「皆まで言いなさいますな。王城では異種族の、例えば、エルフやドワーフの方も職に就いていて出入りがあります。ですが、その指輪――で良かったのですかね。それの封印は間違っても王城内では解かれませんよう」
「解りました」

 グレイスの事も割合正確に把握している、か。
 情報の出所はギルドからか、学舎からか。或いは――父からか。最初から情報が伝わっていたと言う事も有り得る。
 俺は身分を偽ってはいないからガートナー伯爵家の庶子である事も隠していないのだし。父が元々バイロンの後見人に据えようと考えていたなら、俺やグレイスの事もある程度根回ししていても不思議はない。

 近衛騎士の後に付いて王城セオレムの中心部、王の塔へと向かう。大きな階段を登り、白亜の塔に立ち入ると、ただ広いホールの中心を貫くように巨大な柱があるのが見えた。
 柱は壁面と内部がくり抜かれて空洞になっており、中側へ入れるようになっている。近衛騎士はその空洞の内部にある小部屋へと歩みを進めた。

「中央付近にお乗り下さい」

 ええと。お乗りくださいって事は……?
 天井を見上げると縦穴になっている。紋様を施された壁面そのものが白く光っておりかなり上まで見通せるが……相当高い所まで続いているようだ。この構造。何の用途か解ったぞ。

 俺が近衛騎士の言葉に従うと、2人も柱内部の小部屋に入って来た。近衛騎士はそれを確認してから壁の宝玉に手を翳して何事か呟く。
 魔法回路に魔力が伝わり、床に緑色の光のラインが走る。
 ――と同時に、入って来た入口が壁となり、俺達を乗せたまま垂直に柱内部の足場がせりあがって行く。

「え……? これは一体、どうなっているんです?」

 グレイスが戸惑ったように柱の内部を見渡す。独特の、重力に押し付けられるような感覚があった。エレベーターに乗り慣れていない者にはあまり馴染まない感覚だろう。

「これで――上まで行けるわけですか?」
「よく解りましたね?」

 俺が近衛騎士に確認がてら今の状況を説明すると、2人は得心いったらしい。

「……すごい仕掛けですね」
「皆様驚かれますよ。不安に思われるかも知れませんが、浮石が壊れたという事態は今までありませんのでご安心を」

 目を丸くしているアシュレイに、近衛騎士は微笑みを向ける。
 ……セオレムは元々迷宮の一部だって言われているからな。こういう、こちらの世界では非常識な仕掛けの1つや2つあってもおかしくはない。

 壊れた事がないというのは……メンテナンスフリーと言うか、迷宮側が自動修復しているんだろう。となると迷宮深部に行くとこういう仕掛けもあるかも知れないな。

「確かに上下に行くには早いですが……経路がこれだけでは不便ではないんですか?」
「他に出入りする方法も勿論あります。飛竜を使ったり、転移魔法陣による移動ですとか。けれど正門から謁見の間までは浮石の柱を用います。ご客人を兵士や騎士の詰所からお通しして、延々階段を登らせるわけにも参りませんし」

 この『浮石の柱』は……侵入者対策にもなるだろうし、外国からの客に王国の威光を知らしめるという役割も果たしているか。
 城は王族の居住エリアでもあるけれど、砦としての役割も求められるしな。
 やがて浮石が動きを止めると、壁の一角が虚空に溶けるように消えて、柱の外に出られるようになった。

「陛下がお待ちになられておりますよ」

 エレベーター内部から出ると毛足の長い絨毯が床に敷いてある。
 細やかな装飾が施された柱が立ち並ぶ回廊だ。
 天井には絵画が描かれている。……回廊自体が美術品と呼んで差支えないような場所だった。
 そんな美術館めいた回廊を通り、やがて大きな扉の前に辿り着いた。

「この扉の向こうが謁見の間となります。一応、身を検めさせていただきますね」
「どうぞ」

 んー。だから女の近衛騎士を用意したわけか。俺に色々配慮してくれているとは思うが。そんなに王様に気に入られたのか?

 近衛騎士にボディチェックを受けている間、控えの間の装飾などを眺めてみると、壁面や床面には明らかに装飾とは異なる紋様が刻まれていた。
 どうやら謁見の間とそこに繋がる控室には結界が張られているようだ。かなり強力な対魔法の結界のようで……これは魔術師による暗殺対策と言った所か。
 王族が外部の人間と接触を持つ場所なのだから、当然の備えではあるだろう。

「大丈夫なようですね」

 近衛騎士のボディチェックが終わると、ようやく謁見の間に続く扉が開いた。
 謁見の間に歩を進めれば近衛騎士や宮廷魔術師に宮廷貴族が脇を固め、階段の上に王と王妃の玉座が並んでいるのが視界に入った。

「よくぞ来た。小さな英雄よ。直答を許す故、面を上げよ。ヘンリー伯爵と聖女リサの子息、テオドール=ガートナーに相違ないな?」
「はい、陛下」

 答えると、メルヴィンはまたあの笑みを浮かべる。

「聖女の子息にして不世出の天才魔術師、か。魔人殺しに相応しい、良い面構えをしておるな。そなたのような麒麟児を、余は好ましく思うぞ」

 俺みたいな奴は臣下にいなかったと思うので、利益云々以前の問題として、かなり面白がられているように感じる。珍獣的な意味で。
 魔法の事をあれこれ聞かれないのは……母のお陰かも知れない。

「さて。用向きは先程伝えた通りだ。褒美を取らせようと思うが……タームウィルズに来た以上、そなたにも考えはあろうから、話を聞いておきたいと思ってな。そなたの思っている事を忌憚なく述べるが良い」
「では恐れながら申し上げます。私は暫くの間はこのまま、冒険者稼業を続けたいと考えております」
「ほう。その理由は?」
「己の力量を高めていきたいのです。母の事も、ありますが」

 グレイスの事を把握しているなら死睡の王の事も解っているだろう。余り多くは説明しない。
 迷宮に潜る、というのは王国も奨励している事だし、魔人が月光神殿に絡んでいる事もあって、俺が迷宮に潜りたがっているというのはメルヴィン王としても願ったり叶ったりだろう。
 それに……まだ王家側から俺の人格がよく解っていない以上、いきなり爵位や領地、地位、士官を求めるよりは歓迎されるだろうと思う。

「――既に魔人殺しでありながら、更に力を高めたい、と申すか」

 メルヴィン王は愉快そうに、闊達に笑った。

「頼もしい答えではあるな。暫くの間、と言うのは……将来的にはまた別の考えもあると言う事か……ふむ」

 メルヴィン王は俺の後ろに控えるグレイスとアシュレイに視線をやり、頷いた。

「よかろう。その事も含めて、余がそなたらの武運と前途を祝福するとしよう」

 つまり……迷宮に潜る事と、俺達の仲は国王公認になったと言う事になるだろう。

 アシュレイは、シルン男爵家の当主だからな。魔人殺しである俺の国外流出を予防しようと思うなら、貴族との婚約は王国としては最初から歓迎すべき事、か。
 これでアシュレイが居なかったらこの場で他の縁談も押し付けられていたかも知れない。

「だがそれは元々そなたが自ら得ていた物であるが故に、恩賞とは呼べぬ。そなたの事は少々調べさせてもらった。杖を探しているそうだな?」
「その通りです」
「では褒賞金の他に宝物庫より魔法杖を下賜する故、好きなものを一振りを選んでいくがよい」
「……陛下のご高配、深く感謝いたします」
「うむ。そなたの働きには期待している」

 セオレムの宝物庫から、か。言うまでも無く貴重な品だ。金を出せば買えるという代物でもない。

 俺の境遇と人間関係は現状維持をしながらも後押しをして、金で買えない宝物を下賜する。
 正直、有り難い話ではある。予想していたより好待遇なのは、それだけ王には期待されている、と言う事だろう。
 魔人の事もキナ臭いし、貴重な戦力として見做されていると見て間違いないな。魔人との戦いは――寧ろ望む所だが。

 魔法杖の下賜も、俺と宮廷の関わりが薄くなったからこその話だろう。
 俺の意に沿う形の厚遇であっても、権力には絡んでこない。貴族からの反発も環境変化に伴うゴタゴタも少ないだろうし、内心で一番喜んでいるのは王の方かも知れない。不要不急の宝物の、正しい使い方、というわけだ。

「また何かの折には声を掛ける故、そのように心得よ。次は――そうだな。晩餐にでも誘ってやろう」

 次があるとしたら、月光神殿や魔人の事で何かしら発覚や進展があったら、かな?
 いや、それにしても晩餐っていうのは。随分気に入られたな。

 寄らば大樹の陰とは言うが、あんまり距離が近くなるとメルヴィン王がそこそこ高齢だけに、後の揺り戻しがあると面倒なんだが。
 ……あまり先の事は気にしても仕方が無い、か。アルバート王子もいるし、どうにかなるだろうさ。
 後は――宝物庫にどんな魔法杖が眠っているか、だな。
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