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457 精霊と温泉と

 儀式場での話し合いが終わって、夜になってから火精温泉へ向かうことになった。


「テオドールの作った水の滑り台凄いんだよ」


 という、セラフィナからマールへの情報があったためだ。マールも興味津々といった様子なので、夜を待ってから火精温泉へと向かうことになった。

 迷宮深層の探索をした後なので、ゆっくり温泉に浸かって疲れを取るというのも悪くない。

 一般客が帰ってからの貸し切りということで、かなりのんびりさせて貰えるだろう。


 工房組も合流だ。アルフレッドと一緒にオフィーリアも来ている。

 ジークムント老達もここのところ研究で忙しかったので、今日はそのまま温泉で休憩である。フォルセト達も樹氷の森と工房を行ったり来たりして、かなり精力的に動いているので温泉へ。

 アルフレッドは割合普段から足繁く通っているらしいが、温泉に浸かりながら星球庭園で集めて来た新しい素材を使っての装備品を考えたい、と言っていた。それについても後で話をさせてもらおう。


 それから、ステファニア姫とアドリアーナ姫、エルハーム姫も温泉に顔を出している。メルヴィン王とジョサイア王子は仕事が残っているそうで。些か残念そうではあったが、王城へと帰っていった。話を聞くためというのもあるが、マールの歓迎のために顔を出しに来たという部分が大きいのだろう。


「んー……。何だか、まだ温泉に入ってもいないのにとても癒されるのですが」


 と、シャルロッテはラヴィーネ、エクレール、コルリス、フラミア、ラムリヤ、ピエトロと、色々な動物組に囲まれて上機嫌な様子だ。

 ……コルリスの背中などに顔を埋めたりと、研究疲れを癒している様子だ。

 ラムリヤがシャルロッテの肩に乗ったりしているのは……工房でエルハーム姫が鍛冶仕事をしているから、その過程で仲良くなったのかも知れない。


「それじゃあ、私達は少しお湯を頂いてきます」

「行ってきます、テオドール様」

「後で休憩所に向かうわ」

「ああ。分かった。また後で」


 グレイス達、女性陣を見送る。マルレーンはみんなと入浴ということでにこにこと、楽しそうな様子だ。屈託のない笑顔でこちらに手を振り、大浴場へと向かった。

 今日は泳いだりするよりも、ゆっくり風呂ということだそうで。まあ、昼間は迷宮探索だったしましてや深層だ。この上更にプール遊びというのもくたびれるだろう。


「テフラの加護を受けたお湯なのよね」

「うむ。湯浴みする場所はテオドールが作ってくれた。我には人間達の作る建物の良し悪しは分からぬが、テオドールの作る物は好きだな」

「後で遊泳場も案内するね」

「はい。頼みますね、セラフィナ」

「うんっ」


 テフラとマールも女湯へ。セラフィナは高位精霊の影響で随分元気なようだし、ステファニア姫、アドリアーナ姫も同様だ。こちらの面々は後でスライダーやら流水プールやらで遊んだりするのだろう。

 とまあ、そんな調子で女性陣は和気藹々と大浴場へと向かったのであった。




「はあ……沁みるなぁ」

「本当に……。この湯に浸かっていると疲れが取れるどころか、力が蓄えられるようですな」


 と、湯船に浸かってアルフレッドとピエトロが呆けたような声を出す。そんな2人にジークムント老が笑みを浮かべた。

 ピエトロは……猫妖精でありながら普通に風呂を楽しんでいるようだ。


「ケットシーは……水は大丈夫なのかな?」

「ああ、猫妖精でも苦手な者のほうが多いかも知れませんぞ。昔――吾輩の物心がついたかつかないかの頃の話ですが、吾輩を拾って育てて下さったお人が大の綺麗好きで、風呂好きでもありまして。まあ、慣れているというわけです」


 ピエトロはどこか懐かしそうに言う。


「なるほど……」

「興味深い話じゃな」


 ジークムント老が言う。確かに。昔の主人か。ケットシーは猫が歳経て妖精になるとか、猫のふりをしているが初めから妖精でもあるとも言われるが……まあ、人間よりは長生きということなのだろう。


「ピエトロっていう名前もその人が?」

「その通りです。見た目は少々無骨な武人ではありましたが……お優しい方でしたなぁ」


 武人か。ピエトロの口調もそうだし、剣を使ったりするのもその人物の影響かも知れないな。

 ピエトロは肩まで湯船に浸かりながら……どこか楽しそうに、昔を懐かしむように目を閉じるのであった。




「はぁ……」


 風呂から上がって休憩所へ向かい、冷たい炭酸水を口にして一息入れる。温泉と遊泳場の設備についてはこの前点検したばかりだし、今回は俺もゆっくりとさせてもらおう。


 セラフィナ達はどうしているのかとバルコニーから遊泳場を見やると、丁度建物の中から出てくるところだった。

 セラフィナがこっちに気付いて手を振って来る。テフラとマールも一緒に、バルコニーにいる俺に手を振っていた。手を振り返すと彼女達は笑みを浮かべる。


「こっち!」


 と、テフラとマールを先導するようにセラフィナが飛んでいく。マールの身に着けているドレスが発光し、一度液状になったかと思うと泳ぐのに適したようなものに形成し直された。テフラも同様だ。一旦炎を纏ったかと思うと、それが固まるように水着風の服装になっていた。

 高位精霊ならではというか……なかなか便利な衣服だな。

 3人は早速スライダーに向かい、並んで楽しげに滑っていった。何度かセラフィナを抱えたり、肩に乗せたりして滑って……リピートしてくれているのは気に入ったわけか。


 流水プールでも、ステファニア姫達とシャルロッテ、それから動物組が泳いでいる。シャルロッテはフラミアやラヴィーネと共にコルリスの背中に乗せてもらって……遠目にもご満悦な様子だ。まあ、あれで日頃の研究疲れが解消されればと思うが。


 そして……セラフィナ、テフラとマールが空を飛んで、休憩所のバルコニーまでやってくる。


「ふふっ。あれは楽しいですね。昔はああして、川や滝の流れと一緒になって遊んだりもしたものです」

「ほう。水の精霊は中々楽しそうな遊びをしているのだな」


 とまあ、2人の高位精霊は中々楽しんでくれている様子である。気に入ったと、感想を言いに来てくれたわけか。


「楽しんでもらえているようで何よりです」

「はい。ああ、あの楕円形の遊泳場も面白そうですね」

「うんっ。楽しいよ」

「では……私達はもう少しあちらでも遊んできますね」

「はい」


 頷いて精霊達を見送る。今度は流水プールで遊ぶようだ。


「はあ、良い湯だった」

「おお、テオドール」


 と、アルフレッドとジークムント老、それにピエトロも温泉から出てきたようだ。

 ……ふむ。では予定通り、新しい魔道具についての話をしておくか。西の領地へドリスコル公爵を送っていくわけだから、タームウィルズを留守にするより前に素材の処遇は決めておいたほうが良いだろう。

 休憩所の中に移動し、飲み物を飲みながら、素材についての相談を進める。


「工房に届いた新しい素材を見せてもらったけど……パンプキンヘッドの魔石は数がある割には質が良いね。新しい魔道具を作るのに重宝しそうだ」

「そうだな。パンプキンヘッドの魔石に関してはそっちに任せてしまって良いかな。対魔人用に試作したいものもあるだろうし」

「それは助かるのう」

「カボチャの部分も、カボチャとは思えない硬さだし、凄い耐火性があるね。あれはあれで重宝しそうだ」


 内側に火が灯されてるしな。どうやら普通のカボチャではないらしい。


「面白いな。ゴーレムを作れるかなってそのまま持ってきたのも多いから、色々実験してみよう」

「うん。配分は様子を見ながらだね」


 と言った調子で、星球庭園の魔物達の素材について、使い道を決めていく。

 グリムリーパーの骨粉については――エルハーム姫が金属素材に混ぜて武器を試作してみるそうだ。まずはナイフを作ってみて、それで具合が良いようならみんなの意見を聞きつつ武器の製作に使っていく、というわけである。


「ああ、テオドール。もうお風呂を上がっていたのね」


 と、クラウディア。みんなも風呂から戻ってきたらしい。


「只今戻りました、テオドール様」

「おかえり、アシュレイ」


 みんなは……風呂上がり特有の濡れた髪としっとりとした肌である。サボナツリーの洗髪剤や石鹸の香りが鼻孔をくすぐる。

 ふと視線が合うと、グレイスが穏やかに微笑みを浮かべた。むう。


「お仕事の話をしていましたのね」


 アルフレッドの隣にオフィーリアがやって来る。


「ああ。終わったら休憩所で一緒に遊ぼうか」

「ふふ、ありがとうございます、アル。お隣でお話を聞かせてもらっても良いかしら?」

「僕は構わないけど。良いかな、テオ君」

「勿論」


 頷くと2人は笑みを向け合う。アルフレッドとオフィーリアは相変わらず仲が良いようで何よりだ。

 イルムヒルトはみんなが休憩所に集まったということで、椅子に腰かけてゆっくりとリュートを奏でるようである。


「あー、さっぱりしたー」

「温まりましたね、フォルセト様」

「ええ。良いお湯だったわ」

「温泉……好きだわ……」


 そこにフォルセト達もやって来る。ふむ。みんなが集まったのは丁度良いな。話の続きと行こう。

 アンフィスバエナについては亜竜種ではあるが、やはり竜である。素材として優秀だし量も十分過ぎるほどだ。従って、防具に向いているのではないかと思っている。みんなの希望する装備品について、意見を聞いてみるとしよう。

 ケルベロスの魔石もどうするか、この場で決めてしまいたいところだ。

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