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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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42 アルバートとの再会

 チェスターと仲が良いのは騎士団ではやはり彼と実際に肩を並べる竜騎士達だと言う事だ。
 竜騎士の中で上役となるのは――副長のグレッグという男らしい。この男は、騎士団の中でも評価が分かれる人物のようだ。
 理想論を語るが指揮官としてはあまり優秀ではない――つまり、気合や根性で何とかしろとか普通に言うタイプだそうで。
 口を開けば勇ましい事を言うので貴族受けは良いが下には嫌われている……という感じらしい。チェスターがその下で重用されて出世をしている所を見るに、あいつはグレッグと気が合うと言う事になるのだろうが。

 とするなら、チェスターかグレッグ。或いはグレッグと繋がる貴族辺りの人物には注意して接触するべきと言う事だ。
 眼下に広がる練兵場の騎士達や兵士達を眺めながら思案に暮れていると、楽士隊がラッパを吹き鳴らす。
 招待客達の喧騒が静まり、騎士の塔にあるバルコニーから国王メルヴィンが姿を見せた。歳の頃は50そこそこ。偉丈夫で厳格そうなイメージがある。

「皆の者、大儀である」

 と、メルヴィンが厳かな口調で広場に浪々と声を響かせる。

「本来ならばここは親睦を深める為の宴席であったはずだが、今日この時に、その言葉は相応しくはあるまい。皆も知っての通り、先だってのカーディフの一件と魔人の出現により、幾人かの兵が我が王国の為にその身を投げ出した。残された妻や子、親の心を思えばこそ、今宵の宴も開くべきではないと思っていた」

 メルヴィンは一旦言葉を切り、目を閉じてから両腕を横に広げる。

「だがしかし、幾人の者からの嘆願を受け、余は今宵の宴の開催を認める事にした。余が彼らの忠節と勇猛を忘れぬ為に。彼らの名と顔を友であり同胞(はらから)たる諸君らが忘れぬ為に今宵の宴はある。彼らのような勇士がいる限り、栄えあるヴェルドガルが魔人如きの襲撃では些かの揺るぎもないと確信している。栄光と名誉在りし我が騎士達が、彼らの魂と意志を受け継ぐからだ。皆、今宵は存分に飲み、食い、楽しんでいくが良い。それが余がその魂を王国に捧げた勇敢なる者達へのはなむけとなるであろう」

 杯を掲げ、メルヴィンは言う。

「勇士達に!」

 そう言って一息に杯を呷る。居並ぶ列席者達もそれに倣い、広場に歓声が起こった。メルヴィンは鷹揚に頷き、歓声を収めるように周囲を睥睨してから言う。

「そして――その魔人に単身向かい合い、打ち滅ぼしたという小さな英雄。彼のような者が我が国の野に埋もれていた事――我が身を省みず危険を冒して敢然と脅威に立ち向かった事を、余は嬉しく思う。今宵の宴にも呼ばれていると聞いておるぞ」

 メルヴィンは真っ直ぐにこちらを見て――にやりと歯を見せて笑った。どこか悪戯好きな子供を思わせる表情だ。こちらに招待客の視線が集まったのが解る。うーん。
 ……国王メルヴィン。性質を言うなら質実剛健で武人タイプの人物だという話だ。オズワルドと話が合うんだろうなという気はするが、BFOでは名前は登場はしてはいるものの、プレイヤーとは接点が無かった。

 なので、メルヴィンの人となりに関しては知らないも同然だ。評判や建前と本音が一致すると限らないし、国王ともなると、そこに政情なども絡んでくるので、信用出来る出来ないだけで判断してもいいものではないし。
 騎士団の意向は騎士団の意向。王の意向は王の意向なんだろうが、チェスター周りの事を解っているかどうかもまだ解らない。

 メルヴィンがバルコニーに用意された大きな椅子に腰かけると、楽士隊が荘厳な音楽を奏で始めた。普通ならもっと軽い演説に優雅な曲が流れるような場面であるのだろうが、やはり名目が違うからだろう。

 まずは日頃の訓練の成果を王に見せると言う事で、騎馬と歩兵が隊列を組んで、陣形の組み替えなどを披露してくれた。
 号令一下、次々と陣形を変える。国軍全体がここまで錬度が高いというわけではないのだろうが、一糸乱れぬ統率された動きというのは見ていて小気味良いものがある。

 ここから騎乗槍の試合だとか、騎射による射撃大会と言った演目が続いていくらしい。
 今やっているのはトゥルネイ。騎乗槍試合の団体戦だ。
 甲冑を纏った騎士が馬や地竜に跨って向かい合い突撃し、すれ違いざまに槍で突いて相手の落馬を狙うというような……まあ競技試合である。
 槍の材質は折れやすく加工した木材だし、先端には平面のキャップを付けて殺傷力を低くしているが、破片が突き刺さったり落馬したりという危険は付きまとうので、安全であるとは言えないだろう。

 オズワルドが見所はどこかだとか解説してくれた。
 槍が相手の騎士を騎乗から突き落としたりする度に招待客から歓声が上がる。
 赤い羽根を兜につけたチームと青い羽根を兜につけたチーム、5人1組に分かれて試合を行っているようだ。

 試合の方はと言えば、青チームの先鋒が3人抜きをした所で、赤チームの副将に3人抜きし返された。
 赤の副将が馬上から落馬させる度に黄色い歓声が上がる。
 副将は観客に向かって手を振り、ますます盛り上がる、という具合。
 兜で顔は見えないが、あれはチェスターのようだ。
 オズワルドの評も順当なら赤組が勝つだろうと言う事で……確かにチェスターは他より頭一つ抜けている感じはする。

 だがオズワルドはあまりお気に召さないようで。チェスターが勝って歓声が上がっても面白くなさそうな表情だ。

「チェスター卿に問題が?」
「チェスターがというか……騎士団全体に、だな。あいつ個人は小綺麗に纏まっていて面白くないというのもあるが、奴と接戦さえ出来ない今の騎士団連中が不甲斐ない。騎士団側もそれを解っていて青側の先鋒に2番目に強い奴を持って来て、お膳立てをしているわけだ」
「……なるほど」

 半分出来レースなわけね。身内同士の試合だし、催し物だから盛り上げは必要なんだろうとは思うが。
 試合自体は真剣勝負のようだし、傍目には盛り上がっているから、騎士団としての目的は達成されているのだろう。

 しかしオズワルドも――中々難しい注文を付けるものだ。
 チェスターの戦い方は正統派だが、だからこそ招待客にはウケが良く、オズワルドにしてみると「小奇麗で面白くない」という評価になってしまうようで。

「だからお前が行って飛び入り参加してこい。いい刺激になるぞ」
「だから、何を馬鹿言ってるんですかね、この人は」

 オズワルドの軽口をかわしていると、1人の女が近付いてきた。

「ご歓談中失礼します。テオドール=ガートナー様でいらっしゃいますか? 私アニー=エリムソンと申します」
「……どうも」
「私、魔術師隊の一員でして。是非テオドール様にご挨拶をしたいと仰る方がいらっしゃいまして、私と御足労いただければと」

 ……魔術師隊ね。騎士団とは反目してるんだっけな。何か有意義な情報を聞けたりするだろうか?
 そして今は交流する為の席でもあるのに、こっちから出向かなきゃならない相手や話題となると、自然候補も絞られてくるわけで。

「……良いでしょう。同行します」
「お供します」

 立ち上がると、グレイスも立ち上がった。2人も一緒に来るつもりのようだ。

「試合を見てても良いんだよ?」
「いえ、一緒にいさせて下さい」

 と微笑むアシュレイ。

「ま、あれでは退屈だろうよ。お前と肩を並べて戦っているなら尚の事、な」
「うーん」

 ……そんなものなんだろうか。
 アニーに連れられて向かった先は練兵場に隣接する騎士の塔だ。今は王族が上階にいるはずなので警戒が厳重だが、アニーは臆するような所もなく進んでいく。

「こちらです」

 ――と、通された部屋に入る。そこにいたのは……既に知っている人物であったが、こんな挨拶をしてきた。

「やあ、初めまして」

 つまり、人懐っこい笑みを浮かべているアルバート王子だ。今日は隣に、妹のマルレーン姫と婚約者オフィーリアも同伴させている。
 マルレーンの方は人見知りなのか、俺を見るとアルバート王子の身体の影に隠れてこちらの様子を恐る恐る窺ってきた。オフィーリアは堂々としたものだ。

「こちらのお方は――」

 アニーが紹介しようとしたが、アルバートはそれを手で遮る。

「いや、良いんだ。あまり堅苦しいのは嫌いだから。観戦の途中で済まなかった。どうしても君と、内々に話をしたかったんだ」
「そう、ですか」
「僕はアルバート。この国の第4王子だ。こっちは妹のマルレーンと――ええっと、友人のオフィーリア」

 うん。知ってる。王城に来たら接触して来ることもあるかなと予想もしていたし。
 アルバート王子は将来的に魔法技師になりたいみたいだから、魔術師隊と繋がりが出来るのも解る。

 気さくな人物であるというのは解ってはいるが……まあ初対面(・・・)で、相手が王子である以上は、アルフレッドの時のような接し方は出来ないだろう。

「こちらは僕の婚約者のアシュレイとグレイスです」

 礼儀作法に則って挨拶をし、2人を紹介した。

「婚約者……やるなあ、君は」

 アルバート王子は目を丸くする。

「王子にも婚約者はいるのですけどね」

 と、オフィーリアが「ふふふ」と顔の影を濃くして笑う。

「いや……うん、まあね。オフィーリアは僕の婚約者だ」

 アルバート王子は少し頬を赤くして人差し指で掻く。婚約者と紹介するのが気恥ずかしかったらしい。

「まあ何ていうか。来てもらったのは、君の話を僕の友人から聞かせて貰ったからでね。タルコット、と言うんだが」

 ああ。そうやって話を切り出してくるわけね。
 絡繰りを知っている俺としてはやや反応に困るな。アルフレッドである事は隠すつもりのようだし。

「彼から君には礼を言って欲しいと伝えられている」
「そう、ですか、僕は彼に礼を言われるような事はしていないと思うのですが……」
「君がそう思うのも、タルコットが礼を言うのも自由さ。確かに伝えたよ」
「……解りました」

 タルコットの伝言を伝えたかったというのもあるのだろうがそれだけとも思えない。
 さて……。アルバート王子は一体何の用なのやら。
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