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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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430 火精温泉での休息

「おお……あれが噂の……」

 火精温泉内を入口のゲートから見回して公爵がプールの設備に目を輝かせる。

「落ち着いて下さい、父様」
「……うむ。んっ、んん」

 と、ヴァネッサにブレーキを掛けられ、公爵は小さく咳払いをして体裁を整えていた。大公の前だからということなのだろうが、大公は穏やかに笑みを浮かべると公爵の隣まで行って温泉内の設備を見やる。

「確かに、物珍しいものばかりですからな。お気持ちも分かりますぞ」
「いや、気を遣わせてしまって申し訳ない」
「まあ、祝いの日に無粋は無しということにしましょう。身内ばかりで気楽な場でもありますし」

 大公と公爵はそんなやり取りをかわす。公爵は領地経営に関してはしっかりしているし、結果を出している。その点で大公も公爵を認めているからこその言葉とも言える。
 まあ、無礼講と言っていいのかは分からないが、あの2人に関しては心配なさそうだ。

「それじゃ、俺は風呂に入って来るよ。その後、設備周りの点検もしてくる」
「はい。ではまた後程」
「うん。監視塔にはカドケウスを置いておくから」
「分かったわ」

 まずは風呂へ、ということでみんなと一旦別れる。
 脱衣所で湯あみ着に着替え、扉を開いて大浴場へ進むと、オスカーが歓声を上げた。

「これはまた……すごいですね」
「これが大浴槽、そこが洗い場で、あちらが打たせ湯。それから泡風呂の浴槽があれで――」

 と、初めて来た面々に設備の説明をする。

「大使殿が魔法建築で作ったと聞いておりましたが、あの像なども?」

 質問してきたのは大公だ。湯船にお湯を注いでいる塑像(そぞう)を指して尋ねてくる。

「はい。専門家ではないので内装の様式などは学舎にある書物などを参考にさせて頂きましたが」
「いや、見事なものです」
「息継ぎの跡も見えずに滑らかなものですからな。かなり価値があると思いますぞ」

 んー。公爵の審美眼的な観点には魔法による加工品についての知識もある、ということなのだろうか。
 公爵は美術品の類には詳しそうだが、奇をてらったものではないのでそういう意味では無難だし、作った本人としてはあまり芸術品という気はしない。魔法的な技術に関しての評価ということで聞いておこう。

「ふむ。では、湯を頂くとするか」

 メルヴィン王は慣れた様子で洗い場で身体を流すと大浴槽にゆっくりと浸かる。
 みんなもそれに倣うように身体を流してから湯船に身を沈めた。

「おお……」

 と、誰からともなく声が漏れる。

「……疲れが湯に溶けていくようですな」
「うむ。それはハワードも言っていたな」
「温泉には定期的に足を運んでおりますが……疲れなどが次の日に残りませんからな」
「うむ。重宝しておるよ」

 公爵の言葉にメルヴィン王とジークムント老が答える。そのまましばらく、お湯の心地良さを堪能していると、公爵が言った。

「ふうむ。こうなってくるとやはり、あの泡の出る風呂というのが気になりますな」
「父上はずっと気になっておいででしたからね」
「私はうたせ湯というのも気になりますな。順番に試していってみることにしましょうか」
「うたせ湯か。あれは肩こりや腰によく効くのだ」
「ほほう」

 メルヴィン王と共に、大公、公爵、ジークムント老、オスカーと言った面々はジャグジー風呂やうたせ湯を試してみるらしい。

「おや、アルバート。着替えて来たのか」
「ええ、兄上」

 と、そこに変装用の指輪を外してアルバートがやってきた。アルフレッドでは貸し切りの温泉には入れないが……アルバートでなら突入可能というわけだ。

「はぁ……。今日も良く働いた」

 身体を流してから浴槽に入ってきたアルバートは脱力した様子でそんなことを言う。

「ん。お疲れ様」
「テオ君こそ」
「まあ、同席しただけだからそんなには気疲れはないけどね」

 大公と公爵の和解の席の後にも祝いの席での貴族の挨拶回りもあったのだが、大公と公爵が揃って寛いでいたので、大挙して押しかけるという雰囲気でもなく、比較的高い地位の貴族家の当主などがそれぞれの派閥を代表して来たぐらいで全体的な数は控え目だったと言える。
 大変だったのは金山を統治する2家の領主だろう。バルコニー席には気軽に来れない分、挨拶回りはあちらに集中していたようだから。

 それぞれの貴族家にしてみると、三家の目の前で自分の立場を表明するのに丁度良かったのかも知れない。少なくとも金山の領主達が孤立するということは無さそうだし……そのへんも計算されていたりするのだろう。
 金山の領主達も、後から手が空いたのを見計らって揃って大公と公爵に挨拶に来たが……労いの言葉を掛けられて2人とも穏やかな表情を浮かべていたのが印象的であった。

「もう少ししたら、遊泳設備の点検に行ってくるよ」
「ああ。分かった。僕は湯船でのんびりさせてもらうかな」
「その後は……父上と大公は休憩所に向かうだろう。公爵は遊泳場のほうに向かわれるかも知れないが」

 と、アルバートとジョサイア王子。

「分かりました。湯中りしないようにお気をつけて」
「そうだね。それについてはアルやオスカー殿と共に留意しておこう」



 程々のところで湯船から上がって遊泳場――プールのほうへと向かう。まずは流水プールの点検からだろう。

「ああ。テオ」

 と、俺の姿を認めたグレイスがプールの中から笑みを浮かべてこちらに手を振ってきた。グレイスだけでなく、みんなプール側に来ている。ヴァレンティナとシャルロッテも一緒のようだ。
 俺が点検に行くという話をしていたからか、今回は女性陣は入浴よりプールで遊ぶのを優先にしたようだ。

「ん。みんなこっちに来てたんだ」
「ええ、そうね。テオドールが魔道具の点検をするというから」

 ローズマリーは丁度一周してきたところのようだ。泳いでいたのだろう。プールサイドに上がって軽く呼吸を整え、濡れた髪をかき上げながら言った。

「水流に関してはどこも異常はないようですよ。排水周りはまだです」
「さっきマルレーンと一緒に滑ってきたけれど、滑った分には異常は無かったわね」

 アシュレイとクラウディアが言うとマルレーンがにこにこして頷いた。
 水流関係に関しては一足先にチェックしてくれていたようで。
 まあ何というか……露出が少な目な湯あみ着ではあるが、みんなの白い腕や太腿などはこうやって近くで見ると色々目に毒だな。

「この季節で寒くはない?」

 敷地は外壁に沿って風魔法の結界で防御しているから、外気温よりは結構暖かいはずだが。

「水温が温かいですから、泳いでいるなら寒さは感じないかなと。私達はテフラ様の祝福がありますが……水から上がって長時間風に当たらない限りは大丈夫ではないでしょうか?」

 と、グレイスが少し思案するような様子を見せながら言う。
 なるほど。俺も実際に泳いで参考にさせてもらうとしよう。
 泳ぐわけではないスライダー周りには階段などに火魔法の防御もある。後から体感温度を調べに行くが、恐らくこちらも大丈夫だろう。

「ありがとう。じゃあ排水口の点検を済ませてくるよ」
「はい。お待ちしています」

 さて。早めに点検を済ませてしまうことにしよう。その後はみんなとプールで遊ぶ予定であるし。
 流水プールに点在している排水口を開いてきちんと排水できているか。安全装置がきちんと機能するかなどを確かめていく。ふむ。問題無さそうだ。水質も……しっかりと浄化の魔道具は動いているようだな。

「ん。テオドール発見」
「あっ、テオドール君、お疲れ様」

 いくつか点検を終えたところでシーラが脱力したまま仰向けに流されて行った。その後ろを人化の術を解いたイルムヒルト、ユスティア、ドミニクとシリルが続く。

「こ、これは楽しいかも知れません」
「不思議な乗り心地と言いますか……」
「でしょう? 空を飛ぶ時も楽しいのよ」

 そして……ヴァネッサとエルハーム姫、ステファニア姫とアドリアーナ姫を背中に乗せて、水面から鼻先を出したコルリスがゆっくりと身体をくねらせながら水を掻き分けて泳いでいった。コルリスの頭の上に、セラフィナも乗っかっている。
 んー……。中々楽しそうにしているな。あれも公爵家令嬢接待の一環ということだろうか。

 コルリスに関してはまあ、流水プールは使っても問題ないとのことで事前に話が通っている。バハルザードのオアシスでもそうだったが……コルリスは随分と泳ぎが達者なようだな。元々地下暮らしだからか、泳げないといざという時に問題があるからかも知れない。

 まあ……次はスライダーの確認に行くとしよう。
 プールサイドから直接レビテーションでスライダー側に飛んで、構造体や転落防止のネットなどに異常がないか確かめていく。
 後は一度上から滑って、下のプールを点検してやればいいだろう。

「ああ、テオドール様」

 と、そこにフォルセトがシオン達を連れてやって来る。

「え、えっとその。こんばんは」

 シオンは湯あみ着で若干露出が増えているのが恥ずかしいのか、頬を赤らめ、胸の前で腕を交差しながらそんなことを言った。さっき入口で別れたばかりで挨拶というのも何だが……若干の混乱が見えるな。
 まあ、火精温泉の湯あみ着はそれほど露出部分も多くないし透けないように工夫もされているのだが。

「テオドールも滑りに来たの?」

 マルセスカが尋ねて来る。

「ん。点検だね。滑り台が傷んでないかとか、水がちゃんと流れるようになっているかとか」
「……そっか。テオドールが作った場所だから」

 シグリッタが納得するように頷く。

「滑るのならお先にどうぞ。色々確かめることがあるからゆっくり行くし」
「それじゃあ……」
「次はシオンがフォルセト様と一緒だね」
「うんっ」
「ふふ」

 フォルセトは楽しそうにシオンの背中側に着く。マルセスカとシグリッタが隣のコースに座る。

「……それじゃあ、出発」

 というシグリッタの声を残し、2人1組になって4人一斉に滑っていくのであった。
 んー。まあ、フォルセトと一緒にそれぞれが滑っているということは、最低でも3回は滑る形なのだろう。フォルセトも3人からは随分と慕われているようで。

 ともあれ火精温泉未経験の面々にも楽しんでもらえているようで何よりである。
 そのままスライダーを滑り、下のプールの点検を済ませてグレイス達の所へ移動する。

 ふとプールサイドから休憩所を見やると、テフラも姿を見せていた。どこか嬉しそうにみんながプールで遊んでいる様子を見ていたが、俺と視線が合うと手を振ってくる。こちらも手を振り返すとテフラも満足げに頷いていた。
 みんなが火精温泉に集まるということで様子を見に来たのかも知れないな。
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