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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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428 新しい歩みを

「ただいま」
「お帰りなさい」

 大公と公爵の話し合いを終えて戻ってくると、みんなが笑顔で出迎えてくれた。

「大公と公爵はどうだったのかしら?」

 と、ローズマリーが尋ねてくる。

「問題は無かったよ。握手をして、互いの胸の内を確認して……お互い気を遣っていたみたいだし、三家の関係はこれから良くなるだろうと思う。国内のことや今までの取り決めについては落ち着いているから現状維持だってさ」

 そう答えるとマルレーンは笑みを浮かべ、ローズマリーは羽扇で口元を覆いながら少し思案するような様子を見せた。

「……となれば、それぞれの陣営にいる貴族達も、ほとんどはその方針になびくのではないかしらね。彼らの今まで持っていたものが脅かされるわけでもなく、それ以上を望めば三家から睨まれる、ということでしょう?」
「そうだな。今までと違う立場にならざるを得ないと思うよ」

 反対派はそれぞれの陣営に確かにいるのだろうが、それは上の方針が自分の主張と一致しているという免罪符を得ている状況だったと言える。
 リスクを負ってまで三家に逆らうか、と言われるとどうだろうか。ローズマリーも失脚してからは、それまで付き合いのあったほとんどの貴族が距離を置いてしまったわけだし、経験上、大半の貴族は風見鶏という見解のようである。まあ、その見立ては正しいのだろう。

「それから……きちんとした理由のある一部の貴族に対してはしっかり配慮をするって話もしてたな」
「そうなるでしょうね。父上らしい話ではあるけれど」
「一部の貴族というのは……直接金山を統治している領主達についてでしょうか?」
「うん。方針変更で不利益を被るようなことはさせないってさ」

 アシュレイが尋ねて来たので頷くと、静かに微笑んで彼女も頷く。アシュレイもまた、領地を抱える領主だし、そう言った部分には敏感なのだろう。

「そう、ね。彼らの場合は他の貴族達と違って、理屈や利害ではなく感情的な部分もあるし、そもそも反発しているのは彼らの責任であるとも言えないでしょう」

 クラウディアが目を閉じる。まあ、流石にこのあたりは王族や貴族である彼女達は強い分野ではあるな。

 金山の領主に関しては、言うなれば今までの方針における功労者でもあるし、環境故にそうならざるを得なかったという部分もある。上の方針が変わったことで彼らが不利益を被るのは理不尽だ。だから他の者と違って彼らには配慮しなければならないということで、メルヴィン王達は意見の一致をみている。

「多分、今までの功労に対しての恩賞があるんじゃないかな」

 その上で大公と公爵がわだかまりの解消に動いていくという形になるだろう。

「綺麗に纏まりそうで良かったですね」
「そうだな。反対派だって、理由がないわけじゃないんだし」

 微笑むグレイスに頷く。

「ああ、それから、公爵の言っていた島の話もしてきたよ」

 と、先程決まった話をみんなにしていると、そこに女官がやって来た。

「お待たせ致しました。準備が整いました」

 祝いの席の会場の準備、ということらしい。

「シーラとイルムヒルトは……もう準備に行ってるのかな?」
「うん。さっき呼ばれて出て行ったよ」

 セラフィナが嬉しそうに笑みを浮かべて答える。

「お2人にもご協力を頂いて、有り難い限りです」

 女官が一礼した。ふむ。では……移動するとしよう。

 迎賓館のバルコニー席に向かうと、その一角に大公と公爵、公爵夫人とオスカーにヴァネッサ、ジョサイア王子、ステファニア姫、アドリアーナ姫が陣取っていた。俺達もそこに案内される。
 そうそうたる顔触れだな。メルヴィン王は広場近くの塔から祝いの席を観覧する、とのことだ。バルコニー席にジョサイア王子とステファニア姫が来ているのは、王家が今回の両家の和解に深く関わっているという現れだろう。

 俺達とアドリアーナ姫達シルヴァトリア組、そしてエルハーム姫やフォルセト達バハルザード組も並んで座るというのは、魔人対策のために国内外が一致していくという方針であると知らしめる意味合いもそこにはあるのだろう。

「お疲れ様。和解の場に同席するのは、中々大変だったのではないかしら?」

 バルコニー席に先に来ていた面々に一礼しながら席に着くと、ステファニア姫が笑みを浮かべる。

「ありがとうございます。まあ、僕は意見を述べたりする立場でもありませんでしたので」
「魔人と相対するにはそれだけの胆力が必要ということなのかな。あれだけの顔触れと同席をするとなると、それだけで緊張してしまう貴族は多いのだよ」

 ジョサイア王子が苦笑する。

「……なるほど」

 だが俺の場合、メルヴィン王や公爵は気さくであると最初から知っているし、デボニス大公の厳格さは為政者である貴族が好き勝手しないよう諌めるためのもので、実際は思慮深いということも知っているので、それほど緊張する理由もないというか。

「実際、頼もしい限りではあるな。魔人に対して大使殿を矢面に立たせてしまうのはやはり心情的には心苦しいものはあるが……」
「あの光の柱を目にしてしまえば異論を差し挟む余地もない、というところですかな」
「まあ……そうなるでしょうな」

 デボニス大公の言葉を公爵が引き継ぐと、大公も頷く。
 夢魔を倒した時のあれか。夜間であの魔法は、確かに目立っただろうとは思うが。まあ、悪魔相手にきっちり滅ぼしに行くならあれぐらいはやっておかないとという部分もあるので、あまり気にしないことにしよう。

 話をしている内に次々と料理も運ばれてくる。香草詰めのターキーやら魔光水脈の食材をふんだんに使った料理やら……王城の料理なので言うまでもないが、かなり豪勢だ。そして他の貴族達も続々と集まって来ているようであった。

 広場には王城お抱えの楽士隊。そしてその隣にシーラとイルムヒルト、それからセイレーンのユスティア、ハーピーのドミニク、ケンタウロスのシリルの姿。イルムヒルトは、俺と視線が合うと楽しそうに笑みを向けてきた。シーラはいつも通りの表情だが尻尾が立っているな。

 ジョサイア王子からは王城の祝いの席で演奏してもらえないかと打診を受けている。満月の日ではないので劇場でとはいかないため、王城に出張演奏という形である。
 楽士隊の演目の次にイルムヒルト達の演奏する段取りだそうだ。帰って来てすぐではあったし夢魔事件もあったので、シーラとイルムヒルトは割と準備に追われてしまったところはあるようだが……まあ、そこは普段から練習をしているし劇場でも演奏しているので、新しい演目でなければ問題ないようだ。

 王城で演奏するとなると問題になるのは舞台装置であるが……それに関しては簡易のものを俺の留守中にアルフレッドが作っていたようである。飛行船に乗せればどこでも開演できるようになる、と豪語していた。

 当人は……何故だかアルバート王子としてではなく、魔法技師アルフレッドとして練兵場広場で舞台装置のチェックに余念が無かったりする。楽しそうに機材を弄っているが……まあ、当人が楽しそうだからいいか……。

 迎賓館は集まってきた貴族達で賑わいを見せていたが、これからメルヴィン王の挨拶があるからか、それとも集まっている面子が面子だからか、挨拶回りは見合わせている状況のようだ。
 大公と公爵の和解の席であるということも考えると、迂闊に動くわけにもいかないという部分もあるだろう。状況を見極めて、というところかも知れない。

 そしてほとんどの貴族達が席に着いたところで……塔のバルコニー席にメルヴィン王と宰相ハワード、騎士団長ミルドレッド、宮廷魔術師リカードといった側近の面々が姿を見せた。
 メルヴィン王が手を広げると、集まった貴族達のざわめきが静まっていく。話し声が聞こえなくなったところでメルヴィン王が口を開いた。

「――皆の者、今日は良く集まってくれた。既にある程度のことを聞き及んでいる者もいようが……此度王太子ジョサイアの働きかけと、異界大使の活躍により、我が国において新たな歴史が刻まれた。余――王家と大公家、公爵家の長がそれぞれ手を取り合い、ヴェルドガルとそこに住まう民の安寧のために共に歩んでいくということを確認し合ったのだ。この席は栄光あるヴェルドガルの、今後ますますの発展と、新たなる門出を祝う席であると心得るが良い」

 そう言ってメルヴィン王は一度言葉を切り居並ぶ諸侯を見渡す。バルコニー席ではメルヴィン王の言葉を裏付けるかのように隣同士に座る大公と公爵が立ち上がり、笑顔で握手を交わしていた。その光景に、貴族達の拍手が巻き起こる。

「さて。新たなる門出となればそなた達も気になることが多いであろう。そのことを気にするあまりに酒宴を楽しめぬなどということがあっては興醒めというもの。宴を始める前に、いくつかこれからのことについて触れておかねばならぬ。まず、今までの王家、大公家、公爵家の間での取り決めについては何ら変わりはない。余らが手を取り合っているということを念頭に置きながら、今まで通り、それぞれが成すべきことに邁進するが良い」

 和解は成ったが取り決めについては現状維持。その通達というわけだ。

「そしてもう1つ……」

 メルヴィン王が貴族の名を呼んで、立ち上がるように呼びかける。大公家と公爵家それぞれの陪臣となる貴族家の家長達。つまり――金山の領主2人だ。

「そなた達はこれまでヴェルドガルの取ってきた方針に従い、良く国に、そしてそれぞれの主に仕えてくれた。それ故にそなた達の忠節を称え、ここに恩賞を取らす。ヴェルドガルは今日より新たな歩みを始めるが――それは決して今までの歩みと、そこに刻まれた思いを軽んじるものではない。そしてこれより始まる新たな歩みも、やはりそなた達の忠節無くしては成し得ぬものであろう。それ故、余は――いや、余らはそなた達の、変わらぬ忠節に期待している。そして周囲の者達は主人共々、これを盛り立てよ」

 と、みんなの前で忠節を称え、褒美を与えるというわけだ。様子見をしている者達が風見鶏になるのは仕方がないにしても、2人を軽んじるようなことは許さない、というわけだ。

 2人は深々とメルヴィン王に一礼する。こういう場で言うということは……事前に話を通してあったのだろうし、和解についても了解させていたのだろう。
 顔を上げると2人ともどこか吹っ切れたような表情を浮かべていた。どちらからともなく歩み寄り、主人である大公、公爵と同様に……ややぎこちないながらも笑みを浮かべて握手を交わす。また大きな拍手が巻き起こった。
 メルヴィン王はその光景に頷くと、酒杯を掲げた。

「では、これより祝いの宴を始める! 皆、存分に楽しんでいくが良い!」

 そしてメルヴィン王、大公、公爵を称える歓声が響く。その歓声が落ち着くのを見計らうかのように、楽士達が音楽を奏で始めるのであった。
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