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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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426 大公との再会

「お迎えに上がりました」

 そして大公と公爵の和解が行われる日――。王城からの使いが来たのは午後を少し回ってからの時間だった。

「ありがとうございます。みんな、準備は?」
「大丈夫です。できています」

 と、グレイスが答える。みんなを見渡すと、それぞれに頷き返してくる。
 俺と同様、みんなも参列者として招待されている。バハルザードとハルバロニスの代表としてエルハーム姫やフォルセト達もデボニス大公に挨拶をしたいとのことなので、フォルセト達も招待客だ。ジークムント老達も招待されているのはシルヴァトリアに対しての宣言でもあるということを詳らかにする意味合いもあるか。

 女性陣はみんなフォーマルなドレス姿である。揃ってドレス姿で並ぶという光景は、中々眼福ではあるかな。式典用の正装というわけだ。
 正装に関してはフォルセト達もハルバロニスから持参してきているので、こちらも準備に抜かりはない。少し様式は違うが、基本的にはドレスということで違いはないようだ。

「……こういう格好はやっぱり慣れないんだけどなぁ」
「大丈夫だよ、シオン似合ってる」
「……うん。シオン可愛い」
「うう……」

 シオンはややドレス姿に抵抗があるようだ。マルセスカとシグリッタに笑みを向けられて少し頬を赤くしながらかぶりを振っていた。
 フォルセトがそれを見て柔らかい表情で微笑む。まあ……シオンは思い切りが良いところがあるので家を出たら後は腹を括るかなとは思うが。
 ともあれ、準備はできているようなので、王城へ向かうとしよう。



 そして俺達を乗せた馬車が王城に到着する。季節が季節だけにタームウィルズを訪れている貴族家は多いはずだが、まだ他の貴族達は来ていないようだな。
 両家の和解を広く示すために祝いの席を設ける予定らしいが、その前に大公と公爵が直接話をするのが前提となる。まずはそれを済ませてからではないと、その後の祝いの席も始まらないというわけだ。

「お待ちしておりました、テオドール様。どうぞこちらへ」

 馬車から降りると女官がやって来て俺達を案内してくれる。迎賓館の一室に通されると、そこにはやはりドレス姿のエルハーム姫が待っていた。やはりヴェルドガルのドレスとは様式が違うかな。髪や顔を覆う薄いヴェールや、袖から伸びる薄布など、こちらにはない、バハルザード特有のデザインだ。

「こんにちは、皆様」
「はい、エルハーム殿下」

 と、エルハーム姫と挨拶を交わして部屋の中に入る。

「皆様が揃いましたらデボニス大公からこの部屋に挨拶をしに行きたいとのことです」

 案内してくれた女官が言った。
 ということは、大公はもう王城にやって来ているということか。ジョサイア王子は式典などが始まってしまったらゆっくりとした時間が取れないから先にデボニス大公との挨拶の時間を作ると言っていたけれど。

「分かりました。しかし、僕達からお伺いするのが筋では?」
「テオドール様はヴェルドガルのためにバハルザードへ向かったので、それに協力するのは当然のことと仰っておりました。任務を終えて無事に戻ってきたのであれば、尚のこと礼を言うべきはヴェルドガル王国の臣民である自分のほうだと。ですので、大公からこちらにと希望しておいでです。それに、エルハーム殿下もご一緒ですから」
「なるほど。わかりました」

 頷くと女官は一礼して部屋を出て行った。

「少し緊張します。バハルザードにとっても恩のあるお方ですから」

 部屋に腰を落ち着けるとエルハーム姫は自分を落ち着けるように軽く深呼吸をしていた。

「デボニス大公は話からは厳格な印象を受けますが、内実はお優しい方だと思いますよ」

 俺が言うと、マルレーンも微笑んで頷く。
 立場があってなかなか自分の思うように動けなかったようだが、マルレーンのことは気にしていたわけだしな。
 それに、バハルザードとの関係を重んじているからこそ自分から挨拶にという形を取りたかったのだろうし。

「少し安心しました。ああ、それと。ビオラさんとウロボロスの強化装備に関して色々試作してみたのですが……ある程度納得のいくものが試作できました。後日になってしまうかなとは思いますが、一度見ていただけますか。使い手であるテオドール様に意見を伺いたいのです」
「分かりました。ではアルフレッドと連絡を取って、後日工房に顔を出します」
「はい」

 もしかしたらそのままオリハルコン加工の工程に移れるかも知れないな。杖に対する後付けの強化装備というのは流石にビオラやエルハーム姫にも経験がないので、俺の希望――つまりバランスや長さといった使用感をあまり変えずにという意見を元に、色々思考錯誤してみると言っていたのだ。

「上手く加工できると良いですね」

 アシュレイが壁に掛けられたウロボロスの頭を軽く撫でると、ウロボロスも小さく喉を鳴らしていた。

「そうだな。ウロボロスも乗り気みたいだし」

 そうこうしている内に、部屋の扉がノックされる。

「デボニス大公をお連れしました」
「はい。お通しして下さい」

 女官の声に答えると扉が開いてデボニス大公が部屋の中へ入ってきた。

「これは、大公」

 俺の挨拶に合わせるように、みんなも立ち上がってデボニス大公に一礼する。

「夢魔事件のことは耳にしました。バハルザードでの任務共々、ご無事で何よりです大使殿。中々お会いできずに申し訳ありませんでしたな」
「いいえ。こちらこそ、バハルザードに向かう際はお世話になりました。デボニス大公に(したた)めていただいた書状にはとても助けられました」
「それは何よりです。陛下から伺っておりますが、遊牧民とも良好な関係を築いていらっしゃった様子。私としても治安の安定や今後の交易にも期待が持てるというものです」

 まずは書状のお礼を言うとデボニス大公は静かに笑みを浮かべ、そんなふうに言って一礼してくる。続いてエルハーム姫とフォルセト達を大公に紹介する。

「バハルザード王国のエルハーム殿下、そして旧ナハルビア王国関係者の代表としてフォルセト様。同じく彼女達はシオン、マルセスカ、シグリッタの3人です」
「初めまして、デボニス大公。書状では何度か挨拶を交わしておりますが、こうして直接お会いすることができて光栄です。エルハーム=バハルザードです。父、ファリード=バハルザードの名代としてヴェルドガル王国へ参りました」
「ハルバロニスという町から参りました、フォルセト=フレスティナと申します。ハルバロニスはやや特殊な町ではありますが、ナハルビアの隠れ里という位置づけになるのかも知れません」

 ナハルビアは現在、バハルザードに編入されているが、ハルバロニスは立地にしろ住人にしろ、色々特殊な立ち位置だからな。
 バハルザードの安定がハルバロニスの安定にも繋がるのだし、フォルセトも大公との良好な関係は望むところだろう。

「は、初めまして」

 シオン達3人もやや緊張した面持ちながらもデボニス大公に挨拶をする。デボニス大公は3人の様子に僅かに微笑ましいものを見るように相好を崩すとエルハーム姫とフォルセトに向き直って言う。

「これはご丁寧に。私もファリード陛下とは末永いお付き合いをしていきたいと思っておりますゆえ、今後ともよろしくお願い致しますぞ」
「はい、デボニス大公」
「ナハルビアとハルバロニスについての詳しい事情については……知るべきことは陛下が知っているのでしょうから、ここでは私が敢えて尋ねることでもありますまい。しかし、フォルセト殿達がこれよりバハルザードと共に歩むというのであれば、手を取り合うことはできましょう」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 ふむ。これでデボニス大公への挨拶も完了といったところか。エルハーム姫とフォルセトの挨拶が終わったところで、マルレーンが大公の前まで行ってスカートの裾を摘まんで一礼すると、大公は眩しいものを見るように目を細めて頷いていた。
 そうして……一息ついたというところでデボニス大公が言った。

「さて……。せわしなくて申し訳ありませんな。あまりドリスコル公爵を待たせるわけにもいきません。私は陛下と王太子、それから公爵とお会いしてこなければ」
「ではご一緒します」

 祝いの席は全員出席だが、和解の席の立ち会いは俺だけで顔を出すという形になる。デボニス大公がメルヴィン王やドリスコル公爵と会うということは、俺もデボニス大公に同行するということだ。デボニス大公に続いて立ち上がり、部屋を出る前に皆に向き直った。

「じゃあ、少し行ってくる」
「ええ。また後で。和解反対派は今更動かないと思うけれど、テオドールが一緒なら色々安心よね」
「そうね。行ってらっしゃい、テオドール」

 と、ローズマリーとクラウディアが小さく笑う。

「和解、上手く行くと良いですね」

 グレイスが微笑んで俺を見送ってくれる。

「ん。そうだね」
「行ってらっしゃいテオドール様」

 アシュレイの言葉に頷いて、こちらを見てくるマルレーンに笑みを返すように頷いて。それから部屋を出た。
 まあ、ドリスコル公爵は勿論、デボニス大公に関しても心配いらないと思っているが。
 先程マルレーンと相対した時のデボニス大公は何といえばいいのか……。そう、孫娘を見る祖父といった印象を受けたのだ。
 勿論厳格であるのは確かなのだろうが、前に会った時より物腰というか表情の作り方が柔らかくなっている気がした。シオン達を見た時の反応もそうだ。
 大公もマルレーンに胸の内を吐露したことで、色々と良い方向への変化があるのかも知れないな。
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