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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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421 青空の下で

 メルヴィン王からの沙汰が言い渡されてからのレスリーの表情は、何やら決然としながらも吹っ切れたように見えるものであった。グラズヘイムに操られていた記憶なども含め、今後の彼にとって立ち向かっていくべきものとなったというところか。

 襲撃の実行犯達もグラズヘイムの能力により、悪夢の中で揉め事を起こしたり投獄されたりといった事件をでっち上げたものらしく、こちらもグラズヘイムが滅びたことで今頃は違和感などを感じているのではないかとのこと。

 夢魔が絡んでいたという事情の説明と理解、そして襲撃そのものへの反省が見られるなら、レスリー共々夢魔事件の事後処理を手伝うことで手打ちになるだろうとメルヴィン王は明言していた。
 職も失わないようにドリスコル公爵が手を回すという話で……まあ、これは温情判決だな。
 夢魔がいなくなれば悪夢は悪夢。何もかも元通り……とまではいかないが、影響が大きくならないよう対処が取られるというわけだ。

「――ああ、テオドール君。デボニス大公から伝言を預かっている」

 王城での話し合いを終えて帰ろうとした時に、ジョサイア王子から声を掛けられた。

「なんでしょうか?」
「先程ドリスコル公爵とも話をした上でのことなのだが……円満に和解の日を迎えることができそうだし、その立役者である君にも同席してはもらえないかと、デボニス大公からは相談を受けているのだが、どうだろうか?」
「なるほど。僕でよければ。では、デボニス大公へのお礼と挨拶もその際に」
「そうだね。デボニス大公には私からお伝えしておくよ」
「よろしくお願いします」

 ジョサイア王子に一礼して、迎賓館から外に出るとリンドブルムが待っていてくれた。家まで送って行ってくれるというわけだ。軽く撫でると小さく喉を鳴らす。

「では、また明日かしらね」
「はい。ステファニア殿下。午前中、少し遅めの時間ぐらいに公爵家別邸へ向かうつもりです」
「分かったわ。では、その時に会いましょう」

 見送りに来てくれたステファニア姫達に頷き、リンドブルムに跨る。
 コルリスとラムリヤも練兵場に姿を見せて、こちらに向かって手を振っていた。コルリスの肩に乗ったラムリヤも砂の腕を作って手を振るなんて芸を見せているが……。あれはコルリスに影響されたのだろうか。
 苦笑してこちらも手を振り返す。もう一度一礼して空に舞い上がり、帰路に着いたのであった。



 ――そして明くる日。

「ん……」

 朝の光に目を覚ます。隣にはアシュレイとマルレーンがいて……2人が俺に寄り添うように寝息を立てていた。
 アシュレイの隣にグレイス。マルレーンの隣にクラウディア、その隣にローズマリーという配置だ。アシュレイは俺の胸元に頬を寄せるようにして。マルレーンは俺の手を握っているという状態だ。いつもよりみんなが密着しているように感じるのは……夢魔の幻覚の一件があったからかも知れない。
 まだ朝早いので時間的にはのんびりできる。みんなが起きるまで、このままゆっくりさせてもらうとしよう。

 んー……。何と言えばいいのか。アシュレイとマルレーンの寝顔を見比べてみると思うのだが、アシュレイの寝顔は普段起きている時よりあどけない印象を受ける。このあたり、普段はシルン男爵家当主として気を張っているからなのだろう。眠っている時はマルレーンと比べても年相応の幼さが表に出る感じがあるというか。
 マルレーンは……元々あどけない印象ではあるのだが、アルフレッドによると昔より安心しているのか笑顔が多いとのことだ。

 寝顔の印象が起きている時と若干違うといえば、クラウディアもだろう。彼女も2人と同様、起きている時よりも幼い印象だ。クラウディアは女神という肩書きや経歴も持っているし、それにふさわしい振る舞いを心がけているようだが……日常生活の中では油断するのか普通の女の子という反応も割と見せてくれるのである。

 ローズマリーも静かに寝息を立てている。……うん。寝顔は流石に無防備だな。
 軽く手を伸ばして顔にかかっていた前髪を除けてやると、小さく声を漏らして微笑むような表情になった。

「ん……」

 と、小さく声を漏らしたグレイスが、薄く目を開ける。

「おはよう」

 みんなを起こさないように小声で朝の挨拶をすると、グレイスも横になったまま微笑みを浮かべて、小さく頷いた。

「よく眠れましたか?」

 グレイスもまた小声で返してくる。

「ん。ゆっくり休めたよ。落ち着いてる」

 そう答えると、グレイスは嬉しそうに笑みを深くした。細い指を伸ばしてきて、俺の頬に触れる。
 ややくすぐったいが、そのまま撫でられるに任せる。グレイスの嬉しそうな表情を目蓋の裏に焼き付けて目を閉じる。
 まあ……丁度良い頃合いになればセシリア達が呼びに来てくれるだろう。そのまま暖かな寝台の心地良さと僅かな眠気に身を任せることにした。



 みんな揃ってやや遅めの朝食をとり、少しのんびりしてから公爵家別邸へ赴くことになった。
 割と冷涼な空気だが、良く晴れて気持ちの良い日だ。
 フォルセト達もレビテーションが使えるので、一緒に後片付けを手伝ってくれるそうだ。庭の手入れもあるのでドライアドのフローリアとハーベスタも一緒である。ハーベスタの鉢植えを手に、フローリアはにこにこと上機嫌な様子だ。

「おはようございます、テオドールさん。お元気そうで何よりです」

 と、準備をして玄関先に出たところで挨拶をしてきたのは冒険者風の出で立ちの眼帯を付けた女性――迷宮商会の店主ミリアムであった。
 俺がバハルザード王国から帰ってきたから、昨日挨拶に来てくれたらしいが……昨日は俺があちこちに出かけていて不在だったからな。

「おはようございます。ミリアムさん。ミリアムさんこそお元気そうで。昨日は挨拶に来て下さったようですが、家を空けていて済みませんでした」
「いいえ。テオドールさんがお忙しいのは承知しておりますので。実は私もドリスコル公爵からお声がかかったのです」

 と、ミリアム。

「ミリアムさんに?」
「そうですね。迷宮商会の品を売って欲しいとのことで。後は……色々な家具が壊れてしまったとのことで……買い替える物と修復する物が出るから、見積もりの試算や他の商人の紹介をして欲しい、ということですよ」
「なるほど。そういうことでしたか」

 公爵はタームウィルズに到着してから迷宮商会から魔道具を買っていたようだからな。ミリアムにしてみると既にお得意様ということなのだろう。
 そしてミリアムは商人仲間に顔が利くようだし、目利きも確かだ。

 迷宮商会で扱っていない品についても彼女の紹介や仲介があれば確かに便利だろう。何が再利用できて何を廃棄しなければならないかも今のところ不明だから、ミリアムがいればそのへん、買い替えるのに色々とスムーズになるというわけだ。彼女としても他の商人に貸しを作れるというわけで、悪い話ではないのだろう。

 ミリアムは自分の乗ってきた幌馬車の御者席に戻っていく。……荷台にダーツボードやらビリヤード台が積んであるな。受注生産なのでこれは公爵が新しく注文した品ということだろう。

「テオドール。みんな準備出来た」

 と、別の馬車の御者席からシーラが言った。

「分かった。それじゃ行こうか」

 頷いて馬車に乗る。人数が多いので何台かの馬車に分乗して公爵家へ向かう形になる。みんなが乗り込んだのを確認して合図を送るとゆっくりと馬車が動き始めた。では……公爵家別邸へ向かうとしよう。



「おはようございます、大使殿。皆様方」
「おはようございます、公爵」

 別邸に到着すると公爵一家以下、使用人達と警備兵が既に揃っていて、動きやすそうな格好で待機していた。レスリーはまだ養生中なのだろう。クラークもいないところを見るとレスリーの付き添いかも知れない。

 中庭にある東屋のあたりに机に鍋、簡易の竈、椅子などが用意されていた。
 既に使用人達が炊事を始めているようで、食材を切ったり鍋で煮たりと……昼食の準備を進めていた。昼食は公爵が用意してくれるという話になっているのだ。

「少し早目に来て、無事な鍋や食器などを見繕っていたのです」

 ヴァネッサが笑みを浮かべる。なるほど。
 これから片付けなどした後に中庭で食事をすると考えると……青空の下で無事だった椅子やソファに腰かけてみんなで昼食というのは、割合風情があるような気もする。キャンプ的というか屋外でのイベント的なというか。

 と、入口のところに馬車がやってくる。降りてきたのはステファニア姫、アドリアーナ姫、エルハーム姫だ。コルリスとラムリヤも一緒である。馬車の後ろからついてきたようだ。

「おはよう」
「おはようございます」

 うむ。これで顔触れも揃った。

「では僕達も早速取りかかろうと思います」

 そう言って、マジックサークルを展開する。

「起きろ」
「おお……。これが大使殿の……」

 クリエイトゴーレムで瓦礫からゴーレムを量産していく。公爵がそれを見て感心したような声を上げた。
 さて。まずは、壁や床などの破壊された箇所の補修から始めるとしよう。
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