407 2人の鍛冶師
シオン達の服のサイズ合わせは終わっているようで、髪を結ったり髪飾りなどを合わせたりしていたようだ。
俺も部屋に入って問題無い、とのことだが……着替えの際はマルレーンが闇の精霊で暗幕を作ってその向こうで着替えたりできるから、ということらしい。うーん。良いのだろうか、それで。
「シャルロッテちゃんの髪型、くるくるしてて可愛い」
「けれど、手入れは大変そうね……」
「ふふふ。これはですね、生活魔法で巻けるのです」
「おー」
と、盛り上がっているシャルロッテとシグリッタ、マルセスカである。髪を櫛で巻いてから魔法を使って縦ロールを作るのだとシャルロッテはやり方を説明していた。
「いや……。やっぱり僕にはこういう可愛いのは似合わないと思う……んです」
その横で髪飾りを合わせられて、所在無さげに肩を小さくしているシオンである。
「……シオンは可愛いもの好きなのに、自分で身に着けるのには抵抗があるみたい」
と、シグリッタが恥ずかしがるシオンを見て言う。
「うーん。シオンさんは可愛らしいのでリボンも合うかと思いますが……苦手ということでしたら少し系統を変えてみましょうか。買い物に出かけるのですし、何か希望はありますか?」
「ええと、その……僕は何というか……騎士風のほうが好みですね」
「例えばサーコートのような?」
「ああ。それは良いですね」
グレイスが尋ねるとシオンは頷く。ふむ。買物の際に回る店の参考にというわけだ。
一方でフォルセトは――ローズマリーから渡された占い師用のゆったりとした服を着て、闇のカーテンの向こうから姿を見せる。
「私の場合は……ローズマリー様の持ってきてくださった衣服で大丈夫なようですね」
「そうね。余裕をもって着られるようにできている服だから」
ローズマリーは羽扇で顔を隠して当たり障りのないことを言っているが……その実は魔道具などを隠したりするのに都合よくできている服である。
秋から冬にかけて活動することを念頭に置いているので暖かそうではあるかな。ある意味お誂え向きかも知れない。
そのまま彼女達は誰の髪質が柔らかいとか艶やかとか、そういう話題をしながら互いの髪を弄ったりして盛り上がっているようである。
「ふむ。やはりテオドールの髪質も中々のものではないかな」
マルレーンに髪型を三つ編みにしてもらって上機嫌そうなテフラが俺を見て言うと、こちらに視線が集まる。
「いや……。俺はみんなとはやっぱり違うだろうと思うけど」
俺の髪の毛についてはサボナツリーの洗髪剤などを使っているからだろうと思うのだが……風呂で洗髪したり寝室で触れた感じでは、ずっとみんなの髪のほうが柔らかく、光沢も艶やかで感触も滑らかだと思うのだ。後、炎のように見えて熱くないテフラの髪とか。個人的にはそちらのほうが気になるのだが……みんなの興味は俺に移っているようで。
「テオの髪質は……リサ様譲りという気がしますね」
「んー。それは気になるかな」
グレイスの感想を聞いたフローリアが俺を見てくる。触りたい、と顔に書いてあるような気がする。
「……別に、髪を触るぐらいは構わないけど」
と答えると、髪を撫でられたり、櫛や指で梳かされたりした。さすがに結わえられるということはないが、前髪を分けたり上げたりと、色々髪型を変えられたりはしてしまった。ややくすぐったいが……まあ、みんなが盛り上がってくれるなら良しとしよう。
「テオドールのお家は、暖かくて過ごしやすいね」
マルセスカが笑みを浮かべる。
現在……夕食を済ませて遊戯室に移動中である。シオン達は元着ていた服に着替え直しているが、俺の家の中なら過ごしやすいようだ。
「朝夕はやっぱり冷えるから、風邪をひかないようにね」
「うん。ありがとう」
そう答えると、マルセスカは屈託のない笑みを浮かべたまま首を縦に振った。
「……私はこの家好き。面白いわ」
「魔法建築なんですね。この家もやはり、テオドール様が?」
「ん。テオドール作」
廊下を見回して尋ねるシオンの言葉にシーラが頷く。ハルバロニスも魔法絡みで作られた町だけに、シオンから見ても継ぎ目などで分かるものらしい。
「これはまた……」
遊戯室に到着するとフォルセトが感心したような声を漏らした。
「遊戯室です。お客の歓待用でもありますが、みんなで時間のある時に過ごすという形でも使っています。ここも自由に使ってもらって構いませんよ」
「ありがとうございます」
「色々置いてあるね」
マルセスカは目を輝かせてあちこち視線を巡らせている。
「ああ、これはビリヤードで、あっちがダーツ」
「綿あめにかき氷も作れるのね……」
「何というか……自制しないと入り浸ってしまいそうな気がします」
「本当にそうですね。外の世界……というより、テオドール様の周りには面白そうなものが沢山あるようですから。夕食も私達には珍しい食材が多かったですし」
「貝……美味しかった」
着せ替えの後の夕食についてはまあ、迷宮で色々な食材が手に入るということもあって、概ねフォルセト達には好評だった。特に魔光水脈の魚介類は気に入ってもらえたようである。セシリア達も料理が上手いからな。
「フォルセト様! 一緒に遊ぼ!」
「ふふ。分かりました」
キューを手にしたマルセスカに誘われたフォルセトが、穏やかな表情で相好を崩す。
「……ええと。番号の書かれた球に手玉をぶつけて順番に穴に落とすと……なるほど」
フォルセトは取扱い説明書に目を通して頷いている。
シオン達3人はやはり元々の運動神経が良いようで、割合すぐにダーツやビリヤードのコツを掴んだようだ。フォルセトと一緒にゲームを楽しんでいる様子は何となく、仲の良い姉妹といった印象であった。
そうして……割合夜遅くまで盛り上がり、一夜明けて――。
昨晩就寝がやや遅かったこともあって少し遅めの朝となったが、天気が良く、気分も良かった。秋晴れといったところだ。
朝食を済ませてから色々と動くことになった。温室については……資材を手配し、それが集まり次第着手ということになるだろう。魔法陣で作物の状態を一定に保っているのでとりあえずは問題ない。訓練絡みも帰還したばかりなので数日は休みである。
そうなると、優先すべきはデボニス大公へのお礼と、フォルセト達の買物。それから工房への顔出しといったところか。
特に優先すべきはデボニス大公への挨拶だ。用事が終わったら帰ってしまうということなので割合優先度が高いと言えよう。
だがデボニス大公のタームウィルズでの所在と予定が分からないし、エルハーム姫もデボニス大公には挨拶をしたがっている。まずは工房でアルフレッドから話を聞き、エルハーム姫と合流して動くのが良いだろうということになった。
「――やあテオ君、おはよう。無事で良かったよ」
「おはようございます、テオドールさん」
工房に向かうと、顔を合わせるなりアルフレッド達が挨拶してくる。
「おはよう。みんなこそ元気そうで何よりだ」
「温泉ができてからこっち、調子が良いからね」
「それは確かに」
アルフレッドは笑みを浮かべ、タルコットは一歩下がったところで苦笑いを浮かべる。
「まず、互いの紹介からかな」
と、工房のみんなと、フォルセトとシオン達をお互いに紹介する。
「初めまして。ブライトウェルト工房の魔法技師、アルフレッド=ブライトウェルトです」
アルフレッドは笑みを浮かべて挨拶をした。
「ハルバロニスから参りました、フォルセト=フレスティナと申します」
フォルセト達もアルフレッド達に名乗る。そうこうしている間に工房の前に馬車がやってきた。降りてきたのはステファニア姫、アドリアーナ姫とエルハーム姫だ。早速工房から中庭に出て、迎えに行く。
「おはようございます」
「おはよう、テオドール」
「おはようございます。良い朝ですね」
3人の姫は恭しく一礼してくる。
「そうですね。中々爽やかな天気になりました」
昨日は風が強かったが、今日は落ち着いているようだ。日差しもいい具合に暖かいのでシオン達も調子が良さそうだ。まあ、それはそれとして。エルハーム姫も工房の皆に紹介しなければならないだろう。
「バハルザード王国第2王女のエルハーム殿下であらせられます」
「バハルザードの……」
「お初にお目にかかります。エルハーム=バハルザードと申します」
エルハーム姫が一礼する。
タルコット達は目を丸くして驚いていたが、事情を通信機で知っているアルフレッドはそれほどでもなく、エルハーム姫に自己紹介をすると、更に工房の面々を1人1人紹介していた。
「エルハーム殿下は、工房での技術交流を希望しております。バハルザードで刀鍛冶の経験を積んでいらっしゃいますので」
「バハルザードの刀鍛冶……! それは興味深いです。確かバハルザードでは不思議な刃紋を持つ強固な刃物を作るとか聞いたことがありまして……」
反応したのはやはりビオラであった。
「私もビオラさんにお会いするのを楽しみにしておりました。テオドール様達のお使いになっている武器もビオラさんの打った物とお聞きしていましたので」
エルハーム姫は一礼する。
「バハルザードの刀剣に関しましては……その、一応未熟ではありますが、こうして用意してきました」
「あぁ……これが本物の……!」
「そ、その、私もそこに掛けてある剣を見せていただいても良いでしょうか? さっきから気になっていて」
「はい! どうぞどうぞ!」
と、ビオラとエルハーム姫は技術交流というか、互いの作品を見て感心するように頷き合っている。早速鍛冶師同士意気投合したというか何というか。
……ふむ。まだ割と早い時間だし、今からデボニス大公のところに行くというわけにもいくまい。では、あれについての話も今ここでしてしまうか。
ビオラとエルハーム姫の互いの作品鑑賞が一段落したところを見計らって、ローズマリーに視線を向ける。ローズマリーは分かっていると言わんばかりに小さく口元に笑みを浮かべると、魔法の鞄からオリハルコンの塊を取り出し、机の上に置いた。
「ん……? テオ君……それは?」
「実は、バハルザード王国から恩賞としてオリハルコンを貰ってきたんだ」
そう答えると、アルフレッド達の表情と動きが固まる。
「……え――えええええええええええええええっ!?」
そして……何秒か間を置いてから工房組の面々が声を揃えて頓興な声を上げたのであった。




