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394 魔人の来歴

 扉をノックする音が響き、物憂げな様子であったフォルセトが顔を上げる。


「どうぞ」


 そう答えるとシオン達3人と共に、ゆったりとしたローブを纏った数人の男女が議場に入ってきた。古老という言葉に相応しい雰囲気を持つ老人達だが、かなり穏やかそうな者達ばかりであった。


「休んでいたところを呼んできてしまってごめんなさいね」

「いや。ナハルビア王家の縁者が訪ねてきたとなれば迎えぬわけにはいきますまい」

「そうですな。客人については、既にシオン達から説明を受けております」

「まずは自己紹介と……それから先程までお話ししたことについての説明をしてしまいましょうか」


 フォルセトの言葉に頷き、互いに自己紹介をしていく。

 クラウディアの自己紹介の折に……出自について話が及ぶとやはり古老達は目を丸くしていた。


「シュアストラス王家の貴き姫君……!」

「北の迷宮から、この隠れ里まで直々にお出でになられるとは……」


 古老達の注目を浴びて、クラウディアは静かに頷く。


「私が地上に降りてからの月の情勢は分からないけれど、あなた達の家の人達とも、何人かは面識があるわ」


 そう言ってクラウディアは先程の自己紹介で知らされた、それぞれの家名と当時の家長や家人の名。月での役職名を口にしていく。

 どうやら出自を聞いている限りでは古老達は月の貴族の出、といったところか。かつては武官、文官などの家柄であったらしい。


「……恐れ入りました。我らの家のことを全て覚えておいでとは」


 と、古老達はクラウディアの言葉に感じ入っている様子だ。胸に手を当てて敬礼するような仕草を見せる。


「まあ、私との話はこのくらいで。後で色々と話をしましょう。自己紹介はまだ終わっていないもの」

「はっ」


 古老達が頷いて、他の者達も名を名乗っていく。エルハーム姫が静かに言った。


「エルハーム=バハルザードと申します。母、シェリティはナハルビア王家の最後の生き残りとなります」

「おお……。ナハルビアの……」


 古老達は感極まった様子でエルハーム姫を見やる。


「……申し訳ありませぬ。儂らの力が及ばないばかりに、再び災厄を世に放ってしまうことになってしまいました」

「左様……。エルハーム殿下とお母上……そして命を落としたナハルビアの者達にはどうお詫びすればいいのか……」


 と、古老達が沈んだ面持ちを浮かべると、シオン達も辛そうに俯く。

 30年前の事件で……無明の王が新たな魔人となって彼らと袂を分かったのならば……出ていこうとした魔人を止めようとして犠牲が出ていてもおかしくはない。

 ナハルビアの生き残りがいることを知らなかったというのも、彼らもまた当時混乱の中にあったと考えれば理解できる。

 ナハルビアの王族も彼らにとってみれば身内のようなものだろう。ハルバロニスでも犠牲者が出ていれば、シオン達としても触れてはほしくない古傷ではあるか。


「月を追われて……それからのことを聞かせてくださいますか?」

「そうですな。話の続きと参りましょう」


 全員の自己紹介を終えて席に着くと、シオン達がお茶を淹れて回る。それが終わると、一礼して議場を出ていった。


「我等の祖先は地上に追われましたが、行動の自由を許されてはいませんでした」

「地上に落ちた後、再び迷宮に近付くことを禁じたのでしょう」


 古老の言葉に、フォルセトが頷く。


「荒野を覆う結界の牢獄に捕らわれ、そして――丁度その頃、ナハルビアの祖となる者達もまた、東より流れてきました」

「彼らは国破れて東から追われてきたそうです。傷付いた彼らを我等は迎え……そして結界の外に出られぬ我等は彼らを欲し、彼らもまた我等の魔法を欲し……そして結界の端に都、結界の中心に隠れ里を築き、草木を育てて――ナハルビア王家の歴史が始まりました」

「何故、都と隠れ里に分かれたのですか?」


 エルハーム姫が尋ねると、古老の1人が目を閉じて答える。


「……やはり地上の者達が恐ろしかったのでしょうな。クラウディア殿下への背信は、迷宮への破壊工作に他ならず……地上に住まう全ての者達にとっての敵対行為ですから」


 だから、建国に深く関わっておきながら、ナハルビアにも積極的には姿を見せず、森の中で暮らしたわけか。 


「封印が効力を失ったのか、それとも世代が変わって許されたのか。月の結界も解かれました。月に戻ることは叶いませんが、外に出られるようになっても私達の祖先は森を離れなかったのです。しかし――」

「我等の中より、イシュトルムの提唱した秘術を復活させようと試みた者が現れました」

「ベリスティオ……。この者もまた、文武に秀でた天才であったそうですが……それ故でしょうな。自らの力によって魔人として目覚め……自分に従う者達を魔人へと変貌させて……外へと出ていきました。ナハルビアとは別に、魔人達の国を作ろうとしたのです」

「魔人として目覚めた者達と、そうでない者の力の差は大き過ぎる。かと言って魔人として変じてしまえば破壊や殺戮を嗜好してしまうようになる。魔物を従え、魔人と魔人はその間に子を儲け……外での戦火も広まっていく一方だったと言います」

「ナハルビアは見逃されていましたが……それでも犠牲者が出たそうです。祖先達は自らの内に秘める力をも恐れました」


 ……盟主ベリスティオか。力の差が大き過ぎるというのは……たとえ月の民であれ、魔力循環も祝福もなくては魔人に対抗するのは難しい、ということだろうか。

 そうなると……ベリスティオが現れるまでの間に魔力循環などの技術体系が月で作られたということになるだろうか。


「そんな折です。月の都より来たという、7人の魔術師が祖先達のところに訪れてきました。時の長と古老達は彼らに、ベリスティオについての知る限りを教えました」


 七賢者の話だな。


「……そして、彼らは盟主を封印し、魔人達を倒したと」

「そうなります。ベリスティオは魔人と契約し、そしてこれを覚醒させることで、肉体を滅ぼされても器を渡り歩くことができるという……ほとんど不滅に近い術を持っていたそうです」


 ……だからか。ベリスティオを封印した理由はそれだ。敢えて器を破壊せずそのまま封じてしまえば渡り歩くも何もない。

 その能力そのものを封印できれば或いは完全に倒せたのかも知れないが……。封印術が及ばなかった可能性であるとか、後から反省として封印術が更に発展したとも考えられる。


「その7人は、北方に渡って魔法王国ベリオンドーラの礎を築きました。ベリオンドーラは……その後魔人達に滅ぼされて、シルヴァトリア王国となります」

「そう、だったのですか」


 こちらからも彼らの知識を補完するように情報を提供する。

 そして……魔人の盟主は倒したが……彼らは自ら咎人を名乗り、自分達を結界に閉ざしたというわけだ。


「順を追っていきましょうか。ナハルビアを滅ぼした無明の王に関しては……やはり魔人なのでしょうか?」

「……はい。あれの名はヴァルロスと言います。フレスティナの分家――私の親戚筋にあたる人物ですね」


 フォルセトは目を閉じて首を横に振る。口調こそ淡々としたものであったが、表情は浮かないものだった。

 ……ヴァルロス。そいつが魔人達の首魁の名か。ガルディニスが若造と言った魔人のこと、だろう。


「あれもまた自らの力で魔人へと変貌し、そして覚醒した者です。その意味ではベリスティオと同格かも知れません」

「……その、能力は?」

「よく分かりません。少なくとも、盟主と同じ力ではないようですね。黒い――おかしな力を用いますが……私達では戦いにもならなかった。当時、私はまだ子供でしたが魔力だけは人一倍ありましたので……ありったけをぶつけてみたのですが……気が付いたら壁に叩き付けられていました」


 そう言ってフォルセトは自分の肩を押さえる。フォルセトも戦ったのか。

 見た目との年齢が合わないのは……月の民がエルフ達ほどでないにしろ、それなりに長命だからだろう。まあ、魔人はほとんど不死に近い連中だが。


「ヴァルロスの奴めは魔人に変じると、すぐに町を出ていこうとしたのですじゃ。儂らもヴァルロスを止めようとしましたが……その際、多数の怪我人や死者が出てしまいましてな……。目覚めたばかりで加減ができないとは言っておりましたが……まさか、ナハルビアの者達まで手にかけるとまでは……」

「力では止められんまでも、あやつの説得さえできていればと……今でも悔やんでおるのです……」


 そう言って、古老の1人が嘆息する。

 そしてヴァルロスはナハルビアの都に向かった。仮に……ナハルビア王家が、止めようとした際に封印という手段に頼ったのだとしたら……それは結果から言えば悪手だっただろう。


 ヴァルロスが封印を破るために、王城ごと吹き飛ばしてしまった可能性も想定される。生き残りを掃討しなかったのも、瓦礫を出さなかったのも、目的が達成されたから、それ以上を嫌ったという、ヴァルロスの配慮かも知れない。

 肉親も仲間も切り捨てて、それでも……いや、だからこそ……そいつは止まらないだろう。前に進まなければ何のために犠牲を出したのかも分からないから。


「ヴァルロスは、何故そんなことを?」

「国を作る……つもりなのかも知れません。隣国であるバハルザードの混乱と、逃げてきた難民達を見て、魔人となることを決めたそうです。優れた者が国を治めれば混乱など起こらない。優れた王がいても代が変われば国が乱れるのなら、不変の存在こそが上に立てばいいのだと。そうするだけの力を秘めながら自らを縛りつける私達を、惰弱だと言っていました」


 ……なるほどな。言動といいあの王城の破壊の仕方といい……他の魔人とは毛色が違うように思える。生まれながらの魔人ではなく、自らの力で変じたからか?

 その目的は、魔人達の国を作ること。――いや、人間や魔物、他の種族も含めて統治するつもりか。そのための手段として、魔人達を纏めるための御旗……盟主が必要となるということだろうか。


「思えば……あれにとっては、あの時動くしかなかったのかも知れぬのう」

「と、仰いますと?」

「我らの前に長や古老の任に就いていた者達は、二度と魔人を出さないよう……意志を持たないホムンクルスの器に、自らの力を分けて封印してしまうという研究を続けてきたのです」

「その研究が完成してしまえば、魔人化の道もなくなるというわけですか」


 自力で魔人になるには、相当力を高めないといけないようだし。


「ですが……少し予定とは違いました。目覚めたホムンクルスには自分の意志があったのです。結局その計画も、今は白紙ですね」


 と、フォルセトは苦笑する。


「ああ、もしかして……それがシオン達ですか?」

「はい。先代の長や古老達は彼女達を眠らせておきましたが……私達が彼らの後を継いでからは……シオン達を目覚めさせ、私達の子供として育てることにしました」


 なるほど……。道理で高い能力を秘めているわけだ。月の民の力の器になり得るだけのポテンシャルが必要なわけだし。


「このうえ――自分達の力まで誰かに預けて、見て見ぬ振りをし続けるのは卑怯なのではないかと。私達はあの時……ヴァルロスに言われたことが棘となって抜けないままなのです」


 と、フォルセトは自分の胸に手を当てて眉根を寄せる。


「まあ……儂は家族として迎えられて良かったと思うておるよ」

「そう、ですね。あの子達を見ていると、力を貰えるような気がします」


 目を細めて言った古老のその言葉に、フォルセトは小さく笑うのであった。

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