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36 魔物と迷宮

「あ、テオ君、グレイスさん」

「ああ、みんなも」


 ヘザーと話をしているとフォレストバードの面々が冒険者ギルドに顔を見せた。


「聞きましたよぉ、今度は魔人と戦ったんですよね?」

「強いとは解っていたけど……まさかその歳で魔人殺しとはなぁ。次は竜殺しかな」

「いや……竜はともかく。魔人はその場に居合わせたから成行きだよ」


 成行きというか……見かけたら魔人が暴れていたから気に入らなくて自分から突っかかっていった、という感じだけど。この辺は正直に言うとグレイスには心配させてしまいそうだから詳細には語らない。

 あと竜には別に特に恨みもないので。当たり前のように倒せる事前提で語られても困る。


「しかもアシュレイ様もご一緒なんですね。もしかしてその格好、一緒に迷宮へ?」


 その反応から察するに、アシュレイがタームウィルズに来て、学舎でカーディフ伯爵家と揉めていたという所までは知っているようだ。

 冒険者ギルドも情報が集まる場所だからな。フォレストバードとは知り合いだし、スネークバイトの一件もあったから噂になれば、彼らの耳には普通に入っていくだろう。


「治癒魔法が使えるので将来の事も考え、実戦経験を積んだ方が良いかと思いまして」

「はぁー。みなさん優秀な事で」


 ルシアンが感心したように気の抜けた返事を返した。


「フォレストバードの皆さんは、今迷宮のどの辺りにいらっしゃるのですか?」


 グレイスが尋ねると、彼らは笑って答える。


「宝石や鉱物が採れるっていうから、俺達は旧坑道の方を目指しているんだ。9階まで着いたけど……広くて大変だな、あれは。俺達はこれから迷宮入りなんだ」

「それじゃあ俺達は下で、みんなは上か」


 旧坑道の方面は迷宮の中でも割合常識的な部類だ。あまり陰湿なトラップもないし、フォレストバードなら上手くやるだろう。


「下ってどこまで行ったんです?」

「地下15階かな」

「はやっ!」


 まあ、こちらとしては躓く所もないし。


「ああ、テオドールさん。さっきの話の続きですが。伯爵家に誘拐されていた者の中には魔物がいたでしょう」


 ヘザーが尋ねてきたので頷く。


「ええ。いましたね。今は冒険者ギルドが身柄を預かっているんでしょう?」


 魔物も種によっては必ずしも人間に敵対的でなかったり意思疎通が可能だったりする。カーディフ伯爵家の方針としては冒険者だけでなく、そういった魔物も選択的に攫ってきて、奴隷として売り払おうとしていたわけだ。

 まあ、あの魔物達の出所が迷宮の中か外かまでは知らないが。召喚という手段だってあったようだし。


 誘拐の被害者は解放されるのは解り切っていたが。魔物がどうなるのかは俺も少々気になっていた。

 意思疎通ができるほどに知性が高いと言う事は、場合によっては今まで友好的だった部族ごと敵対的にしてしまったりする事もあるので、扱いは慎重にしなくてはならない部分がある。


「そうですね。捕まっている時に被害者の方と励ましあったりしていたらしくて。皆さんには助けてあげてほしいと嘆願されました。やや衰弱しているので回復を待っている状態なのですが、ギルドとしても慎重を期して、なるべく丁重に扱ってあげたいと思っています」

「ふむ」

「それでですね。落ち着いたら、テオドールさんとお話ししたいそうですよ」

「それはまた……どうして?」

「テオドールさんは彼女達を解放した恩人でしょう? それでお礼を言いたいみたいです」


 ……うーん。魔物が俺に話を、ねぇ。


「解りました。話をするぐらいなら別に良いですよ」

「それじゃあ、伝えておきます」


 俺も魔物の生態には興味があるからな。

 迷宮に「湧いてくる」魔物は特に。どこからどうやって生まれ、何を考えて生きているのか、とか。

 というのも迷宮内外で、魔物の思考や行動パターンは違うようなのだ。


 自然界で、カッターマンティスとヒュージスパイダーが同じ部屋に押し込まれて仲良く待機しているわけがない。確実にお互いを捕食にかかるような組み合わせだろう。

 そもそも別種族で仲良く共同して冒険者に対抗するだとか有り得ない。

 迷宮内の魔物はほとんどの種が争いもせずに共存している。迷宮に入ってくる冒険者と戦うにしたって、それは食欲を満たすためではなく、冒険者の迷宮深部への侵入を邪魔するという目的が第一義に見えるし。


 そういう所も含めて。迷宮出身の魔物がいるなら、事情を聞いてみたいな、と思うのだ。

 魔物に共通する事柄として、自然発生する魔力溜まりがある場所には強い魔物が巣食うというのはある。体内にある魔石成分に魔力を溜め込む事で自身の活動エネルギーに変換しているから、と書物には書かれていたが。さて。どんな話が聞ける事やら。




 冒険者ギルドから討伐報酬を受け取る。後で誘拐事件の解決と魔人討伐について褒賞金が出るそうだ。

 宝箱から出たガントレットに関しては腕力強化のエンチャントが掛かっているらしいので、一応こちらで確保する事にした。アシュレイがメイスを振り回すに辺り、補助的な役割を果たしてくれると思うのだ。

 

 フォレストバードやヘザー達と別れて、市場で買い物をしてから家に帰ってくると、屋敷の前でロゼッタとシーラがお互いを牽制するように距離を取って見合っていた。

 ロゼッタはいつも通りの笑みを浮かべてシーラを値踏みしているようだし、シーラも無表情でどこか眠そうにも見える目ではあるが、ロゼッタを冷静に観察している。


「……何をしているんですか、あなた達は」

「あら。テオドール君。お帰りなさい」

「テオドール。お礼に来た」

「こちらの方は?」

「ええと。彼女はシーラっていうんだ。誘拐事件解決の立役者……だと思うよ」

「ああ。昨日仰っていた協力者の方ですか?」

「そういう事」


 グレイスとアシュレイには掻い摘んで今回の一件の事情を話している。シーラの事は彼女が盗賊ギルドという事もあってあまり詳細を語っていないけれど。


「よく解らないけど。心配いらないのね? あなたの家の周りをうろついていたから、話を聞こうと思っていたところなのよね」

「それは私も一緒」


 ……ロゼッタとシーラはどうも同じ目的でお互いから話を聞こうとしていたようだな。

 ロゼッタは解るとしても。シーラは自分の持ってきた話で波紋が広がっているから心配している……という事だろうか?


「まあ、立ち話も何ですから。2人とも家に上がっていったらどうですかね。お茶ぐらい出ますよ」


 応接間にみんなを通してお茶を飲みながら話をする事にした。俺としてもシーラには話しておきたい事があったからな。

 しかしなんだか……女性率高いなぁ……俺の身の周りは。




「ふむ。それじゃあ今日の迷宮はなかなか順調だったみたいね」

「はい。お2人が助けてくださいました」


 ロゼッタはどうやらアシュレイに魔法を教えに来たようだ。応接間の隅の方でマンツーマンの指導をしている。

 裏魔法を教えている事といい、もう完全にロゼッタとアシュレイは師弟関係になっている感じだな。


 ロゼッタはあの後、タルコットとはまだ会っていないらしいが……ヘザーから聞いた話を伝えると割合喜んでいた。そのうちロゼッタからも冒険者ギルドからは入ってこないような王子とタルコットの続報を聞ける事だろう。


「ああ、シーラさん。誘拐事件解決について褒賞金が出たら、シーラさんにもお渡ししますので。金額交渉が必要なら相談に応じます。取決めしていなかったから5割という事でいかがでしょうか?」


 グレイスの淹れてくれたお茶を飲みながらそんな風に話を切り出すと、シーラは首を傾げた。


「今回の一件が解決したのはみんなあなたのお陰だと思っているのに。そこから更にお金をもらうなんてできない」


 シーラは……やっぱりカドケウスの事は掴んでいるようだな。まあ捕まっていた友人から話を聞いているだろうし、そこから情報収集すれば俺に行きつく、か。


「誘拐事件は僕の手柄というよりシーラさんの功績の方が大きいでしょう。僕は魔人討伐の褒賞金も受け取る予定だから、それでいいんです」


 俺としては彼女から得た情報で事件を解決し、身の回りのゴタゴタを片付けたうえに褒賞金を貰っているわけで。シーラに利益を渡さないというのはまあ……職業倫理としてないよなーと思うわけである。


 俺の言いたい事を解っているのかいないのか、シーラはあまり表情を変えないが……まあ、彼女は大体こんな調子のようだ。

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