挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

378/1320

365 高原と岩山にて

 デボニス大公の居城でゆっくり休ませてもらった。
 南下したからかタームウィルズよりも暖かい気がする。夜も丁度良いぐらいの気温だったので、お陰で朝までぐっすりと眠ることができた。少し早めの朝食をとった後で、出発のために競技場へと向かう。
「っと。おはよう、サフィール」
「出迎えに来てくれたのね」

 こちらが競技場に到着して馬車から降りるや否や、サフィールとコルリス、それに飛竜達が顔を覗かせ、飛び降りてきた。騎士達は苦笑しながら。ステファニア姫は嬉しそうにそれを迎える。
 リンドブルムも甲板に顔を出していたのだが……他の連中が降りるのを見送ってから降りてきた。

「おはよう、リンドブルム」

 と、リンドブルムの鼻のあたりを撫でてやると口の端を歪ませて軽く喉を鳴らす。

「おお! おはよう、お主ら」

 馬車から降りたアウリアが手を挙げて挨拶すると、ステファニア姫に頭を撫でられていたコルリスも手を挙げて挨拶を返す。
 長男夫婦と共に見送りに来てくれたデボニス大公はそんな賑やかな光景に少し面喰っていたようだ。
 特に使い魔だとしてもコルリスは物珍しい部類だろうが、ステファニア姫やマルレーンが楽しそうにしてるのを目にすると、デボニス大公は小さく息をつきながらも穏やかに笑う。それから俺に向き直って言った。

「では大使殿。道中お気をつけて。あまりお力にはなれませんが、せめてこれを持っていって下され」

 と、デボニス大公は家紋入りの便箋を俺に見せてくる。そこにはバハルザードの王――或いは貴族に宛てた、デボニス大公直筆のメッセージとサインが書かれていた。
 内容を掻い摘んで説明すると……俺達の身分を証明する。メルヴィン王とデボニス大公が懇意にしている人物なのでよろしく頼む、といった内容だ。
 デボニス大公は内容を俺に見せてから、一通一通丁寧に封蝋で閉じて手渡してきた。

 ヴェルドガルの重鎮。それも南に影響力の強い人物直筆の書状ということで……何かの折に必要となった時、かなり助かることは間違いない。

「バハルザードでどの程度役に立つかは解りませんが、お困りの際に一助になればと」
「ありがとうございます。大公の名誉を傷つけないよう、大切に使わさせていただきます」

 書状を受け取り一礼すると、デボニス大公は目を細めて頷く。

「デボニス大公も、御達者で。昨晩もお伝えしましたが、領地内で魔人の出没の被害が起きた場合、月神殿の巫女達への通達をお願いします」
「では、この後すぐにでも神殿に直接通達に向かいましょう」

 うむ。これで南ヴェルドガルにも転移のための拠点を築けたことになるか。次男夫婦の領地には大きな月神殿はないということだが、神殿への通達はしてくれるということらしい。
 デボニス大公やフィリップと各々が別れの挨拶を交わし、それからシリウス号へ乗り込む。操船席の近くに座っていたアルファは俺の姿を認めると一声吠えて、軽い光を放って姿を消した。
 では……出発といこう。ゆっくりとシリウス号を浮上させる。甲板でマルレーンとステファニア姫がデボニス大公達に向かって手を振り、彼らもまた手を振って見送ってくれるのであった。



「景色……というか雰囲気が大分違いますね」

 アシュレイが水晶板から見える外の景色を見て、そんな声を漏らした。

「植物も紅葉していないようですし、生えているものも違いますね」
「確かに……北では見ないものが多いかな」

 アシュレイとグレイスの言葉に相槌を打つ。
 場所的には南の国境付近に広がる小高い山を1つ越え、既にバハルザード王国内に入っていることになる。高原――と言えば良いのか。山間の高地に広がる草原に、ぽつぽつと木が生えているという風景が眼下に広がっている。
 バハルザード王国の南西側は乾いていて砂漠地帯が広がっているそうだが、北側は標高が高い地帯があり、こういった景観が多いそうだ。バハルザードは全体を通してみると地形の変化に富んでいるような気がするな。

 みんなも異国の景色が珍しいのか、カードで遊んだりするよりも外の様子が気になっているようである。特に草原の眺めが良いからか、セラフィナが水晶板から見える光景に目を輝かせていた。

「お。放牧しておる者がおるのう」

 と、アウリアが水晶板の景色を拡大させて羊を放牧している親子の姿を見つけ、嬉しそうな声をあげる。ここからは割と距離もあるから向こうは気付いていないようだが……うん。確かに。
 意外にカラフルな衣装を身に纏い、背中に取り回しの良さそうな小型弓も装備している。馬ではなく、大型の山羊のような生物に跨って羊達の様子を見守っているようだ。

「彼らはバハルザードの民なのかしら?」
「部族長はバハルザード王に協力する立場ではあるそうです。身を守るべき結界や城壁を持たなかった彼らに対して、大昔のバハルザード王が魔人からの庇護を約束した、と伝えられております」
「代わりに、部族達は何か事があればそれぞれの部族から戦士を集めて王に協力するという約定を結んでいる……という話です。だからこそ彼らも自由でいられるのですね」

 クラウディアの疑問に、ステファニア姫が答えアドリアーナ姫が付け加える。ふむ。彼らと協力関係にあればヴェルドガルとの交易もしやすいだろうからな。

「バハルザード王家に暗君が出たせいで部族とも険悪になっていた時期があったようだけれどね。ロイは彼らを上手く取り込めばバハルザードにも切り込める、とでも思ったのでしょうけれど」

 ローズマリーが羽扇で口元を隠して肩を竦めた。なるほどな。ヴェルドガルとバハルザードの国境付近に住む人達だし……不和があったなら付け入る隙もあると見ていたわけだ。
 現在では遊牧民はあちこちに拠点を用意していて、季節に合わせて移動を行うそうだ。もう少ししたら高原を下りて南の平野側に移動するそうであるが……まあ、放牧もしなければならないが、魔人達から身を守るための結界を張った拠点もどうしても必要ということなのだろう。

「となると、その言い伝えと約束は魔人の盟主と戦った頃からのもの、ということになるのかしら」
「結界術が広まってからだろうな」

 クラウディアの言葉に頷く。
 山岳地帯と高原地帯を抜ければいよいよバハルザード王の力が本格的に及ぶ土地、ということになるか。地図上では高原を抜けて山を1つ越えれば首都ということになる。
 シリウス号は草原地帯を越えて、ごつごつとした岩肌の山の上空へと入っていった。
 岩山の細い道を眼下に眺めながら地図と方位磁石を確認して、船の進むべき進路を見定めていく。

「テオドール。これ、見て」

 水晶板を見ていたシーラが言った。

「んん……?」

 シーラの後ろから、水晶板を覗き込む。
 山間の曲がりくねった道。切り立った道の上の隘路に、何やら武装した一団が岩場に腹ばいになっているのが見えた。道の向こう――つまりバハルザードの首都側へ続く山道を全員で腹這いになって注視している様子である。そのせいで俺達には気付いていないようだ。

 そればかりではない。崖の上に岩を用意し、木と板でせき止めている。ロープを切れば板が外れて岩が道に落とされるという寸法だ。通りがかる人の上に落とすか、或いは道を塞ぐつもりかまでは分からないが……。
 何かに被せてある岩石色をした布は……形状からするとバリスタだろう。待ち伏せ相手が地上から来た場合でも空中から来た場合でも、対応できるように狙っているのが見て取れた。

 では一体、誰が何のために誰を待ち伏せている? 高原で見た遊牧民……とは格好も雰囲気も違うな。腰に曲刀を帯びていて、装備も統一されているように見えるが……。

「シャルロッテ。少し高度を上げてもらえるかな?」
「はい、先生」

 操船をしていたシャルロッテが頷くと、シリウス号の高度が上昇していく。高度を上げたことで視野も広がる。遠くに、こちらに続く道を進んでくる一団が見えた。
 水晶板を操作して拡大。地竜に牽かれた竜車の周囲を、ヴェルドガルとはまた違った意匠の鎧兜に身を包んだ騎士、兵士達が固めているようだ。
 規模はそれほど多くない。軍勢というよりは竜車の護衛だろう。一団の先頭にいる騎兵の掲げる旗を水晶板に大映しにした途端、ステファニア姫が驚いたような声を上げた。

「……あれはバハルザード王家の旗だわ!」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ