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362 訓練と紅葉と

「では――行きます」


 メルセディアが地竜に跨ったまま空中を駆ける。空中に浮かぶアクアゴーレム達目掛けて長剣を真横に構えて突っ込んでいく。アクアゴーレム達はメルセディア目掛けて水弾を放ったり、手から水の剣を伸ばしたりして応戦する構えだ。

 地竜は足元にシールドを展開すると、飛来した水弾を横っ跳びに避けながら――分裂した。光の属性を与えた魔石により、ある程度単純な動きではあるもののミラージュボディを運用できるようになっているのだ。まあ、瘴気弾を分散させる目眩まし程度のもの、と思ってくれれば良い。


 一瞬弾幕が分かれて薄くなったところを、本体と分身が真っ直ぐに突っ込んでいく。

 風の防壁により空気抵抗を薄れさせ、レビテーションで自重を消して突撃するその速度は想像以上のものだ。あっという間にゴーレムに肉薄すると闘気を纏った刃で胴薙ぎに切り裂いていく。

 

 他のアクアゴーレムがメルセディア目掛けて水弾を撃とうという構えを見せたが、一瞬形が崩れて落下しそうになった。

 シリウス号からの音響砲の援護射撃だ。船体側面に据え付けられた丸い鏡のようなものがそれである。砲口を上下左右に向けられ、一門一門が割と大きな範囲をカバーしている。

 援護射撃を受けたメルセディアと地竜はアクアゴーレムの隙を見逃さず、再び本体と分身に分かれながら剣を振り被り――同時に転身した。近くにいたアクアゴーレムの頭部が吹っ飛ぶ。

 横薙ぎの一撃はメルセディアの振り被った剣によるものではなく、地竜が振り回した尾によるものだ。本体と分身を用いたフェイント――というのも組み込むことができている。

 メルセディアが攻撃を繰り出した隙を補うように音響砲をゴーレム達に浴びせる。囲まれる前にメルセディアと地竜は空中を走ってアクアゴーレム達から距離を取って向き直るのであった。




「どうでしたか?」

「良いですね。これは良い魔道具かと」


 上空から声を掛けると、甲板に地竜と共に戻ってきたメルセディアは新しい魔道具の使用感に満足げに頷いてみせた。俺の使うミラージュボディほど自由度が高いわけではないが、いくつか状況に応じた型を用意してやれば実戦で繰り出す中でも応用が利くというわけだ。まあ、あくまでフェイント。被弾率を減らしたり牽制の一撃を当てて戦況を有利に運ぶためのものであるため、結局問われるのは本人の錬度ではあるが。


 まだ左舷や船の下ではエリオットやチェスター、エルマー達がヒポグリフや飛竜に乗って訓練中だ。俺はリンドブルムに跨って、シリウス号の真上から全体の動きを俯瞰している。

 船の下など直接見ることができない場所はカドケウスやバロールを使ってゴーレムを制御し、騎士達の訓練を行っている、というわけだ。


 アクアゴーレム達の動きは魔人達との戦闘を想定したものだ。瘴気弾、瘴気剣といった技を用いてきたのもそれである。音響砲の砲手による援護射撃訓練を同時に行い、飛行術を乱した相手に切り込む、といった内容である。


 そして船の上空――つまり俺の目の前でも訓練が行われていた。

 どん、と音を立ててシールドを蹴って、猛烈な勢いで飛び出した楕円形の物体がすれ違いざまにアクアゴーレムを薙ぎ払っていく。脇から水弾で攻撃を仕掛けようとした相手に結晶弾で応射しながら身を翻し、反射するように突っ込む。大きな爪で別のアクアゴーレムを引き裂く。


 アクアゴーレム達と空中戦闘の訓練を行っているのはコルリスである。空中を巨大な砲弾のような速度で行き来し、土の弾丸や盾を上手く使い、さながら近接戦闘もできる戦闘機といった有様だ。


「おお、良いぞ、コルリス!」


 甲板からアウリアに声を掛けられたコルリスは首を巡らせて甲板に向かって手を振る。

 アウリアやステファニア姫も手を振り返して、中々楽しそうだ。

 ふむ。だが、訓練は一先ず終了というところかな。俺もリンドブルムやコルリスと共に甲板の上に降りる。


「お疲れ様、コルリス」


 甲板に降りてきたコルリスに、アドリアーナ姫が鉱石を食べさせていた。そうこうしているうちに、エリオット、チェスター、エルマー達もそれぞれ甲板へと戻ってくる。


「どうでしたか? 新しい魔道具で気付いたことがあったら言ってください」


 と、みんなが揃ったところで感想を聞いてみる。


「いや、分身の魔道具は面白いですな。これはちょっと……訓練というか動きを研究するのが楽しくなってきましたぞ」


 エルマーが言うと、彼らは一様に頷く。うん。その気持ちは分かる。


「新しい武器もこれは上手く当てることができれば相当なものかと」


 チェスターが槍を見ながら言った。こちらはアルフレッドの試作品だ。


「アルフレッドが聞いたら喜ぶと思いますよ」

「帰ったらお礼を言わねばなりますまい」


 槍に竜巻状の暴風を纏わせることで、突き刺してからの破壊力や、相手の武器を弾き飛ばす能力を向上させたという代物だ。

 風の魔石を組み込むことで実現した代物だが……まあ、使い手が未熟では意味がない。暴風を発動させるタイミングも使い手の技量に依存するところはあるか。食らったアクアゴーレムはバラバラに四散していたから、確かに相当な威力だろうな。


「魔道具のお陰で飛行速度が相当上がっているのを感じました。もしレビテーションが無かったら、下手をすると気絶する者も出そうですね」


 と、エリオット。

 サフィールや飛竜達も空気抵抗を減らしたり自重を消したりと、色々飛行速度を向上させるための魔道具を装備させている。

 循環錬気によって強化したリンドブルムもシリウス号の全速力に並行してついていけるぐらいの速度は出せるし……この分なら皆も結構な速度でシリウス号と移動しながら戦闘することも可能だろう。


 エリオットとしては問題提起ではあるのだろうが、どこか楽しげに感想を述べていた。速度が一気に向上して寧ろ飛行を楽しんでいるようにも見えたが……気のせいではあるまい。

 討魔騎士団の面々はどちらかと言うと、エリオットと同じように上がった速度を楽しんでいた口のようで、同意するようにしみじみ頷いているが……まあ、頼もしい限りだ。元々運動神経の良い顔触れなので分身を交えた型も上手く訓練の中で使いこなし始めているようだしな。


「魔道具の使用感については僕から纏めて、アルフレッドに伝えておきます。分身の型ももっと種類が増やせるようにしていきたいところですね」

「よろしくお願いします」


 と、討魔騎士団の面々は揃って楽しげに頭を下げた。先程までは巡航速度を遅めにしていたが、みんなが甲板に戻ってきたことで船の速度も若干上がっている。

 うむ。では訓練も終わったし、少し艦橋でのんびりさせてもらうとしよう。




 艦橋に戻り、操船はジークムント老からエリオットに交代。エリオットも魔法制御の腕は相当なものだ。快調な速度でありながら静かに巡航している。


「道は――このまま真っ直ぐだったね」

「はい。あちらに続いている街道はまた違う場所に向かう道になります。道が合っていれば、川と橋が見えてくるはずです」

「ああ、見えた。あれだね」


 と、アシュレイとエリオットがやり取りをかわす。

 南方に赴くのは俺もエリオットも初めてではあるが、ステファニア姫がデボニス大公の領地に訪れたことがあるそうだ。更に地図と方位磁石を艦橋の机に広げ地形を見ながら進んでいく形を取っている。景色もあっという間に流れていくので、分かれ道などが見えたらその都度みんなで確認、というところだ。ま、街道が見える場所を飛行しているので滅多なこともないが。


「いやはや。空の旅というのはこう、心躍るものがあるのう」

「船の中の案内、楽しい」


 茶を飲んで寛いでいると上機嫌なアウリアがシーラと共に艦橋に戻ってきた。あちこちで伝声管を使ってアドリアーナ姫達と艦橋でやり取りをしてみたり、シリウス号の中の各種施設を見て回ったりしていたようだ。

 うん……。俺も……というより、景久も小さい時はやった気がするな。船とか電車とか大きな乗り物の中を見て回ったり。

 童心に返った気がして思わずしみじみ頷きながらカップを傾けていると、昼が近くなってきたところでグレイスが言った。


「今日はみんなで軽く摘まめるものをということで、昼食を作ってきました」

「ああ。もうそんな時間なのね」


 ローズマリーが頷き、魔法の鞄からいくつかバスケットを取り出す。

 中身は色とりどりのサンドイッチだ。ベーコンや卵、レタスにトマトやらバリエーションも豊富である。

 先日炎熱城砦内部で仕留めたカセウェアリー……つまり、ヒクイドリの唐揚げもあったりする。炎熱城砦を時々単独でうろついている、火を吹く鳥で……まあ、炎熱城砦の奥まで行く者が少ないだけにタームウィルズでも珍しい食材だ。気性が荒く、蹴爪の威力も強烈なので気を付けないといけない魔物ではあるな。


「訓練で疲れておるでしょう。操船を代わりますぞ」

「ああ、まだ大丈夫ですよ。ジークムント様こそ、お先に食事をどうぞ」

「ふむ……。では、お言葉に甘えて。早めに済ませて交代しましょう」

「ありがとうございます」


 そんなやり取りをエリオットとジークムント老が操船席側で交わす。マルレーンとクラウディアがてきぱきとバスケットからエリオットの分を取り分けていた。伝声管で船内各所に通達。船内各所の人員が交代で艦橋まで上がってきて食事をとる形になる。


 目的あっての旅ではあるが……気合を入れる場所はまだ先だ。外は紅葉が綺麗で……高所からなので見晴らしが良い。

 そんな景観を水晶板越しに眺めながらサンドイッチに唐揚げなどということで何となく行楽気分の昼食である。俺達を乗せたシリウス号は秋の山々の中をデボニス大公の領地へと進むのであった。

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